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「ツケ」に存在した時効期間、延長へ

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一定期間、行使されない権利が消滅する「消滅時効」の見直しを検討

「ツケ」に存在した時効期間、延長へ

現在、法務大臣の諮問を受けた法制審議会において、民法改正が検討されています。その改正検討の中に、消滅時効に関する規定の見直しが盛り込まれています。

「消滅時効」とは、一定期間、権利が行使されない場合に、その期間の経過を理由に権利を消滅させる制度です。消滅時効は、「権利を行使することができる時」(民法166条1項)を起算点として、この起算点から進行します。原則として、債権は10年、それ以外の財産権(ただし所有権を除きます)は20年の時効期間が経過すると消滅します(民法167条)。
もっとも、これは原則論であり、例外的な消滅時効の規定がいくつも存在します。権利関係を迅速に確定するため、原則的な期間より短い期間で時効が成立するという場合です。これを「短期消滅時効」といいます。

例えば、商法に規定のある商事債権は5年(商法522条)、労働者の賃金(退職手当を除く)は2年(労働基準法115条)で時効により消滅します。民法では、弁護士報酬は事件終了時から2年で時効により消滅するという規定もあります(民法172条1項)。

「ツケ」は「短期消滅時効」に当てはまり、現在、1年で時効に

こうした例外的な規定の中に、「ツケ」の短期消滅時効があります。「ツケ」は、法律的にいえば「料理店、飲食店の飲食料に係る債権」(民法174条4号、条文の一部を引用)に当たります。民法174条は1号から5号まで規定があり、ここに掲げられている債権は1年の短期消滅時効にかかるとされています。ですから、「ツケ」は1年で時効になり、請求できなくなります。

今回、法制審議会において検討されている民法改正案では、こうした職業別の「短期消滅時効は廃止する」との提案がなされています。 これは、業種ごとの期間の違いに「合理的理由がない」といわれていることが最大の理由です。確かに、医師の診療に関する債権や工事の請負代金は3年なのに、弁護士報酬は2年、「ツケ」のほか運送代も1年で時効消滅するということに、全員が納得できる理由はあまり思いつきません。これらは、民法が制定された当時の時代背景を理由とするものであり、現在の時代には馴染まないということなのでしょう。

民法改正後、「ツケ」は3年から5年で消滅時効となる可能性

民法改正案では、消滅時効に関し、先に述べた原則的な考え方についても見直しが検討されています。よって、職業別の短期消滅時効が廃止されれば、民法改正後の「ツケ」は3年から5年で消滅時効となる可能性が高いと思われます。ただし、ここはまだ議論中であり、確定的な話ではありません。

なお、「ツケ」を許してくれるのは、本当に信頼関係が出来上がっている常連だけなのではないかと思いますが、今回の短期消滅時効を知ったからといって、踏み倒そうと思ってツケにしようとはしないでください。詐欺罪に該当する可能性があります。

川島英雄

交通事故・医療事故の被害者を守る法律のプロ

弁護士

川島英雄さん(札幌おおぞら法律事務所)

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