不倫慰謝料の分割払い・公正証書|滞納したときの強制執行リスク
配偶者の不貞が分かったとき、離婚を選ぶ人もいれば、関係を続けることを選ぶ人もいます。どちらを選ぶかによって、慰謝料の話は少なからず変わります。ただし、変わるのは金額の目安だけではありません。
法律上、不貞をめぐる慰謝料は「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」の2つに整理されています。この2つは精神的苦痛の原因が異なるため、請求できる相手も、時効の数え方も違います。離婚するかどうかは、このうちどちらを使えるかを左右する分かれ目でもあります。
この記事では、不貞慰謝料と離婚慰謝料の違いを手がかりに、離婚する場合としない場合で何がどう変わるのかを整理します。請求する側と、請求を受けた側の双方の視点から見ていきます。
不貞慰謝料と離婚慰謝料は何が違うのか
慰謝料は、精神的な苦痛に対する損害賠償です(民法709条、710条)。同じ「不倫の慰謝料」と呼ばれていても、何によって苦痛を受けたのかが違えば、法律上は別の請求として扱われます。
不貞慰謝料は、配偶者の不貞行為によって平穏な婚姻生活が害されたことに対する慰謝料です。これに対して離婚慰謝料は、離婚そのものによって配偶者としての立場を失ったことに対する慰謝料です。両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 不貞慰謝料 | 離婚慰謝料 |
|---|---|---|
| 苦痛の原因 | 不貞行為そのもの | 離婚に至ったこと |
| 離婚の要否 | 離婚の有無を問わず請求できる | 離婚が成立して初めて請求できる |
| 請求できる相手 | 配偶者と不貞相手の双方 | 原則として配偶者のみ |
| 時効の起算点 | 損害と加害者を知った時 | 離婚が成立した時 |
4つの行のうち、実務で特に大きな意味を持つのが「請求できる相手」と「時効の起算点」です。順に見ていきます。
離婚しても、不貞相手に請求できるのは原則として不貞慰謝料だけ
不貞行為は、配偶者と不貞相手が共同で行った不法行為と評価されます(民法719条1項)。そのため不貞慰謝料は、配偶者にも不貞相手にも請求することができます。
一方、離婚慰謝料について、最高裁は平成31年2月19日の判決で、夫婦の一方は不貞相手に対し、原則として離婚に伴う慰謝料を請求することはできないと判断しました。婚姻を解消するかどうかは、本来その夫婦の間で決められるべき事柄だ、という理由です。不貞相手がその責任を負うのは、単に不貞行為に及んだにとどまらず、その夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をするなどして、離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情がある場合に限られる、とされています。
ここから言えるのは、離婚したからといって、不貞相手に請求できる慰謝料が自動的に別枠で増えるわけではない、ということです。離婚という結果は、不貞相手への請求では、金額を検討する際の事情の一つとして働くにとどまるのが基本です。「離婚したのだから、不貞相手にも離婚した分を上乗せして請求できるはずだ」という前提で交渉を始めると、見込みと結果がずれることがあります。
離婚する場合は請求の本数が増えるが、単純な足し算にはならない
配偶者に対しては、離婚した場合、不貞慰謝料と離婚慰謝料の両方を検討する余地があります。ただし、権利として別であることと、金額が単純に合算されることとは、別の話です。
不貞によって婚姻生活が壊れ、その延長として離婚に至った場合、2つの慰謝料が対象とする苦痛は大きく重なります。裁判でも、先に不貞慰謝料を受け取った後に別途離婚慰謝料を求めた事案について、損害が重複する部分が大きいとして、重ねての賠償を認めなかった例があります。
実務でも、配偶者に請求する際は、不貞慰謝料と離婚慰謝料をきれいに分けて主張するより、離婚に至った経緯全体を踏まえて1つの金額をまとめて協議することが多くなります。2種類あるから2倍受け取れる、という理解は実際の運用とは異なります。
金額の目安はどう変わるか
慰謝料に固定の計算式はなく、金額は事情ごとに幅があります。そのうえで、公表されている裁判例や交渉の実情からは、おおむね次のような目安が語られています。
| 夫婦の状況 | 慰謝料額の目安 |
|---|---|
| 離婚も別居もしていない | 50万円〜150万円程度 |
| 別居に至った | 100万円〜200万円程度 |
| 離婚に至った | 100万円〜300万円程度 |
