KDDIが「社内副業」をスタート 働く側と企業側にとってのメリットとは?
働き方改革で副業が注目される中、大手通信会社のKDDIは、就業時間の約2割を目安に、自分の担当部署以外で業務できる「社内副業制度」を導入したと発表しました。対象は、正社員約1万1000人で、テレワークを活用し、勤務地を問わず応募。すでに、4月から全86業務の募集を行い、選考により、63人が6月から順次「社内副業」を開始しているといいます。
副業といえば、一般的に、本業の勤務先とは別の企業から仕事をもらい、収入を増やすイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。「社内副業」とはどのような仕組みなのでしょうか。働く側のメリットはあるのでしょうか。社会保険労務士の谷川由紀さんに聞きました。
社内副業は副収入を得ることが目的ではなく、キャリアアップや自己実現の場。希望部署への異動につながらなくても、自分の強みや方向性を知る機会に
Q:そもそも「社内副業」とは、どのような制度ですか?
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社内副業に明確な定義はありませんが、一般的に、所属部署でのメイン業務以外に、他部署の業務を認めることです。多くの事例が、就業時間の20%、15%などを目安に、社内副業にあてることができ、公募制や承認制で、社員自らが手を挙げるものです。働く側は、自分がチャレンジしたい業務の一部を任せてもらえるため、夢をかなえられるとともに、自身の専門性を高めることができます。
従来、本人がやりたい業務につくには、担当職務などを変更する配置転換がありますが、社員から希望があっても、スピード感をもって柔軟に対応することは難しいといえます。
一方、2018年から、国による「モデル就業規則」が改訂され、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の規定が削除され、副業・兼業が解禁されました。背景には、人生100年時代や働き方改革などで、一つの会社で個人をつなぎとめられない時代になっていることがあります。
ただ、本業に影響を及ぼすとして、多くの企業がいまだに副業を認めていません。企業にとっては、社外での副業より、社内副業を認める方がハードルが低く、導入しやすいといえます。
Q:KDDIのほかに、社内副業を導入している企業はありますか?導入しやすい企業の特徴などはありますか?
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社内副業制度をオープンにしている企業の例としては、総合商社の丸紅や、大手メーカーであるリコー、パナソニック、IT系のグーグル、サイバーエージェントなどがあります。多様な部門があり、人材に余裕がある大手やIT系が中心で、限られた人材でさまざまな業務をこなす中小企業では物理的に難しいといえます。
社内副業で募集される業務は、IT系や企画・開発系が中心で、クリエイティブな要素のある業務が多い印象です。例えば、KDDIの社内副業で募集された業務も、ICT(情報通信技術)/IoT(モノのインターネット)を用いた地域課題を解決する企画立案などでした。
Q:企業が社内副業を導入する意図は何ですか?
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社員のモチベーションやスキルを向上させることができ、人材開発の一環として活用できます。副業により、部門を超えた社員同士のコミュニケーションが生まれ、組織が活性化されることは企業の利益につながります。
人事の視点からみると、適材適所の異動や、優秀な人材の離職防止に効果的です。例えば、KDDIの社内副業に応募した社員は、20代が最多だったといいます。これまで、社内でやりたい業務ができないとなると、転職を考えるしかありませんでした。特に、20代、30代前半の若手の流出を防ぎ、採用活動でもアピールできる魅力となります。
また、社内副業では、社外の副業を認めた場合に懸念されるリスクを抑えることができ、社員の負担も少なくて済みます。例えば、情報漏えいや長時間労働、事故やケガなど労災に関する面でも社内で一元管理できます。トータルの労働時間を変えずに、本業と副業を行う事例が多く、賃金体系を変えずに導入できる点などもメリットです。
さらに、長い目で見ると、働き方改革を実現できる可能性があります。社内副業は、本人のやる気に応えるものであり、本業をおろそかにする人は少ないでしょう。むしろ、副業の時間をきちんととれるよう、業務効率を考えるきっかけになると考えられます。
日本企業の雇用は、ほとんどが終身雇用を前提とし、勤務地や職種を限定しない「就社型」ですが、近年、職務や勤務地を限定し、専門性を追求する「ジョブ型」に移行しつつあります。職種ごとに公募する社内副業は、時代にマッチした仕組みといえます。
Q:働く側は、社内で副業することのメリット・デメリットは?
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メリットは、自らの意思でやりたい業務にチャレンジできるため、自身の仕事の幅を広げ、スキルアップやキャリアアップの機会とできることです。ただ、担当業務は確実に増え「二足のわらじ」状態になるので、通算の残業時間が増え、オーバーワークになる可能性が懸念されます。
例えば、実働時間を8時間として、社内副業に15%あてるとすると1時間程度です。企画や開発などの業務では、1時間でできることは限られます。通常、持ち帰りの残業は認められませんが、「自分で手を挙げたから」と責任を感じ、自主的に自宅で業務を進めるケースもあるかもしれません。体力的・心理的に負担が増える可能性はあり、会社による業務管理や健康管理は必要でしょう。
また、働く時間は変わらないので、社内副業をしても賃金は変わりません。副業の目的が「収入を増やしたい」ことなら、社内副業は適しません。
Q:今後、社内副業を取り入れる企業は増えると考えられますか?働く側が、社内副業に取り組む上で注意すべきことは?
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社内副業を導入すると働き方に自由度が生まれ、多様な価値観が認められるようになります。優秀な人材の囲い込みや、企業力の向上につながるなど利点は多く、今後も導入する企業は増えるでしょう。
人手不足が深刻な中小企業では導入に壁がありますが、IT系などの業種や、時代の先を見通し、新しい取り組みに意欲的な経営者であれば、企業規模に限らず、取り入れる事例は出てくるのではないでしょうか。
働く側として知っておきたいのは、社内副業の目的が、副収入を得ることではなく、キャリアアップや自己実現を果たす場ということです。
とはいえ、直接キャリアチェンジにつながるケースばかりではありません。例えば、成績優秀な営業の人が「実はものづくりをしたい」と、商品開発部門での副業が認められても、すでに結果を出している本業から異動できる可能性は低いかもしれません。それでも、希望の職務を経験できたことは、仕事に対する納得感につながり、本業にもよい刺激をもたらします。
逆に、憧れの職務を実際に経験し、適性の不一致に気付くこともあるでしょう。職種を変えて転職しても、向いていなかったと元の職種に戻るケースもあります。転職や異動をせずとも、自分の方向性や強みを知るチャンスとして積極的に挑戦してみるといいですね。
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