【男女トラブル】「家族の治療費」と言われて渡したお金が嘘だったら、返してもらえる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年11月時点の民法・刑法などの法令と公的医療保険の制度をもとに作成しています。刑法の「懲役」は2025年6月から「拘禁刑」に改められており、本文は改正後の表記で記載しています。高額療養費制度は2026年8月から段階的な見直しが行われています。個別の事案での見通しは、お金を渡した経緯や残っている記録によって変わります。


「母親の手術代が足りないと言われて振り込んだのに、その頃母親は普段どおり働いていたと後から知った」「父親の入院費として何度も渡していたが、入院先の話が毎回違っていた」。交際相手から家族の治療費を理由にお金を求められ、後になって話に疑問を持った方からは、こうしたご相談が寄せられます。反対に、受け取った側から「家族が通院していたのは本当で、すべてが嘘だったわけではないのに、全額を返せと言われている」というご相談をいただくこともあります。

 「嘘をついてお金を受け取ったのなら詐欺だから返してもらえる」という説明はよく見かけますし、それ自体が誤りというわけではありません。ただ、「家族の治療費」という名目には、病気の当人が交際相手ではなく家族であるために事実を確かめにくいこと、確かめようとして家族に連絡すると別の問題が生じやすいこと、医療費の仕組みから金額の不自然さに気づける場合があることなど、特有の事情があります。

 この記事では、「家族の治療費」と言われて渡したお金に絞って、嘘かどうかの見極め方、確かめるときに避けたい行動、返還を求める相手と進め方を整理します。交際相手本人の病気や不幸の話を信じて渡したお金全般については【男女トラブル】病気や不幸の話を信じてお金を渡していた|嘘だと分かった後で、結婚を前提にした金銭の要求は結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求で扱っていますので、あわせてご覧ください。

返してもらえるかは「渡し方」と「嘘の中身」で変わる

「家族の治療費」と言われて渡したお金を返してもらえるかどうかは、名目そのものよりも、渡したときにどのような話になっていたか、そして何が嘘だったのかによって変わります。

「貸した」のか「あげた」のか

「保険金が下りたら返す」「父が退院したら返す」といったやり取りがあれば、貸したお金(民法587条)として、治療費の話が本当かどうかにかかわらず返すよう求めることができます。これに対し、「治療に使って」と返す約束なしに渡した場合は贈与(同法549条)と評価されるのが通常で、別れたことだけを理由に返してもらうことはできません。

 贈与であっても、治療費が必要だという相手の嘘を信じて渡したのであれば、詐欺を理由に贈与を取り消し(同法96条1項)、受け取ったお金を返すよう求める道があります(同法121条の2第1項)。あわせて、騙されてお金を渡したことを不法行為として、損害賠償を求めることも考えられます(同法709条)。贈与と貸付の違いは別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで詳しく解説しています。

家族の治療費で起こりやすい「嘘」の型

家族の治療費を名目にしたご相談では、嘘の中身がおおむね次のように分かれます。

嘘の中身例見通しの目安
家族の病気そのものが作り話手術を受けたはずの親が、その時期に普段どおり働いていた嘘と送金のつながりが見えやすく、返還を求めやすい
病気は事実だが、金額を膨らませていた自己負担が数万円で済む入院を、数十万円かかると伝えていた膨らませた部分について返還を求める余地がある
病気は事実だが、家族には渡っていなかった治療費として受け取り、本人の借金の返済や遊興費に充てていた受け取った時点で治療費に充てるつもりがなかったかが争点になりやすい
家族の存在や続柄が事実と違った「母」と説明していた人物が、実際には親族ではなかった食い違いがお金を渡す判断にどう関わったかで評価が分かれる


 詐欺にあたるかどうかは、お金を渡した時点で相手が事実と違う説明をしていたかどうかで判断されます。家族の病気が本当にあった場合でも、金額や使い道についての説明が事実と違っていれば、その部分の返還を求められる可能性があります。ただし、使い道が変わったのが受け取った後の心変わりによるものであれば、取消しは認められにくくなります。

