【風俗トラブル】「被害届を出す」と言われた風俗トラブルで使う示談書の骨子|入れておきたい条項と注意点

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店を利用した後に、キャストや店から「被害届を出す」と告げられ、示談の話が進み始めることがあります。話がまとまりそうな段階になると、次に気になるのは「どのような示談書を交わせば、この件が終わったといえるのか」という点ではないでしょうか。この記事では、被害届が話題に出ている場面に絞って、示談書の骨子と、入れておきたい条項、入れる際に注意したい点を整理します。

この記事は、2023年の刑法改正(不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の新設)と性的姿態撮影等処罰法の施行を踏まえて書いています。示談書の文言は事案ごとに調整が必要なため、ここで示すのは考え方の骨子であり、そのまま使える書式ではありません。


被害届が話題に出ている場面で示談書が担う役割

 示談書は、当事者どうしの民事上の合意を書面にしたものです。お金の支払いと引き換えに、相手方に被害届を出さないこと、あるいは出した被害届を取り下げることを約束してもらうことはできますが、その約束によって警察や検察の手続そのものが止まるわけではありません。
 風俗の場面で問題にされやすい不同意わいせつ罪・不同意性交等罪や、性的姿態撮影等処罰法の撮影罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる罪です。そのため、示談書が果たす役割は「手続を法的に止めること」ではなく、被害を訴えていた側が処罰を求めていないという意思を、書面として残すことにあります。検察官が処分を決める際には、被害者との示談の有無や被害者の意思が考慮される事情の一つとなり、示談の成立が不起訴の判断につながることもあります。
 この役割から逆算すると、示談書に何を書くべきかが見えてきます。誰が、どの出来事について、何を約束したのかが、後から第三者である警察官や検察官が読んでも分かる書面にしておくことが大切です。示談書に一般的に入れる条項については、風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないでも解説していますので、あわせてご覧ください。

示談書の骨子|全体の構成

 被害届が話題に出ている場面では、次のような構成が基本になります。

条項書く内容この場面での注意点
当事者の表示キャスト本人・店・利用者被害を訴える本人を当事者に入れる
対象となる出来事日時・場所・店名特定はするが、評価的な表現は避ける
解決金金額・支払期日・支払方法名目は「解決金」とすることが多い
被害届の扱い提出しない・取り下げる提出済みかどうかで書き方が変わる
宥恕処罰を求めない意思捜査機関への提出の了承とセットで
清算本件に関する債権債務がないことの確認店とキャストの双方を含める
口外禁止・接触禁止家族・勤務先への連絡をしないこと等双方向で定めることもある
個人情報の扱い身分証の写し等の返還・削除対象となる資料を特定する
作成部数・日付当事者の数だけ原本を作る署名は本人の自署で


 以下では、この場面で特に結果を左右しやすい条項から順に見ていきます。

被害届の場面で特に押さえたい条項


当事者の表示|キャスト本人に加わってもらう

 被害届を出すのは、被害を受けたとされるキャスト本人です。店が「店としては許す」と約束しても、キャスト本人がその合意に加わっていなければ、本人が後から被害届を出すことを止める根拠にはなりにくいといえます。示談書には、キャスト本人に当事者として署名してもらうことが基本です。店も損害を主張しているときは、店(経営者や運営会社)も当事者に加えて三者の合意にしておくと、後から別の名目で請求される余地を狭められます。
 キャスト本人の署名が源氏名だけだと、誰との合意なのかが後で争いになることがあります。本名での署名を求めるのが原則ですが、相手方が本名を知られることを望まない場面も多く、弁護士を通じて本人確認をしたうえで書面を整えるといった工夫をすることがあります。支払った相手が別人だったという事態を避ける考え方は、【風俗トラブル】支払った後に相手が別人だと分かった|本人確認をしない示談の危うさで扱っています。
 なお、店の従業員がキャストに代わって示談交渉や示談金の受け取りをすることは、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたる可能性が指摘されており、店長らが弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられた例もあります。交渉の窓口が店であっても、合意の当事者がキャスト本人であることは、書面上で明確にしておきたいところです。

被害届に関する条項|提出前か提出後かで書き分ける

 まだ被害届が出ていない段階であれば、「本件について、被害届の提出、告訴その他の刑事上の申告をしない」と約束してもらう形が基本です。すでに被害届が出ている場合は、「受理された被害届を速やかに取り下げる手続をとる」と定め、取下書の提出までを具体的に約束してもらうことになります。
 「被害届を出した」と言われていても、実際には出ていないこともあります。提出の有無がはっきりしないときは、どちらの場合にも対応できる書き方にしておくと、後で条項の解釈が問題になりにくくなります。ただし、被害届が取り下げられても、警察や検察が捜査を続けることはあり得ます。この点は【風俗トラブル】示談金を払ったのに被害届を出された|合意の効果と刑事手続でも解説しています。

