オーナー社長の健康寿命が企業の存続を左右する 事業承継・M&Aの前に考えるべき経営者の健康戦略
競合とは、何か? ポーターのファイブフォースから考える
自由な市場経済を前提として事業を行う以上、企業が競争から完全に逃れることはできません。
新しい市場を発見し、商品ライフサイクルの導入期から苦労して事業を育てたとしても、市場の成長性や収益性が認識されれば、やがて競合企業が参入してきます。その結果、成長市場は競争の激しい市場へと変化していきます。
これは、ビジネスにおける避けられない原則です。
経営者の中には、競合企業の存在を意識することを避けたり、競合の商品やサービスを自社よりも劣るものと決めつけたりする方もいます。その気持ちは、私にもよくわかります。
自ら苦労して育ててきた事業であればあるほど、後から参入してきた競合を認めたくないという心理が働くからです。
しかし、競合を正しく評価せず、その動きを軽視し続ければ、自社が知らないうちに顧客を奪われ、市場における存在感を失っていくことになります。
競合とは、決して、自社と同じ種類の商品やサービスを販売している企業だけではありません。
自社を取り巻く競争環境を把握するためには、経営学者マイケル・ポーターが提唱したファイブフォース分析の視点が有効です。
・業界内の競合
・新規参入者の脅威
・代替品の脅威
・買い手の交渉力
・売り手の交渉力
これが、ファイブフォースです。
一般的に競合企業として認識されやすいのは、「業界内の競合」と「新規参入者の脅威」です。
しかし、実際の競争環境は、それだけではありません。
ポーターは、顧客の選択肢となる「代替品」も、自社の収益性を脅かす競争要因として位置づけています。
例えば、お中元商戦に参加するそうめんメーカーを考えてみましょう。
このメーカーの競合は、他のそうめんメーカーだけではありません。消費者が、お中元として、ハム、ビール、菓子、果物、調味料、カタログギフトなどを選択すれば、そうめんの販売機会は失われます。
つまり、消費者が「お中元を贈る」という目的を達成するために選択できる商品は、すべて代替品となり得ます。
経営者が競合分析を行う際には、「同じ商品を販売している会社はどこか」という狭い問いではなく、「顧客は、自社の商品を購入しない場合、代わりに何を選ぶのか」という問いを立てる必要があります。
さらに、ファイブフォースでは、本来は取引相手や事業パートナーとも考えられる、川下の販売会社や流通事業者などの「買い手」、川上の原材料メーカーや仕入先などの「売り手」も、自社の収益性に影響を及ぼす競争要因として捉えます。
買い手の交渉力が強くなれば、値下げ要求や取引条件の変更によって、自社の利益率は低下します。
売り手の交渉力が強くなれば、原材料価格や仕入価格の上昇を受け入れざるを得なくなり、自社の原価率は上昇します。
特定の販売先への依存度が高い企業や、特定の仕入先からしか商品を調達できない企業は、表面上は競争が激しくないように見えても、取引先の交渉力によって収益を圧迫される構造を抱えています。
加えて、買い手や売り手は、自社の業界へ新規参入する可能性を持っています。
販売会社が自社ブランドの商品を開発することもあれば、メーカーが直接販売に乗り出すこともあります。これまで取引相手であった企業が、ある日、自社の競合に変わることも珍しくありません。
経営者は、ファイブフォースのような広い視点から、競争環境を継続的に把握しなければなりません。
単に競合企業の価格を調査するだけでは不十分です。
顧客の購買行動、代替品の登場、仕入先の変化、販売チャネルの再編、新規参入企業の動向まで含めて、自社の収益性を脅かす構造を把握する必要があります。
あなたの会社の競合は、自分が気づかないうちに市場に登場する
ファイブフォースに含まれる競争要因は、同じ業界の既存企業だけにとどまりません。
そのため、経営者が継続的に市場の変化を観察していなければ、新しい競合の存在や、競争構造の変化に気づくことはできません。
特に注意が必要なのは、既存の商品分類や業界分類に当てはまらない企業です。
