【風俗トラブル】『店を通さずに会おう』と持ちかけられた|裏引きの当事者になる危険

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「店を通さずに会えば、その分だけ安くできる」と言われて連絡先を交換した。しばらくして店から電話があり、規約違反だとして金額を告げられた。あるいは関係がこじれたあとで、相手から「店に伝える」と言われている。当事務所には、こうした経緯でご相談に来られる方がいらっしゃいます。

 業界では、店を通さずに客と会って金銭を受け取る行為が「裏引き」「直引き」と呼ばれています。検索して出てくる説明の多くは、働く側や店の運営者に向けたもので、罰金や解雇といった話が中心です。それ自体が誤っているわけではありませんが、持ちかけられた側、つまり客の立場から何がどう変わるのかは、ほとんど書かれていません

 この記事では、店を通さない誘いを受けた方が、誰との間で、どのような立場に置かれるのかを整理します。店を介さない個人間の取引そのものの危うさ、支払ったお金の回収、相手が18歳未満だった場合の問題は、それぞれ別の解説に譲ります。裏引きをすすめる趣旨でも、責任を軽く見せる趣旨でもありません。

この記事で扱う範囲

 前提を先にお伝えします。

  • 成人同士のやり取りを前提としています。
  • 届出のある店を利用している場面を想定しています。
  • 持ちかけられた段階と、すでに会ってしまった段階の両方を扱います。
  • すでに具体的な金額を請求されている場合の反論の組み立ては、契約書の文言や経緯によって変わるため、個別にご相談ください。
  • 店に見つからないための方法や、やり取りを消す手順は書きません。


「裏引き」と呼ばれているものは何を指すのか

 裏引きは法律の言葉ではなく、業界で使われている呼び名です。店の売上を経由せず、客とキャストが直接お金をやり取りすることを広く指しています。店外で会って現金を渡す形だけでなく、店ではあまり使わずに個人的に援助する形も含めて呼ばれることがあります。

禁じられているのは、店とキャストの間の約束

 裏引きの禁止は、店とキャストが結ぶ雇用契約や業務委託契約の中に置かれているのが通常です。つまり、それは店とキャストの間の約束であって、客が当然にその約束の当事者になっているわけではありません。ここを取り違えたまま話が進むと、本来は説明を求めてよい場面で言われるままに応じてしまうことがあります。

同伴やプレゼントとの境目は店ごとに違う

 現金の授受は裏引きとされやすい一方、店を通した同伴やアフター、物品の贈与、店内での心付けは扱いが分かれます。どこからが違反かは各店のルール次第で、業界共通の線引きがあるわけではありません。「これくらいなら大丈夫だと聞いた」という説明は、別の店の話である可能性があります。

動いている関係は三つある

 混乱の多くは、三つの関係がひとまとめに語られることから生まれます。整理すると次のようになります。

関係そこにあるものトラブルになったときの相手方
客と店利用の申込みと承諾による契約。規約や誓約書があればその内容が加わる
店とキャスト雇用または業務委託の契約。裏引きの禁止はここに置かれていることが多い
客とキャスト店を通さないやり取りは、この二人だけの私的な約束にとどまる相手本人


 この三つは別々に動きます。店がキャストに違約金を求める話と、店が客に何かを求められるかという話は、根拠となるものがそれぞれ違うため、同じ結論になるとは限りません

キャストへの請求が、そのまま客への請求になるわけではない

 店がキャストに対して契約違反を主張できるとしても、その契約に署名していない客が同じ内容の義務を負うことにはなりません。客に何かを求めるのであれば、店の側が客との関係で成り立つ別の理由を示す必要があります。

 実際の場面では、店の担当者から「規約違反なので支払ってもらう」という趣旨の説明だけがされ、その義務がどこから来ているのかは語られないことがあります。この整理を持っておくと、示された金額の当否を考える前に、そもそも誰と誰の話なのかを確かめることができます。

