飲食店 海外進出入門講座 Vol.3 どの経済圏・国に進出するか?

松本尚典

松本尚典

テーマ:海外進出 コンサル


海外に飲食店を進出させることを目指す場合、では、どこに進出の針路を向ければよいでしょうか?

Vol.3では、戦略の5W1Hの中の、”Where?“を決める判断要素について発信してゆきたいと思います。

世界の経済圏は、3つに分かれる


飲食事業の進出に限らず、グローバル事業の”Where?“の戦略を考える場合、まず、21世紀の今、世界は、大きく3つの経済圏に分かれているということを理解することからスタートしなければなりません。

Eria1 先進国エリア


まず、海外進出という言葉で、一番わかりやすい進出エリアは、先進国エリアです。

日本からの先進国進出エリアは、欧米諸国にオーストラリア・カナダを加えた国々がターゲットとなります。先進国諸国は、法制度も安定し、日本との政治的な関係も概ね良好です。したがって、海外進出時のリスクは最も低いエリアといえます。

しかし、先進国エリアへの進出には、圧倒的にコストがかかります。会社を設立し、不動産を賃貸するといったコストが大きくかかります。そして運転資金で最も大きなコストが人件費です。加えて、資金力の巨大なローカル企業が軒を連ね、更に世界の強豪企業が軒並み進出をしてきています。競合戦は、非常に激しいのが先進国エリアです。

加えて、アメリカ合衆国を除く先進国は、いずれも、高齢化と人口減少の問題を抱えています。

莫大なイニシャル投資と、運転資金がかかると同時に、競合戦は非常に激しく、一方で将来のマーケットは縮小に入っているのが先進国マーケットです。

したがって、先進国マーケットへの進出というのは、資金力に乏しく、グローバルブランドに弱い中小企業が採るべき戦略ではありません。

日本で勝って、上場を果たした企業が打って出るエリアが、先進国です。

Eria2 権威主義国エリア


一方、先進国エリアに対するアンチエリアが権威主義国エリアです。
その代表選手は、中国とロシアでしょう。

2025年現在、ロシアはウクライナ侵攻で、経済制裁を受ける戦時下であるため、ロシアに飲食業で進出を検討する日本企業は皆無でしょう。

一方で、中国(ここでいう中国には、香港を含むチャイナ・香港のことを指します)は、1990年代から2010年代にかけて、日本企業の製造業の海外進出の代表エリアでした。

現在でも、多くの日本企業が中国に進出しています。

しかし、僕は、飲食事業においては、香港を含む中国は、日本の進出先としては、非常に難易度が高く、リスクが大きいと考えており、お勧めしません。

最大の理由は、日本の食材輸出の難しさと不安定さ、そして安全保障上のハイリスクのためです。

中国は、牛肉をはじめ、多くの魚介類の日本からの輸入ができません。和牛については、中国の商社が盛んに日本の和牛生産者や、URVグローバルグループをはじめとする食品輸出商社に、和牛のビジネスを申し入れてきています。しかし、実際は、日本の和牛を中国に輸出ができるような状態には、ほど遠いいというのが実情です。

仮に、現在、貿易が動いている食材も、安全保障上の理由でそれがとまる可能性が充分あります。

中国国内の食材は、非常にリスクが高く、しかも、日系の中小企業が中国内で食材を買い付けることは、先払いに対する正常な商品が納品されるとは限りません。

中国は、世界第二位の経済大国ですが、その実情は、発展途上国であり、かつ、国家や一党独裁状態にある中国共産党の意向次第の、非常に不安定な国だと言わなければなりません。

URVグローバルグループも、香港と上海・丹東の3都市に事業を展開していますが、僕は、飲食事業を中国に展開するつもりは、全くありません。

Eria3 第三国エリア


さて、先進国への進出にはコストがかかりすぎ、一方で権威主義国への進出リスクが高すぎるということで、注目をされるのが、第三国エリアです。

この第三国は、先進国と権威主義国が地球の北に集まっているのに対して、かつては発展途上国といわれて南北問題で負のエリアとレッテルを張られた、グローバルサウスの国々です。

政治体制的には、先進国のような自由民主主義が浸透した体制とはいえず、さりとて、中国やロシアのような独裁的権威主義の体制ともいえない、中間的な体制の国が多く、経済的には、急速な経済成長をはじめたばかりの新興国が多数あります。

