オーナー社長の健康寿命が企業の存続を左右する 事業承継・M&Aの前に考えるべき経営者の健康戦略
1、経営は、ストーリーを描く「国語力」と、財務数字で検証する「算数力」
「経営は、国語で考え、算数で検証するもの」
私は、中小企業の経営を考えるうえで、この考え方が非常に重要だと考えています。
結論から言えば、経営者に必要なのは、事業の未来をストーリーとして描く「国語の力」と、そのストーリーが経済合理性を持っているかを財務数字で検証する「算数の力」です。
経営戦略や新規事業は、最初から数字だけで生まれてくるものではありません。
誰に、どのような価値を提供するのか。その顧客は、なぜ自社の商品やサービスを選ぶのか。どのように販売し、どのような組織で提供し、どこに資金を投じれば事業を成長させることができるのか。
まず、これらを一つのストーリーとして組み立てる必要があります。
しかし、そのストーリーが魅力的であることと、事業として利益を生み、資金を残せることは別の問題です。
そこで必要になるのが、売上、粗利益、固定費、営業利益、投資額、資金繰りなどの数字による検証です。
つまり、経営とは、未来について仮説をつくり、その仮説を数字で検証し、修正し続ける活動なのです。
事業を創造する力と、事業を数字で検証する力。
この二つを経営の両輪として機能させることが、中小企業経営者にとって極めて重要です。
2、経営は、ストーリーを描いて、ヒトを組織し、カネを投資するもの
新しい事業を生み出す「卵」は、消費者の生活や企業活動の中に存在するニーズへの気づきから始まります。
経営者は、そのニーズに対して、自社がどのような解決策を提供できるのかを考えます。
そして、その解決策を商品やサービスとして具体化し、誰に、何を、どのような価格で、どのような方法によって販売するのかというビジネスモデルへ落とし込んでいきます。
ここで重要なのは、単に「良い商品をつくれば売れる」という発想で終わらせないことです。
顧客は誰なのか。
顧客は何に困っているのか。
なぜ競合ではなく自社を選ぶのか。
いくらで販売するのか。
どうやって顧客に知ってもらうのか。
一度購入した顧客が、再び購入してくれる仕組みをどのようにつくるのか。
そして、その売上から十分な利益を生み出すことができるのか。
こうした一連の因果関係を、経営者自身が言葉で明確に説明できることが、経営戦略の出発点になります。
そのビジネスモデルを実行に移すために、経営者は資金を調達し、ヒトを組織し、必要なモノや設備、システムなどを整えていきます。
カネが、ヒトや設備、商品、広告、システムなどへ姿を変え、それらが事業活動として稼働することで、商品やサービスが顧客に提供されます。
そしてマーケティング活動と営業活動によって販売が成立し、売上が生まれます。
さらに、売上から原価や経費を差し引いて利益を生み、その利益とキャッシュを次の成長投資へ回していく。
事業経営とは、この循環を継続的に回していく活動でもあります。
ただし、売上が増えているからといって、必ずしも会社に資金が残るとは限りません。
売掛金や在庫が増加したり、先行投資が膨らんだりすれば、利益が出ていても資金繰りが苦しくなる場合があります。
だからこそ、経営者の頭の中にある事業のストーリーは、単なる夢や理念で終わってはいけません。
顧客、商品、販売、組織、投資、売上、利益、キャッシュという一連の流れが、具体的な因果関係として描かれている必要があります。
そして、実際の経営環境や顧客の反応によって、そのストーリーを適宜修正していきます。
仮説を立て、実行し、結果を確認し、修正する。
この繰り返しによって、ビジネスモデルは進化し、深化していきます。
これが、経営におけるイノベーションの具体的な姿だと私は考えています。
3、ストーリーだけで突っ走る経営は、失敗の確率を高める
このように、経営戦略はストーリーから始まります。
しかし、経営者自身が描いたストーリーだけを信じて事業を走らせることには、大きな危険があります。
なぜなら、経営者が頭の中で描いた戦略は、実行するまでは、あくまでも仮説だからです。
その仮説が正しかったかどうかを判断するためには、財務数字という「算数」による検証が欠かせません。
経営者には、戦略を立案して実行に移す能力と同時に、その戦略が実際に成果を生んでいるのかを数字で検証し続ける能力が求められます。
ここで重要になるのが、税務申告のための財務会計とは別に、経営判断のために数字を見る管理会計です。
もちろん、財務会計も会社経営に不可欠です。
しかし、決算書をつくり、税務申告を行うことを主目的とした数字だけでは、日々の経営判断に必要な情報が十分に得られないことがあります。
経営者が本当に知りたいのは、会社全体の年間利益だけではありません。
どの事業が儲かっているのか。
どの商品やサービスの粗利益が高いのか。
どの部門に固定費がかかっているのか。
売上がいくらまで下がると赤字になるのか。
新規事業への投資を、どこまで許容できるのか。
売上が伸びているのに、なぜ会社に現金が残らないのか。
こうした経営上の問いに答えるためには、事業別、部門別、商品別など、自社の意思決定に必要な単位で数字を把握する必要があります。
私は、自分が経営する会社についても、財務情報を可能な限り短いサイクルで把握できる体制を整え、その情報をもとに管理会計の視点から事業を検証しています。
重要なのは、決算が終わった後に「結果がこうなりました」と数字を見ることではありません。
経営者がまだ手を打てる段階で数字を見ることです。
想定より粗利益率が落ちている。
人件費が先行して増えている。
広告費に対する売上の伸びが弱い。
新規事業への投資額が当初の想定を超えている。
こうした兆候を早く把握できれば、価格を見直す、コストを削減する、投資速度を落とす、営業方法を変えるなど、損失が大きくなる前に軌道修正できます。
経営における数字とは、過去の成績表を見るためだけのものではありません。
未来の意思決定を変えるための道具なのです。
ストーリーをつくる「国語」と、そのストーリーを検証する「算数」を高速で往復する。
