【風俗トラブル】『売掛を返すために働け』と言われた|53条2項が正面から禁じた要求

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「今月の売掛、風俗で働けば来週には返せるよ」。ホストクラブやキャバクラの支払いをめぐって、こうした言葉をかけられたという相談は珍しくありません。2025年6月に施行された改正風営法は、まさにこの場面を名指しして、店の側がそうした要求をすること自体を禁じました。ここでは、何がどこまで禁じられたのか、言われた側は何をすればよいのかを、条文の組み立てに沿って整理します。

2025年の法改正で新しく加わった二つのルール

 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)は、2025年5月28日に改正法が公布され、同年6月28日に施行されました。欠格事由に関する部分だけは同年11月28日の施行です。この改正で、ホストクラブやキャバクラのように設備を設けて客を接待し、遊興や飲食をさせる営業(接待飲食営業)に向けて、性質の異なる二つのルールが加えられています。

区分条文主な内容違反したときの扱い
遵守事項18条の3料金についての虚偽・誤認させる説明/好意や恋愛感情に乗じて飲食等をさせること/注文前に提供して困惑させること指示や営業停止命令などの行政処分
禁止行為22条の2支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させること/支払等のために売春や性風俗店での勤務などを要求すること行政処分に加えて刑事罰


 いわゆる色恋営業に関するルールが前者の遵守事項で、行政処分の対象にとどまるのに対し、「売掛を返すために働け」という要求は後者の禁止行為、具体的には22条の2第2号に置かれ、刑事罰の対象とされました。両者は同じ改正で入った規定ですが、効果の重さが異なります。

22条の2第2号が禁じている「要求」の中身

 条文は、接待飲食営業を営む者は、その営業に関し、客に対し、威迫し、又は誘惑して、料金の支払等のために、客が次に掲げる行為によって金銭その他の財産を得ることを要求してはならない、という組み立てになっています。

対象とされている行為

 要求の対象として挙げられているのは、次の五つです。

  • 売春防止法その他の法令に違反する行為をすること。
  • 対償を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交類似行為等をすること。
  • ソープランドや店舗型・派遣型のヘルスなど、法律が定める性風俗関連の営業で、異性の客に接触する役務を提供する業務に従事すること。
  • 性行為映像制作物、いわゆるアダルトビデオに出演すること。
  • 外国において売春をすること。


 「風俗で働け」「立ちんぼで稼げ」「海外に行けばすぐ返せる」「撮影の仕事があるから出てみないか」といった言葉は、いずれもこの五つのどれかに向けられたものになりやすい、ということです。

「料金の支払等」は飲食代だけを指すのではない

 条文でいう「料金の支払等」には、営業に係る料金の支払だけでなく、財産上の給付や財産の預託、さらにそれらに充てるために行った借入れの返済までが含まれると定められています。
 つまり、店の外で借りたお金の返済を迫る場面も射程に入ります。「消費者金融で借りて払って」と言われた後、その返済に行き詰まった段階で「働いて返せ」と持ちかけられた、という流れは相談でよく聞かれますが、この場合も規定の外側にあるとは限りません。

「威迫」だけでなく「誘惑」も入っている

 この規定でとくに押さえておきたいのが、「威迫し、又は誘惑して」と書かれている点です。怒鳴る、囲む、退店させない、家族や職場に知らせるとほのめかすといった威迫型だけが対象なのではありません。優しい口調で持ちかける形、たとえば「体験だけでも行ってみよう」「そこなら短期間で片づくよ」「自分も一緒に考えるから」といった誘い方も、条文の文言としては誘惑に当たり得ます。
 実際の相談では、脅されたという自覚がないまま話が進んでいることが少なくありません。強い口調がなかったことは、この条文の適用を当然に否定する事情ではない、という理解が出発点になります。

実際に働かなくても、断っていても

 条文が禁じているのは「要求すること」です。したがって、要求された時点で規定に触れ得るという構造になっています。実際に働いたかどうか、店の紹介した先に足を運んだかどうか、断ったかどうかは、規定に触れるかどうかの前提条件ではありません。
 この点は、相談をためらう理由をひとつ減らします。「結局は行かなかったから、もう相談することではない」と考える必要はなく、言われた事実そのものが評価の対象になります。

罰則と処分は誰に向くのか

 22条の2に違反した場合の罰則は53条2号に置かれ、6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科とされています。罰則の柱書は「当該違反行為をした者」を処罰する形になっており、店という組織だけでなく、実際に要求した担当者個人が対象となり得る構造です。あわせて両罰規定により、法人にも罰金が科されることがあります。行政面では、公安委員会による指示や営業停止命令、許可の取消しといった処分の対象にもなります。

場面条文罰則
支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させる22条の2第1号6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)
支払等のために売春や性風俗店での勤務などを要求する22条の2第2号同上
性風俗店が求職者を紹介した者に紹介料を支払う(スカウトバック)28条13項同上
無許可で風俗営業を営む49条5年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金(法人には3億円以下の罰金)


 解説記事のなかには、改正で罰金の上限が3億円になったという説明を、売掛や色恋営業の規制と並べて書いているものがあります。3億円という金額は無許可営業などに関する法人への罰金の上限であり、22条の2の罰則そのものではありません。読むときは切り分けが必要です。
 なお、この規定が名宛人としているのは営業する側であって、要求を受けた客の側ではありません。売掛を抱えている状態そのものが処罰されるわけではない、という点は誤解されやすいところです。

