うつ病で無罪判決、そのワケは?
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日本の刑法では「心神喪失」と判断されれば責任を問えない
先日、重度のうつ病と診断された被告人が無罪を言い渡されたというニュースがありました。
日本の刑法では、善悪の判断や自身の行動を制御する能力がない人には責任を問うことができないとされています。善悪の判断や自身の行動を制御する能力がない人の典型は、赤ちゃんや幼児などの幼少の未成年です。
また、幼少の未成年の他には、「心神喪失」状態で罪を犯した場合にも、責任を問えないということで無罪とすることになっています。「心神喪失」とは、精神の障害などの理由で物事の是非善悪を理解する能力が失われたり、あるいは、その是非善悪の理解に従って行動する能力が失われたりする状態のことをいいます。 簡単にいえば、良いことと悪いことの判断能力がない、あるいは判断できていても自分の行動を制御する能力がない、ということです。ですから、「心神喪失」であると判断されれば、無罪となるのです。
うつ病だからといって、常に無罪となるわけではない
もっとも、「心神喪失」に当たるかどうかは、難しい問題です。例えば、うつ病という診断が下されたとしても、それだけでは心神喪失に当たるとは限りません。病気は、同じ診断名でも程度差があるため、診断名だけでは判断がつかないことが多いのです。実際の刑事裁判の手続では、専門家の医師による精神鑑定が行われるので、その結果が結論を大きく左右する可能性が大きいと思います。
このように、うつ病だからといって、常に無罪となるわけではありません。あくまでも「心神喪失」など、善悪の判断や自身の行動を制御する能力がない人であるという認定がなされた場合に、無罪となるのです。
日本の刑法が「心神喪失」の人の責任を問わないワケ
犯罪と縁のない普通の生活を送っている多くの人は、「うつ病だからといって無罪になるのはおかしい」という感覚を持ってしまうでしょう。このことは、むしろ当然のことかもしれません。しかし、善悪の判断ができない人や、自身の行動を制御する能力がない人に「犯罪をしてはいけない」と教えこんだとしても、果たして効果があるでしょうか。日本の刑法が「心神喪失」の人の責任を問えないこととしているのは、こういう人には刑罰によって責任を取らせることよりも、適切な治療等によって対処することの方が、その人のためにも社会のためにもなると考えているからなのです。
ストレスの多い現代社会では、どんな人もうつ病のような精神疾患に罹患する可能性がないとはいえません。そして、その精神疾患の程度が大きくなってしまえば、善悪の判断や自身の行動を制御する能力がなくなってしまう可能性も否定できないでしょう。そう考えると、うつ病の人が罪を犯してしまうということも、決して遠い世界のことではないのです。
世の中で起きている事件は身近にも起こる可能性があるということ、もっといえば自分や身近な家族が犯罪を起こしてしまう可能性も否定はできないということを、頭の片隅に留めておいてもらいたいと思います。そして、決して他人事ではなく、自分の問題として、社会のあり方、刑罰のあり方などを考えていただければと思います。
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