オーナー社長の健康寿命は企業存続を左右する|事業承継・M&Aを「迫られる選択」にしない経営戦略

松本尚典

松本尚典

テーマ:売上 経営戦略


1、事業承継ばかりが注目される今。オーナー企業の存続条件である、オーナー社長の健康寿命にも注目すべきではないか


日本の中小企業では、経営者の高齢化が進み、後継者不足が重要な経営課題になっています。

そのため、親族や社員への事業承継だけでなく、第三者へのM&Aによって会社を引き継ぐ方法も、一般的な経営上の選択肢になりました。

オーナー経営者であれば、M&A仲介会社などから、会社売却に関する電話、郵便、メールを受け取った経験がある方も多いのではないでしょうか。

もちろん、M&Aは有効な経営手段です。

後継者がいない会社を存続させる。

従業員の雇用を守る。

取引先との関係を引き継ぐ。

大きな経営資源を持つ会社の傘下に入り、さらに事業を成長させる。

こうした目的のために、M&Aが有効に機能することがあります。

しかし、私は、自らもオーナー経営者として会社を経営する立場から、事業承継を考える際に、もう一つ重要な視点があると考えています。

それが、経営者自身の健康寿命です。

厚生労働省では、健康寿命を、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく生活できる期間としています。

経営者の立場から考えるなら、これに加えて、

市場を見る。

情報を理解する。

事業を構想する。

人と交渉する。

投資を判断する。

社員を育てる。

最終的な意思決定を行う。

こうした経営者としての役割を、自立して担える期間をどれだけ長く確保できるかという問題があります。

オーナー経営者には、会社員のような一律の定年はありません。

年齢だけを理由に、経営の第一線から退かなければならないわけでもありません。

一方で、健康上の問題が生じれば、本人がまだ経営を続けたいと思っていても、事業承継や会社売却を急がなければならなくなることがあります。

ここに、オーナー企業特有の経営リスクがあります。

オーナー社長の健康問題は、個人だけの問題ではありません。

社長への依存度が高い会社ほど、その健康状態は、会社の意思決定、顧客関係、資金調達、組織運営、そして事業承継の選択肢に直接影響する経営上のリスクになります。


これが、いわゆるキーパーソンリスクです。

社長自身が営業を行う。

重要顧客との関係を社長だけが持つ。

金融機関との交渉を社長だけが行う。

商品開発も社長が決める。

採用も人事も投資も、すべて社長が判断する。

このような会社では、社長が数か月不在になっただけでも、会社全体の意思決定が止まる可能性があります。

したがって、経営者の健康を考えることと、社長依存の会社から脱却することは、別々の問題ではありません。

両方を同時に進める必要があります。

健康な状態で経営できる期間を確保する。

その間に利益を積み上げる。

借入金を減らす。

幹部を育てる。

経営情報を見える化する。

権限を移譲する。

企業価値を高める。

そのうえで、親族承継、社員承継、外部経営者への承継、資本提携、M&Aなどから、自社に最適な方法を選ぶ。

経営者の健康寿命を意識する意味は、事業承継を先送りすることではありません。

事業承継やM&Aを「健康上の事情から迫られて選ぶもの」ではなく、「会社にとって最も良い時期に、自らの意思で選ぶ経営戦略」に変えることにあります。


2、事業承継型M&Aは、成約しただけでは成功とはいえない


