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日本の経済は復活しているのか?日本が目指すべき先は?

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働き方改革
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アベノミクスを振り返る

9月28日、安倍晋三首相は「国民に信を問う」と述べ、衆議院を解散し10月22日に総選挙を実施すると表明しました。安倍首相は、2019年10月に8%から10%へ税率引き上げを予定している消費税による財源を、幼児教育と保育の無償化に充てるという「政策の変更」の是非を国民に問うことを解散の大義と言っていますが、本音がどこにあるのかは分かりません。

混沌とした政局の話は脇に置いて、経済の面から見た場合、今回の総選挙を通して安倍首相が牽引しているアベノミクスの評価を行うという意味合いがあります。アベノミクスとは、2012年12月26日より始まった第2次安倍内閣において表明された「3本の矢」を柱とする経済政策のことを指すことは周知の事実です。

三本の矢とは、具体的には以下の3つのことを意味します。

  • 大胆な金融政策
  • 機動的な財政政策
  • 民間投資を喚起する成長戦略

それぞれの矢における具体的な施策については、官邸HP「三本の矢」のページを参照ください。(リンク先:http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

アベノミクスでは、これら三本の矢を使って、次の成功ストーリーを描いていました。

1. デフレ対策を強力に行う方針提示によるアナウンスメント効果

2. 円高基調・株価上昇

3. 製造業を主とした輸出型産業企業の利益増加

4. 雇用拡大・所得増加

5. 消費拡大・インフレ期待の高まり

6. 物価上昇(インフレ・ターゲット2%)

7. リテール・サービス業を主とした内需型産業の利益増加

8. 持続的な経済成長

官邸HPを見ると、上場企業の経常利益額が過去最高水準になったこと、失業率や有効求人倍率等の各種雇用に関わる数値が改善していること、民間の最終支出額が伸びていることなどを根拠に、アベノミクスが着実に成果を上げていることを主張しています。

アベノミクスの自己採点は甘いのですが、世間ではまったくダメだという評価をする人も多いため、評価が分かれています。それ以前に、私たちの肌感覚として、経済が活況を呈し、今後も力強く成長していく日本の将来に意気揚々とした気持ちになるかというと、それほど楽観的な人は少ないでしょう。どちらかというと、すっかりジリ貧状態に慣れてしまい、将来への不安がずっと拭いきれないという人が多いはずです。

では、実際のところアベノミクスは、どの程度成果を上げているのでしょうか。先ほど提示したアベノミクスの成功ストーリーに照らして考えると、1~3については、一定の成果があったと言えます。しかし、「4. 雇用拡大・所得増加」以降については、十分な成果があがっているとは言えません。

安倍政権は、雇用環境が改善したことを理由に雇用が拡大したと主張しています。たしかに総務省統計局の労働力調査のページを見ると、完全失業率は2014年3.6%、2015年3.4%、2016年3.1%と減少を続け、直近の2017年8月は2.8%となっています。また、雇用者数と就業者数については、2017年8月の調査で、雇用者数5840万人(前年同月比プラス84万人/56ヵ月連続増加)、就業者数6573万人(前年同月比プラス84万人/56ヵ月連続増加)となっています。

一方で、厚生労働省の平成28年『国民生活基礎調査』結果を見ると、世帯当たりの平均所得額が増加傾向になっているとは言い難い状況です。

平成18年 566.8万円
平成19年 556.2万円
平成20年 547.5万円
平成21年 549.6万円
平成22年 538.0万円
平成23年 548.2万円
平成24年 537.2万円
平成25年 528.9万円
平成26年 541.9万円
平成27年 545.8万円

出典:平成28年「国民正確基礎調査」P10
(リンク先:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf

直近の平成26年、27年と2年続けて増加に転じたのは事実ですが、伸び幅は少なく平成20年の水準に届いていません。

この2つの事実から、働いている人の数は増加傾向にあるけれど、世帯の所得が伸び悩んでいることになりますが、その原因はどこにあるのでしょうか。答は、厚生労働省の「労働力調査」に示されている正規雇用者と非正規雇用者の推移を見ると分かります。

非正規雇用者の割合は平成20年が34.1%でしたが、その後平成21年に一度下がっただけで、それ以外の年は一貫して上がり続け、平成28年は37.5%になっています。一方、正規雇用者数は、平成20年以降減り続け、平成27年度になってやっと増加に転じましたが、非正規雇用者の伸びの方が大きいために、雇用者全体に占める割合が増えるところまで至っていません。

つまり、安い賃金で働く人が増えたために、雇用環境は改善されたように見えても、所得増加には繋がっていないのがアベノミクスの「4. 雇用拡大・所得増加」の現状と言えます。その結果、当然5・6の消費拡大・物価上昇(インフレターゲット2%)は実現されていません。

出典:「労働力調査」のデータをもとに筆者が作成(単位:兆円)

インフレターゲット2%を掲げている物価上昇率については、2012年以降の実績値は以下の通りです。

2012年 ▲0.06%
2013年 ▲0.34%
2014年 +2.76%
2015年 +0.79%
2016年 ▲0.11%
2017年 +1.01%

2014年だけは、物価上昇率が2.76%とバブル末期以来23年ぶりの伸びとなりましたが、それ以外の年についてはマイナスか2%には届かない数値になっています。

このように、世帯所得が伸びず、その結果消費支出も拡大しない状況ですから、「7. リテール・サービス業を主とした内需型産業の利益増加」という波及効果は生まれず、アベノミクスが最終的に目指している「8. 持続的な経済成長」への道のりは厳しいと評せざるを得ません。

