ドキュメンタリー映画「徘徊」:認知症の母と娘の日々を描いた作品
さて「セッションズ」について、その2回目。
今回から読まれた方には、改めて「セッションズ」のDVDの写真を。
この映画は重度の身体障害を持った詩人のマークと言う主人公が、自分の性体験についての記事を依頼され、その相手として「セックス・セラピスト」に依頼をするというエピソードから始まります。幼少時に発症したポリオが原因となって、30年以上も首から下が動かない状態にあるマークですが、思うように体を動かせないだけでなく、重度の呼吸障害も抱えて、「鉄の肺」と呼ぶ巨大な呼吸器の中で、一日のほとんどを暮らしています。
こういう状態の日々ですから、支援に訪れてくれる女性に淡い恋心を抱いたとしても、口にすることも、もちろんセックスをするチャンスさえありません。現にこういう状態と同様な日々を送られている方々は沢山いらっしゃることでしょう。障害でなくても、病気でも同様でしょう。
しかし考えてみれば、身体は動かなくても知的には自由な思索や感情を抱くことは人間に許された自由です。恋心や性に対する興味関心はあっても当然ですね。しかしいざそれを実行に移そうとすると、現実には大変ハードルが高い。ですから諦めている方々が多いのが現状ではないでしょうか。
さらに考えてみれば、そのハードルの高さは何も恋愛やセックスだけではありません。世の中のさまざまな分野や現実の中で、そのハードルを乗り越える支援がないばかりに活動の可能性の幅を広げることができないでいらっしゃる場面がたくさんあることでしょう。
ちょっと話は固くなりますが、「障害」ということについてどういう捉え方をするべきなのか、現在のWHOの定義によると、以下のようになります。ちょっと堅苦しくなりますが、興味のある方はお付き合いください。以前は障害者の社会参加についての捉え方が、「障害があるから人は社会参加できない」というモデルでした。
しかし、現在では、「障害」を前面に出すのではなく、何かの「障害」によって社会参加が阻まれる可能性があっても、その個人的な要因を補い支援する環境要因があれば社会参加や生活を営むことが可能である、というポジティヴな考え方です。
ちょっと話が一般論になりましたが、つまり「身体に障害があるから異性と恋愛や性的な体験ができない」のではなく、周囲が恋愛や性体験に関する十分な支援をしていないという「環境因子」の問題が、彼らの参加への機会を奪っている、ということになります。確かにそうかもしれませんね。性的な支援が可能であれば(例えば「セックスセラピスト」や「セックスボランティア」「障害者専門の風俗店」等)介助さえ受ければ可能なわけです。
この映画はそういう意味で、非常に考えさせられたわけですが、しかしこの映画にしてもそれから前回取り上げた「セックスボランティア」の本にしても触れられていた課題として、確かに性行為は可能かもしれないが、「愛の伴わない性」でしかない、と言う点ですね。
この「愛」の問題について考えた時、また難しい局面が出てきます。
しかし「愛の伴わない」性の享受と言う点では、少なくとも支援さえあれば障碍者と健常者の違いは少なくなるでしょう。
ただ、それだけでいいのか、となると・・・・。
その点について最後に、河合香織さんの著書「セックスボランティア」に風俗店に酸素ボンベを持ち込みながら性行為を楽しむ男性の言葉を紹介します。彼は会話ができず、手足も動きにくいため1文字時には数分かけながら文字盤で河合さんに次のような会話を交わしたそうです。(なお男性の言葉の中の / は、岸井が挿入)
(・・・風俗店に行くときには生命維持装置の酸素ボンベを外すので、死のリスクが伴うのだけれど)
「そのとき は そのとき / せい(性) は いきる こんぽん(根本) / やめるわけ にはいかない」
と答えます。
(彼には昔お互いに恋愛感情を感じた女性がいたそうですが、なぜその彼女とセックスしなかったのかと聞かれ)
「もっと したかった / でも こんな からだ だから / かのじょ の ふたんに なるから」
そして最後にかれはこう言ったのです。
「おんな の こ と あそびに いきたかった / けっこんも したかった / こども も ほしかった / きょういくも うけたかった / でも そう おもうことさえ ゆるされなかった」
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