事業承継を目的としてM&Aを検討するオーナー経営者の多くは、単に株式を高く売却できればよいと考えているわけではありません。

自分が育ててきた会社を残したい。

従業員の雇用を守りたい。

取引先との関係を維持したい。

会社のブランドや技術を残したい。

できれば、譲渡後も会社をさらに成長させてほしい。

こうした思いを持っている経営者が多いと思います。

しかし、M&Aは契約を締結し、株式や事業を引き渡した時点で成功が確定するものではありません。

むしろ、その後から、新しい経営が始まります。

経営方針。

組織。

人事制度。

会計・財務管理。

情報システム。

業務手順。

顧客管理。

企業文化。

こうしたものを、譲受企業とどのように統合していくのか。

これがPMIです。

M&A成立時点で、売り手と買い手が考えている将来像に大きな違いがあれば、その後に問題が生じます。

買い手が短期間で収益改善を求めることもあります。

組織再編が行われる場合もあります。

反対に、従来の経営方法をそのまま残した結果、買収による成長効果が生まれない場合もあります。

従業員にとっても、

誰が上司になるのか。

評価制度はどうなるのか。

仕事の進め方は変わるのか。

勤務地はどうなるのか。

という問題があります。

だからこそ、事業承継型M&Aでは、譲渡価格だけを見るべきではありません。

譲受企業は、なぜ自社を買うのか。

買収後、どのような会社にしたいのか。

現在の社員をどう評価しているのか。

現在の商品、ブランド、取引先をどう考えているのか。

売却後、自分自身にはどのような役割が求められるのか。

こうした点まで確認する必要があります。

中小企業庁がM&A成立後のPMIについてガイドラインを整備しているのも、M&Aの成果が、その後の経営統合によって大きく左右されるためです。

会社を誰に譲るかを考えるということは、株式の買い手を探すことではありません。

自分が退いた後、その会社を誰が、どのように経営するのかを決めることです。


だからこそ、この重要な判断は、経営者が健康で、十分な情報を集め、複数の選択肢を比較できる段階で行うべきです。

健康上の問題が生じてから、急いで後継者や買い手を探すより、経営者が元気なうちから準備を始める。

その間に組織を整える。

後継者候補を育てる。

経営情報を整備する。

社長以外でも主要顧客との関係を維持できるようにする。

会社が社長一人に依存しない状態へ近づけておく。

健康寿命を意識することは、承継を遅らせることではありません。

より良い承継を選ぶための時間を、自分自身で確保することです。


3、エグジットと同時に注目すべき、オーナーの健康寿命による企業存続期間


私は、オーナー経営者の人生設計を考える際、「何歳で会社を売却するか」だけを見るべきではないと考えています。

重要なのは、

あと何年間、経営の第一線に立つのか。

その期間に会社をどこまで成長させるのか。

どの仕事を経営者自身が担い、どの仕事を組織へ移すのか。

その先に、どのような承継やエグジットを選ぶのか。

という時間軸です。

会社員には定年があります。

しかし、オーナー経営者には、自ら経営期間を設計する余地があります。

50歳から独立したとしても、70代、80代まで一定の形で事業へ関わることができれば、非常に長い経営期間になります。

特に、コンサルティング、金融、不動産、商社、専門サービスなど、経験、信用、人脈、専門性そのものが競争力になる事業では、年齢を重ねてきたことが強みとして作用する場合もあります。

