自社の企業価値はいくら?中小企業経営者が今から始める企業価値向上とM&A戦略

松本尚典

松本尚典

テーマ:M&A やり方


会社を売ると決めてから、初めて企業価値を考えるのでは遅い


中小企業のオーナー経営者の方とお話をしていると、「自分の会社が、いま売ったらいくらになるのか分からない。」という方は、決して珍しくありません。

毎月の売上は知っている。利益も分かる。銀行借入も把握している。

しかし、「この会社そのものには、いまどの程度の価値があるのか?」と聞かれると、答えられない。

これでは、少しもったいないと僕は思います。なぜなら、自社の企業価値を考えることは、会社を売却するためだけに行うものではないからです。

企業価値を考えることで、
何が会社の強みなのか。何が会社の弱みなのか。どこへ投資すれば価値が高まるのか。どの事業から撤退すべきなのか。どの程度の借入が適切なのか。人材・組織をどう整えるべきなのか。
が見えてきます。

企業価値とは、「会社を売るときだけ見る数字」ではありません。会社を強くするために、経営者が継続して意識すべき経営指標の一つです。

決算を「税金を計算するだけの作業」にしてはいけない


オーナー経営者一人が株主である会社では、

決算=法人税・消費税を申告するための作業

になっているケースがあります。

税理士から決算書が届き、税額を確認し、納税する。そして翌期へ進む。

もちろん、税務申告は重要です。適法な範囲で税負担を最適化することも、経営上当然のことです。

しかし、「税金を減らすこと」そのものが経営目的になってしまうと、別の問題が起きます。

例えば、税金を減らすためだけに、不要な経費を使う。利益を残さないことを優先する。必要な利益水準まで否定してしまう。

こうした経営を続ければ、会社に残るキャッシュ、純資産、自己資本、将来への投資余力が弱くなる可能性があります。

経費100万円を使えば、100万円の税金が減るわけではありません。一方で、経費を使った分だけ、会社から現金も出ていきます。

したがって経営者が考えるべきなのは、

「いかに税金を払わないか」ではなく、「必要な納税を行った後にも、会社へ利益とキャッシュを残し、それを次の成長へどう再投資するか」


です。

利益を残すことは、企業価値を高める経営の第一歩


経営者は、税金を少なくする、という目先の行動を改め、企業価値を積み上げるという目標に会社経営の中長期的な目標を置き換える必要があります。継続的に利益を出せる、自己資本が厚い、キャッシュを生み出せる、財務基盤が安定している、という会社は、金融機関、投資家、M&Aの買主候補から評価されやすくなります。

会社自身にとっても、新規事業、人材採用、設備、IT、広告、海外展開、M&Aなどへ投資する選択肢が増えます。経営者の、将来の選択肢を増やします。

「企業価値」「株式価値」「M&Aの売却価格」は同じではない


ここは、経営者がぜひ理解しておきたいところです。

一般的な会話では、「この会社はいくらですか?」を、すべて企業価値と呼んでしまうことがあります。

しかし、M&Aの実務では、企業・事業そのものの価値、株主に帰属する株式価値、最終的に交渉で決まる譲渡価格、は、同じではありません。

例えば会社が、非常に高い収益力を持っていたとしても、多額の有利子負債を抱えていれば、株主が受け取る株式価値には、その負債が影響します。

反対に、余剰現預金を多く持っている場合には、その扱いが株式価値へ影響することがあります。

さらに実際のM&Aでは、買主がどの程度シナジーを期待しているか、他に買主候補がいるか、デューデリジェンスで何が見つかったか、経営者保証をどうするか、役員退職金をどう設計するか、譲渡条件をどうするか、という定性的な要因によっても、最終条件は変わります。

つまり、「企業価値を算定したら、その金額で会社が売れる」というものではありません。価値算定は、価格交渉を考えるための重要な基礎資料です。

赤字会社でも企業価値が認められることはある。ただし、赤字なら何でもよいわけではない


企業価値は、今期が黒字か赤字か、だけで決まるわけではありません。

例えば、新しい市場へ進出するため、人材、研究開発、店舗、システム、マーケティングへ大きな先行投資をしている会社では、現在は赤字でも、将来、大きな利益・キャッシュを生み出す可能性があると評価される場合があります。

しかし、「成長企業だから赤字でも企業価値が高い」という単純な話ではありません。

重要なのは、なぜ赤字なのか、いつ黒字化するのか、その根拠は何か、どの程度の市場があるのか、本当に競争優位があるのか、資金が黒字化まで持つのか、です。つまり、将来の収益力を合理的に説明できる赤字と、単に儲かっていない赤字は、まったく違います。

借入金は悪ではない。しかし、借入は株式価値と経営リスクに影響する


借入金についても同様です。「借金のない会社が一番価値が高い。」とは限りません。借入を使って、設備投資、新店舗、M&A、人材投資、新規事業を行い、それ以上の収益を生み出せるのであれば、借入は有効な経営手段です。

しかし、借入金が多くても企業価値には関係ないわけではありません。利払い、元本返済、財務リスク、資金繰りなどに影響します。また、企業・事業全体の価値が高くても、有利子負債が多ければ、株主に帰属する価値が小さくなる場合があります。

したがって、

借入はいくらあるかではなく、

・その借入によって何を生み出しているか。

・返済能力は十分か。

・財務リスクに見合うリターンがあるか。


を経営者は考える必要があります。

企業価値は、どのように算定するのか?


