最高裁が療養中の労働者解雇条件を緩和、雇用不安は広がる?
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最高裁が労災で療養中の労働者に対する解雇条件を緩和
労災で療養休業中の労働者に対し、平均賃金1200日分の打ち切り補償を支払い解雇した事件で、労働者側が解雇無効を訴えていました。最高裁は、「労働者が労災保険を受給していれば、使用者が療養補償をしていない場合でも雇用打ち切りの補償金を支払って解雇できる」と初めての判断を示しました。一、二審判決を無効とし、労災で療養中の労働者に対する解雇条件の法解釈を緩和しました。
平均賃金の1200日分の打ち切り補償を支払う場合は解雇も
労働基準法第19条では、「労働者が業務上負傷し又は、疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない。ただし、3年を経過して平均賃金の1200日分の打ち切り補償を支払う場合はこの限りでない」としています。
これだけ見れば、今回の解雇は何も問題ないように思えます。しかし一方で、労働基準法第75条で「業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者はその費用で必要な療養を行わなければならない」と示しており、労働基準法第81条では「第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打ち切り補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい」としています。
一審、二審では、法律を杓子定規に解釈
今回、労働者側は「治療費や休業補償は労災保険から受けており、第75条の言っているように直接会社から療養費を受けているわけではない以上、例え打ち切り補償を支払おうと解雇はできないはずだ」と訴えていたのです。
一審、二審では、法律を杓子定規に解釈して解雇を無効としました。しかしながら、実態として使用者は労災保険の保険料を支払い、業務上や通勤途上の災害はそちらから給付を受けさせています。最高裁は、この労災を受給していることが「直接会社から療養費や休業補償を受給していなくても同じ取り扱いである」と解釈して、一審、二審を無効にしたということです。
今回の最高裁の判断は使用者側に有利というわけではない
「解雇が緩和された」などと報道されると少々不安な気持ちにもなりますが、個人的には、今回の最高裁の判断は至極もっともだと思います。療養開始後3年も経過している訳ですし、その間の企業の負担は大きなものがあります。3年間、全く働かなくても使用者は社会保険料を負担しなければなりませんし、代用要員も用意しなければなりません。
また今後10年、労災での治療が続くとすれば、その間解雇をすることができなくなってしまいます。労働者にとっても、解雇されたからと言って労災での給付も終わってしまう訳ではありません。治療費、休業補償等は、継続して受給できます。症状が固定して治癒となった場合には、障害等級にもよりますが、障害補償年金なども給付される可能性もあります。
それゆえ、今回の最高裁の判断があまりに使用者側に有利で「雇用不安がひろがる」などという懸念はまずないでしょう。
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