一方で、経営者が健康で長く働けば、それだけで会社が強くなるわけではありません。

重要なのは、その時間を何に使うかです。

企業価値を高める。

利益を積み上げる。

財務体質を改善する。

組織を育てる。

後継者を育成する。

新しい事業を育てる。

社長依存度を下げる。

こうした取り組みのために使える時間です。

経営者に残された時間とは、単に「あと何年働けるか」という時間ではありません。

会社をより強い状態へ変え、次の経営者へ渡すために使える経営時間です。


ただし、高齢になっても代表者の地位にとどまり続けることそのものを目的にしてはいけません。

市場の変化を理解できているか。

新しい技術を学べているか。

若い世代の意見を聞けているか。

自分と異なる意見を受け入れられるか。

重要な意思決定について、自分自身の判断を客観的に検証できているか。

必要な時に権限を渡せるか。

こうしたことの方が、年齢そのものより重要です。

経営者自身が、

「自分はまだ大丈夫だ」

と考えているだけでは不十分です。

経営幹部や社外の専門家から、率直な意見を受け取れる仕組みも必要になります。

長く経営することと、権限を抱え続けることは違います。

健康であるうちから組織へ権限を移し、経営者自身は、事業構想、投資、重要人事、外部関係など、経営者にしかできない仕事へ集中する。

この形をつくることが、長期経営の理想だと私は考えています。

4、事業家としての私の長期経営計画と、健康寿命という発想


ここで、私自身の事例をご紹介します。

私は、経営コンサルタントとしてキャリアを始め、海外でも金融・経営の実務経験を積みました。

その後、日本企業の経営に携わりながら、自分自身でも長年にわたって事業を育ててきました。

本格的に独立したのは49歳です。

現在のURVグローバルグループにつながる事業基盤をつくり始めたのは、それより前でした。

私にとって、それまで会社員、経営コンサルタント、企業役員として仕事をしてきた期間は、独立後の事業家人生のための長い準備期間でもありました。

そこで蓄積したものがあります。

専門知識。

経営経験。

金融の知識。

海外経験。

人脈。

信用。

そして、自分自身で経営してきた事業経験です。

私は、それらを独立後の事業へ投入してきました。

だからこそ、独立後数年で仕事人生を終えるという発想はありませんでした。

私は現在、自分が経営の第一線に立つ期間について、2050年までを一つの長期的な目標として考えています。

2050年には、私は80代になります。

その時まで、現在とまったく同じ働き方をするという意味ではありません。

年齢とともに、自分自身が担う仕事は変わっていくはずです。

しかし、

市場を見る。

事業を構想する。

投資を判断する。

人材を育てる。

経営について考える。

海外を含めた事業の方向性を決める。

こうした経営者としての役割については、可能な限り長く担える状態を維持したいと考えています。

そのためには、健康管理だけでは不十分です。

私が一週間不在でも会社が動く。

一か月海外へ行っていても、それぞれの事業が進む。

日常的な判断は、経営幹部が行える。

重要な情報は、私一人の頭の中ではなく、組織で共有されている。

このような会社をつくる必要があります。

元気だから社長が何でもやる。

これは、長期経営ではありません。

長期経営に必要なのは、社長が無理をして働き続けることではありません。

健康を維持すると同時に、社長が担わなくてもよい仕事を組織へ移し、社長にしかできない意思決定へ集中できる会社をつくることです。


これは、健康管理と組織づくりを、一つの経営課題として考えるということでもあります。

5、私が実践する、身体・ココロ・アタマの健康維持法


ここからは、私自身が長期的に経営を続けるために意識していることをご紹介します。

ただし、ここで書くことは、医学的な健康法をお勧めするものではありません。

年齢、体力、既往歴、服薬、生活環境は人によって異なります。

健康に関する具体的な判断については、必要に応じて医師などの専門家の助言を受けるべきです。

私が経営者として重視しているのは、身体、ココロ、アタマの三つを、長期間にわたって維持することです。

身体の健康維持法


経営者は、健康法そのものを仕事にする必要はありません。

重要なのは、仕事をしながらでも長期間継続できる生活習慣をつくることです。

私自身は、できる限り日常生活の中に歩く時間を入れるようにしています。

移動の一部を徒歩にする。

考えを整理したい時に歩く。

長時間座り続けない。

こうした小さなことを継続します。

歩いている時間は、私にとって運動の時間であるだけではありません。

経営上の問題を整理したり、新しい事業について考えたりする時間でもあります。

また、年齢を重ねれば、歩くだけではなく、身体を支える筋力を維持することも必要になります。

睡眠も重要です。

定期的な健康診断も受ける。

血圧や体重など、自分の状態の変化を把握する。

不調を感じたら放置しない。

経営者は、

「自分が休めば会社が止まる」

という意識から、体調が悪くても仕事を続けてしまうことがあります。