企業価値評価には、一般的に大きく3つのアプローチがあります。

① コスト・アプローチ


会社が現在持っている、資産、負債、純資産、などに着目する方法です。

例えば、簿価純資産を基礎にする、資産・負債を時価に修正する、といった方法があります。

中小企業では、財務諸表を基礎に検討できるため、非常に分かりやすい方法です。

ただし、将来非常に大きく成長する会社でも、現在保有している純資産が少なければ、その将来性を十分に評価できないことがあります。

② マーケット・アプローチ


類似企業、類似するM&A取引に対して市場で付いている価格などを基礎に、自社の価値を考える方法です。

上場企業であれば、株価、売上、EBITDA、利益などの情報が公開されています。中小企業の場合でも、類似企業・類似取引の情報を利用して評価することがあります。

ただし、完全に同じ会社は存在しません。

事業規模、成長性、顧客構成、収益性、地域、経営リスクなどを調整しながら考える必要があります。

③ インカム・アプローチ


その会社が将来生み出すと予想される、利益、キャッシュ・フローを基礎に価値を考える方法です。

代表的なものにDCF法があります。

現在の純資産が少なくても、今後大きなキャッシュ・フローを生む可能性が高い事業であれば、その将来性を価値へ反映できます。

一方で、将来売上、利益率、成長率、投資額、割引率などの前提条件によって、算定結果が大きく変わります。したがって、企業価値評価に「絶対に正しい一つの価格」があるわけではありません。

複数の方法や前提条件を比較しながら、合理的な価値の範囲を検討していきます。

「のれん」は、会社の隠れた資産を考える重要なヒントになる


中小企業のオーナー経営者に、ぜひ意識していただきたいものがあります。それが、財務諸表には十分に表れない企業の強みです。

例えば、ブランド、顧客基盤、継続契約、販売網、ノウハウ、技術、知的財産、許認可、優秀な人材、取引先との関係、地域での信用、業務システムなどです。

M&Aにおける買収価格が、買収対象となる純資産の価値を上回る場合、その差額が会計上「のれん」として認識されることがあります。

ただし、

ブランド価値=そのままのれん

という単純な話ではありません。

買主が支払う価格には、将来収益、競争優位、シナジー、交渉条件など、さまざまな要素が反映されます。

経営者にとって重要なのは、「貸借対照表には載っていないが、買主から見ればおカネを払う理由になるものは何か?」と考えることです。

買主が高く評価するのは、「社長自身」ではなく「会社に残る仕組み」


ここは、中小企業の企業価値向上で極めて重要です。

例えば、社長自身が非常に優秀な営業マンで、社長一人で年間3億円売っている会社があったとします。その会社を買収した後、社長が退任した瞬間に売上が半減するのであれば、買主には大きなリスクです。

一方、営業組織、顧客データ、営業マニュアル、継続契約、管理職、CRM、ブランドによって、社長がいなくても売上が維持できる会社なら、買主から見た事業の再現性は高くなります。

これは前の記事で取り上げた、「社長依存経営からの脱却」とも直結しています。

企業価値を高めるということは、「社長をもっと優秀にすること」だけではありません。社長個人の能力を、会社の仕組み・組織・顧客基盤へ移していくことです。

中小企業が企業価値を高める7つのポイント


では、M&Aをまだ予定していない会社は、何をすればよいのでしょうか。

私は、少なくとも次の7つを確認することをおすすめします。

① 継続的に利益・キャッシュを生み出す


一時的な売上ではなく、持続的に粗利益・営業利益・キャッシュを生み出せる構造を作ります。

② 特定顧客への依存度を下げる


一社が売上の大部分を占めている会社は、その顧客を失ったときのリスクが大きくなります。そのため顧客基盤を分散します。

③ 社長依存を下げる


営業、経営判断、顧客関係、技術、ノウハウが社長一人に集中していれば、承継リスクが高くなります。組織と仕組みへ移します。

④ 継続・反復型の収益を増やす


顧問、管理、保守、サブスクリプション、継続購入など、将来の売上・粗利益を予測しやすい構造を作ります。

もちろん、すべての業種でストック型にする必要はありません。

重要なのは、収益の再現性です。

⑤ 強い無形資産を作る


ブランド、技術、ノウハウ、データ、知的財産、販売網、人材など、競合が簡単に模倣できない経営資源を蓄積します。

⑥ 管理体制を整える


月次決算、契約書、労務管理、株主関係、知的財産、許認可、社内規程などが整理されている会社は、経営管理の透明性が高くなります。M&Aを行う場合には、これらはデューデリジェンスでも確認される重要な領域になります。