重なって問題になり得る他の法律

 「働け」と言われた場面は、風営法だけで説明が終わるとは限りません。話がどこまで進んだかによって、別の法律が重なります。

  • 職業安定法63条2号。公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介や募集などを行うことを禁じており、法定刑は1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金です。具体的な店や担当者を紹介した段階で問題になり得ます。
  • 売春防止法。人を欺いたり困惑させたりして売春をさせた場合や、周旋、場所の提供、管理売春などが処罰の対象とされています。
  • 刑法。支払いを迫る過程で害を加えると告げていれば恐喝罪や脅迫罪、義務のないことを行わせていれば強要罪の検討対象になります。
  • 組織的犯罪処罰法。性風俗店へのあっせんに伴って受け取った金銭を犯罪収益と扱った裁判例があり、紹介料の受領そのものが別の角度から問題とされることがあります。


 どの条文で立件されるかは、警察と検察が事案ごとに判断します。相談の段階で読者の側が法律名を確定させる必要はなく、事実を正確に伝えられれば足ります。

それでも売掛が自動的に消えるわけではない

 ここは誤解の多いところです。風営法は営業を取り締まるための法律であり、違反があったからといって、それだけで飲食代の支払義務が当然に消えるという仕組みにはなっていません。最高裁も、取締法規に違反したことは、直ちに取引の私法上の効力を左右するものではないという考え方を示してきました。
 もっとも、これは「支払わなければならない」で話が終わるという意味でもありません。要求の経緯や店の言動は、民事の場面では評価の材料になります。恋愛感情に乗じた勧誘であれば消費者契約法の取消し、強迫があれば民法96条の取消し、内容や方法があまりに度を越えていれば民法90条の公序良俗違反といった構成が検討されます。金額の争い方や時効の考え方は別の記事で扱っているため、ここでは「刑事・行政の話と、支払義務の話は、別の線路を走る」という点だけを押さえてください。

言われたときにしておきたいこと


残しておく記録

 後から事実を説明するとき、記憶よりも記録が働きます。負担にならない範囲で構いません。

  • やり取りのメッセージ。消える設定のものはスクリーンショットで保存する。
  • 言われた日時、場所、その場にいた人。手帳やメモアプリに短く書いておく。
  • 売掛の金額と、その内訳が分かるもの。伝票、明細、写真など。
  • 紹介された店や人の名前、送られてきた求人サイトの画面。
  • 金銭を渡した記録。振込明細やアプリの履歴。


避けたい対応


  • その場で承諾や誓約書への署名をすること。日を改める、家族や第三者に相談すると伝えるだけでも状況は変わる。
  • 紹介された先に「様子を見るだけ」で行くこと。事実関係が複雑になり、後の説明が難しくなる。
  • 別の借入れで穴を埋めること。支払先が増えるだけで、問題の形が変わらないことが多い。
  • 連絡先を変えて連絡を絶つこと。行き違いから訴訟や支払督促が進むことがある。
  • 記録を消すこと。不利に見える内容でも、全体の流れを示す材料になる。


相談できる窓口

 窓口は目的によって分かれています。急を要する場面かどうかで選び分けてください。

  • 身の危険を感じるとき、その場での対応が必要なときは110番。緊急でない相談は警察相談専用電話の#9110、または最寄り警察署の生活安全課。
  • 女性相談支援センターの全国共通短縮ダイヤル#8778。生活や安全に関する相談を幅広く受け付けている。
  • 消費者ホットライン188。料金や契約をめぐるトラブルの相談窓口。
  • 法テラス。経済的な余裕がない場合の無料法律相談や、費用の立替制度の案内を受けられる。


 警察は取締りの窓口であって、支払った金額を取り戻す手続を進める場所ではありません。刑事の相談と、金銭の整理は、それぞれ別に動かしていくことになります。

まとめ


  1. 2025年6月施行の改正風営法により、料金の支払等のために売春や性風俗店での勤務などを要求する行為が、22条の2第2号で明確に禁じられた。
  2. 罰則は53条2号で、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。実際に要求した担当者個人も対象となり得るほか、行政処分の対象にもなる。
  3. 条文は「威迫し、又は誘惑して」と定めており、強い口調がなくても、穏やかに持ちかける形が射程から外れるとは限らない。
  4. 禁じられているのは「要求すること」であり、実際に働かなかった場合や断った場合でも、言われた事実そのものが評価の対象になる。
  5. 罰金3億円という数字は無許可営業などに関する法人への罰金の上限であり、この規定の罰則ではない。
  6. 風営法違反があっても、売掛の支払義務が自動的に消えるわけではない。ただし店の言動は民事の評価材料になり得る。
  7. 記録を残し、その場で承諾しないこと。窓口は目的別に分かれているため、緊急性で選び分ける。


 「働けば返せる」という言葉は、金額と期限が具体的であるほど、現実的な解決策のように聞こえます。しかし法律は、その提案を持ちかけること自体を、してはならない行為として名指ししました。応じるかどうかを一人で決める必要はありません。
 弁護士法人若井綜合法律事務所では、ナイトワークをめぐる金銭トラブルについて、店側との窓口を一本化したうえでの交渉や、刑事手続への対応をお受けしています。すでに要求を受けている場合も、支払いが滞っている段階でも、状況の整理からご相談いただけます。池袋と新橋に事務所があり、ご相談内容が外部に漏れることはありません。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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