「ふるさと副業」で地域貢献 時短勤務や週休3~4日制導入で、能力の生かしどころは地方ヘシフト?
時短勤務やテレワークの浸透で、週1~3日の出社を通常勤務とする企業や、政府主導のワーケーションなど、働く時間や場所の多様化が進んでいます。地方への移住や地方での起業を考える人も増えるなか、都市部で働きながら、そのスキルを地方創生に生かそうと、副業的に地方と関わる「ふるさと副業」というスタイルも登場しています。
社内副業やパラレルワークなど、一つの会社や仕事内容、勤務場所にとらわれない働き方が進み、副業・兼業を認める企業も増加傾向に。働き方改革による時間的な余裕と、将来への不安も重なり、セカンドキャリアへの関心とともに、地方へ期待を寄せる動きも見えはじめています。
最近では、総合人材サービス大手のパソナグループの、兵庫県淡路島への本社機能移転も話題に。都市部集中から「地方創生」「地域貢献」がキーワードとなる流れの中で、「ふるさと副業」は新たな働き方のモデルになるのでしょうか。社会保険労務士の桐生英美さんに聞きました。
スキルや経験を生かして地域貢献ができることが大きな魅力。収入を得るためではなく、地方移住や地元暮らしも視野に入れた「これからの生き方」を考えるためのステップに
Q: 「ふるさと副業」とは、どのような働き方ですか?
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人材戦略支援サービスのリクルートキャリアが、2020年に注目される新しい働き方「ふるさと副業」について、その背景と今後の展望についてまとめたレポートを公開しました。内容は、都市部に居住する人のスキルと、地方企業や地方自治体が求める斬新なアイデアや事業創造とをマッチングさせるというもの。
たとえば、「個人の貢献度や達成感が感じられない」「ルーティンワークでやりがいが感じられない」といった現状に対する不満だけでなく、「出身地や本業で訪れた地方都市と継続的に関わりたい」「今までの経験をもとに挑戦したい」など、将来に向けてキャリアアップを望む人が、その糸口として、月に数日のペースで地方と関わり合う。
一方、慢性的な人材不足に悩む地方企業は、特に長期的な事業変革、事業創造という分野で経験や知見を持つ人を求めている。
こういった双方の希望を叶える働き方のひとつとして期待されているのが、「ふるさと副業」です。
Q:コロナ禍による先行き不安から、複数の収入源を持つことを考える人が増えているようですが、一般的な副業・兼業とはどのようなものですか?
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副業と兼業について、厳密には言葉の定義が明確ではありませんし、法的にも規定がありません。ただ近年、本業だけでなく複数の仕事を持つ、または希望する人が増加傾向にあることから、国は2018年に策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を2020年9月に改訂。働き方の多様化を速やかに進めていくことが、世の中の流れになっているようです。
副業は、本業の労働時間外にフリーランスのように別の仕事をしたり、自分で起業したりと、基本的に自己責任の範囲で行うものなので、比較的実行しやすい働き方と言えるでしょう。
兼業、いわゆるダブルワークは、本業と同様に他の企業とも雇用関係を結んで仕事をするため、労働時間を調整したり、労災・社会保険の事務作業の煩雑さを考慮しなければならず、よほど恵まれた環境下でない限り、難しい働き方かもしれません。
ふるさと副業は、現状ではこうした一般的な副業・兼業よりも、社会貢献やスキルアップを主な目的とする「パラレルワーク」に近い考え方かもしれません。
Q:都市部に住みながら、地方へキャリアを求める動きが注目されるようになった背景は?
