映画「精神」:「病と共に生きる人」、そしてその彼らと共に生きる人
今回取り上げる映画はこれ「アイ・アム・サム」
既にごらんになられた方もたくさんいらっしゃることでしょうが、本当に感動する映画ですね。知的障害とともに生きるサムが、ひょんなことから父親になることになり、赤ちゃんをルーシーと名づけました。ただでさえ大変な子育てに、挑戦するサム。わからないことや失敗だらけですが、周囲人たちに支えられながら必死で父親になって行きます。しかしルーシーが大きくなったらなったで、いろいろな問題に直面することになります。
ネタバレになってもいけないので全ては書けませんが、サムの子育ての奮闘振りに加えて、障害を持つ父親と生きる子どもの悩みや苦闘も実にセンシティブに描かれてます。
目を見張るのが、サムを演じたショーン・ペンの演技力とルーシーを演じたダコダ・ファニングの可愛らしさ!!まるで天使のようですよ。それに加えてBGMに流れるビートルズの音楽の素晴らしさ!!!本当にどこをとっても名作だ、と思わせてくれる映画なのですが、実は私が一番感動したのは、そういうところではないのです。
それは映画の前半部分で、サムの日常生活が描かれる部分です。夜小さいルーシーに哺乳瓶でミルクを飲ませて寝かし付けたところへ、サムの仲間が訪れてくるシーンです。
実は彼らは毎週誰かの家に集まっていろいろな楽しみを共にしているということがわかってきます。会話の中で語られるのは
・毎週水曜日は アイホップ(アメリカのレストランチェーンで朝食に特化している、と言うことです)
に集まって朝食を食べる会をしている
・毎週木曜には誰かの家に集まって夜、ビデオ鑑賞会をしている
・毎週金曜にはカラオケ大会をしている、らしいことが語られます。
しかも、仲間の一人は、その集まりのためにデートも断って(!)参加した、と言います。
こういう日常を知ると、やはり障害の程度に限らず、仲間と共に日々を充実して生きることは大切だなぁと思いますね。クォリティ・オブ・ライフなんていいますが、アメリカでは障害と共に生きる「人」という観点が根付いているのだなぁと感心させられます。
日本では「障害と共に生きる」人、と「障害」のほうがクローズアップされて、福祉の充実を!という主張になりがちですが、アメリカでは、「障害に対応・配慮する」のはもう当然のことで、その対応・配慮をすることを前提として、いわゆる健常・定形発達の人と同じ扱いをされるのだそうです。
これは聞いた話で申し訳ないのですが、たとえばディズニーランドへ行っても、日本で言われるような「障害者割引」などというものはないそうです。障害があろうがなかろうが「人」としては何も違いはないはずだ、しかし同時に、障害に対する配慮というのは、共生する社会の当然の義務であると言う考え方だ、と聞いたことがあります(聞いた話なので間違っていれば教えてください)。日本でもこの4月から障害者差別禁止法が施行され、障害を理由に不合理な差別を禁止されるとともに、合理的な配慮を義務付けられるようになりました。これから日本の社会も変わっていくことでしょう。
ですからこういう映画にも、日本で福祉や行政が行うような「障害者サービス事業」と言うようなニュアンスではなく、自分たちで自分たちの人生を豊かにする、というシーンがでてくるのだな、と思って感激した次第です。こういう「主体的に生きる」という観点は日本でもこれからぜひ定着してほしいと個人的には思います(福祉が必要ないという意味ではありませんが)し、障害者問題を考えるときに忘れてはならない観点の一つだと思います。あなたはどう思われますか?
いずれにしても、こころ揺さぶられずに見られない映画「アイ・アム・サム」、もしまだ見ていらっしゃらない方はどうぞレンタルビデオでも見てください。
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