【刑事事件・被害者側】元恋人を脅迫で訴えたいとき、どんな証拠が必要?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、2026年10月時点の法令(2025年6月から懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化された後の規定)をもとに解説しています。個別の事情によって見通しは変わりますので、具体的な判断は弁護士にご相談ください。


別れ話のもつれから、元恋人に「家に行くからな」「会社にばらす」「どうなっても知らないぞ」といった言葉を向けられ、怖い思いをしている方は少なくありません。相手を脅迫で訴えたいと考えたとき、多くの方がまず迷うのは「何を証拠として用意すればよいのか」という点です。

 脅迫の被害は、殴られたけがのように目に見える形で残りにくく、言葉や文面が中心になります。そのため、どの言葉が、いつ、どのような流れで向けられたのかを後から示せるかどうかが、警察や検察の判断に影響することがあります。本記事では、元恋人を脅迫で訴えるときに意味を持ちやすい証拠と、その残し方、警察に相談するまでの流れを整理します。

「訴える」には刑事と民事の二つの道がある

 「訴える」という言葉には、大きく分けて二つの意味があります。一つは、警察に被害届や告訴状を出して、相手の刑事責任を問う道です。もう一つは、相手に慰謝料などの損害賠償を求める民事の道です。

 両者は別々の手続ですが、使う証拠の多くは共通しています。メッセージの記録や録音は、刑事事件の資料にもなり、慰謝料請求の根拠にもなります。どちらを選ぶか決めきれていない段階でも、証拠を残しておくこと自体は無駄になりにくいといえます。

 被害届と告訴は、いずれも捜査機関に被害を申告するものですが、告訴には相手の処罰を求める意思表示が含まれる点で違いがあります。選び方については被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで詳しく解説しています。

脅迫罪で示す必要があること

 脅迫罪は、本人またはその親族の「生命、身体、自由、名誉又は財産」に害を加える旨を告知して人を脅迫した場合に成立する犯罪です(刑法222条)。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。証拠を集めるときは、次の点を示せるかどうかを意識すると整理しやすくなります。

示す必要があること証拠で裏付けたい内容
誰が告げたか発信者が元恋人本人であること(アカウント、電話番号、声など)
何を告げたか害を加える内容が具体的に分かる文言
誰に向けたものか本人またはその親族に対する害悪であること
どう受け取られうる言葉か一般の人が怖いと感じる程度の内容であること


 注意したいのは、脅迫罪の対象が「本人と親族」に限られている点です。たとえば「新しい恋人を痛い目にあわせる」という言葉は、それだけでは脅迫罪の対象から外れることがあります。ただし、言い方や前後の文脈によっては本人への害悪の告知と評価される余地もあり、ストーカー規制法など別の法律が問題になる場合もあります。保護される範囲については家族・恋人への危害をほのめかされた|脅迫罪の保護範囲をご覧ください。

 また、「別れるなら写真をばらまく」と言って復縁を迫った場合は強要罪(刑法223条)、「金を払わなければ会社に言う」と金銭を求めた場合は恐喝罪(刑法249条)が問題になることがあります。どの罪名になるかで必要な証拠の焦点も変わるため、言葉の後に何を求められたのかも記録しておくことが大切です。罪名の違いは恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わるで解説しています。

証拠として意味を持ちやすいもの


LINE・メール・SNSのメッセージ

 文面で届いた脅しは、最も基本的な証拠になります。スクリーンショットを撮るときは、送信者の名前やアカウント、日付と時刻が画面に入るようにします。脅しの言葉だけを切り取るのではなく、その前後のやり取りも含めて保存しておくと、どのような流れで出た言葉なのかを示しやすくなります。

通話や対面での会話の録音

 電話や直接会ったときの脅しは、録音がなければ「言った・言わない」の争いになりやすいところです。相手に断らずに録音したものでも、会話の当事者が録音した場合には証拠として扱われることがあり、最高裁の判断(平成12年7月12日決定)もあります。録音データは編集せず、録音した日時と場所をメモに残しておきます。

その場にいた人の証言や第三者の記録

 友人がその場で聞いていた、家族あての電話に元恋人が出た、自宅のインターホンに映像が残っている、といった場合は、それも裏付けになります。証言してもらえそうな人がいれば、記憶が新しいうちに、聞いた内容をメモにしてもらうとよいでしょう。

被害の影響を示す記録

 眠れなくなって通院した、仕事を休んだ、引っ越しを検討したといった事情は、脅しが与えた影響を示す資料になります。診断書や通院の領収書、勤務先の休暇記録などは、慰謝料を請求する場面でも意味を持つことがあります。

時系列のメモ

 一つひとつの証拠を、日付順に並べたメモがあると、警察に相談するときの説明が格段に伝わりやすくなります。いつ、どの手段で、どのような言葉を向けられ、自分がどう対応したかを、事実だけで簡潔に書き出しておきます。

交際中の楽しいやり取りが残っていても訴えられるか

 法律相談サイトなどでは、「脅された前後に普通の楽しいLINEも残っているので、脅迫とは認められないのではないか」という不安がよく寄せられています。交際していた相手どうしのやり取りには、親しい言葉と強い言葉が混在しやすいためです。