しかし、長期間離脱することになれば、会社への影響はさらに大きくなります。

自分が休める会社をつくることも、経営者自身の健康管理の一部だと思っています。

ココロの健康維持法


オーナー経営者の精神的な状態は、会社の状態と切り離すことができません。

売上。

利益。

資金繰り。

人材。

重要顧客。

金融機関。

投資。

訴訟やトラブル。

会社に問題が起きれば、最終的には経営者が責任を負います。

そのため、オーナー経営者は孤独になりやすい立場です。

しかし、私は、経営上の問題を一人ですべて抱え込むことが、強い経営者の条件だとは考えていません。

経営幹部。

税理士や弁護士などの専門家。

金融機関。

信頼できる経営者仲間。

経営コンサルタント。

必要なテーマについて、率直に相談できる人を持つことが重要です。

また、精神的な負担を軽くするためにも、権限移譲は必要です。

社長がすべて判断する会社では、社員が成長しないだけでなく、社長自身の負担も増え続けます。

休養を取ることも同じです。

経営者の休養は、経営責任から逃れるためのものではありません。

次の判断を正常に行うために、身体と頭を回復させる時間です。

経営には、自分だけでは制御できない出来事も起きます。

だからこそ、問題を早く把握し、相談し、必要な専門家の力を借り、会社全体で解決できる体制をつくる必要があります。

心身の不調が長く続く場合には、精神論で乗り越えようとせず、医療機関など専門家へ相談することも重要です。

アタマの健康維持法


経営者にとってのアタマの健康とは、単に記憶力がよいということではありません。

新しい情報を理解する。

変化を受け入れる。

複数の選択肢を比較する。

自分と違う意見を聞く。

これまでの成功体験を疑う。

そして、最終的な意思決定を行う。

こうした能力を維持することです。

そのため、私は学び続けることを非常に重視しています。

本を読む。

新しい市場を調べる。

海外へ行く。

若い世代と話す。

専門外の人と話す。

新しいテクノロジーを使ってみる。

自分とは違う考え方に触れる。

そして、自分自身の考えを文章にする。

年齢を重ねることの最大の危険は、知識がなくなることよりも、

「自分はもう知っている」

と思い始めることではないかと、私は考えています。

過去に成功した方法が、現在も正しいとは限りません。

特に現在は、AIをはじめ、企業を取り巻く環境が急速に変化しています。

経営者自身が学ばなくなれば、その会社も変化についていけなくなります。

そして、自分の判断力を過信しないことも重要です。

大きな投資。

重要な人事。

新規事業。

M&A。

海外進出。

こうした重要な意思決定については、自分以外の視点からも確認する。

数字を見る。

反対意見を聞く。

前提そのものが間違っていないかを確認する。

こうした仕組みを持つことが、経営判断の質を守ることにつながります。

経営者にとっての、身体・ココロ・アタマの健康法のキーワード

身体ココロアタマ
継続できる身体活動・睡眠・健康管理一人で抱え込まない組織と相談体制学び続ける姿勢・異論を聞く力・客観的な意思決定


身体、ココロ、アタマを整える目的は、単に長く働くことではありません。

より長い期間にわたって、経営者として質の高い意思決定を続けることです。

そして同時に、その期間を使って、会社を社長一人に依存しない組織へ変えていかなければなりません。

経営理念。

経営計画。

顧客情報。

財務情報。

業務手順。

意思決定権限。

これらを組織へ共有する。

幹部を育てる。

後継者候補を育成する。

社長がいなくても日常業務が進む状態をつくる。

私は、会社が順調で、経営者自身も健康な時こそ、事業承継の準備を始めるべきだと考えています。

自分が、あと何年間、経営の第一線に立つのか。

その間に、会社をどこまで成長させるのか。

社長自身に依存している仕事を、どこまで組織へ移すのか。

誰に、どのような形で経営を引き継ぐのか。

親族へ承継するのか。

社員へ承継するのか。

外部経営者へ任せるのか。

資本提携を活用するのか。

M&Aによって譲渡するのか。

これらの問題は、体調を崩してから考えるべきものではありません。

健康で、会社が成長しており、複数の選択肢を持てる段階で考えるべき経営課題です。

経営者の健康寿命を意識することは、会社を手放さないための対策ではありません。

会社の将来を、自分の意思で選択できる期間を確保するための経営戦略なのです。


私の中小企業経営者支援コンサルティングでは、現在の売上や利益だけではなく、経営者自身がいつまで第一線に立つのか、その間にどのような組織をつくるのか、後継者をどう育てるのか、そして将来の事業承継やM&Aをどのように位置付けるのかまで含めて、会社の長期的な経営を考えます。

会社の成長と、経営者自身の人生を別々に考えるのではなく、長い時間軸で一つの経営計画として設計する。

それが、オーナー企業の経営には必要だと私は考えています。

松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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