ラグビー日本代表の活躍を支えたメンタルトレーニングがスポーツ業界でも浸透、その役割とは!?
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ラグビーワールドカップの日本代表の活躍に、日本中が注目し、歓喜に沸きました。開催国として、世界の強豪国を迎える重圧に屈することなく、のびのびとプレーする選手の姿は、日本人に大きな自信と誇りを呼び覚ましました。その背景には、技術面だけでなく、メンタルの強化が大きく作用したと言われています。
いま、スポーツ界で注目されている「メンタルトレーニング」について、実際にメンタルコーチングによって、低迷していた野球の強豪校を復活させ歴史的大逆転劇で甲子園へ、またオリンピックで競泳選手を銅メダル、スピードスケート選手を金メダル獲得まで導いた経験を持つ、メンタルコーチ・飯山晄朗(いいやまじろう)さんに聞きました。
さざれ石の見学やビクトリーロード合唱もメンタル強化へつながる論理的効果
Q:最近のスポーツ界では、技術や能力の向上のほかに、メンタル強化が重要と言われ、メンタルコーチの起用が浸透しつつあるようですが、その役割はどんなものですか?
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確かに近年、スポーツ競技の分野でメンタルトレーニングを導入するアスリートやチームが増えていて、実際に好成績を出していることもあり、メンタル(心、精神)が結果に及ぼす影響が大きいということが理解されてきています。
スポーツでは〝勝利〟という明確な結果が求められますので、それを実現した自分をイメージし、そのうえで、ピンチをチャンスに変える自己肯定力を持ち、結果が出るまで粘り強くやり続けるメンタルをつくることが大切です。
パフォーマンスのレベルアップのためには、選手がメンタル強化の方法を正確に「理解」することが大切です。これは、本番に最大限に力を発揮する「メンタルトレーニング」と、自身の潜在的な能力を引き上げる「ブレイントレーニング」を併せ持つ〝SBTスーパーブレイントレーニング®〟と呼ばれるもので、スポーツ競技のみならずビジネスの分野、受験にも有効であることから、取り入れる企業や学校、団体なども増えてきています。
さらに、トレーニングで実践したこと、その感触や経過を選手から正確に聞き取り、それぞれの選手が自分なりの対処法を考えていくスキルを養う手助けをする、これがメンタルコーチの仕事です。そのためには、高いコミュニケーション能力が求められます。私自身、全国唯一のSBTマスターコーチとして多くのアスリートやビジネスパーソンをサポートしています。
Q:ラグビー日本代表が前向きな替え歌を歌う姿が話題になりました。一見競技とは関係ないように思われますが、実際、モチベーションアップに効果がありそうですね
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モチベーションを上げるのに、一番簡単な方法のひとつが「声を出す」という行動です。心の中で「自分を信じる」「平常心を保つ」「心をひとつにする」と思っているだけでは、なかなかモチベーションは上がりません。口に出してみることで、現実味が出てくるのです。
「校歌」や「社歌」を歌う時をイメージするとわかりやすいと思いますが、アイデンティティーを同じくする者同士が、同じ文言を同じ旋律に合わせて歌うことで、なんとなく心がまとまっていくような気がするものです。
日本ラグビー代表が、意図してこうした効果を狙ったのかどうかはわかりませんが、チームプレイが求められる競技では、有効な方法だと思います。
また、国歌「君が代」斉唱でも、日本ラグビー代表が意味を噛み締めるように熱唱する姿が印象的でしたね。大会前には宮崎市での合宿の後に、君が代の歌詞にある「さざれ石」を実際に見に行ったとのこと。小さな石ころが粘土や砂と混じり、長い年月をかけて大きな石となった「さざれ石」。今回の日本代表は、登録選手31人のうち、半数近くの15人が海外出身選手です。国歌の意味を知り日本代表として心を一つに、「さざれ石」のように「ONE TEAM」をつくってきたのだと思います。
Q:実際に飯山さんがメンタルコーチをされたスポーツ選手が、素晴らしい成績を収めていますね。メンタルトレーニングが功を奏したと思われる特徴的な場面は?
