手切れ金を請求された|支払う法的義務はあるのか
この記事は、結婚していない交際相手の子を妊娠した方が、相手の親やきょうだいなどの家族から中絶を求められている場面を想定しています。法律上の婚姻や事実婚の関係にある場合、ご本人が18歳未満の場合は、扱いが異なる部分があります。内容は2026年11月時点の法令に基づいています。
交際相手の子を妊娠したことを伝えたところ、相手の親から「産むのは認めない」「早く中絶してほしい」と言われ、どう受け止めればよいか分からなくなっている方は少なくありません。弁護士ドットコムなどの法律相談の場にも、交際相手の両親が出産と結婚に強く反対し、話し合いを重ねても中絶を求められ続けて疲れ切っているという相談が寄せられています。
相手の家族の言葉は重く感じられるものですが、法律の上では、産むかどうかを決める立場に相手の家族はいません。この記事では、その前提を確認したうえで、相手の家族の働きかけがどこから問題になりうるのか、出産を選ぶ場合と中絶を選ぶ場合のそれぞれで押さえておきたいこと、今の段階で残しておきたい記録について整理します。
産むかどうかを決めるのは、妊娠している本人
人工妊娠中絶について定めた母体保護法14条は、医師が中絶を行う際に「本人及び配偶者の同意」を得ることを求めています。ここでいう配偶者には、婚姻届を出していなくても事実上婚姻と同様の関係にある人が含まれますが、結婚も事実婚もしていない交際相手は通常これに当たりません。そのため、未婚の交際関係であれば、法律上必要とされるのは本人の同意であり、交際相手の同意も、まして交際相手の家族の同意も要件ではありません。
出産についても同じで、子を産むことに誰かの同意や許可は必要ありません。相手の家族が「うちは認めない」と言ったとしても、それによって出産が妨げられる法的な仕組みはありません。
一方で、実際の医療機関では、未婚であっても同意書に相手の署名を求められることがあると指摘されています。受診先の運用は事前に確認しておくと安心です。また、中絶ができる時期は妊娠22週未満とされています。家族とのやり取りが長引くうちに時間が過ぎ、選べる道が狭まってしまうことは避けたいところです。迷っている段階でも、まず医療機関を受診して週数を確かめておくことをおすすめします。
相手の家族の「中絶してほしい」は、どこから問題になるのか
反対や意見を伝えること自体は、直ちに違法とはいえない
相手の家族が、経済的な不安や年齢、将来への心配から「今は産むべきではない」と考え、それを伝えてくること自体は、意見の表明にとどまる限り、違法とまではいえないことが多いと考えられます。気持ちの上では受け入れがたくても、意見を述べられただけで法的な請求ができるわけではありません。
脅しや執拗な働きかけは、自己決定を侵害するおそれがある
これに対し、害を加えることをほのめかして中絶させようとしたり、拒んでいるのに繰り返し押しかけたりする場合は、妊娠を続けるかどうかを自分で決める利益を侵害する行為として、不法行為(民法709条)に当たるおそれがあります。内容によっては、害を加える旨を告げて義務のないことを行わせる強要罪(刑法223条)が問題になる場面もあります。
| 相手の家族の言動 | 位置づけの目安 |
|---|---|
| 反対の意見を伝える、話し合いを求める | 意見の表明にとどまる限り、通常は違法とまではいえない |
| 断っているのに何度も自宅や職場に来る、長時間引き留めて説得する | 態様によっては不法行為が問題になることがある |
| 「中絶しないなら職場や家族に知らせる」「ただでは済まない」などと告げる | 不法行為に加え、強要罪や脅迫罪が問題になることがある |
| 手術の予約や同意書への署名を勝手に進めようとする | 本人の意思を無視した働きかけとして、強く問題になりうる |
どの段階に当たるかは、言葉の内容、回数、場所、本人がどれだけはっきり断っていたかによって変わります。後から判断できるよう、やり取りを記録しておくことが大切です。
向き合う相手は、交際相手本人
妊娠をめぐる話し合いの当事者は、妊娠した本人と交際相手です。成人した交際相手の親やきょうだいは、法的な意味での当事者ではありません。相手の家族が前面に出てきて交渉の窓口のように振る舞う場合でも、交際相手本人から正式に任されているのかどうかは確かめておく必要があります。この点は【男女トラブル】相手の家族が代わりに交渉に出てきた|代理権の有無の確かめ方で詳しく扱っています。
また、交際相手本人が家族と同じ考えなのか、本人は出産に前向きなのに家族に押されているのかによっても、取るべき対応は変わります。裁判例には、妊娠と中絶をめぐって、男性側も女性の身体的・精神的な負担を和らげ、経済的な負担を分かち合うよう努めるべき立場にあるとして、判断を任せきりにした不誠実な対応に賠償を命じたもの(東京高裁平成21年10月15日判決)があります。家族の陰に隠れて話し合いに応じない態度は、交際相手本人の責任の問題として整理することができます。相手の親に妊娠を伝える段階からの考え方は【男女トラブル】妊娠を相手の親に伝える前に|家族が決められること・決められないこともご参照ください。
出産を選ぶ場合に押さえておきたいこと