医療費の仕組みから見える「不自然さ」

家族の治療費という説明に疑問を持ったとき、公的医療保険の仕組みを知っておくと、相手の説明を落ち着いて見直す手がかりになります。

窓口での負担には上限がある

公的医療保険が使える治療であれば、窓口で支払うのは医療費の一部です。さらに、1か月の自己負担が所得に応じた上限額を超えた場合には、超えた分が支給される高額療養費制度があります。この制度は2026年8月から見直され、月ごとの上限額が引き上げられた一方で、年単位の上限も新たに設けられています。

 そのため、「手術で一度に200万円かかる」「入院が長引いて毎月50万円必要」といった説明は、保険が使える治療であれば、通常の自己負担の水準とは開きがあることになります。金額の大きさだけで嘘と決めつけることはできませんが、説明を確かめるきっかけにはなります。

保険の対象外になる費用もある

一方で、差額ベッド代、入院中の食事代の自己負担分、先進医療や自由診療の費用などは、高額療養費制度の対象になりません。家族が公的医療保険に加入していない、海外で治療を受けているといった事情があれば、負担が大きくなることもあります。

 相手が保険の対象外の費用を理由に挙げている場合は、どのような治療で、どの病院からの請求なのかを具体的に聞いてみることが考えられます。説明があいまいなまま、話のたびに金額や病院名が変わるようであれば、その食い違い自体が後に事実を示す材料になります。

確かめようとして新たなトラブルを生まないために

家族の病気が本当かどうかは、交際相手ではなく家族の情報であるため、確かめる手段が限られます。確かめたい気持ちが強いほど次のような行動に出てしまいがちですが、それぞれ注意が必要です。

病院への問い合わせや、無断でのログインは避ける

病院に入院の有無を問い合わせても、患者の情報が第三者に伝えられることは通常ありません。家族を名乗って聞き出そうとしたり、相手のSNSやメールに無断でログインして事実を探したりすると、その行動自体が問題になります(不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条など)。

 相手に対して、診断書や病院の領収書、入院の案内などを見せてほしいと求めること自体は差し支えありません。応じるかどうかは相手の判断ですが、具体的な資料を示せない状態が続いたことは、やり取りの記録として残しておく意味があります。

相手の家族に連絡するときは、伝え方に注意する

相手の家族と面識がある場合、「ご家族のお具合はいかがですか」と様子を尋ねたことで、病気の話が事実でなかったと分かることもあります。ただし、家族に対して「あなたの子どもに騙された」「お金を返さないなら周囲に知らせる」といった伝え方をすると、名誉毀損(刑法230条1項)や恐喝(同法249条1項)と受け取られるおそれがあります。

 また、家族は、交際相手が受け取ったお金を代わりに返す義務を当然に負うわけではありません。家族への連絡は事実を確かめる目的にとどめ、支払いを求める窓口にはしないことが、話をこじらせないために大切です。正当な請求と強い迫り方の境目については「金を返せ」と強く迫った|正当な債権回収と恐喝の境界をご参照ください。

返還を求める相手は誰になるか

家族の治療費という名目では、お金の流れに家族が関わることがあるため、誰に返還を求めるのかを整理しておく必要があります。

原則は、嘘をついて受け取った交際相手

返還を求める相手は、原則として嘘をついてお金を受け取った交際相手です。交際相手が成人していれば、その親などの家族が、本人に代わって返す法律上の義務を負うことは通常ありません。

家族名義の口座に振り込んでいた場合

「母の口座に直接振り込んでほしい」と言われて、家族名義の口座に送金していた場合は、そのお金を実際に誰が受け取り、使ったのかを整理する必要があります。家族が事情を知らずに口座を使わせていただけで、実際には交際相手が引き出して使っていたのであれば、交際相手に返還を求めることになります。反対に、家族も嘘を知りながら受け取っていた場合には、家族に対しても損害賠償を求められることがあります(民法719条1項)。振込先の名義と、お金を実際に受け取って使った人は、分けて考えることが大切です。

刑事手続との関係

嘘をついてお金を受け取る行為は、詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の拘禁刑)にあたる可能性があります。ただ、交際中のお金のやり取りは、渡した時点で騙すつもりがあったかの立証が難しく、警察に相談しても直ちに捜査に進まないこともあります。また、刑事手続はお金を取り戻すための手続ではないため、返還は民事で別に求めることになります。