僕は、アフターコロナでは、URVグローバルグループの進出エリアを、このグローバルサウスに絞っています。

飲食事業では、一次産業の野菜工場ビジネスをインドに展開して、今、サウジアラビアに進出を開始しました。そして、飲食店事業を、ベトナムに展開し、2026年には、はじめてフィリピンに店舗を開店します。

僕自身は、このグローバルサウスと呼ばれる第三国に自分の事業を絞って、進出を続けています。

先進国で実力を磨き、第三国へ進出するのが、僕のお薦め


長年、多くの日本企業の、様々な海外進出案件を支援してきた僕は、海外進出で成功する企業は、「先進国(日本を含む)で商品やサービスの実力を磨き、その実績をもって、第三国へ進出する」というパターンだと確信しています。

一方で失敗する企業は、「先進国(日本を含む)で成功できない、またはなんの実績もないのに、第三国に行けば何とかなる」という安易な方法をとるパターンです。

先進国は、消費者の目も厳しく、競合戦も凄まじいものです。商品を出しても、そのライフサイクルは短く、成功をしても長続きをしません。それを見越して、先進国で一定の成功を収めた段階で、第三国に目を向けて、先進国でも成熟段階における収益を進出のための投資に向けるという考え方が、最も成功するパターンです。

第三国は、マーケットのポテンシャルが大きく、競合が極めて少ないという特徴があります。したがって、先進国よりも、商品ライフサイクルが長く、収益の回収を長期で見込むことができます。

第三国のどこをターゲティングするか? 進出国を絞る5つの視点


では、先進国で実力を磨いた商品サービスを、第三国のどのエリアで展開すればよいのでしょうか?

進出国を絞る、僕なりの5つの視点をあげたいと思います。

視点1 日本との距離 近すぎても遠すぎてもNG!


進出にとって、一番初めに検討すべきは、日本との距離です。未来にわたって、強い成長を見込めるからといって、日本から非常に遠方の国に進出すると、非常に高いコストがかかります。

海外進出の初期段階では、市場調査やマーケティングで、日本から担当者や責任者が頻繁に出張をせざるをえません。その航空機代は、遠方であればあるだけ、コストがかかります。つまり、遠方の国に進出をすればするほど、コストがかかります。

したがって、資金力や人的な資源が豊富でない企業がはじめから、遠方の国に進出を決めるのは、非常に考えものです。

では、近い国であればあるほどよいかというと、そうでもありません。

近い隣国というのは、世界中、どこでも、歴史的な問題をかかえています。日本でいえば、韓国や中華人民共和国がその典型です。日本だけではありません。

中東におけるイスラエルと、アラブ諸国。
ロシアと、東欧諸国。
インドと、パキスタン。
イギリスと、欧州諸国。
いずれも、隣国同志というのは、長い歴史の中における複雑な関係にあります。

日本企業が、近いからといって、韓国や中華人民共和国に安易に進出をしたり、そこからのインバウンドに絞った事業を展開すれば、それは、政治的な波紋で事業に影響を受けるリスクが高まります。

海外進出では、近すぎもせず、遠すぎもしない、というエリアを最初に選ぶことが肝要です。

視点2 今後30年の成長率予測 国民の消費性向は成長率に比例する


「今、トレンドは●●」
「他の企業が行っている事業を真似てビジネスを創る」
「今年の流行りは、○○」

海外進出で、中小企業がこのような発想をとることは、大きな失敗のもとになります。

トレンドや、他の企業の成功しているビジネスモデルは、商品ライフサイクル上の成熟期にあることを意味します。

トレンドや模倣戦略で勝てるのは、短期間に莫大な投資を行って、高いブランド名を利用して短期間で勝ちぬけることができる大企業やブランディングが出来上がった企業の戦略です。

資本力と、ナショナルブランド力に乏しい中小企業は、トレンド追随や模倣戦略では、勝てません。

中小企業が勝てるのは、小さく産んで、長期に利益を投資に変えながら、大きく育てるアーリーステージの商品ライフサイクルにかける戦略です。

そこで、進出先として考えるべきは、
「今後、30年間、このマーケットは成長し続けるポテンシャルがあるか?」
ということです。

視点3 言語と国民性


AIが発展し、ビジネス上の通訳や翻訳では、言語の壁は低くなってきております。とはいえ、進出したエリアの言語を使って、直接会話ができるエリアかどうかは、非常に重要なビジネス上の検討事項になります。