注意したいのは、それぞれの幅が重なっている点です。離婚したから必ず高くなり、離婚しないから必ず低くなる、という単純な関係ではありません。金額を左右するのは、婚姻期間の長さ、不貞の期間や回数、未成熟の子どもの有無、不貞の態様といった事情の積み重ねです。離婚したかどうかは、そうした事情の一つとして評価されると考えるほうが実態に近いといえます。
離婚する場合は、慰謝料の単独の金額が見えにくくなる
離婚する場合には、慰謝料のほかに財産分与や養育費といったお金の問題も同時に決めることになります。そのため協議や調停では、慰謝料だけを切り出さず、解決金として全体をまとめた金額で合意することが少なくありません。インターネット上の相場の情報が媒体ごとにばらつくのは、この事情も一因です。
この点に関わる判断があります。最高裁は昭和46年7月23日の判決で、財産分与がされても別途慰謝料を請求することは妨げられないとしつつ、財産分与に損害賠償の要素も含めて給付がされ、それによって精神的苦痛がすべて慰藉されたと認められるときは、重ねての慰謝料請求は認められないとしました。つまり名目が財産分与であっても、実質的には慰謝料が支払われたと評価される場合があるということです。合意書に、どのような趣旨で、いくらを支払うのかを書き分けておく意味は、ここにあります。
なお、家庭裁判所に財産分与を求められる期間は、離婚のときから2年とされていましたが、法改正により5年に伸長されました(民法768条2項ただし書)。この改正は2026年4月1日から施行されており、施行日より前に離婚した場合は従前どおり2年とされています。
時効の数え方も変わる
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で消滅します(民法724条)。この起算点が、請求の中身によって異なります。
| 請求の種類 | 時効の起算点 |
|---|---|
| 不貞慰謝料 | 不貞行為と相手を知った時 |
| 離婚慰謝料 | 離婚が成立した時 |
最高裁昭和46年7月23日の判決は、離婚自体による損害は離婚が成立して初めて評価できるとして、離婚慰謝料の消滅時効は離婚の成立時から進行するとしています。
この違いは、次のような場面で表面化します。不貞を知ってから離婚が成立するまでに長い時間がかかった場合、配偶者に対しては離婚慰謝料としての請求がなお可能であっても、不貞相手に対する不貞慰謝料は、すでに3年が経過しているという事態が起こり得ます。そして先に述べたとおり、不貞相手に離婚慰謝料を求めることは原則としてできません。不貞相手への請求も考えているのであれば、離婚の話し合いの結論を待つ前に、時効への手当てを検討しておく必要があります。
請求を受けた側から見た違い
慰謝料を請求された側にとっても、どちらの名目で請求されているかは、反論の組み立てに関わります。
- 不貞相手として請求を受けた場合、離婚したこと自体を理由とする部分については、原則として責任を負わない立場にあります。
- 配偶者として請求を受けた場合は、離婚に至った経緯全体が評価の対象になるため、不貞以外の事情も含めて説明する必要があります。
- すでに一方に支払いがされている場合、その分は考慮されますので、支払いの事実と金額を明らかにすることが重要になります。
- 不貞相手が支払った場合には、配偶者に対して負担部分を求める求償の問題が生じます。離婚しない夫婦では家計が同一であることも多く、結果として手元に残る額に影響します。
求償の扱いや清算条項の書き方は、示談書の内容そのものに関わる論点です。金額の合意だけを先に進めると、後から想定していなかった請求や負担が生じることがあります。
まとめ
- 不貞慰謝料は不貞行為そのものに対する慰謝料で、離婚の有無を問わず、配偶者にも不貞相手にも請求できる。
- 離婚慰謝料は離婚に至ったことに対する慰謝料で、離婚が成立して初めて請求でき、相手は原則として配偶者に限られる。
- 離婚したからといって、不貞相手への請求が別枠で増えるわけではない(最高裁平成31年2月19日判決)。
- 配偶者に対して2つの請求を検討できる場合でも、対象とする苦痛が重なるため、金額が単純に合算されるわけではない。
- 離婚する場合は財産分与などと一体で合意されることが多く、慰謝料の単独額が見えにくくなるため、合意書の書き方に注意が必要である。
- 時効の起算点は、不貞慰謝料が知った時、離婚慰謝料が離婚の成立時で、進み方が異なる。
離婚するかどうかは、慰謝料の金額だけでなく、誰に何を請求できるのか、いつまでに動く必要があるのかにも関わります。まだ判断がついていない段階でも、選択肢と時間の見通しを整理しておくことで、後から取り得る手段が狭まる事態を避けやすくなります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求する側・請求を受けた側の双方からのご相談をお受けしています。ご自身の状況でどの請求が問題になるのか、どの順序で進めるのがよいのかについて、お気軽にご相談ください。