宥恕の条項|「処罰を求めない」意思を書く

 宥恕(ゆうじょ)とは、被害を訴えていた側が相手を許し、処罰を求めないという意思のことです。示談書には「乙は甲を許し、甲に対する刑事処罰を求めない」といった文言を入れるのが一般的です。
 あわせて、「本示談書の写しを捜査機関に提出することを異議なく了承する」という条項も入れておきます。示談の成立を捜査機関に伝える必要が生じたときに、相手方の了承を改めて取り直す手間が省けます。宥恕の文言がなく金銭の支払いだけを定めた示談書では、刑事手続の場面で示談の意味が十分に伝わらないことがあります。

対象となる出来事の書き方|認める範囲を広げすぎない

 示談書には、どの出来事についての合意なのかを特定するため、日時・場所・店名などを書きます。一方で、店側が用意した書面には「本番行為を強要した」「盗撮をした」など、事実の評価まで踏み込んだ文言が入っていることがあります。示談書は、後に捜査機関の目に触れることもある書面です。事実関係に争いがある場合は、「令和○年○月○日に○○(店名)において発生した件(以下「本件」という。)」のように出来事を特定する書き方にとどめ、行為の評価に関する記載は慎重に検討します。
 反対に、出来事の特定があいまいすぎると、清算条項がどこまで及ぶのかが後で争いになります。特定の仕方と、どこまで認めるかの線引きは、事案ごとに調整が必要な部分です。

清算条項|店とキャストの双方を含める

 清算条項は、「本件に関し、本示談書に定めるもののほか、当事者間に何らの債権債務もないことを相互に確認する」という条項です。被害届の場面では、キャスト本人と店の双方がこの確認に加わっているかを確かめます。キャストとの間だけで清算しても、店から休業補償や営業損害などの名目で別に請求される余地が残るためです。

口外禁止・接触禁止・個人情報の扱い

 家族や勤務先への連絡を心配している場合は、「本件を第三者に口外しない」「甲の家族・勤務先に連絡しない」といった条項を入れます。その場で撮影された身分証の写しや名刺、書かされた念書などがある場合は、返還または削除を約束する条項も検討します。返還・削除の対象となる資料を具体的に書いておくと、約束が守られたかを確かめやすくなります。

入れるときに注意したい条項と手続


違約金の定め

 口外禁止などに違反した場合の違約金を定めることがあります。違約金は相手方の違反を抑える効果が期待できる一方で、利用者側にだけ高額な違約金が課される形になっていると、自分に不利に働くことがあります。違約金を定めるときは、双方に同じ条件をかけるのか、金額が過大になっていないかを確認します。

分割払いにする場合

 分割払いにする場合は、各回の支払期日と金額を明記し、支払いが遅れたときの扱い(期限の利益の喪失)も定めます。宥恕や被害届の取下げを「全額の支払い完了後」とするのか「示談書の作成時」とするのかは、相手方との間で意見が分かれやすい点です。分割払いの注意点は【風俗トラブル】分割払いの示談に応じる場合|風俗トラブル固有の注意点にまとめています。

支払いと署名の順序・原本の保管

 お金を先に渡して書面は後日、という進め方では、支払った後に示談書の作成を拒まれるおそれがあります。署名と支払いを同じ機会に行う、振込の場合は署名済みの示談書を受け取ってから振り込むなど、順序を決めておきます。支払ったことは領収書や受領書で残してもらいます。示談書の原本は当事者の数だけ作成し、各自が1通ずつ保管するのが基本です。

その場で示談書への署名を求められたとき

 「今ここで署名すれば被害届は出さない」と言われ、店の事務所などでその場で書面への署名を求められることがあります。内容を確認する時間がないまま署名すると、高額な金額や、事実関係を広く認める文言が書面に残ってしまうことがあります。可能であれば、署名せずに持ち帰って内容を確認したいと伝えるのが望ましい対応です。
 すでに署名してしまった場合でも、書面の内容や署名に至った経緯によっては、効力を争ったり条項を見直したりできることがあります。実際の対応の例は【解決事例】その場で400万円の示談書に署名してしまった|示談書の効力を争い解決した事例でも紹介しています。

弁護士を通じて示談書を作る意味

 弁護士が代理人として示談を進める場合、相手方と直接会わずに交渉でき、キャスト本人の意思確認や本人確認も代理人を通じて行えます。示談書の文言も、被害届・宥恕・清算・個人情報の扱いといった条項を事案に合わせて整えたうえで交わすことができます。相手方から示談書の案が示されている段階であれば、その案を確認するだけでも、署名前に見直したい点が見えてくることがあります。

関連する解説記事



 「被害届を出す」と言われた場面の示談書は、金額だけでなく、誰が当事者になり、被害届と処罰についてどのような意思を残すかによって、その後の手続への影響が変わります。署名する前に、ここで挙げた条項がそろっているかを一つずつ確かめてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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