中小企業経営は「国語で考え、算数で検証する」|経営戦略と管理会計の実践法
※本稿は、2024年12月12日に実施したフィリピン・マニラ首都圏の市場調査記録をもとに、2026年時点の制度・市場環境を踏まえて再編集したものです。
この市場調査は、その後の海外飲食事業プロジェクトへつながり、フィリピン・マカティでは2026年7月1日、日本式高級焼肉店「THE BWB Makati」がグランドオープンしました。
海外進出では、統計資料を読むだけでは見えない情報があります。
このシリーズでは、実際に現地へ入り、
何を見たのか。
何を調べたのか。
何を経営判断の材料にしたのか。
を、海外進出を検討する中小企業経営者・海外事業責任者の視点から整理します。
フィリピン・マニラ経済圏のマカティ市から市場を調査する
2024年12月12日。
僕は、翌年度以降にURVグローバルグループが海外進出・海外出店支援を受託するクライアント企業様の市場調査のため、フィリピンへ入りました。
調査対象は、
メトロマニラの中でも重要なビジネスエリアである、
マカティ市
です。
この原稿は、マカティ市に滞在中のCity Garden Grand Hotelで、現地調査の一次情報として書いた内容を基礎にしています。
海外進出を検討するとき、
GDP。
人口。
平均所得。
経済成長率。
といった統計データはもちろん重要です。
しかし、それだけでは飲食店を出店できません。
実際に確認しなければならないのは、
誰が街を歩いているのか
どのような店舗が繁盛しているのか
外食にいくら払っているのか
昼と夜で人の流れがどう変わるのか
車と徒歩のどちらで顧客が移動するのか
外国人・ビジネス客・現地高所得者層がどこに集まっているのか
競合店はいくらで、何を提供しているのか
物件まで顧客が実際に来店できるのか
という、
商圏の実態
です。
海外飲食進出では、「フィリピン市場」を調査するだけでは不十分です。
最終的には、「マカティの、どの商圏の、どの顧客を狙うのか」まで落とし込む必要があります。
なぜ、マニラ首都圏の中でもマカティを見るのか
フィリピン統計庁の統計でも、マニラ首都圏を含むNCRは、フィリピン経済の中で最も大きな比重を占める地域です。
その中でもマカティは、
企業。
金融機関。
オフィス。
ホテル。
商業施設。
コンドミニアム。
飲食店。
が集積する、フィリピンを代表するビジネスエリアの一つです。
BGCも同様に、オフィス・住宅・商業施設が集積する重要なエリアです。
海外進出で重要なのは、
「フィリピンは物価が安い。」
「フィリピンは成長国だ。」
という国全体の平均値で判断しないことです。
マカティ。
BGC。
パサイ。
その他のマニラ首都圏。
では、
家賃。
客単価。
所得。
競合。
交通。
外国人比率。
顧客の生活動線。
が違います。
同じ国の中に、まったく異なるマーケットが存在している。
これが海外市場調査で最初に理解しておくべきことです。
「成長国だから出店する」という海外進出は危険
フィリピンは、中長期的な成長市場として注目されています。
しかし、
経済成長率が高い。
人口が多い。
平均年齢が若い。
というマクロデータだけを見て、
「フィリピンなら売れる。」
と考えるのは危険です。
経済成長率は毎年変わります。
そして、国全体のGDPが伸びていても、
自社の商品を購入する顧客が出店商圏にいなければ、
飲食店は成立しません。
反対に、
国全体の平均所得が日本より低くても、
特定の都市・商圏に高い購買力を持つ顧客が集中していれば、
高価格帯の商品が成立する可能性があります。
海外進出で調べるべきなのは、「その国が豊かになるか」だけではありません。
「自社が設定する価格を継続して払える顧客が、商圏内に何人いるのか」です。
フィリピン到着 ニノイ・アキノ国際空港からマカティへ
12日の午後。
成田空港からフィリピン航空を利用し、ニノイ・アキノ国際空港に到着しました。
