有給取得の時期指定義務づけで取得率は改善するか?
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時期指定の義務づけで確実に有給休暇を取得させることが狙い
政府が26日召集予定の通常国会に提出する年次有給休暇に関する労働基準法改正案の内容が明らかになりました。企業に対し、従業員が保有している年次有給休暇の一部について、取得する時期を指定することを義務づけることとし、確実に年次有給休暇を取得させることが大きな狙いです。
この改正案は、過重労働の防止にもつながり、政府の掲げるワーク・ライフ・バランスの推進に沿った施策でもあり、ずっと以前から検討されてきました。それでは、この法改正案が実行された場合、年次有給休暇の取得率は実際に改善されるのでしょうか。
有給取得に「ためらいを感じる」は6割。大幅な改善は容易でない
政府は、これまで年次有給休暇の取得促進については、さまざまな対策を講じてきました。しかし、年次有給休暇の取得率をあまり改善できませんでした。今回のように年次有給休暇の一部を強制的に時期を指定して取得させることを義務づけることになれば、取得率は少しは向上するかもしれません。ただし、より大幅に向上させるというのは容易ではないでしょう。
厚生労働省の「労働時間等の設定の改善の促進を通じた仕事と生活の調和に関する意識調査(平成25年)」によれば、年次休暇を取得する際に、「ためらいを感じる」あるいは「ややためらいを感じる」人の割合は66.0%で、躊躇する人が多いことはデータからも明らかとなっています。
やはり「迷惑をかけたくない」ということが根底にありますし、中小企業においては人手不足の企業も多く、仕事をたくさん抱えて残業をしている状況では、現実的に休むことができないというのが実態です。また、企業風土の影響も大きいのですが、いざというときや病気に備えて年次有給休暇はあまり消化しないでためておく、というのが当たり前になっている企業も少なくありません。
今回の改正案を前向きにとらえ、業務の生産性向上へ
現在の労働基準法においても、義務ではないものの今回の改正案と同じような年次有給休暇の計画的付与という制度があり、上手に活用している企業もあります。年次有給休暇の計画的付与とは、労使協定を結べば、5日を除いた残りの日数については、計画的に休暇取得日を企業側が時期を指定ことができる制度のことです。
この制度を導入している企業は、導入していない企業よりも年次有給休暇の平均取得率が8.6ポイント(平成24年)高くなっているというデータもあり、今回の改正案を実行した際にも同じような効果は期待できるでしょう。
今回の改正案が実行された際には、企業は、年末年始、連休、夏休み、閑散期などに年次有給休暇の取得する時期を指定することによって、労務管理をしやすくすることもできます。一見すると企業側の負担が増加するイメージのある今回の改正案を前向きにとらえて労使でよく話し合いをし、最終的には業務の生産性向上につなげていくことが望まれます。
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