【ストーカートラブル】弁護士名で警告書を送ると、相手を刺激しない?
この記事は、2026年11月時点の刑法・民法・ストーカー規制法を前提にしています。個別の事情によって結論が変わることがあるため、実際に投稿するかどうかの判断は、事情を整理したうえで行ってください。
つきまといや執拗な連絡が続くと、「同じ目に遭う人を減らしたい」「周りに知ってもらえば身を守れるのではないか」と考え、SNSで被害を打ち明けたくなることがあります。被害を発信すること自体は禁じられていませんが、書き方によっては、被害を受けている側が名誉毀損やプライバシー侵害を問われるおそれがあります。
この記事では、被害の公表がどのような場合に法的な問題になり得るのか、問題になりにくい発信のしかた、そしてSNS以外で被害を止める手段を順に整理します。
被害を発信すること自体は禁じられていない
ストーカー規制法は、つきまとい等をする側の行為を規制する法律であり、被害を受けた人が自分の体験を語ることを制限するものではありません。「怖い思いをした」「警察に相談している」といった自分の体験や気持ちを書くことは、それだけで違法になるものではありません。
問題になりやすいのは、相手が誰か分かる形で、相手の行為を具体的に書き込む場合です。この場合、相手の社会的評価を下げる投稿として名誉毀損が問題になったり、相手の住所や勤務先などに触れればプライバシー侵害が問題になったりします。
名誉毀損が問題になる場面
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(刑法230条1項)。民事でも、不法行為として慰謝料や投稿の削除を求められることがあります(民法709条・723条)。被害者の立場から見落としやすい点が3つあります。
本当のことを書いても成立することがある
刑法230条1項は「その事実の有無にかかわらず」と定めています。つまり、書いた内容が真実であっても、それだけで名誉毀損にならないわけではありません。後で述べる条件を満たすかどうかで、違法とされるかどうかが分かれます。
名前を出さなくても「誰のことか分かる」と問題になる
実名を伏せていても、イニシャル、勤務先、外見の特徴、共通の知人なら分かる経緯などを組み合わせると、読む人によっては相手を特定できることがあります。このように相手を特定できる状態(同定可能性)があると、名前を出していなくても名誉毀損が問題になり得ます。
鍵アカウントや限定公開でも安心とは言えない
「公然と」とは、不特定または多数の人が知り得る状態をいいます。フォロワーを限定したアカウントや、時間がたつと消える投稿機能であっても、閲覧した人がスクリーンショットを撮って広める可能性がある以上、公然性が認められることがあります。
以下に、公表のしかたによって問題になり得る法的責任を整理します。
| 問題になり得るもの | どのような投稿で問題になるか | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 名誉毀損 | 相手が特定できる形で、相手の社会的評価を下げる具体的な事実を書く | 刑法230条、民法709条 |
| 侮辱 | 事実を示さずに「異常者」「犯罪者」などの言葉で相手をおとしめる | 刑法231条、民法709条 |
| プライバシー侵害 | 相手の住所・勤務先・顔写真・家族の情報などを載せる | 民法709条 |
| 削除・賠償の請求 | 上記に当たる投稿について、相手から削除や慰謝料を求められる | 民法709条・723条 |
真実の被害であれば許されるのか
名誉毀損に当たる投稿であっても、次の3つの条件をすべて満たす場合には、違法性がないとされます(刑法230条の2第1項)。民事の名誉毀損でも、判例上、同じような枠組みで判断されています。
- 公共の利害に関する事実であること(公共性)。
- 主として公益を図る目的で書いたこと(公益目的)。
- 書いた事実が真実であると証明されること(真実性)。
捜査前の犯罪に関する事実は「公共性」があるとみなされる
まだ起訴されていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされます(刑法230条の2第2項)。ストーカー行為が犯罪に当たる場合、被害の内容はこの規定の対象になり得ます。
ただし、公共性が認められても、残りの2つの条件は別に検討されます。「相手を懲らしめたい」「社会的に制裁を受けさせたい」という動機が前面に出た投稿は、公益目的が否定されやすくなります。公益目的の有無は、表現の方法や事実を調べた程度なども考慮して判断されるとされており(最高裁昭和56年4月16日判決)、実名や顔写真を添えて強い言葉で非難する書き方は、目的の面で不利に評価されるおそれがあります。
真実だと証明できるかという点も問われる
真実であることを証明するのは、書いた側です。警察への相談記録やメッセージの保存が十分でない段階では、被害が本当にあったとしても、それを裁判で証明できないことがあります。
真実の証明ができなかった場合でも、確実な資料や根拠に照らして真実だと信じたことに相当な理由があれば、責任を問われないとした判例があります(最高裁昭和44年6月25日判決)。ただし、自分の記憶や受けた印象だけを根拠にした書き込みでは、相当な理由が認められにくいと考えられます。
名誉の問題とは別に、プライバシーの問題が残る
被害の内容がすべて真実で、名誉毀損の責任を問われない場合でも、相手の自宅の住所、勤務先、顔写真、家族の情報などを載せれば、プライバシー侵害として別に責任を問われることがあります。被害を伝えるという目的にとって、これらの情報が必要になる場面は多くありません。
法律以外にも考えておきたいリスク
法的な責任とは別に、SNSでの公表には次のような負担が伴うことがあります。
