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「アナザー・ハッピー・デー ふぞろいな家族たち」

岸井謙児

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テーマ:「こころ」を描いたこんな映画

久々に切実な、時代を切り取った映画をみました。
「アナザー・ハッピー・ディ ふぞろいな家族たち」
タイトルは、あまり触手の動かないセンスのないフレーズですが、描かれているのは紛れもなく現代の病理。

アナザー・ハッピー・デイー

以前、このコラムでキアヌ・リーブスが主役の映画「アンダ-・ブルー」を紹介したことがあります。
「アンダーブルー」に描かれていた登場人物は、アルコール依存の父親とイネイブラーの母親、さらにボーダーラインの長女と自分を出せない次女、そしてそんな家族から逃げ出した長男と一方で父親と同じ運命をたどろうとする次男でした。これはこれで当時(1985)の時代の社会病理と精神病理を切り取った映画でした。

アンダーブルー

そしてこの「アナザー・ハッピー・ディ ふぞろいな家族たち」は、まさしく今このときの社会的な問題や精神病理を扱っています。物語の狂言回しは、若い頃はさぞ美人でもてただろう主婦のリンという女性。しかし長男のエリオットは薬物中毒で入退院を繰り返し、同時にジル・ド・ラ・トゥレット症候群を併せ持ち、次男のベンはアスペルガー症候群。ご主人のリーも映画の中で診断名は出されていませんでしたが、その様子を見る限り間違いなくアスペルガー症候群でしょう。

さらに主人公の母親リンの連れ子のアリスは体中にリストカットの後がある引きこもりの繊細な娘。アリスがそのような自傷行為に走ったきっかけは、リンの元のご主人のポールのドメスティック・バイオレンスを目の当りにしたからでした。

加えてリンの父親は認知症になり徘徊することも度々。リンの母親のドリスは、鉄の女といっても良いぐらいの固い信念と共感性のない女性なのです。そういう「ふぞろいの家族」が集まって、何とかうわべだけの絆を保って生きているのですが、いつ破綻してもおかしくない状況なのです。

こういう家族の状況を敏感に察しているのが、長男のエリオットでした。
彼は人と人の絆について「人と人の絆を確かなものにしてくれるのは、残念だけど誰かの『死』なんだ。問題は悲劇でしか、絆を確かめることが出来ないことだ」というような鋭い意見を持っています。しかもそれが現実に確かめられたのが、あの3・11のできごとだったんだ、とも。

事実、このうわべだけでいつ破綻してもおかしくない家族を最後の最後でかろうじてつなぎとめた出来事は、エリオットの自殺未遂事件と、認知症の祖父ジョーの起こした事故による死でした。

詳しいストーリーはネタバレになるので言えませんが、なんともやりきれない思いのクライマックスです。しかし実のところ、私はこの映画について共感できるところもあるのです。というのは、確かに「死」そのものではなくても、硬直していつ破綻してもおかしくない人間関係や家族関係を動かすエネルギーとなるのは、その状況にショックを与えるぐらいの衝撃的な出来事が起こる必要があるのではないでしょうか。

なぜならカウンセリングに携わっていると実はそういう生々しくもやりきれないドラスティックな状況に時々出会わされるからです。そういう意味で、この映画は残念ながらある意味真実をついているところもあると思っています。

あまりメジャーな映画ではないですが、DVDなら見れます。興味があれば一度ごらん下さい。

とりあえず予告編を載せておきます。





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岸井謙児(臨床心理士)

カウンセリング・オフィス岸井

カウンセリング暦35年。子供から大人まで、うつ・対人関係の悩み・発達障害・不適応・ひきこもりに関わる問題に丁寧に、かつ誠実に対応します。また全国から電話・スカイプなどでも相談を多数受け付けています。

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