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2018年の平昌オリンピックで、スピードスケートの2つの競技で金メダルを獲得した高木菜那選手の場合、「勝ちたい」という思いが強すぎて自分しか見えておらず、100%の力を発揮できていませんでした。そこで「誰かのために滑ることが最後に力になる」という言葉を投げかけると、その後、両親の笑顔が彼女の競技生活の原動力となり、持てる力を発揮できるようになりました。
最近では、ドラフト会議で、3球団から1位指名を受けた際の星稜高校の奥川選手の、硬い表情が話題になりましたね。2019年の夏の甲子園では「必笑」をテーマに掲げ、ピンチでも笑顔を絶やさずに切り抜けて、チームを準優勝に導いたのになぜ?と思った人も多いかと思われます。
実は、メンタルトレーニングで笑顔が能力を引き出してくれることを教えてきたので、大会では笑顔を〝作って〟いたのです。一方、ドラフト会議では「気持ちを引き締める」ことを意識していたと思います。本心はわかりませんが、プロ野球という厳しい世界に挑むという時に、気持ちを引き締めていた結果があのような表情になったのではないでしょうか。
Q:ラグビー日本代表が全力で戦う姿に感動を覚えましたね。私達が仕事などで、成果を出すために、いつも全力を出すのは難しいように思いますが
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ビジネスなどで、成果を求められたときに、持てる能力を全部出すことができれば、と思うことも多いでしょう。
「全力」を意識するポイントは、「準備」「思考」「身体」「心理」の4つです。
①試合や仕事に臨むにあたって、万全の状態かどうかという「準備」②状況を想定して、この場面ではどのように対処するかということを前もって考えておく「思考」③全力で走る・プレゼンで話す・作業をこなすといった「身体」④「失敗したら」「負けたら」と思うのではなく、「必ずやり抜く」「必ず勝つ」といった心理状態を作る「心理」。
これら4つのポイントで「全力」を意識してみることが大切。このことが習慣になれば、意識しなくても、持てる力を存分に使うことができるはずです。
ラグビー日本代表のリーチ・マイケル主将は会見で「ベスト8は凄くうれしい。そのために、家族も犠牲にしてやってきた」と語りました。
スポーツに限らず、何かを成し遂げるためには、何かを犠牲にしなければならないことがあるでしょう。その一番大きなものは〝時間〟だと思います。限りある時間を使うためには、優先順位を考える必要があります。何のために、何を目指しているのか。そのために、いま何を優先しなければならないのか。このことを常に考えることが大切です。
Q:仕事などでミスをしてしまったとき、物事がうまくいかず心が弱っていると感じるとき、挽回したいときに速やかに立ち上がるために有効な方法はありますか?
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「ミスをしてしまった」というときは誰でもガックリして、「はぁ~」とため息をつき下を向いてしまいますね。これは仕方のないこと。こんな時だからこそ、意識してポジティブな態度や表情をつくりましょう。
脳は思いよりも言葉や態度、表情に影響されやすく、ポジティブな態度や表情をとると、心もそうだと錯覚して、そのとおりに思いが変わるのです。
2014年の夏の高校野球石川県大会決勝で起きた歴史的大逆転劇があります。星陵高校対小松大谷高校の試合は9回表が終了して0−8。星稜が絶体絶命の大ピンチから、9回裏に9点とって逆転サヨナラで甲子園切符を手にしました。このときの星稜の選手たちは笑顔で戦っています。だから「負けている気がしない」のです。しかもこの大ピンチを楽しんでいました。「どんな状況でも楽しむ」ことを教えてきたので彼らはそれを実践してくれたのです。
「なんとかしなければ」という場面に陥ると、プレッシャーを感じて委縮してしまうことは日常でもよくあります。
こんなとき、「面白くなってきた」「シビれる場面だ」「かかってこい」と思えたら、なんとかなりそうな気がしてきませんか。
うまくいきそうにない苦しい展開でも、成功しているイメージができ、脳がワクワクしている状態に持っていく心のトレーニングが必要なのです。
ピンチを脱するためには、前述のように、脳の錯覚をうまく利用する方法を試してみましょう。
まず、これまで以上の力を出したい時は、拳をギュッと握る、ガッツポーズをする。逆に舞い上がってしまって、冷静さが必要な時は、目をつぶって胸に手をやる、深い呼吸をする、「気持ちが落ち着いてきた、気持ちがいい」と言ってみる。苦しい場面では、「面白くなってきた」と言って笑顔になる。
心が少しでも揺らいだらすぐに、気持ちをプラスに切り替える言葉や動作を行いましょう。
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