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職場の上司や先輩からのいじりはいじめ?パワハラとの境界線とは

カテゴリ:
メンタル・カウンセリング
キーワード:
パワハラ問題

容姿や体型をからかったり、プライベートにしつこくつっこんだり、職場で、部下や若手社員に対する「いじり」が行われる場面は珍しくありません。いじる側は悪気なく、コミュニケーションの一つととらえている人も多いのではないでしょうか。ただ、いじられる側が苦痛に感じていると、パワハラなどハラスメントになる可能性もあります。

いじりとパワハラの境界線はどこにあるのでしょうか?また対処する方法は?社会保険労務士・産業カウンセラーの桐生英美さんに聞きました。

本来の業務と直接関係ないことでの発言などがいじめやハラスメントに発展する可能性がある。がまんすればいつかおさまるものではないので、ハラスメントと同様に相談を。

Q:いじりがパワハラと判断される可能性はありますか?
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職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)の定義は、次の(1)~(3)すべてを満たすものです。
(1)優越的な関係を背景に行われる言動
(2)業務の適正の範囲を超えたもの
(3)労働者の就業環境を害されるもの

代表的な言動として、下記の6つが挙げられています。
① 身体的な攻撃(暴行や傷害)
② 精神的な攻撃(脅迫や名誉毀損、侮辱、人格否定)
③ 人間関係からの切り離し(隔離や無視、仲間外れ)
④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務の強制、仕事の妨害)
⑤ 過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の仕事を命じる、あるいは仕事を与えない)
⑥ 個の侵害(私的なことへ過度に立ち入る、個人情報を暴露する)

「いじり」は、軽くからかう、相手をネタにしてつっこむ、冗談を言う、などの言動を指すと思いますが、そもそも「いじり」自体の定義があいまいです。パワハラに限らず、ハラスメント全体において、相手がどう感じるかによって、判断基準は異なります。

同じ内容の「いじり」でも、漫才のような「掛け合い」として楽しむ人もいれば、「嫌だ」と傷つく人もいます。また、お互いに何でも言い合える親しい間柄なのか、一方が遠慮しているような関係なのか、両者の関係性によっても受けとめ方は異なります。

しつこく同じ話題に触れたり、他の社員や社外の人に言いふらしたりすることで、相手が嫌な気持ちや不快に思うと、パワハラに限らず何らかのハラスメント、さらには名誉毀損などのトラブルになる可能性があります。また、毎回特定の人ばかりがいじられる対象となっている場合は、「いじめ」と認識される可能性もあります。

Q:いじりとパワハラの境界線は?
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ハラスメントの研修やセミナーでも、多くの参加者から「境界線」を知りたいという声が出ます。ただ、企業ごとの職場環境や、ハラスメントをする側とされる側の関係性にもよるため、はっきりと境界線を定義することは難しいと言わざるを得ません。

職場では、容姿やファッション、プライベートなど、本来の業務と直接関係ないことに対する発言などが、いじりからいじめ、ハラスメントに発展する可能性があります。

パワハラについては、厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年6月1日適用)に該当例が示されています。ただ、指針では、明確に「シロ」「クロ」と判断ができるような例が挙げられているのみで、あいまいな「グレーゾーン」に触れられていません。逆に、「パワハラはここからここまで」と明らかにすることで、加害者側に言い訳を与えるという側面もあります。

ただ、「この言動がハラスメントととられるかもしれない」と過剰に恐れていると、「お互いに何も言えない職場になるのではないか」とよく言われます。いじめやハラスメントを生まない環境をつくるには、まず職場全体で話し合い、あいまいなグレーゾーンについても共通認識を持つことが大切です。

Q:職場のいじりで悩んでいる人は多いのでしょうか?
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以前から職場のいじめや嫌がらせに悩んでいる人は多くいました。厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談のトップを占めたのが、「いじめ・嫌がらせ」で、過去最多となる8万7570件でした。いじめ・嫌がらせの中には、過度ないじりも含まれると考えられます。

「ハラスメント」などの言葉が普及するとともに、「がまんせず訴えていいのだ」という認識が広がり、これまで「冗談だから」と見過ごされていたような事例も「いじめ」だと捉えられるようになってきています。

日ごろから研修などを行いハラスメントへの意識が高い職場では、過度のいじりやいじめは少ないように思います。大企業では意識教育が進んできていますが、中小企業の中には、社長自らが社員をからかったり、いじったりというケースもあり、まだ浸透していない印象です。

Q:どのような人がいじる側になりやすいですか?
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誰でも「いじる側」にも「いじられる側」にもなり得ます。

上司と部下、先輩と後輩など明らかな上下関係があると、いじりが起きやすいかもしれませんが、対等の関係であっても、いじりやいじめは起こっています。「他人から認められたい」という承認欲求が強い人ほど、いじる側に立ちやすい傾向はあるかもしれません。

実際に自分が「いじる側」になっても、「いじっている」「いじめている」と意識している人は少ないようです。いじられている側がそのまま何も言わなければ、徐々にエスカレートしてしまう可能性があるので、人を傷つけるような言動をしていないか、日ごろから気を付けておくべきです。

Q:いじりで悩んでいる場合、対処する方法は?
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会社は、パワハラをはじめ、セクハラ、マタハラなどハラスメント防止に関する措置をとることが義務付けられています。いじりについても、まずは上司に相談できるといいですが「上司がいじる側」という場合は、人事部門などに設置されているハラスメントに関する相談窓口で相談しましょう。

本来は、いじりをしてくる相手に、直接「嫌だからやめてほしい」と言えるのが理想ですが、大人の世界ではなかなか言いにくい人が多いと思います。自分の率直な気持ちを、相手の気分も害さず伝える「アサーション」というコミュニケーション術を身に付けることもおすすめです。

「いじりくらいで大げさ」「がまんしていればいつかおさまる」などという意見は、今の時代では通用しません。そのような声が挙がること自体、会社のハラスメントに対する意識が低いと言えます。いじりからいじめ、ハラスメントにエスカレートすると、職場環境は悪化し、社員のメンタルヘルスにも悪影響を及ぼします。さらに関係がこじれて、裁判など法的なトラブルに発展すれば、お金も時間もかかります。

普段の人間関係では当たり前に考える「相手を尊重する」という意識が、職場では希薄になっていないでしょうか。家族や友人と接するときのように、一緒に働く相手への思いやりを持っていれば、一方的な「いじり」ではなく、お互いが気持ちよく関係を築ける「コミュニケーション」につながるはずです。

桐生英美

中小企業の経営を支える人事総務コンサルタント

社会保険労務士

桐生英美さん(日本経営サポート株式会社)

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