新しい競合は、既存企業と同じ商品を、同じ方法で販売するとは限りません。
新しい技術、新しい販売方法、新しい料金体系、新しい顧客体験を持ち込み、従来とは異なる方法で顧客の課題を解決します。
そのため、既存企業の経営者は、新規参入者が競争者として顕在化するまで、その脅威に気づかないことが少なくありません。
気づいたときには、顧客の認識や購買行動が変化し、新規参入企業が一定の市場占有率を確保していることもあります。
競合が突然現れたように見えるのは、競合が突然事業を開始したからではありません。
既存企業から見えない場所で、顧客ニーズの分析、技術開発、人材確保、販売チャネルの構築、資金調達などを進め、参入の準備を整えていたのです。
裏を返せば、新しい市場へ参入しようとする企業にとって、既存企業に自社の意図を察知されないうちに、競争力を蓄積することは、有効な新規参入戦略となります。
重要なのは、自社の競合を、現在存在している企業だけで判断しないことです。
「今後、どのような企業が参入してくる可能性があるか」
「異業種の企業が、自社の顧客課題を別の方法で解決する可能性はないか」
「顧客自身が、自社の商品を必要としなくなる可能性はないか」
こうした問いを、経営者は常に持ち続ける必要があります。
競合がいなければ、成長はない
多くの経営者は、競合の存在を好ましく思いません。
できることなら、競合の少ない市場で、自社の商品やサービスを安定的に販売したいと考えるのが自然です。
しかし、競合は、単に忌み嫌うべき存在ではありません。
事業における競争は、自社の商品やサービスの品質を高め、顧客の意見に耳を傾け、経営の緊張感を維持する契機となります。
競合の存在しない市場では、企業は顧客への対応を改善する動機を失いやすくなります。
価格、品質、納期、接客、利便性、情報提供などの改善が進まず、やがて市場そのものが衰退することもあります。
競合企業の商品、サービス、販売方法、情報発信、顧客対応を継続的に調査していると、自社では気づかなかった顧客ニーズや、自社の弱点を補う戦略を発見することがあります。
競合が打ち出した新しい取り組みは、偶然生まれたものとは限りません。
競合が、自社や市場を研究し、既存企業を乗り越えるために考え抜いた結果である可能性があります。
その戦略を、感情的に否定したり、表面的に批判したりするだけでは、自社の成長にはつながりません。
まずは、競合の戦略が、どのような顧客ニーズを捉え、どのような自社の弱点を突いているのかを、冷静かつ謙虚に分析する必要があります。
ただし、競合を研究し、その施策をそのまま模倣するだけでは不十分です。
競合の施策を取り入れるだけでは、自社は常に後発企業にとどまり、最終的には価格競争へ巻き込まれます。
競合の戦略を理解したうえで、その先を行く商品、サービス、顧客体験、販売方法を構築しなければなりません。
競合分析の目的は、競合と同じことをすることではありません。
競合が簡単には追随できない、自社独自の競争優位性をつくり出すことです。
対競争戦略
企業は、競争環境の中で、自社の事業を継続し、利益を確保しなければなりません。
市場経済では、顧客から高く評価される企業に、売上、利益、人材、資金、情報が集まります。
一方で、顧客から選ばれなくなった企業は、売上と利益を失い、事業の継続が困難になります。
したがって、競争の中で、どのように顧客から選ばれ、どのように利益を確保するかという競争戦略は、企業経営において避けて通ることのできない課題です。
特に、中小企業が大企業と同じ商品、同じ販売方法、同じ価格で競争すれば、資本力、人材力、広告力、仕入力の差によって、不利な状況に置かれます。
中小企業に必要なのは、大企業と正面から同じ条件で戦うことではありません。
自社が勝てる顧客、自社が勝てる市場、自社が勝てる提供方法を選び、競争の条件そのものを変えることです。
以下、競争戦略を構築するうえで、経営者が検討すべき重要な視点を整理します。
ビジネスモデル プラットフォーム依存型に陥っていないか?