成人同士であれば、結婚に親の同意は必要ありません。ただし、結婚するかどうかは交際相手との合意で決まるもので、相手が応じない限り結婚を強いることはできません。結婚しない場合に子と父親との法律上の親子関係を生じさせるのは認知です。認知は父親本人がするもので、相手の家族が反対していても、交際相手本人が認知届を出せば成立します。応じてもらえない場合は、家庭裁判所での認知調停や認知の訴えという手続があります。
認知によって親子関係が生じれば、養育費を求めることができます。出産前後の費用や生活費をどう分担するかも、早めに話し合っておきたい点です。詳しくは次の記事で解説しています。
- 【男女トラブル】妊娠中に別れを告げられた|出産前に決めておくこと
- 【男女トラブル】未婚の出産|出産費用を相手に負担してもらえるか
- 【男女トラブル】出産までの生活費は相手に求められるのか|内縁・婚約・交際の違い
- 【男女トラブル】認知はするが養育費は払わないと言われた|いつからの分を、どの順番で求めるか
中絶を選ぶ場合に押さえておきたいこと
悩んだ末に中絶を選ぶことも、もちろん本人の判断として尊重されるべきものです。大切なのは、家族に押し切られた形ではなく、ご自身が納得して決めることです。後になって「本当は産みたかったのに強いられた」という思いが残ると、心身の負担が長く続くことがあります。
費用の負担は、妊娠が二人の行為の結果である以上、交際相手にも分担を求められると考えられています。相手の家族が「費用は出すから」と申し出てくることもありますが、その際に「今後一切連絡しない」「口外しない」といった条件を盛り込んだ書面への署名を求められることがあります。内容を確かめないまま署名すると、後の請求に影響するおそれがあるため、その場で応じずに持ち帰ることをおすすめします。費用の考え方は中絶費用は相手に請求できる?男女の費用負担、【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方、手術後の体調不良については【男女トラブル】中絶の後に体調を崩した|治療費・休業の負担を求めるで整理しています。
相手の家族から働きかけを受けているときにしておきたいこと
- 相手の家族とのやり取りを記録しておきます。LINEやメールは消さずに保存し、電話や対面での発言は日時・場所・内容をメモに残します。
- 相手の家族とは一人で会わないようにします。会う必要がある場合は、信頼できる人に同席してもらうか、人目のある場所を選びます。
- その場では書面に署名しないようにします。念書、誓約書、合意書などは持ち帰り、内容を確認してから判断します。
- 医療機関や公的な相談窓口とつながっておきます。妊娠週数の確認に加え、自治体などの妊娠に関する相談窓口で、気持ちの整理や生活面の相談をすることもできます。
- 身の危険を感じたときは警察に相談します。自宅に押しかけられる、強い言葉で脅されるといった場合は、ためらわずに連絡してください。
弁護士に相談するとできること
弁護士が代理人になると、相手の家族や交際相手とのやり取りの窓口を弁護士に移すことができます。相手の家族に対して直接の連絡や訪問を控えるよう申し入れること、交際相手本人との間で認知、養育費、出産や中絶の費用の分担を話し合い、合意内容を書面にまとめることも、弁護士が担える部分です。相談しただけで相手方に伝わることはありません。この点は【男女トラブル】相手に知られずに相談できるか|相談しただけで相手に伝わることはないで、当事務所の対応内容は【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内しています。
よくあるご質問
相手の親に「産むなら慰謝料を請求する」と言われました。支払わなければならないのですか
子を産むことは妊娠している本人が決めることであり、出産を選んだことを理由に相手の家族へ賠償する義務が生じることは、通常は考えにくいところです。このような言葉が繰り返される場合は、記録を残したうえでご相談ください。
交際相手がまだ学生で、相手の親から「息子には責任が取れない」と言われています
交際相手が成人であれば、認知や費用の分担について責任を負うのは交際相手本人です。収入が少ないことは分担の額に影響しうるものの、責任そのものがなくなるわけではありません。一方で、相手の親が本人に代わって支払う法的な義務は、原則としてありません。
相手の家族と縁が切れても構わないので、交際相手とは話し合いを続けたいのですが
相手の家族を介さず、交際相手本人と直接、または弁護士を通じて話し合うことは可能です。家族の影響で本人の態度が揺れている場合は、本人の意思を確かめられる形で話し合いの場を設けることが、結論を出す近道になることがあります。
相手の家族から中絶を求められると、自分の考えを持つこと自体が許されないように感じてしまうことがあります。けれども、産むかどうかを決めるのはご本人であり、そのうえで交際相手に負担の分担を求めることもできます。時間の制約がある問題だからこそ、一人で抱え込まず、早めに状況を整理しておくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