日本国籍者の場合、一定の条件を満たす観光・短期商用目的であれば、原則として30日以内の滞在は査証なしで入国できます。
ただし、渡航制度は変更される可能性があります。
海外出張では、
航空券を予約した段階。
出発直前。
の双方で、フィリピン政府・在日フィリピン大使館などの最新情報を確認することが重要です。
また、現在、フィリピンへの渡航では、
eTravel
への登録があります。
フィリピン政府の公式案内では、eTravelは到着・出発前72時間以内に登録する仕組みです。
登録後のQRコード等については、
スマートフォンだけに依存せず、
スクリーンショット等でオフラインでも確認できる状態にしておく
と、実務上安心です。
海外出張では、
空港へ到着した直後に通信環境が安定する
とは限りません。
このような小さな準備も、海外事業では重要です。
空港からホテルまでの移動も、市場調査になる
空港を出て、マカティのホテルへ向かいます。
移動には配車アプリのGrabを利用しました。
配車アプリには、
乗車位置。
目的地。
想定ルート。
料金。
などをアプリ上で確認できる利点があります。
海外出張では、
「どの交通手段が安全か。」
という観点だけではなく、
その都市で顧客が日常的にどのように移動しているのか
を見ることも重要です。
飲食店の商圏は、
日本の、
駅から徒歩5分。
駅前商圏。
という発想だけでは分析できません。
自家用車。
配車アプリ。
タクシー。
鉄道。
徒歩。
など、
都市ごとの移動方法によって、
「近い店」と「遠い店」の意味が変わります。
例えば、
地図上では数キロしか離れていなくても、
慢性的な渋滞によって移動に長時間かかるのであれば、
顧客にとっては別商圏になることがあります。
海外飲食店の立地選定では、地図上の距離ではなく、「顧客が実際に何分で店へ来られるか」を見ることが重要です。
マニラ首都圏では、短い移動でも街の性格が大きく変わる
空港からマカティへ向かう途中、
車窓からさまざまな街並みを見ることができます。
住宅。
露店。
小規模商店。
幹線道路。
オフィス。
ホテル。
高層住宅。
大型商業施設。
街の性格が短い距離の中で変化していきます。
僕がこの時に強く感じたのは、
「フィリピンという一つの市場」が存在するわけではない
ということでした。
都市の中に、
所得水準。
生活スタイル。
住居。
交通。
消費行動。
が異なる複数の商圏が存在しています。
マカティへ入ると、
高層オフィス。
ホテル。
コンドミニアム。
飲食店。
商業施設。
などの集積が目立つようになります。
海外進出を検討する企業は、
この違いを、
「豊かな地域と貧しい地域」
という社会的な評価だけで見てはいけません。
経営者として見るべきなのは、
「どの顧客が、どこで、どのような消費をしているのか」
です。
海外市場調査で僕が最初に見る「価格」
ホテルにチェックインした後、
周辺市場の調査を始めました。
新しい都市へ入った際、
僕が最初に確認するものの一つが、
身近な商品の価格
です。
例えば、
水。
コーヒー。
ファストフード。
タクシー・配車料金。
コンビニの商品。
一般的な外食。
などです。
グローバルチェーンの商品も、
現地の価格感覚を把握する一つの参考になります。
ただし、
一つのハンバーガーの価格から、その国全体の物価を判断してはいけません。
見るべきなのは、
複数の商品。
複数の業態。
複数の商圏。
です。
初日に確認したマカティの価格感覚
2024年12月12日。
まず、バーガーキングへ入りました。
最も基本的なハンバーガーと小サイズのコークで、
99フィリピンペソ。
また、セブンイレブンで購入したペットボトルの水は、
17ペソ。
でした。
このような価格だけを見ると、
「フィリピンは日本よりかなり安い。」
という印象を持つかもしれません。
しかし、ここで判断を止めてはいけません。
夕食時、
マカティアベニュー周辺の台湾料理店へ入りました。
ビーフンを使った焼きそばが、
335ペソ。
焼き餃子が、