- 相手が投稿を見て反発し、接触や書き込みがかえって増えるおそれがあります。
- 投稿に添えた写真や日常の書き込みから、自分の生活圏や行動の時間帯が伝わることがあります。
- 拡散される過程で、事実と異なる内容や憶測が付け加えられることがあります。
- 投稿を削除しても、スクリーンショットやまとめサイトに残ることがあります。
- 相手から発信者情報開示請求や損害賠償請求を受け、対応の負担が生じることがあります。
- 示談や今後の交渉の場で、投稿の存在が相手側の主張の材料にされることがあります。
法律相談サイトにも、ストーカー行為で示談した側が、被害者側に実名や住所、職業とともに「ストーカー」と書き込まれたとして民事訴訟を起こしたという相談が寄せられています。被害を受けた側であっても、書き込みの内容によっては、手続の上で立場が入れ替わる場面があり得ることは知っておきたいところです。相手から請求を受けた場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手から逆に損害賠償を求められた|請求の中身を仕分け、住所や連絡先を渡さずに対応するで解説しています。
また、SNSで被害を打ち明けることは、被害を止めるための手続とは別のものです。投稿によって周囲の理解が得られても、相手の行動が止まるとは限りません。
発信するなら気をつけたいこと
それでも体験を発信したい場合は、相手を特定できる情報を出さず、事実の断定や相手への評価を控えることで、法的な問題が生じる可能性を下げられます。書き方による違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 問題になりやすい書き方 | 問題になりにくい書き方 |
|---|---|---|
| 相手の情報 | 実名・イニシャル・勤務先・アカウント名を出す | 誰のことか分からないように書く |
| 内容 | 相手の行為を時系列で具体的に断定する | 自分が受けた不安や体験を中心に書く |
| 言葉づかい | 「犯罪者」「異常者」などの評価を加える | 評価を加えず、自分の受け止め方として書く |
| 添付するもの | 相手の写真、相手とのやり取りの画面をそのまま載せる | 相手を特定できる画像は載せない |
| 自分の情報 | 位置情報、自宅周辺の写真、行動予定を載せる | 生活圏が分かる情報は載せない |
あわせて、被害の証拠はSNSに載せるのではなく、手元に保存しておくことが大切です。メッセージの画面、着信履歴、つきまといを受けた日時と場所のメモなどは、警察や裁判所に示す資料として役立ちます。証拠の残し方については、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方で詳しく扱っています。
なお、自分の投稿を引用リポストした人や、内容に共感して拡散した人が責任を問われる場面もあります。この点は引用リポスト・いいねは名誉毀損になるのか|拡散行為の責任を参考にしてください。
SNS以外で被害を止める手段
被害を止めることが目的であれば、SNSで公表するよりも、法律上の手続を使う方が確実な場合が多くあります。
警察による警告・禁止命令
ストーカー規制法に基づき、警察は相手に警告を出し、都道府県公安委員会は禁止命令を出すことができます。2025年の改正で、被害者からの申出がなくても警察が職権で警告できる仕組みが設けられました。禁止命令に違反すれば刑事罰の対象になります。手続の流れは、SNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れと【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で解説しています。
弁護士を通じた交渉・裁判所の手続
弁護士が代理人として相手に接触の中止を求めたり、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てたりする方法もあります。被害によって受けた精神的苦痛については、慰謝料を請求できることがあります。警察の手続との使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け、どちらに先に相談するかは【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で整理しています。
すでに投稿してしまった場合
被害を公表した後に不安を感じた場合は、次の順序で落ち着いて対応することをおすすめします。
- 投稿の内容と投稿日時を、画面の保存などで記録しておきます。
- 相手を特定できる部分や個人情報が含まれていれば、非公開や削除を検討します。
- 追加の投稿や、相手からの反論への応答は控えます。
- 相手本人や相手の代理人から連絡が来たら、直接やり取りせずに弁護士に相談します。
削除の前に記録を残しておくのは、後で投稿の内容が争いになったときに、何を書いたのかを正確に示せるようにするためです。削除と記録の関係はアカウントを消せばよいのか|投稿削除と証拠保全の関係で、相手に代理人がついた場合の対応は【ストーカートラブル】相手に弁護士がついた|相手方の代理人との話し方で解説しています。
反対に、相手の側から「ストーカーされた」とSNSに書かれている場面については、【ストーカートラブル】相手が「ストーカーされた」とSNSに書いている|反論してよいかをご覧ください。
ご相談をお考えの方へ
被害を誰かに知ってほしいという気持ちは自然なものですが、SNSでの公表は、書き方しだいで自分の立場を難しくすることがあります。投稿する前の段階でも、すでに投稿した後でも、被害を止める手続と発信のしかたを分けて考えることで、取れる手段を整理しやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


