JIJICO(ジジコ)

  1. マイベストプロ TOP
  2. JIJICO
  3. くらし
  4. 緊急地震速報の音が怖い理由とは?不協和音として認識する心理的な要因も

緊急地震速報の音が怖い理由とは?不協和音として認識する心理的な要因も

カテゴリ:
くらし

緊急地震速報など危険を知らせるアラートがトラウマに?

日本は地震大国です。天災は避難や対策で被害状況は大きく左右されます。地震が発生すると、その揺れが波になって地面を伝わります。この波が「地震計」にキャッチされ、その情報が気象庁へと送られます。

緊急地震速報は、地震における最初の小規模な地震動の初期微動の揺れを感知して、初期微動より遅れてくる「主要動」という大きな揺れの危険を知らせてくれるシステムです。地震の多い日本では、これはとても便利なシステムだと思います。

最近では、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する場合、弾道ミサイルは極めて短時間で日本に飛来することが予想さるため、政府は、24時間いつでも全国瞬時警報システム (Jアラート)を使用し、緊急情報を伝達します。

これらは、生活している人たちにとっては急に発せられる音であり、不安感や緊張感を抱きやすい人も多いようです。東日本大震災以来、緊急地震速報の音がトラウマになっている人も多いということもよく聞きます。

警告音(アラート)には「不協和音」と「音程を急激に変化させる」を取り入れている

緊急地震速報などの警告音(アラート)は、さまざまな騒音の下でも認知しやすいこと、その音が危険を知らせるものであるとすぐにわかること、広い年齢層を対象にしたものであること。また、緊急地震速報の場合には、その音を聞いた人が「机の下に隠れる」など必要な行動に移ることができることなど、さまざまな要素が求められます。

そのため、警告音(アラート)の制作者は試行錯誤を繰り返すそうですが、危険を感じさせる音として「不協和音」と「音程を急激に変化させる」といった手法が使われるようです。不協和音は、「同時に響く音が協和しない音程関係」ですが、この「協和しない」という点が人に不安な感情を抱かせ、そのうえに音程を急激に変化させることで、受け手により一層の警戒感を抱かせることになります。

しかし、その度合いが進み、警告音(アラート)が恐怖を呼び起こし、そのために身がすくんでしまい、机の下に隠れるなどの行動に移れないようでは困ります。そこで、怖すぎず、しかし警告であることがしっかり認知される音に仕上げる必要があります。

先に「東日本大震災以来、緊急地震速報の音がトラウマになっている人も多い」といいましたが、2016年4月の熊本地震の際、避難所で緊急速報の音に否定的な声が相次ぎ、ちょっとした論争になったことがあります。つまり、余震が起こるたびに避難所にいる人たちの携帯から一斉に緊急速報が鳴り、子どもたちが怖がる。それで「不安をあおるような音はやめてほしい」「もっと明るい音にできないか」という意見と、「怖いくらいの音でなければ用をなさない」という意見があったのです。

結局、「緊急速報の音は命を守るためのものであり、ある程度の緊迫感がなければ警告音として用をなさない。また、音の変更は混乱を招く」ということで収まったようですが、警告音(アラーム)制作の難しさを感じさせる一件です。

緊急速報の音はなぜ怖いの?その理由は「オノマトペ」に

緊急速報のほかにも、私たちの生活には音による合図がたくさんあります。運動や競技のスタート音、目覚まし時計のアラーム音、電話やメールなどの着信音、テレビの緊急速報、横断歩道の信号、電車内で流れる発着音などさまざまあります。ここで、音と私たちの心理について考えてみましょう。

私たち日本人は「オノマトペ」という擬音を言葉の文化として持っています。トントン、カンカン、ドーン、といったオノマトペには、瞬時に脳の中の五感や運動などいろいろな脳の領域が働く効果があります。心地のよい音もあれば、緊張感を伴う音もあります。そして、私たちには動作や状況に応じて、音を使い分ける文化があります。

