過労死を防ぐ企業づくりとは
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過労死防止対策は「国の責務」と明確に位置付けたのは大きな一歩
「過労死等防止対策推進法案」が5月27日、衆院本会議で可決されました。同法案は今国会中に成立する見込みです。法案では過労死を「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義。さらに防止対策は「国の責務」と明確に位置づけた点は、大きな一歩と評価できます。
その一方で、法案の理念と逆行する動きがあることも気になります。安倍首相が6月の成長戦略の目玉の一つにしようとしている「ホワイトカラー・エグゼンプション」。日本の成長のために柔軟な働き方ができるようにと、労働時間規制の緩和が実施されれば、長時間労働の歯止めがなくなる恐れがあります。過労死防止に逆行する労働規制緩和であってはなりません。
厚労省の監査の結果、全体の8割が長時間労働などの法令違反あり
過労死や過労自殺を根絶するため、法整備を実効ある対策につなげるためには、従業員を雇用する企業自身が変わっていかなくてはなりません。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の就業者の年間実労働時間は、米国や韓国より短いものの、ドイツやオランダと比べて300時間以上も長いことがわりました。
また厚労省が、若者を過酷な条件下で働かせて使い捨てにする「ブラック企業」について、約5000社を対象に行った監査の結果、全体の8割で長時間労働などの法令違反がありました。そして、過労死の認定基準になっている、月100時間を超える残業が指摘された企業が14%にも達していたのです。真面目で責任感が強い従業員が「長時間・過重労働で心身の健康を損ない、命を奪われている」。これが日本の企業の実態と言えます。
過重労働に堪えざるをえない状況に追い込まれ、負の連鎖が続く
なぜ過労死という悲劇が起こるのか。過労死を生む組織には特徴が見出せます。「非現実的で壮大な目標を掲げるものの、達成するための仕組みの整備や必要な投資はない」「上意下達で命令は絶対服従させるものの、仕事のやり方に理論がなく、根性とやる気を美徳とする古い体質」「個人成果主義を謳いながらも、知識の伝承や合理的な業務ノウハウの蓄積がないために、非生産的で非効率的な仕事しかできない」など。
これでは、従業員は行き場のない閉塞感に追い込まれていきます。辛い状況から目を逸らせるために、「顧客のために」「会社のために」と寄与貢献を掲げた社訓を持ち出し、労働者が求めるべき正当な対価や待遇を要求すれば「能力不足・努力不足」と根性論で否定されます。理不尽だと感じながら過重労働に堪えざるをえない状況に追い込まれ、搾取の負の連鎖が断ち切れないのです。
過労死を防ぐには、組織風土の是正と長時間労働の是正が必要
終身雇用・年功序列が前提であった時代は、就職すれば会社が家族ぐるみの一生涯の面倒を見てくれたので、根性論を求められても問題はありませんでした。ただ、現代社会の雇用・労働環境において、そうした古き良き時代の勤務姿勢を求めつつ、それに見合う対価を与えない点は最大の問題です。だから過労死という悲劇が起こってしまうのです。
過労死を防ぐ企業づくりは、企業が主体的に、残業を抑える具体的な施策をもった自律的な企業に生まれ変わることが重要です。具体的には、心身を蝕むような働き過ぎを要求しない「組織風土の是正」と、「長時間労働の是正」をシステムとして構築することに尽きます。
両輪で取り組まなくては意味がありません。企業全体でその意識を共有し、従業員とその家族、同僚を守れるような成熟した組織になるよう、企業には舵を切ることが求められています。
豊富な経験と細やかな対応で頼れる人事・労務の専門家
大東恵子さん(あすか社会保険労務士法人)
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