345ペソ。
でした。
近くの客の会計を見ると、
アルコールを飲まなくても2名で1400ペソ程度になるケースもありました。
つまり、
商品カテゴリー。
店舗。
商圏。
によって、
価格感は大きく変わります。
「フィリピンの物価はいくらか?」という質問には、実はあまり意味がありません。
飲食店の海外進出で必要なのは、「自社が出店を検討している商圏で、ターゲット顧客が飲食にいくら払っているか」です。
マカティの外食価格を、日本と単純比較しない
2024年の調査時、
マカティ中心部の一部の飲食店では、
日本の都市部と比較しても決して極端に安くない価格帯の商品が確認できました。
ここから得られる示唆は、
「マカティの物価は日本と同じ。」
ということではありません。
重要なのは、
マカティには、日本と比較可能な高価格帯まで含め、複数の外食市場が成立している
ということです。
例えば、
低価格帯。
日常利用。
中価格帯。
ファミリー。
ビジネス利用。
外国人向け。
高所得者向け。
高級店。
では、
同じ都市でも価格がまったく違います。
これは、後にTHE BWB Makatiの事業計画を考えるうえでも重要な視点になりました。
飲食店の市場調査では、「物価」より「価格受容性」を見る
海外進出でよくある誤りが、
現地の平均物価
から商品価格を決めることです。
例えば、
「日本より物価が半分程度だから、日本の1万円の商品を5000円程度で売ろう。」
という発想です。
これは危険です。
価格は、
平均所得
だけで決まりません。
ターゲット顧客の所得・資産
競合店の価格
商品そのものの希少性
日本ブランドへの評価
食材品質
店舗立地
サービス
店舗空間
利用目的
ブランド認知
などによって決まります。
例えば、
一般的な現地食と、
日本から輸入した食材を使う高付加価値の日本料理
では、同じ価格戦略を採る必要はありません。
海外飲食事業では、「現地物価に合わせて値段を下げる」のではありません。
ターゲット顧客が感じる価値から、価格を設計します。
海外飲食進出で、現地視察時に確認したい8項目
僕は、海外飲食店の出店候補地を視察する際、
単に、
「街がきれいだった。」
「人が多かった。」
「勢いを感じた。」
という印象だけでは判断しません。
少なくとも、次のような情報を確認します。
1.ターゲット顧客は、どこに住み、どこで働いているか
2.その顧客は、外食にいくら払っているか
3.競合店は、何を、いくらで売っているか
4.昼・夜・平日・休日で人の動きはどう変わるか
5.徒歩・車・配車アプリなど、顧客の移動手段は何か
6.商圏内の家賃・人件費・その他店舗コストはいくらか
7.日本の商品・食材・サービスに対して、どのような需要があるか
8.出店後に必要な客数・客単価を、本当に確保できるか
この8項目を、
Vol.2で説明した、
投資回収
へつなげます。
つまり、
市場調査
と、
事業計画
は別の仕事ではありません。
現地視察の目的は、「その国を好きになること」ではない
海外視察へ行くと、
街の活気。
高層ビル。
新しい商業施設。
若い人たち。
現地料理。
などを見て、
「この国は伸びそうだ。」
と感じることがあります。
しかし、
その感覚だけで投資してはいけません。
経営者が現地へ行く目的は、
旅行ではなく、
日本で立てた事業仮説を検証すること
です。
例えば、
「このエリアには高所得者が多い。」
という仮説があるのであれば、
実際に、
どんなレストランへ行くのか。
いくら払うのか。
何曜日に混むのか。
どこから車で来るのか。
何を高く評価しているのか。
を確認します。
海外市場調査とは、「良さそうな市場を探すこと」ではありません。
投資してもよい市場なのかを、現地で疑って確かめる仕事です。
このマカティ市場調査が、後のTHE BWB Makatiにつながった
この2024年12月の市場調査では、
マカティの、
街。
物価。
交通。
商圏。
飲食店。
競争環境。
顧客。
物件。
などを確認しました。