日本語は諸外国にくらべオノマトペが豊富といわれています。上にあげたトントン、カンカン、ドーンと音を模倣した擬音語のほか、「セミがミンミン鳴いている」のように生物の声を模した擬声語。さらに「ブラブラ歩いている」「ニコニコ笑っている」というように行為や状態を表現する擬態語。「もうすぐ試合でワクワクする」「胃がキリキリ痛む」のように内的な感覚・知覚を表現する擬情語があり、日本語はオノマトペの体系を豊かに持つ言語の一つとされています。

そして、動作や状況に応じた音文化を子どもの頃から体験している私たちは、反射的に音と記憶を結びつけています。つまり、日本人にとって、音はイメージと結びつきやすいのです。

緊急速報が届く時には、その音が、自分自身の記憶や経験、過去に見たニュース映像の記憶などと結びつき、瞬間的に「よくないことだ」と感じさせ、また、速報が一斉に鳴ることで一人ひとりの身に起こる大規模な非常事態であることを思わせ、より緊張を感じさせるのでしょう。

緊急地震速報と同様にパトカーや救急車のサイレンにも用いられる音の心理

一方、パトカーや消防車、救急車などの日常的に耳にするサイレンについてはどうでしょう。パトカーなど緊急車両のサイレン音も地震速報と同じく、不協和音と急激に変わる音程が使われているそうです。そして、緊急車両については、走行に際して回転灯を回しサイレンを鳴らすことが定められています。

また、パトカーのあの「ウ~」という音には1周期が4秒のものと8秒のものがあり、より緊急性が高い場合は、周期が短い4秒のものが使われるそうです。短い周期のほうが警告音としてよりインパクトが強いからです。例えば間隔をおいてドアをノックするより、短い間隔で続けざまにノックするほうが緊急性を伝えやすいのと同じです。ただし、この使い分けに規則はないようです。

消防車の場合、火災発生の緊急出動の際は「ウ~」というサイレンに加えて「カンカンカン」という鐘の音(警鐘)を合わせて出します。これは、江戸時代の火消しが鐘を使っていたことに由来するとのこと。しかし、火災以外の緊急出動では「ウ~」というサイレン音だけになります。

消防車の警鐘「カンカンカン」には、水害などの現場で、パトカー、救急車、消防車などが混在した際、消防車であることを知らせる役割もあるそうです。

そして救急車は、以前は「ウ~」という音でしたが、現在はご存じの通り「ピーポーピーポー」になっています。「ウ~」という音から「ピーポーピーポー」になったのは、搬送される患者さんが、救急車から出るサイレンに過度に緊張しないように配慮しているため、といわれています。ただ、救急車は赤信号でもそのまま走行する場合もありますから、注意喚起のため「ウ~」という音のサイレンも搭載しています。

音と人の脳や心理との関係

音と人の関係は深く、例えば音楽を聴くことで心が癒やされたり、気持ちが前向きになったり、というのは多くの人が経験しているでしょう。こうした音楽の力を、医療分野に活用しようという研究も進められています。音楽療法といいますが、最も有効な分野として注目されているのが認知症およびその周辺症状(BPSD)です。その理由は、音楽により脳のさまざまな部位が刺激されることで、脳が活性化されるという点にあります。

認知症初期の患者さんには、短期記憶(最近の記憶)ほど忘れ、長期記憶(子どもの頃の記憶)は覚えているという傾向が見られます。

音楽療法の研究報告では、子どもの頃に耳にした音楽を聴いたり歌ったりすることによって長期記憶を思い出し、そのことで脳が刺激され、認知症の進行を遅らせる、あるいは症状改善効果が見られるとしています。また音楽によるリラクゼーション効果も、徘徊などの問題行動の軽減につながるとされています。音楽が患者さんの不安を和らげ、心理面を安定させるからです。

この音楽療法について、日本音楽療法学会は「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の軽減回復、機能の維持改善、生活の質の向上、問題となる行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義しています。

また、音楽によるヒーリング効果が、過度のストレスや緊張、うつ状態にある精神に対し効果的であることも知られています。音と、人の脳や心理との関係が深いことがわかりますね。