嘘だと気づいた後の進め方

疑問に気づいた直後の動き方によって、その後の話し合いのしやすさが変わります。

問い詰める前に、記録をそろえる

疑問を持った直後に相手を問い詰めると、メッセージを消されたり、連絡が取れなくなったりすることがあります。関係を続けるかどうかと、お金の整理は切り離して考えることができますので、まずは追加の送金に応じないようにしたうえで、次のような記録を手元に保存します。

  • 家族の病名・病院・手術の予定など、相手が説明した内容が分かるLINEやメールの記録。
  • 「入院費」「手術代」など、お金が必要な理由と金額を伝えてきたメッセージ。
  • 振込明細・送金アプリの履歴と、手渡しした日と金額のメモ。
  • 相手が見せてきた診断書・領収書などの画像と、資料の提示を断られたやり取り。
  • 家族の様子について、相手の説明と食い違う事情が分かる投稿や知人の話。


 記録の残し方は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするで解説しています。

請求は段階を踏んで進める

渡した日・金額・理由を一覧にして返還を求める金額を確定させ、書面で返還を求めるのが一般的な進め方です。相手が応じれば金額・支払方法・期限を合意書にまとめ、応じなければ訴訟など裁判所の手続を検討します。相手と連絡が取れなくなった場合については【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法をご覧ください。

 返還を求める権利には期間の制限もあります。詐欺による取消しは、取り消せることを知った時から5年、お金を渡した時から20年で行使できなくなり(民法126条)、不法行為による損害賠償は、損害と相手を知った時から3年が原則です(同法724条)。期間の考え方は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。

よくあるご質問


家族の病気は本当でしたが、渡したお金は治療に使われていなかったようです。返してもらえますか。

受け取った時点で治療費に充てるつもりがなかったことを示せれば、詐欺を理由に返還を求める道があります。受け取った後に使い道が変わっただけであれば、取消しは認められにくくなります。ただ、治療費に充てることを前提として相手に示したうえで渡していた場合には、錯誤(民法95条1項2号・2項)を理由に取り消せないかを検討する余地があります。実際の治療費を大きく上回る額を渡していたのであれば、上回る部分について返還を求めることも考えられます。

相手は「家族のことを疑うのか」と怒り、資料を見せてくれません。

資料を見せるかどうかは相手の判断であり、強く迫ると話し合い自体が進まなくなることがあります。資料の提示を求めたことと、断られたことをメッセージで残しておけば、後に事実を示す材料の一つになります。本人同士で話を進めるのが難しい場合は、弁護士が窓口となり、書面で説明や返還を求める方法もあります。

相手の親に、代わりに返してもらうことはできますか。

成人した交際相手が受け取ったお金について、親が代わりに返す義務を負うことは通常ありません。親が自ら支払いを申し出る場合は別ですが、親に支払いを強く求めると、請求する側の言動が問題になることがあります。親が嘘を知りながらお金を受け取っていたような事情があれば、親に対する請求を検討する余地があります。

まとめ


  1. 返す約束があれば、治療費の話が本当かどうかにかかわらず貸したお金として返還を求められる(民法587条)。
  2. 返す約束のない贈与でも、相手の嘘を信じて渡したのであれば、詐欺を理由に取り消して返還を求められる(同法96条1項・121条の2第1項)。
  3. 病気が事実でも、金額や使い道の説明が事実と違っていれば、その部分の返還を求められる可能性がある。
  4. 保険が使える治療であれば自己負担には上限があり(高額療養費制度)、説明の金額との開きは確かめるきっかけになる。
  5. 病院への問い合わせや無断ログインは避け、家族への連絡は事実確認にとどめる(不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条、刑法230条1項・249条1項)。
  6. 返還を求める相手は原則として交際相手で、家族が嘘を知りながら受け取っていた場合は家族にも求められることがある(民法719条1項)。
  7. 取消しは知った時から5年、損害賠償は原則3年など、期間の制限がある(同法126条・724条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。「家族の治療費」と言われて渡したお金について、渡したときのやり取りや送金の記録をもとに、返還を求められるかどうか、誰に対してどの根拠で進めるかを一緒に整理します。交際相手やそのご家族と直接やり取りをするのが難しい場合は、弁護士が窓口となって返還を求めることもできます。

交際中に受け取ったお金の返還を求められて対応に迷っている方からのご相談もお受けしています。お一人で相手と向き合う前に、まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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