 脅迫にあたるかどうかは、問題の言葉ごとに、その内容や状況から判断されるのが基本です。普段の関係が良好だったことだけで、脅しの言葉が帳消しになるわけではありません。一方で、冗談として言い合っていた流れが読み取れる場合などは、評価に影響することもあります。

 あわせて気をつけたいのが、ご自身の返信です。相手の言葉に感情的に言い返したメッセージが残っていると、相手から「お互いさまだった」と主張されたり、逆に相手側の材料に使われたりするおそれがあります。脅しを受けた後は、言い返さずに記録を残すことに徹するほうが無難です。

証拠を残すときに気をつけたいこと


  • 届いたメッセージや通話履歴は、怖くても削除しないこと。
  • スクリーンショットは、相手の名前・日時・前後の文脈が分かる範囲で撮ること。
  • スクリーンショットとは別に、端末内の元のデータもそのまま残しておくこと。
  • 機種変更やアプリの再インストールの前に、トーク履歴のバックアップを取ること。
  • 録音や画像を加工・編集しないこと。
  • 証拠を得るために、相手を挑発して脅しの言葉を言わせようとしないこと。
  • 相手のスマホやアカウントに無断でログインして情報を集めないこと。


 LINEには送信を取り消す機能があり、相手が取り消すと画面から消えてしまいます。届いた時点ですぐに保存しておくことが大切です。また、相手のアカウントに無断でアクセスする行為は、不正アクセス禁止法に触れるおそれがあり、かえってご自身が責任を問われかねません。保存の具体的な方法はLINE・メール・録音データの保存と渡し方|消してはいけない理由や男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするもご参照ください。

証拠がそろったら|警察への相談から告訴まで

 差し迫った危険があるときは、証拠の整理を待たずに110番通報してください。そうでない場合は、次のような順序で進めるのが一般的です。

  1. 時系列のメモと証拠(スクリーンショット、録音、診断書など)を手元にまとめる。
  2. 最寄りの警察署、または警察相談専用電話(#9110)に相談する。
  3. 警察署で事情を説明し、被害届を出す。処罰を強く求める場合は告訴状の提出も検討する。
  4. 受理された後は、事情聴取や証拠の提出に協力する。


 脅迫罪は親告罪ではないため、告訴がなくても捜査は可能です。ただし、公訴時効は3年とされており、時間が経つほど証拠も記憶も失われやすくなります。気になる出来事があれば、早めに相談することをおすすめします。

 警察で「民事の問題なので」「様子を見ましょう」と言われ、すぐに受理されないこともあります。その場合でも、相談した記録は残りますし、証拠を補ったうえで改めて相談する道もあります。対応については脅迫の被害届は受理されるのか|「民事不介入」と言われたときの再挑戦、告訴状の作り方は告訴状はどう書くのか|受理されやすい書き方と添付資料で解説しています。

弁護士に相談すると何ができるのか

 弁護士に依頼すると、集めた証拠のうちどれが脅迫罪の要件に関係するのかを整理し、告訴状の作成や警察への提出に同行するといった対応ができます。証拠が足りない部分があれば、どのような資料で補えるかを一緒に検討します。

 また、元恋人とのやり取りを弁護士が引き受けることで、ご本人が相手と直接連絡を取らずに済むようになります。慰謝料を請求する場合や、相手側から示談の申し入れがあった場合にも、窓口を一本化して対応できます。交際の解消をめぐるトラブル全般への対応は【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご紹介しています。

よくあるご質問


一度だけのメッセージでも脅迫で訴えられますか

 脅迫罪は、繰り返しが成立の条件になっているわけではありません。一度の言葉でも、害を加える内容が具体的であれば問題になりえます。もっとも、回数や続いた期間は、警察が事件として扱うかどうかの判断や、処分の重さに影響することがあります。

相手が送信を取り消してしまい、画面に残っていません

 取り消されたメッセージを後から復元するのは難しいことが多いのが実情です。ただし、通知画面のスクリーンショット、内容を見た友人の証言、その直後に書いたメモなどが補いになる場合があります。思い出せる範囲で、すぐに記録しておきましょう。

脅しの言葉に、つい言い返してしまいました

 言い返したからといって、相手の脅迫が問題にならなくなるわけではありません。ご自身のメッセージも含めて削除せずに残し、どのような経緯だったかを弁護士にそのまま伝えてください。都合の悪い部分を隠すと、かえって説明の信用性を損なうおそれがあります。

まとめ

 元恋人を脅迫で訴えるときは、誰が、何を、誰に向けて告げたのかを示せる証拠が中心になります。メッセージは日時と前後の文脈が分かる形で、録音は編集せずに保存し、時系列のメモにまとめておくと、警察への相談がスムーズになります。交際していた相手が相手だけに、怖さや迷いから行動をためらう方も少なくありませんが、記録を残すことは、どの道を選ぶにしても土台になります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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