諸外国と日本との違い

上の項で、私たちは諸外国に比べオノマトペという擬音を言葉の文化として持っており、音とイメージが結びつきやすく、動作や状況に応じた音文化を経験・記憶しているとお話ししましたが、こうした文化の違いは警告音(アラート)にも表れる場合があるようです。

アメリカやドイツなどのパトカーや救急車、消防車のサイレンは、日本と同じように不協和音や音程の急激な変化を採用しています。しかし、日本人にとっては危険を知らせる「カンカンカン」という消防車や踏切の警鐘音が、ドイツ人にとっては危険を知らせる音とは受けとられず、むしろ快い音として捉えられる、という研究があります。民族の文化や経験・記憶の違いからくる相違といえそうですね。

実際、警告音(アラート)や環境音楽(アンビエント・ミュージック)の制作を手がけるプロがあるインタビューで、それがどこで使われるのか、日本なのか外国なのかを意識して制作すると答えています。日本人と外国人では同じ音に対する心理的な反応が違うということです。

ちなみに外国人にとって「おなかがペコペコ」や「サラサラして気持ちいい」など、日本語のオノマトペは難しいということもよく聞きます。「仕事をガンガンやる」「頭がガンガンする」、あるいは「なにゴロゴロしているの?」「雷がゴロゴロ鳴った」など、同じ音で意味が違うオノマトペがたくさんあるのも、外国人にはわかりにくいようですね。

警告音をはじめとするさまざまな音と人間の心理

近年、警告音(アラート)やサイン音に関する研究がさかんに行われています。サイン音というのは、警告というより何らかの情報を提供することを目的に作られた音をいいます。例えば、電子レンジや洗濯機など家電機器の操作確認や終了音、駅のホームで流される列車の発着音などが挙げられます。

また、「アラート(alert)」とよく似た言葉に「アラーム(alarm)」があります。二つとも警戒や警報という意味がありますが、アラートが受け手が予期しない時に発せられる警告音であるのに対し、アラームは受け手が事前に知っている場合の警告音といえます。つまり、地震速報は予期しない時に発せられる警告音、そして、例えば目覚まし時計のアラームなどは、受け手が音が鳴ることを事前に知っている場合の警告音ということになります。

しかし、目覚まし時計のアラームについての研究を見ると、安定感のある和音「①Cメジャーの和音(ド・ミ・ソ)」と、不安定感や緊張感がある和音「②Cディミニッシュ(ド・ミ♭・ソ♭・ラ)」では、②の不安定感や緊張感がある和音のほうが起床率がよいとされています。つまり、不安定感や緊張感があるほうがアラームとして適しているということです。

緊急速報の音は、緊張感を持った和音を使っていますが、あまりに怖い音だと人間の体は恐怖ですくんでしまい、緊急速報の意味をなさなくなってしまいます。そのため、「怖すぎず、あまり明るすぎない」ということを考えて設計されているそうです。警報というのは、危険を察知でき、しかも適切な行動に移れるよう、人間の心理を考えて作られているのです。

独自手法で短期解決をもたらす心理カウンセラー

青柳雅也さん(カウンセリングルーム アンフィニ)

Share

関連するその他の記事

コウモリの生態とは?被害状況や効果的な予防・駆除方法について解説

内田翔

内田翔さん

快適な暮らしを取り戻す、害獣害虫駆除の専門家

イタチの生態とは?被害状況や効果的な予防・駆除方法について解説

内田翔

内田翔さん

快適な暮らしを取り戻す、害獣害虫駆除の専門家

ハクビシンの被害、増加の一途|対策はどうすべき?駆除方法を解説

内田翔

内田翔さん

快適な暮らしを取り戻す、害獣害虫駆除の専門家

トコジラミを予防するには?最新の駆除方法で快適な睡眠を取り戻そう

内田翔

内田翔さん

快適な暮らしを取り戻す、害獣害虫駆除の専門家

カテゴリ

キーワード