その後も継続的な現地調査と事業準備を進め、
2026年7月1日、
マカティ市のForbes Tower Condominiumに、
日本式高級焼肉店
THE BWB Makati
がグランドオープンしました。
THE BWB Makatiでは、
日本産A5和牛。
日本食材。
日本の四季を表現したコース料理。
個室中心の店舗空間。
予約制。
ホスピタリティ。
などを組み合わせ、
マカティ・BGCを中心とする高所得者層を想定した業態を構築しています。
ここで重要なのは、
僕たちが最初から、
「フィリピンなら焼肉が売れる。」
と考えていたわけではないことです。
市場を調べる。
↓
顧客を絞る。
↓
商圏を選ぶ。
↓
価格を考える。
↓
商品を設計する。
↓
投資額を決める。
↓
物件を選ぶ。
という順番で進めました。
海外進出の市場調査は、レポートを作るために行うものではありません。
「この市場へ、本当に会社のおカネを投資してよいか」を判断するために行うものです。
マカティ市場調査から経営者が学ぶべきこと
今回のVol.1でお伝えしたいのは、
マカティがおすすめです
という話ではありません。
フィリピンへ進出するすべての企業が、
マカティを選ぶべき
ということでもありません。
業態によっては、
BGC。
別のマニラ首都圏。
セブ。
その他の都市。
の方が適している可能性があります。
重要なのは、
国を見る
↓
都市を見る
↓
商圏を見る
↓
顧客を見る
↓
競合を見る
↓
価格を見る
↓
投資採算を見る
↓
最後に物件を決める
という順番です。
海外進出の「Where?」とは、国名を決めることではありません。
自社の商品を必要とする顧客が存在し、その価格で事業として投資回収できる「都市・商圏」を見つけることです。
次回以降では、
マカティ市・BGCの商業環境。
飲食店。
競合。
顧客。
立地。
などを、さらに具体的に見ていきます。
URVグローバルグループのフィリピン進出支援実績事例
株式会社Cホールディングス 海外進出市場調査・不動産物件調査
フィリピン・東南アジアへの進出を検討している経営者の方へ
「フィリピンへの進出を検討しているが、マニラのどのエリアを調査すべきか分からない」
「海外へ飲食店を出したいが、本当に市場があるのか判断したい」
「現地視察へ行く前に、何を調べればよいか整理したい」
「候補都市や商圏を比較したい」
「現地物価ではなく、自社商品の適正価格を考えたい」
「物件を契約する前に、売上・利益・投資回収を検証したい」
という段階では、
現地法人設立や物件契約を急ぐ必要はありません。
むしろ、その前に、
なぜ海外へ進出するのか。
誰に売るのか。
何を売るのか。
どの都市・商圏を選ぶのか。
いくら投資するのか。
何年で回収するのか。
を整理することが重要です。
初回120分海外事業カンファレンスでは、
海外進出ありきではなく、
御社の国内事業。
商品・サービス。
顧客。
資金力。
経営体制。
海外事業の目的。
を確認したうえで、海外進出の方向性を整理します。
進出国がまだ決まっていなくても構いません。
むしろ、
「フィリピンなのか、ベトナムなのか、それ以外なのか。」
という段階から検討できます。
場合によっては、
今は海外へ進出しない方がよい
という結論になることもあります。
それも、重要な経営判断です。
海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス
国内事業が一定程度確立し、海外を次の成長市場として検討している中小企業のオーナー経営者を対象に、
海外進出の目的。
商品・サービス。
ターゲット顧客。
候補国・候補都市。
現地市場調査。
初期投資・運転資金。
投資回収。
現地法人・進出方法。
人材。
リスク。
まで、海外事業を経営戦略として整理します。
https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587