アベノミクス停滞の背景 一つ目は「人口減少」による内需縮小

アベノミクスが当初の目論見通りに進まず、足踏みをしている原因はどこにあるのでしょうか。そもそもデフレに陥った切掛けとして、日本の人口減少が無視できません。日本は資源のない国だから、輸出によって経済を発展させてきたというイメージが強いのですが、本当のところは、国民が1億人を超える世界でも数少ない人口大国として、内需を拡大することで経済成長を果たしてきた国です。その証拠に、日本の2015年の輸出額は国全体では中国、アメリカ、ドイツに次いで4位ですが、1人当たりの輸出額で見ると44位となり、貿易立国しているとは言い難い水準です。日本の一人当たりの輸出額と比べると、ドイツは約3.2倍で、イタリアは約1.52倍の水準です。

ところが、デフレと人口減少を結び付けると、デフレはあくまでも貨幣現象なので、日銀による量的緩和によって対策可能だという反論が必ず出てきます。その論拠にドイツやイタリアのように既に人口減少が始まっている国は他にもあるが、長期的なデフレに陥っていないという主張がされます。

しかし、難しい貨幣理論でデフレを説明するより、シンプルに考えた方が良いでしょう。バブル景気の崩壊により内需が一気に冷え込んだ後、人口減少による市場拡大が見込めない中、少しでも売上を稼ぐために低価格路線を突き進み、人件費抑制のために中国をはじめとしたアジア諸国へ工場を移転したことで、ますます内需が萎むという負のスパイラルに入ったのが、日本の状況だと言えます。

アベノミクス停滞の背景 二つ目は企業経営者の「海外」への投資

アベノミクスが期待通りの効果を上げていない原因の二つ目は、企業経営者が「国内での成長が見通せない」という判断をしているからです。

たしかに、製造業を中心とした輸出型や海外生産を推し進めている企業の業績は回復傾向にあります。しかし、重要なことは儲けた資金を何に使うかということです。企業は将来の成長性に投資をします。だから、成長が見込める分野には積極的に投資をしますが、成長が見込めない分野には投資をしません。そして、当然のことながら、この投資には人件費(給料)も含まれています。

今現在、企業が積極的に投資をしているのは、海外企業のM&A(買収)や将来大きく成長が見込まれる分野への投資です。連日、日本の企業が名前も知らない海外の会社を買収したり、次世代テクノロジーへの開発や出資をしたりといった報道を目にします。先日も、ソフトバンクがアメリカのUber(ウーバー)社と1兆円を超える金額で買収交渉をしているという報道がありました。

したがって、企業経営者は正規社員に対しても「利益が出たら給料がもっと良くなる」とか「もっと頑張って仕事したら給料が良くなるよ」という甘言をささやくことで、彼らのモチベーションを維持することが難しくなっているのです。その代わりに、大手企業でも「副業容認」をすることで、世帯の収入は自助努力で確保して欲しいという方針を示し始めています。

日本が目指すべきは「ビジネスの価値源泉を変える」という次のステージへ踏み出すこと

アベノミクスが実現を目指している社会あるいは経済状況は、古き良き日の復活です。2015年に安倍首相は「新三本の矢」という追加の方針を提示しました。

  • 希望を生み出す強い経済(GDP600兆円)
  • 夢を紡子育て支援(出生率1.8)
  • 安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)

「一億総活躍プラン」により、女性、障害者、老齢者を積極的に労働生産者として取り込み、当面の国内市場の活性化に繋げ、長期的に出生率を上げて再び人口増加により市場拡大していく国を目指す。そのためには、高齢化が進み中で介護によって仕事に支障が出ることがないように社会保障を充実させましょう。「新三本の矢」が意図することを簡単に言うと、こうなります。

しかし、これから日本が目指す方向は、人口大国を維持して、低い生産性のまま、世界的に見てまれに見る勤勉な低賃金労働者に頼って生み出す過剰な「おもてなし」ではないでしょう。「働き方改革」の動きも最近活発ですが、残業をゼロにするために仕事の効率を今以上に上げることは、最重要の目的ではありません。ここを勘違いしている人が多いのです。

より重要なことは、生産性=付加価値÷時間を上げるために、時間を減らす以上に、付加価値を上げることです。労働の量をコントロールするのではなく、「質をコントロールする」必要があるのです。

少子高齢化が進む日本は、国家としてすっかり成熟していると思われがちですが、経済のあり方という点では、まだまだ成熟国家ではありません。成長の余地があります。

労働の質を変え、ビジネスの価値源泉を変え、農産物を含めた輸出額を増やしていける可能性は十分にあります。そうすれば、アベノミクスが目指すGDP600兆円はいうに及ばす、それ以上の拡大もあり得ます。また、女性が本来の能力に見合った仕事に就くことで、所得が倍増すれば、世帯所得の増加が大幅に望めます。結果的に出生率が低い問題や未婚率が高い問題も解消する可能性が高まるはずです。

ただし、そのためには、長期的に国全体をあげた取り組みが必要なことは言うまでもありません。

「競争しない企業」をつくる経営コンサルタント

清水泰志さん(株式会社ワイズエッジ)

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