事業を設計する際、ビジネスモデルを構築し、商品やサービスを提供する仕組みを整えることは重要です。
また、自社と顧客、供給者、提携先などを結ぶプラットフォームを構築できれば、事業を効率的に拡大できる可能性があります。
しかし、競争戦略の観点から考えると、ビジネスモデルやプラットフォームは、外部から模倣されやすいという弱点を持っています。
競合は、先行企業のビジネスモデルを研究し、成功している仕組みを模倣することによって、市場への参入を図ります。
ウェブサイト上に掲載されたサービス内容、料金体系、提供方法、集客方法、取引の流れは、競合からも確認できます。
外部から見える仕組みだけで成り立っている事業は、競合にとって模倣が容易です。
私は、ビジネスモデルを設計する際、外部から見える仕組みの中に、競合からは簡単に把握できない「ブラックボックス」を組み込むことを重視しています。
クライアント企業に対する経営支援においても、同様の視点から事業を設計するよう助言しています。
ここでいうブラックボックスとは、不透明な経営を意味するものではありません。
競合が表面的な仕組みを模倣しても、同じ成果を再現できない、自社固有の競争力を指します。
例えば、独自の仕入先ネットワーク、長年蓄積した顧客データ、専門人材のノウハウ、特殊な業務プロセス、独自の評価基準、取引先との信頼関係、複数事業の組み合わせなどです。
ビジネスモデルやプラットフォームは、それだけでは、競争優位性として十分ではありません。
その仕組みの内側に、競合が短期間では構築できない能力や資産が組み込まれているかどうかが重要です。
特に、最近増えているのが、AIを組み込んだプラットフォーム型のビジネスモデルです。
AIは、業務効率化、情報分析、企画立案、顧客対応など、多くの領域で有効な経営資源となります。
一方で、一般的に利用できるAIは、自社だけが独占できる技術ではありません。
自社が利用できるAIは、競合も利用できます。
したがって、「AIを導入している」という事実だけでは、持続的な差別化にはなりません。
重要なのは、AIそのものではなく、AIに学習させる自社独自の情報、AIを活用する業務設計、AIと専門人材を組み合わせる運用能力、AIから得た結果を顧客価値へ転換する能力です。
誰でも利用できるAIを組み込んだだけのプラットフォームは、競合にも短期間で模倣されます。
模倣が進めば、サービス内容は同質化し、最終的には価格競争へ向かいます。
十分な差別化を持たないまま、多額のシステム開発費や設備投資を行えば、投資額の損益分岐点を超える前に競争環境が変化し、初期投資を回収できなくなる危険があります。
経営者は、ビジネスモデルを構築する際に、「この仕組みは、競合にどこまで真似されるのか」という視点を持たなければなりません。
自社の事業・商品・サービスの差別化を言語化できるか?
競争戦略を構築するうえで、最も重要な要素の一つが差別化です。
しかし、多くの企業が掲げる差別化は、実際には差別化になっていません。
「高品質です」
「丁寧に対応します」
「お客様を大切にします」
「豊富な経験があります」
こうした表現は、企業として重要な姿勢ですが、多くの競合企業も同じことを主張できます。
競合企業も容易に使用できる言葉は、顧客から見れば、自社を選択する決定的な理由にはなりません。
差別化とは、単に競合と違うことではありません。
顧客にとって意味のある違いをつくり、その違いによって、自社を選ぶ理由を明確にすることです。
自社のビジネスモデルやプラットフォームの中に、競合が短期間では模倣できない差別化要因が組み込まれているかどうかが重要です。
さらに、その差別化を経営者自身が言語化できなければなりません。
自社の強みを経営者が説明できなければ、営業担当者も説明できません。営業担当者が説明できなければ、顧客には伝わりません。
そして、顧客に伝わらない差別化は、存在しないのと同じです。
経営者は、少なくとも次の問いに、自分の言葉で答えられる必要があります。
「なぜ、顧客は競合ではなく、自社を選ぶのか」
「自社の商品やサービスは、顧客のどのような課題を、競合よりも優れた方法で解決するのか」
「競合が自社を模倣しようとした場合、何が障壁となるのか」
「価格が高くても、顧客が自社を選ぶ理由は何か」
これらの問いに明確に答えられない場合、自社の差別化戦略は、まだ十分に構築されていない可能性があります。
ビジネスモデルの構築、企画書の作成、事業計画の整理は、AIを活用することで、従来よりも短時間で行えるようになりました。
しかし、AIが一般的な市場情報から導き出した企画は、競合企業も同様に作成できます。
最終的に競争優位性を生み出すのは、経営者や企画担当者が、自社の経験、顧客情報、技術、人材、取引関係、企業文化などを踏まえて、独自の差別化要因を考え抜くことです。
そして、その差別化要因を、顧客が理解できる言葉へ落とし込むことが重要です。
差別化の言語化は、広告宣伝のためだけに行うものではありません。
商品開発、営業、人材採用、教育、価格設定、提携先選定、投資判断など、経営全体の基準となるものです。
価格競争に勝てる体質になっているか?