この仕組みを経営に組み込むことで、大きな失敗の可能性を抑えながら、成長のための挑戦を続けることができます。
4、ストーリーなき数字論の経営は、成長投資と組織力を弱める
一方で、数字に非常に強い経営者が陥りやすい問題もあります。
それは、売上や利益などの数字を達成すること自体が経営目的になり、会社がどこへ向かうのかというストーリーを失ってしまうことです。
もちろん、企業である以上、売上や利益を追求することは当然です。
利益を生み出せなければ、雇用を維持することも、設備投資を行うことも、新しい事業へ挑戦することもできません。
問題は、数字を追うことではありません。
数字だけを追うことです。
数字だけが経営目標になると、そこで働く社員から見れば、「なぜ、この仕事をするのか」「この会社は何を目指しているのか」が見えにくくなります。
組織で働く人は、単に数字だけで動くわけではありません。
自分たちの仕事が顧客にどのような価値を提供するのか。
会社がどこを目指しているのか。
自分の仕事がその中でどのような役割を果たしているのか。
こうした意味を理解することによって、仕事への納得感や主体性が生まれます。
経営のストーリーには、組織にこの「意味」を与える役割があります。
さらに、数字だけを見ていると、経営者が必要なリスクを取れなくなることがあります。
新規事業も、人材採用も、設備投資も、海外進出も、実行前から成功が保証されているわけではありません。
数字だけで考えれば、不確実な投資はすべて危険に見えてしまいます。
しかし、経営とは、不確実性を完全になくしてから意思決定する仕事ではありません。
リスクを把握したうえで、どこまでなら損失を許容できるのかを数字で確認し、その範囲内で将来の可能性に資金を配分する仕事です。
リスクテイクとは、無謀な賭けをすることではありません。
ストーリーによって投資する理由を明確にし、数字によって投資できる限界と撤退条件を決めることです。
だからこそ、「国語」と「算数」のどちらか一方だけでは、経営は成立しません。
ストーリーなき数字は、会社を守ることはできても、会社を大きく成長させる力を失わせることがあります。
一方、数字による裏付けのないストーリーは、大きな夢を描くことはできても、会社そのものを危険にさらす可能性があります。
経営には、この二つのバランスが必要なのです。
5、国語と算数 自分が弱い側には、強い参謀を置く
ここまで述べてきたように、経営者には、経営戦略とその実行というストーリーを描く力と、その戦略を財務数字によって検証する力の双方が求められます。
しかし、この二つは性格の異なる能力です。
新しい事業を考えることや営業、マーケティングが得意な経営者が、必ずしも財務や管理会計に強いとは限りません。
反対に、数字の管理に非常に強い経営者が、新しい市場を見つけ、顧客価値をつくり、組織を巻き込むことまで得意とは限りません。
そして、経営者がすべての能力を自分一人で高い水準まで身につける必要もありません。
重要なのは、自分が何に強く、何に弱いのかを正確に理解することです。
自分がストーリーを描くことに強いのであれば、財務や管理会計に強い人材を右腕に置けばよい。
数字には強いものの、新規事業やマーケティングが苦手なのであれば、その領域に強い参謀を置けばよい。
組織マネジメントが苦手であれば、組織づくりに強い幹部や専門家の力を借りればよいのです。
経営者の仕事は、会社のすべての実務について、その道の専門家になることではありません。
必要な情報と専門家を使いながら、会社全体について最終的な意思決定を行うことです。
私は、経営コンサルティングを行う際にも、経営者がすでに強い領域をさらに教えることより、その会社の成長を妨げている経営上のボトルネックを見つけ、それを補強することを重視しています。
経営戦略や新規事業の構想に課題がある経営者。
組織マネジメントや人材活用に課題がある経営者。
売上やマーケティングに課題がある経営者。
財務、税務、資金繰り、管理会計に課題がある経営者。
企業ごと、経営者ごとに、優先して改善すべき領域は異なります。
したがって、経営コンサルティングも、すべての企業に同じ手法を当てはめればよいというものではありません。
その会社と経営者の強みを活かしながら、弱い部分を外部の知識や人材で補強する。
そして、経営者自身が本来もっとも力を注ぐべき意思決定に集中できる状態をつくる。
これが、中小企業の経営力を高めるうえで非常に重要だと私は考えています。
自社の経営について、「戦略は描けているが、数字による検証が弱い」と感じる経営者もいるでしょう。
反対に、「数字は把握しているが、会社を次のステージへ進める戦略が描けない」と感じている経営者もいるでしょう。
重要なのは、どちらが悪いということではありません。
自社の経営において、「国語」と「算数」のどちらにボトルネックがあるのかを見極め、そこを補強することです。
それが、経営者一人の能力に依存しすぎない、強い経営体制をつくる第一歩になります。
経営戦略は描けているが、数字による検証に不安がある。
数字は把握しているが、次の成長戦略を描き切れていない。
売上は伸びているのに、利益やキャッシュが思うように残らない。
新規事業や人材、設備へ、どこまで投資してよいのか判断できない。
もし、このような経営課題を感じているのであれば、まず、自社の経営における「国語」と「算数」のどこにボトルネックがあるのかを整理することが重要です。
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングでは、経営戦略、事業構想、組織、マーケティング、財務、管理会計などを横断的に捉え、経営者ごとに異なる課題を整理し、計画だけではなく実行と検証まで支援しています。
自社が次に解決すべき経営課題を整理したい経営者の方は、以下のコンサルティングページで、対象となる経営者、支援内容、進め方をご確認ください。
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティング
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