客が当事者として扱われる二つの入り口

 では、客が何も問われない立場かというと、そう単純でもありません。入り口は大きく二つあります。

一つ目は、店との間の約束

 予約時に同意した利用規約や、来店時に署名した確認書に、キャストとの個人的な連絡先の交換や店外での接触を禁じる条項が入っていることがあります。この場合、店は客との契約を根拠に何かを求めてくることになります。もっとも、条項があればその金額がそのまま通るという話ではありません。条項ごとの効き方や、違約金の定めがどこまで働くかについては、誓約書の条項を型ごとに整理した別の解説をご覧ください。

 なお、規約がある店であっても、その内容に同意したといえるかどうかは別に検討されます。予約の画面に表示されていたのか、来店時に読む時間があったのか、署名した書面に含まれていたのかによって、扱いは変わり得ます。手元に控えが残っていない場合は、申込みの方法を思い出せる範囲で整理しておくと役に立ちます。

二つ目は、約束がなくても働きかけの中身が問われる場合

 契約上の根拠がないときでも、店から不法行為だと主張されることがあります。ここで参考になるのが、従業員の引き抜きが争われた裁判例の考え方です。裁判所は、単なる勧誘にとどまる限り違法とはいえないとしたうえで、働きかけが計画的で背信的といえる程度に達し、社会的に相当な範囲を超えていたかどうかで判断するという枠組みを示してきました。関与の程度、方法、相手の立場、生じた影響などを総合して見る考え方です。

 裏引きに引き直すと、誘いを受けて応じただけの場合と、客の側から繰り返し働きかけて店を辞めさせるところまで進めた場合とでは、評価が同じにはなりにくいということになります。「持ちかけられた側なのか、持ちかけた側なのか」は、後から振り返るときに大きな意味を持ちます。

損害があるという主張と、その額の裏づけは別

 店が金額を示してくるとき、その根拠は「本来なら店に入っていたはずの売上」であることが多いものです。しかし、その来店が実際にあったはずだと示すのは、店の側にとっても簡単ではありません。示された数字を、そのまま確定した金額として受け取る必要はなく、何をどう計算したのかを尋ねてよい場面です。

店はなくならないが、間に立つ人ではなくなる

 店を通さない個人間のやり取り一般については、間に立つ第三者がいないことが問題として語られます。ところが裏引きの場合、店という第三者は消えません。消えるのは「中立の窓口」という役割のほうです。同じ相手が、利害の対立する側として現れることになります。

店の手元に何が残っているか

 予約の際に伝えた氏名や電話番号、決済の記録、来店の履歴は、店の側に残っています。一方で、客の手元には源氏名と個人の連絡先しか残っていないことが多いものです。この差は、話し合いが始まったときの立ち位置に影響します。

発覚の経路は自分の手元にない

 やり取りの画面が第三者に渡る、関係が悪化した相手が話す、在籍している他の人から伝わるなど、発覚のきっかけは自分で管理できないところにあります。時間が経ったから終わったとは言い切れないのが、この種のトラブルの特徴です。

 実際、しばらく間が空いてから店の担当者名で連絡が入り、そこで初めて事実を知らされるという形もあります。連絡が来た時点で経緯を思い出せるよう、日付の分かるものを残しておくかどうかが、後の説明のしやすさを左右します。

渡したお金の性質が決まらないまま残る

 店を通した支払いには、料金表と決済の記録が残ります。個人的に渡した現金には、それがありません。

対価なのか、贈与なのか

 何のために渡したお金なのかが、当事者の言い分だけになります。渡した側は対価のつもりでも、受け取った側は好意による贈与だったと説明することがあります。後から性質を確定させる材料がないため、話し合いが平行線になりやすい部分です。

返してほしいと言うときに起きること

 思っていた話と違ったので返してほしい、と求める場面もあります。ただし、渡した経緯の中に法律上問題のある要素が含まれていると、その事情が自分の請求のほうにはね返り、返還を求めにくくなることがあります。渡したお金の回収については、支払った後に取り戻せるかを扱った別の解説をご覧ください。

店を通さないことで働かなくなる仕組み

 届出のある店には、年齢の確認や記録の保存について守るべき決まりがあります。これらは営業をする側に課されたものなので、店を通さない場面では、その仕組みが働きません。相手の年齢や、決めたはずの内容、その場に第三者がいたという事実が、後から確かめられなくなります。この点の詳細と、対価を伴う関係が法律上どう位置づけられるかは、それぞれ別の解説で扱っています。

