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「あおり運転」厳罰化 道路交通法改正で危険な運転や妨害行為はどうなる?

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車間距離を極端に詰めるなど、悪質なドライバーによる危険行為が社会問題となっている「あおり運転」。警察庁によると、昨年、あおり運転に関わる道路交通法違反で検挙された件数は1万5065件で、前年から約2000件増加しています。これまで「あおり運転」とされてきた行為を、「他の車両などの通行を妨害する目的で違反行為を行い、交通の危険が生じる恐れがある場合」と改めて規定し、罰則を強化した改正道路交通法が、6月2日に衆議院本会議で可決・成立しました。

今回の改正のうち、あおり運転対策については6月末から、高齢ドライバー対策については2022年の夏までに施行される見通しです。改正により、どのように変わるのでしょうか。弁護士の川島英雄さんに聞きました。

他の車を妨害する目的で、危険を生じさせる違反行為に対して重い罰則を規定。高速道路などで停止させるといったより危険な行為には、酒酔い運転と同等の厳罰が

Q:今回、道路交通法が改正された背景は何でしょうか?
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近年、いわゆる「あおり運転」が社会問題となっており、政府として対策が必要だと判断したのでしょう。「あおり運転」は法律上では定義されていませんが、わざと嫌がらせを行うような、危険な運転行為を指します。あおり運転への関心が高まった事故の一つに、2017年に東名高速であおり運転を受けて、停車させられた車がトラックに追突され、夫婦が死亡した事故があります。

これまでは、あおり運転の行為が道路交通法の違反に当たる場合は、取り締まることが可能でした。ただ、違反行為にあおり運転かどうかの区別がないため、取り締まりを強化し、摘発件数が増えても、規定の罰則は軽く、抑止効果を生まないものだったといえます。

あまりにも悪質な場合は、暴行罪や危険運転致死傷罪などを適用していましたが、数としては少ないようです。

Q:今回、罰則が強化された「あおり運転」にあたる妨害運転とは、どのような行為を指しますか?
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妨害運転の対象は、現行の道路交通法に規定されている10種の違反行為です。

・通行区分違反
・急ブレーキ禁止違反
・車間距離の不保持
・進路変更禁止違反
・追い越し違反 左側からの追い越し
・減光等義務違反 ハイビームの継続など
・警音器使用制限違反 執拗なクラクションなど
・安全運転義務違反 幅寄せや蛇行運転など
<高速道路などでの違反行為>
・最低速度違反
・駐停車違反

これらの違反行為が、「①他の車両などを妨害する目的で行われた」「②交通の危険を生じる恐れがある」と判断された場合に、「妨害(あおり)運転」とされ、通常の道路交通法の違反より重い罰則が科されます。

また、上記の「妨害運転」のうち、さらに「他の車などを高速道路などで停止させた」、もしくは同等の「著しい交通の危険が生じた」場合は、より重い罰則となります。

Q:「あおり運転」で違反した場合の罰則は?厳罰といえるのでしょうか?
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「妨害(あおり)運転」を行った場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。さらに、高速道路などで停止させるなどの「著しい危険」が生じた場合は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。いずれも、行政処分として、違反1回で即免許取り消しとなります。

「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」は、酒酔い運転の罰則と同等で、道路交通法の中で重い罰則といえます。

これまで、悪質な「あおり運転」に対して、危険運転致死傷罪などを適用しようとすると、裁判などで「こじつけではないか」「法律の拡大解釈」などと指摘される場合もあり、実際の取り締まりが難しい点もありました。「妨害運転」として罰則規定されたことで、今後、スムーズに取り締まることができると考えられます。

Q:高齢ドライバーの事故対策も盛り込まれました。具体的にどのような内容でしょうか?
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一定の違反歴がある75歳以上のドライバーに対して、免許の更新時に、実際に車を運転する「技能検査」が新たに義務付けられます。基準に達しない場合は、免許の更新が認められません。

また、ドライバーの自己申告により、運転できる車を安全運転サポート車に限定した免許「サポカー限定免許」が創設されます。

ただ、今回の改正が、高齢ドライバーによる事故を防ぐ効果があるとまではいえません。誰もが年齢とともに、判断力などの衰えが出てくるものです。安全を最優先と考えるなら、ある一定の年齢に達すると、違反歴に関わらず、全員が技能検査を受けるようにするなどの措置を検討してもいいのではないでしょうか。

Q:今回の改正で、あおり運転の抑止力として期待できること、または懸念されることはありますか?
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あおり運転による事故の減少を目的に、法律として規定されたことは大きな一歩です。ただ、法律ができたからといって、すぐさまあおり運転が減るかといえば、そうではありません。

例えば、飲酒運転による事故も、厳罰化された2007年以降、急激に減ったわけではありません。当初は、被害者から「法律が改正されても、飲酒による事故が後を絶たない」と嘆く声もありました。何年かたち、「お酒を飲んで運転するのは絶対にダメ」という意識が社会全体に根付いていくにしたがって、徐々に減少してきたように思います。

同様に、「あおり運転は重い違反行為だ」と、広く社会に知らしめることから始めなければいけません。「ついカッとなってしまった」「ちょっと脅しただけ」などと、軽く考えられていた行為が、重い処罰に相当するものだと、多くのドライバーが認識することが大切です。時間はかかりますが、あおり運転をとどめる流れにつながるといいですね。

いくら自分の運転に細心の注意を払っても、あおり運転の被害を防ぐことは難しいでしょう。きちんと法律を守り、違反しないように気を付けていても、道路の状況によっては「下手」「邪魔」などと思われる場合もあります。

万が一、あおり運転を受けてしまった場合には、被害を証明することが何より大切です。一方で、自分が妨害したつもりでなくても、「妨害運転」と誤認される可能性もあり得ます。

根拠となる「妨害する目的があったかどうか」は心の中のことなので、実際には、具体的な行動が証拠となります。被害を証明するために有効なドライブレコーダーは、加害者として疑われたときにも自分の無実を証明できます。必須アイテムとして、ぜひ取り付けてほしいですね。これから、正しい証拠をもとに、適切な処罰が行われることが期待されます。

川島英雄

交通事故・医療事故の被害者を守る法律のプロ

弁護士

川島英雄さん(札幌おおぞら法律事務所)

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