⑦ 成長余地を残す


買主が「この会社を買った後、さらに伸ばせる。」と思える会社は魅力があります。未開拓地域、新規顧客層、海外、新商品、クロスセル、DXなど、将来の成長余地を説明できることが重要です。

企業価値を知ると、M&A以外の経営戦略も見えてくる


企業価値を把握するメリットは、会社を売りやすくすることだけではありません。

例えば、自社の価値が現在3億円程度だと仮定しましょう。

5年後に5億円まで高めたいと考えれば、何を変えるべきかを逆算できます。

利益を増やす、粗利益率を改善する、顧客集中を下げる、管理職を育てる、継続収益を増やす、新規事業を育てる、海外市場へ進む、M&Aで事業を買う、という具体的な経営戦略へつながります。

企業価値向上とは、「会社を高く売るためのテクニック」ではありません。より利益を生み、より強い財務・組織・顧客基盤を持ち、将来の選択肢が多い会社をつくることです。

M&Aは、企業価値を実現する手段の一つ


企業価値を高めた後、経営者には複数の選択肢があります。

自分で経営を続ける、親族へ承継する、役員や社員へ承継する、外部資本を受け入れる、資本提携する、一部株式を譲渡する、会社全体をM&Aで譲渡する、上場を目指す。

どれが正解かは、経営者によって違います。

M&Aは、その選択肢の一つです。

M&Aとは、「会社の終活」だけではありません。

例えば、自社単独では時間のかかる成長を、他社の資本、販路、人材、技術、ブランド、海外ネットワークなどと組み合わせることで加速させるための成長戦略として使うこともできます。

この考え方は、僕たちURVグローバルグループが「成長企業M&A」で重視している考え方でもあります。

会社を売る直前の企業価値対策では遅い


「5年後に会社を売りたい。」と経営者が考えた場合、5年間あれば、できることはたくさんあります。

社長依存を下げる。

管理職を育てる。

顧客を分散する。

不採算事業を整理する。

利益率を上げる。

継続収益を増やす。

契約関係を整理する。

財務内容を改善する。

新しい成長事業を育てる。

一方、

「来月から会社を売りたい。」

となれば、できることは限られます。M&Aで高く評価される会社をつくる最良のタイミングは、「売ろうと思ったとき」ではありません。まだ売る必要がない、会社が成長しているときです。

「自社はいくらか?」を、毎年考えてみる


私は、オーナー経営者として、決算のたびに「自分の会社はいま、どのくらいの価値があるのか?」という視点を持って、年に一度は会社を客観亭に評価するようにしています。

もちろん、毎年、正式な株価算定書を作成する必要はありません。

しかし、

利益は増えたか。

キャッシュ創出力は高まったか。

顧客集中は改善したか。

社長依存は下がったか。

継続収益は増えたか。

管理職は育ったか。

新しい強みは増えたか。

将来の成長余地は広がったか。

を確認する。

これらを問い直すのです。

「今年の経営によって、会社そのものは強くなったのか?」を見ることができます。

売上だけを増やす経営から、企業価値を積み上げる経営へ変えていくのです。

年商1億円から5億円へ進む経営者ほど、「売上」だけでなく「企業価値」を見る


年商数千万円の段階では、まず売上を作る、利益を出す、ということが重要です。

しかし、年商1億円、その先の5億円へ向かうほど、売上高だけでは会社の強さを測れなくなります。

同じ年商3億円でも、社長一人に売上が依存する会社、顧客1社に売上が依存する会社、薄利の会社と、管理職が育っている、顧客が分散している、高い粗利益がある、継続収益がある、新規事業が育っている会社では、経営の強さが違います。

年商5億円を目指す経営者が見るべきなのは、「今年いくら売るか」だけではありません。「この1年の経営によって、会社そのものの価値がどれだけ上がるか」です。

企業価値向上とM&Aを、会社の成長戦略として考えたい経営者の方へ


「自社が現在いくらぐらいの価値なのか知りたい」

「将来M&Aを検討しているが、今から何を改善すればよいか分からない」

「事業承継目的ではなく、会社をさらに成長させるために資本提携を検討したい」

「社長依存や特定顧客依存を改善し、買主から評価される会社へ変えたい」

「買収によって自社の成長を加速させたい」

「数年後の選択肢としてM&Aを持てる会社にしたい」

こうした課題は、

会社を売る段階になって初めて考えるものではありません。

URVグローバルグループの成長企業M&A

会社の「終活」としてのM&Aだけではなく、成長企業と投資企業をM&A・資本提携・事業提携によって結び、企業価値の向上と次の成長を目指します。

成長企業側のM&A準備、企業価値向上、資本提携から、投資企業側の買収支援、M&A後のPMIまで支援します。

https://urv-group.com/services/consulting/growing-manda/


年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング

年商3000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、2026年3月期・グループ総売上高48億円の企業グループを経営する現役オーナーCEOである松本尚典が、企業価値向上、新規事業、組織、財務、マーケティング、M&A・資本提携を含め、経営判断と実行に継続して伴走します。

https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/service1/5002501/

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松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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