立場が入れ替わりやすい場面

 裏引きをめぐるトラブルでは、双方が「知られたくないこと」を抱えます。そのため、話し合いの形が崩れやすくなります。

「店に伝える」という言葉が出たとき

 相手や店の関係者から、家族や勤務先を引き合いに出しながら金額を示されることがあります。金額と、知られたくない事柄がセットで出てくるときは、請求として妥当な範囲を超えている可能性を含みます。この見分けと対応は、請求が脅迫や恐喝にあたる境目を扱った解説に譲ります。

自分から店に伝えようとするとき

 こちらが不利益を受けたと感じて、店に事実を告げようとする場面もあります。伝えること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、伝え方や求める内容によっては、申し立てた側が責められる側に回ることがあります。相手に金銭的な不利益を生じさせる目的が前に出ると、話の性質が変わります。

持ちかけられたとき、すでに始まっているときにできること

 その場で結論を出さないことが、後の選択肢を残します。断るときは、相手を責める言い方よりも、店を通す形を選ぶという理由づけのほうが角が立ちにくく、記録にも残しやすくなります。

  1. 提案をその場で受けず、いったん持ち帰ると伝える。
  2. 提案の内容と日時を、自分の言葉で書き留めておく。
  3. 連絡手段を個人のものへ移す前に、店の窓口を残しておく。
  4. すでに会っている場合は、やり取りの記録を消さずに保存する。
  5. 現金を渡した日と金額を、思い出せる範囲で書き出しておく。
  6. 店やキャストから金額を示されたら、その根拠と計算の内訳を尋ねる。
  7. その場での署名や振込を求められても、期限を確認して持ち帰る。


 記録を消したくなる気持ちが働く場面ですが、消してしまうと、こちらの言い分を裏づけるものも同時になくなります。

よくあるご質問

店の規約を見た記憶がありません。それでも請求されますか

 規約への同意があったかどうかは、申込みの方法や画面の表示によって判断が分かれます。同意が認められない場合、店は契約とは別の理由を示す必要が出てきます。まずは、いつ、どのような方法で申し込んだのかを整理してみてください。

裏引きの相手方になると、こちらも犯罪になるのでしょうか

 店との関係で背任などが問題にされるのは、店の事務を任されている立場の人です。客はその立場にありませんので、同じ罪名がそのまま当てはまるわけではありません。もっとも、店外での行為の内容や相手の年齢によっては、別の法律の問題が生じることがあり、これは裏引きかどうかとは切り離して考える必要があります。

数年前のことを今になって言われました。今も応じる義務がありますか

 金銭の請求には時間の制限があり、いつの出来事かによって結論が変わります。ただし、その期間の数え方は、何を根拠とする請求かによって異なります。日付が分かる資料を用意したうえで、ご相談ください。

まとめ


  1. 裏引きは業界の呼び名で、法律上の用語ではない。
  2. 裏引きの禁止は店とキャストの契約に置かれており、客が当然にその当事者になるわけではない。
  3. 客が請求される入り口は、店との契約に基づくものと、民法709条の不法行為に基づくものの二つがある。
  4. 働きかけの違法性は、単なる勧誘の域を超え社会的に相当な範囲を逸脱したかという枠組みで判断されてきた。
  5. 過大な違約金の定めは、民法90条や消費者契約法10条により効力が問題になる余地がある。
  6. 渡した経緯に問題があると、民法708条の考え方によって返還を求めにくくなることがある。
  7. 店は消えないが、中立の窓口ではなくなり、情報は店の側に多く残る。
  8. 金額を示されたら、その根拠と内訳を確認したうえで持ち帰る。


店外での誘いやその後の請求でお困りの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。誘いを受けた段階でどう断るか迷っている方も、すでに店やキャストから金額を示されている方も、事情をうかがったうえで、いま何が問題になっているのかを一緒に整理します。

 ご家族や勤務先に知られたくないというお気持ちを含めて、進め方をご相談いただけます。弁護士には守秘義務がありますので、経緯をありのままにお話しください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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