労働時間規制撤廃にひそむ懸念
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厚生労働省側が、限定付きで労働時間規制撤廃の制度検討
労働時間の規制撤廃をめぐり数多くの議論を重ねてきていますが、政府は5月28日に産業競争力会議を開き、労働時間の上限規制などを撤廃する新たな制度の導入を決定しました。これまでさまざまな懸念があり、なかなか進展しなかったところでしたが、厚生労働省側が新たな制度に少し理解を示した形となりました。
田村厚労相が、労働時間ではなく成果で評価することが可能な「世界レベルの高度専門職」に対象を限定するという条件付きで、新制度の導入検討を表明しました。政府は6月に改定する成長戦略に、労働制度改革の目玉として盛り込む考えのようですが、さらに最後まで調整は続くものと思いますので、最終着地点がどこになるのか目が離せません。この新しい制度をよく理解するとともに、労働時間規制撤廃後に懸念される事項についても整理してみます。
一旦導入されれば、対象者は「なし崩し」的に広がる恐れがある
労働時間と切り離された働き方は「残業代ゼロ」で長時間労働を強いられ、一旦導入されると「なし崩し」的に対象が広がる恐れがあり、労働界からは強い懸念があり、厚生労働省側は慎重に対応しています。
前回の4月会議で、民間議員の長谷川氏の案では「年収1000万円以上の専門職」と国が年間労働時間の上限を示した上で、「対象に一般社員も含める」という2つの方式を示していましたが、労働界からの懸念などに配慮し、内容を修正することになりました。
懸念されていたのは、やはり「一般社員まで対象になっていること」でしたが、経営者側が「都合の良いように運用してしまう」という不安がありました。その点については、今回の会議で一般事務や小売店などの販売職、入社間もない若手職員は「見直しの対象外とする」と明記したのは一歩前進です。
今回の長谷川氏の提案では、年収要件などは明記せず「本人の同意が前提」としていますが、この点についても懸念材料は残ります。本人の同意とはいっても、経営者側が当然のように同意を求めるような運用が現場で行われる可能性もあります。今後もっと細かいルールまで決めておかなければ、経営者側と労働者側の認識の違いによるトラブルは避けることはできないでしょう。
大量の残業をさせられる環境に追い込まれ、健康を害する可能性も
また、新しい働き方を労働者に委ねるといっても、対象となった労働者側は、残業代ゼロで大量の残業をさせられるような環境に追い込まれることも考えられ、健康面などにも影響がでることが懸念されます。
長谷川氏の意見に対して、厚生労働省側は「対象者は世界レベルの高度専門職のみに限定する」と規定しています。長谷川氏が提示した案の企業の中核部門で働く社員については、すでに導入されている「裁量労働制の中で新たな枠組みを構築したい」ということで、かなり対象者に関して両者の間には隔たりがあるので、最終的にどこで落ち着くのかは気になるところです。
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