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出来心が命とりに 覚醒剤の恐怖

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「統合失調症」を実験的に作り出す覚醒剤

出来心が命とりに 覚醒剤の恐怖

覚醒剤(薬品名:アンフェタミン、メタンフェタミンなど)が「統合失調症」を実験的に作り出す薬剤であることを知っていますか?

覚醒剤は、使用すれば、覚醒、高揚、疲労回復、自信増強、多幸・万能感、快感などの作用が得られるため、乱用が後を絶たず、日本では1995年頃から第3次乱用期に入っているとされています。こうした薬理作用は、覚醒剤が脳内神経伝達物質であるドーパミンの神経細胞による取り込みを抑えることにより、脳の神経細胞間のシナプスの隙間があり得ないほどのドーパミンで溢れるためにもたらされます。

統合失調症の幻覚妄想の原因のひとつは、脳内ドーパミンの過活動によるとされており、覚醒剤を動物に投与すると、ヒトの統合失調症と似た異常行動を生じさせることができます。

高揚感や快感を得て反復使用すると急速に耐性が上昇

覚醒剤による人格の崩壊は、3つの段階を経て起こります。まず、覚醒剤を使用すると段階によらず上記の薬理効果が得られます。脳は異常に覚醒し、眠気はとれ、頭が冴え渡ります。注意・集中力が増し、疲れを感じなくなり、気分が高揚し、何でもできるような万能感を覚え、また性感が高まります。交感神経が刺激されるため、脈拍・血圧が上がり、食欲は低下します。やせ薬に使われる所以です。

魔法の薬効のように思えますが、使用後、数時間で醒めてしまいます。後に待っているのは、薬効のリバウンドとして「全く何もする気が起こらない」虚脱状態、うつ状態で、これが数日間続きます。この虚脱状態では、当人は意識がもうろうとし、問いかけにも応えられないほどで、会社にも行けません。一種の禁断症状で、これが非常に辛いために再び高揚感や快感を得ようと薬を繰り返します。酒の精神的依存の時期にあたります。この乱用の時期が第一段階です。

覚醒剤の恐ろしいところは、反復使用すると急速に耐性が上昇する(同じ量では効果が出なくなる)ことです。通常の数百倍使用しないと初回と同程度の効果は出なくなるとされています。覚醒剤常習者が注射を使うのは、このためです。注射により、速やかに且つ強度に禁断症状から逃れ薬効を得ることができます。さらに、覚醒剤を連用すると次第にある種の「陶酔感」が加わります。全身がすーっとする感覚と性的な絶頂感に似た快感と言われています。注射で急速にこの陶酔感に至れる「スピード」(覚醒剤の別称)にイカレて、第二段階の身体的な依存が完成します。こうなると「骨までシャブられても薬を止め」ません。不眠、疲弊、うつ、やせ、焦燥、怒りっぽさなどが目立ってきます。

わずか2?3ヶ月で「覚醒剤精神病」が発症

覚醒剤の大量を静脈注射し続けた場合、わずか2?3ヶ月で、統合失調症に酷似した「覚醒剤精神病」が発症します。覚醒剤使用の終着駅です。スピードの名の通り特急で。被害的な幻覚妄想を中心とするのが特徴です。脳に不可逆的な変化を残すため、薬を止めていったん症状が消えても、少量の再使用によって再発します。また、発症後も覚醒剤を続けた場合、覚醒剤を使わないのに他の依存性薬物の使用や感情的なストレスだけでも再発が起こるようになってしまいます。

統合失調症と違う点は覚醒剤による被害的な幻覚妄想には特徴があり、「誰かが自分の悪口を言っている」「誰かが見張っている、つけてくる」「誰かが殺しにくる」というふうに常に誰かに狙われているという観念に付きまとわれることです。幻覚妄想に追いつめられ禁断症状の焦燥感・易怒性により攻撃性がエスカレートすると、最悪の場合、まれにですが、突発的で無差別な凶悪事件にも至りうることは周知のごとくです。ですから、覚醒剤は「ダメ。ゼッタイ。」なのです。

池上司

精神科医・ユング派分析家として心理療法を行う専門家

精神科医

池上司さん(池上メンタルクリニック)

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