十分な差別化を持たない事業は、価格競争に陥りやすくなります。
顧客から見て、複数の商品やサービスの違いがわからなければ、最終的な判断基準は価格になります。
経営者が、「競合が値下げをしたため、自社も価格を下げざるを得ない」と感じている場合、その問題は、競合の価格設定だけにあるのではありません。
自社が、価格以外の選択理由を顧客に提示できていないことが、本質的な課題である可能性があります。
差別化を言語化できない事業は、資本力のある企業に模倣されやすくなります。
大企業や資本力のある企業は、大量仕入れ、広告投資、人材採用、システム投資、赤字期間への耐久力などを背景に、価格を引き下げることができます。
中小企業が、資本力のある企業と同じ商品を、同じ方法で、同じ顧客に販売し、価格だけで競争すれば、長期的には不利になります。
値下げによって受注を増やしても、粗利益が減少すれば、人材育成、広告宣伝、商品開発、設備更新に資金を回すことができません。
その結果、サービス品質が低下し、さらに価格を下げなければ顧客から選ばれなくなるという悪循環に陥ります。
価格競争から脱却するためには、単に販売価格を上げればよいわけではありません。
価格を維持し、あるいは引き上げても顧客から選ばれる価値をつくる必要があります。
そのためには、次のような取り組みが求められます。
・対象顧客を絞り込む
・顧客の課題を具体的に特定する
・競合が対応しにくい領域へ専門化する
・商品だけでなく、導入支援や運用支援を付加する
・顧客が得られる成果を明確にする
・独自の仕入れ、人材、技術、情報を組み合わせる
・継続取引につながる関係性を構築する
・業務効率を高め、適正な利益を確保できる原価構造をつくる
価格競争に強い企業とは、最安値を提示できる企業だけではありません。
競合よりも高い価格であっても、「この会社に任せたい」と顧客から選ばれる企業も、価格競争に強い企業です。
自社が価格競争で劣勢に立っている場合、それは、競争優位性を事業の中に十分組み込めていないことの結果かもしれません。
勝てる事業とは、ビジネスコンテストやプレゼンテーションで評価される、見栄えのよいビジネスモデルだけではありません。
競合が参入してきても、簡単には顧客を奪われず、適正な価格と利益を維持できる事業です。
その事業を守るのは、独自の技術、専門人材、顧客基盤、情報、仕入先、販売網、業務ノウハウ、ブランド、企業文化などが組み合わされた、模倣困難な競争優位性です。
自社の売上が伸び悩んでいる。
競合との値下げ競争から抜け出せない。
新規事業を立ち上げても、すぐに模倣されてしまう。
自社の強みを営業担当者が説明できない。
広告費を増やしても、価格を比較する顧客ばかりが集まる。
このような課題を抱えている場合、個別の営業施策や広告施策だけを見直しても、根本的な解決には至らない可能性があります。
必要なのは、自社の競争環境、顧客、商品、価格、販売方法、収益構造を総合的に見直し、競合が容易に参入できない事業構造を再設計することです。
いまからでも遅くありません。
自社のビジネスモデルを徹底的に掘り下げ、顧客が自社を選ぶ理由と、競合が簡単には模倣できない競争優位性を明確にしましょう。
そして、値下げを繰り返さなくても、適正な利益を確保できる事業へと転換していくことが重要です。
自社だけで競争戦略を検討していると、これまでの業界慣行や成功体験に思考が制約され、自社の本当の強みや弱みに気づきにくいことがあります。
私は、中小企業経営者の皆様に対し、競争環境の分析、事業の差別化、ビジネスモデルの再構築、価格戦略、マーケティング戦略までを一体的に捉えた経営コンサルティングを行っています。
価格競争から脱却したい方、自社の差別化を明確にしたい方、競合に模倣されにくい事業モデルを構築したい方は、以下のコンサルティングサービスをご覧ください。
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