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コロナ前に比べ、都市部にいなくても仕事ができる状況が、受け入れやすくなっていることが大きいかと思います。
また、副業・兼業に対する関心の高まりは、コロナ禍による在宅ワークの普及で時間的な余裕ができたことや収入の激減などが影響していますが、それ以前から「現在の仕事とは別にやりたいことがある」「一つの企業だけにとらわれず、自分の能力を幅広く発揮したい」「さらなるスキルアップを図りたい」という考え方が、30~40代を中心とするビジネスパーソンの間に広がっていたことも大きいでしょう。
地方移住についても、ここ数年で注目度が上がっていて、農業への転向や店舗の開業などを実現させたというケースは、珍しい話ではなくなっています。
また、労働時間の制限が厳しくなり、副業・兼業を容認する企業が増えています。
一部の企業では週休3日制4日制の導入や、本社機能を地方へ移す動きもあり、ビジネスパーソンを取り巻く環境が、大きく変わる兆しが見え始めているのも背景の一つかもしれません。
さらに国としては、若者・女性・高齢者などの労働力を確保すべく、環境を整える取り組みを進めるとともに、副業・兼業を促進する改訂ガイドラインで、地方創生についても一層推進するとしています。
特に地方と都市部との関係人口を創り出すために、副業先の企業を訪れる際の交通費や宿泊費の一部を、国と都道府県が企業に助成するといった支援策などを打ち出しています。
Q:実際にふるさと副業の実践例はありますか?
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今のところふるさと副業は、一般的な副業・兼業ほどの認知度はありません。しかし、すでにオンライン上のマッチングサイトを通じて求人が出されたり、企業によるマッチングイベントが行われたりしているほか、地方自治体が独自に公募するなど、少しずつ携わる人が増えています。
自動車学校経営のKDSグループ(熊本県菊池市・熊本市)では、教習生の少ない閑散期や広い敷地などを活用した新規事業の立ち上げを検討するため、副業人材を募集。実際に月額3万円の報酬で数人を採用しています。
また2019年には、福井県が都道府県としては初めて副業・兼業に限定した人材を公募。400人を超える応募者の中から、地元出身者を含む4人を、マーケティングや広報業務のエキスパート「未来戦略アドバイザー」として首都圏から採用しています。
Q:ふるさと副業としての求人では、今のところ限定的な分野での活用に止まっているようですが、地方企業や地方自治体と求職者、それぞれにどのようなメリットがありますか?
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地方の人材不足が「直ちに解消する」というようなものではありませんが、少なくとも、ふるさと副業は、地方経済にとっては活性剤になると思います。
求人コストを抑えて、都市部の経験豊かな人材から有用なアドバイスや最新の情報が得られるうえ、難航していた課題に特化したピンポイントのスキルを得ることができます。これにより、新しいビジネスの可能性が広がるかもしれません。また、新風を呼び込むことによって、現場の職員にも刺激となるでしょう。
出身地や親近感を持つ地域と関わりを持ちたいという都市部の人にとっては、現状では、収入面でのメリットはそれほど期待できないとしても、スキルや経験を生かして地域貢献ができるという充実感が得られます。さらには、さまざまな理由でこれまでできなかったことに挑戦できるチャンスにもなります。
そして何より、将来的には本業から軸足を移す足掛かりにしたり、家族とともに地方移住や地元暮らしを視野に入れたりということも可能になり、子どもの教育や親の介護といった悩みを解決する転機になるかもしれません。
単に収入を得るためだけではなく、今後の働き方や生き方を考える際の選択肢や可能性も広がるでしょう。
Q:今後、多様な働き方・生き方の一つとして「ふるさと副業」が広く認知されていくためには、何が必要でしょうか?
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民間企業が副業・兼業を容認する方向にあるとはいえ、中小企業を中心に、全体としてはまだ途上にあります。
厚生労働省のモデル就業規則では、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とされていますが、まず、自分の勤める企業がこれを認めているかどうかを確認しましょう。
そして、労使双方の間で、「①安全配慮義務」「②秘密保持義務」「③競業避止義務」「④誠実義務」に留意する必要があります。
原則として副業・兼業を認めていても、これらの義務を不履行の場合は「例外的に禁止や制限されることがある」と規定するなど、企業側は事前に制度を整えること、働く側はきちんと就業規則を確認することが大切です。
また、労働基準法などの法的な規制についても配慮が必要です。本業の所定労働時間ともう一方の企業の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合。労使双方には、勤務先に事前申告する、割増賃金として取り扱うといった義務があり、これら複雑なルールも踏まえておかなければなりません。
「本業に支障をきたす」「いずれかに不利益が生じる」などのトラブルを避けるためには、事前に企業と労働者の間でコミュニケーションをとり、理解を深めておく必要があります。
さらに認知度をあげて関わる人材を増やすためには、公的な支援体制の充実も期待したいところです。
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