例えば、英語が公用語であるシンガポールや、インドでも、そこでの英語は、日本人が学校で学んでいるアメリカ東海岸の米語とは、かなり異なっています。これらのエリアで話されている英語は、日本で、TOEICのハイスコアーを持っているヒトでも、かなり聞き取りにくいことも多いです。

ましてや、南米のように、ポルトガル語やスペイン語が話されているエリアの場合、それらの言語に精通している社員や通訳が社内のチームにいるかどうかで、進出の難易度は大きく変わってきます。

また、広大な中国では、北京で話されている北京口語と、福建や内陸部のエリアの方言では、全く異なる言語だと思ったほうがよいため、日本で学んだマンダリンと呼ばれる中国語では、全く、現地の言語は聞き取れません。

自社の人的資源の言語能力により、進出エリアを選ぶことも重要になります。

視点4 治安と政治的安定性


先進国・新興国問わず、治安は、進出エリア選定で重要な要素です。
例えば、アメリカ合衆国のニューヨークのマンハッタン島でも、夜になると治安が悪いエリアはたくさんありますし、一方、世界で最も治安が悪い都市のひとつと言われるフィリピンのマニラでも、警察と民間警備会社によって、厳重に守られた治安のよい街はあります。

また、中華人民共和国や、韓国のように、一次的に日本との関係が良好でも、相互の政権の状態によって、瞬時に関係が悪くなる国もあります。

このようなことは、進出検討時点で、現地の視察を行い、現地の人たちのリアルな情報を収集し、しっかりと、事前に検討をすることが大切です。

視点5 国で選ぶな! 都市で選べ!


海外進出のエリアは、国で選ぶのではなく、都市で選別しなければなりません。

例えば、アメリカ合衆国では、東海岸のニューヨークと、北のシカゴ、南部のヒューストン、西部のロサンゼルスは、全く別のマーケティングエリアです。

インドに至っては、州の間にモノを動かす関税があり、自由に国内で州の間でモノを動かすこともできません。

ベトナムでは、ホーチミンシティと、ハノイでは全く別の経済圏で、ハノイの北部は、ベトナムではなく、中華経済圏でベトナムドンよりも、人民元のほうが支払い手段として機能しています。

このように、海外では、国ではなく、都市ごとに経済圏が異なっており、日本のように、東京と大阪で、全く同じ通貨や経済体制が通用している国は、むしろめずらしいのです。

ターゲットを絞ったら、必ず実際に「一人で」行ってみる


海外進出では、ターゲットを国内で収集できる情報を基礎に想定地を絞ったら、必ず「一人」で現地に行って視察をすることをお勧めします。

よく、海外視察を、社内の数名のチームで行く企業がありますが、あれは、経費の無駄と有害の二重の弊害がある行為だと僕は思っています。

数人でいくと、ヒトは、必ず、仲間と食事をし、仲間とおしゃべりをし、しかも、仲間に配慮します。

現地視察では、自分が感じるマーケットの雰囲気を一人で感じることを重視しましょう。食事やお話をするべきなのでは、日本から一緒に行った仲間ではなく、現地にいる日本人やローカルの人たちです。

現地で聞き取った情報をもとに、気になったところには、予定を変更してもゆくべきなのです。

僕の場合、現地では、出来る限り車に乗らずに、歩き回ります。

クルマで走行してしまう場合、スピードが速くて見過ごしてしまうものが多く、徒歩の様に立ち留まれません。

一人では、ココロ細いという方は、現地で現地案内をしてくれる通訳を手配するとよいと思います。日本人通訳も、世界ではたくさん活動しており、彼らを、毎日別のヒトに変更して案内をしてもらうことで、現地のリアルな情報を掴むことができます。また、良い通訳の方には、その後のリサーチをお手伝いしてもらうことも可能です。

ちなみに、海外への渡航の手配や、安全で目的に応じたホテルの選定、現地の案内通訳の紹介などは、URVグローバルグループの海外渡航総合サービス事業のサービスもご活用ください。

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松本尚典(経営コンサルタント)

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