【解決事例】交際中に受け取った自宅購入資金の一括返金を求められた|条件を確定させ接触禁止条項付きの合意書で解決した事例
交際していた相手が母国に帰ってしまい、貸していたお金の話が宙に浮いたままになっている。そのようなご相談は珍しくありません。相手が海外にいても、貸したお金を返してもらう権利そのものがなくなるわけではありません。ただ、国内の相手に請求する場合と比べると、連絡の取り方、書面の送り方、裁判の起こし方、そして実際の回収のどこにも手間が増えます。この記事では、海外に帰国した交際相手に貸したお金を請求するときに、どこから順に考えていけばよいかを整理します。
この記事は、2026年11月時点の日本の法令を前提に、一般的な考え方を説明するものです。相手の国によって、郵便や裁判書類の届き方、日本の判決の扱いは大きく異なります。実際の見通しは個別の事情によって変わりますので、具体的な判断は弁護士にご相談ください。
帰国しても、貸したお金を返してもらう権利は残る
お金の貸し借りは、法律上は消費貸借という契約にあたります(民法587条)。借用書がなくても、返す約束をしてお金を渡していれば契約は成り立ち得ます。相手が日本を離れたからといって、その約束が消えることはありません。
どの国の法律で考えるのかという問題もありますが、日本に住む人が日本で相手にお金を渡したという典型的な場面では、日本の法律で考えることが多いとされています(法の適用に関する通則法7条・8条)。借用書などで別の国の法律を選んでいた場合は、その取り決めが優先されることがあります。
最初の分かれ目は「貸した」と言えるかどうか
相手が海外にいるかどうかより先に問題になるのが、そのお金が「貸したもの」だと示せるかどうかです。交際中のお金のやり取りは、後になって「もらったものだと思っていた」「生活費を出し合っていただけ」と言われやすく、贈与なのか貸付なのかが争いになりがちです。この点は国内の相手の場合と変わりません。贈与と貸付の線引きについては、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いでも取り上げています。
海外の相手には事情を聞き直すことも難しいため、手元の記録がいっそう大切になります。たとえば次のようなものです。
- 振込の記録や、送金アプリ・国際送金の履歴。
- 現金を手渡した日の前後のメッセージ。
- 「必ず返す」「来月から返す」など、相手が返済を約束した言葉。
- 帰国の前後に、返済の方法や時期について話し合ったやり取り。
- 相手が一部を返してきた記録。
借用書がない場合の考え方は、恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で詳しく説明しています。
請求を考える前に確かめておきたいこと
どの手段を取れるかは、手元の情報によって大きく変わります。まずは次の点を整理しておきます。
| 確かめること | なぜ大事なのか |
|---|---|
| 相手と今も連絡が取れるか | 話し合いで返済の約束を取り直せるかどうかが決まります。 |
| 相手の現在の住所が分かるか | 書面を送るにも、裁判の書類を届けるにも、住所が出発点になります。 |
| 日本に相手の財産が残っていないか | 日本の口座や未払いの給与などがあれば、国内で回収できる余地があります。 |
| 再び日本に来る予定があるか | 日本で生活を再開する予定があれば、国内での手続を選びやすくなります。 |
| 貸した時期と返済の期限 | 請求できる期間(時効)を考える起点になります。 |
連絡がつくうちに、返済の約束を形に残す
相手と連絡が取れているなら、最初に考えたいのは話し合いです。海外の相手への裁判には時間も費用もかかるため、相手に返す気持ちがあるなら、穏やかなやり取りで約束を取り直すほうが早く回収につながることが少なくありません。
メッセージでは、責めるよりも「〇年〇月に貸した〇万円について、返済の予定を確認したい」と金額と時期を具体的に書くほうが応じてもらいやすく、相手が金額を認めて返信すれば、それ自体が大切な記録になります。
相手が一部を返したり、借りていることを認めたりすると、法律上は「承認」として時効がそこから新たに進み直すことになります(民法152条)。分割での返済を提案する、海外送金の手数料をどちらが負担するかを決めておく、といった具体的な話し合いも、回収の見込みを高めることにつながります。
返済を求める側でも避けたい働きかけ
返済を求めること自体は正当でも、次のような働きかけは、かえって自分の立場を悪くするおそれがあります。
- 在留資格や入管への通報を引き合いに出して返済を迫ること。
- 相手の家族や勤務先、共通の知人に、何度も連絡を入れること。
- SNSに相手の実名や写真を出して、借金を返さない人だと書き込むこと。
- 返信がないのに、昼夜を問わず大量のメッセージを送り続けること。
内容によっては、脅迫や名誉毀損、つきまといなどと受け取られるおそれがあります。正当な用件の連絡がどこから問題視されるかについては、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面も参考にしてください。
書面での請求は、国内とは勝手が違う
国内の相手であれば、内容証明郵便で請求の意思を伝えるのが一般的な流れです。ただ、日本郵便の内容証明は国内宛ての郵便で使う仕組みのため、海外の住所に同じ形で送ることはできません。海外に書面を送る場合は、国際書留に受取通知を付ける、メールと郵便を併用するなど、送ったことと届いたことを後から示せる方法を工夫することになります。
相手が日本語を十分に読めない場合は、英語や相手の母国語の訳を添えることも検討します。
また、書面やメッセージで請求すると、それから6か月の間は時効が完成しない扱いになります(民法150条)。ただし、この効果は一度きりで、請求を繰り返しても延び続けるわけではありません。時効が迫っている場合は、早めに次の手段を考える必要があります。返済について話し合うことを書面やメッセージで合意した場合にも、一定の期間、時効の完成が猶予されます(民法151条)。
日本の裁判所で請求できるのか
話し合いや書面での請求に応じてもらえない場合は、裁判を考えることになります。
日本で訴えを起こせる場面
相手の住所が海外にある場合でも、次のような事情があれば、日本の裁判所で審理してもらえることがあります(民事訴訟法3条の3)。
- 返済する場所が日本だと約束していた、または約束の内容から日本で返すことになっていた場合。
- 相手の預金や未払いの給与など、差し押さえができる財産が日本に残っている場合。
- 借用書などで、争いになったときは日本の裁判所で解決すると取り決めていた場合。
日本で貸して日本の口座に返してもらう約束だった、という交際相手どうしの貸し借りでは、日本の裁判所に訴えを起こせる場面が多いと考えられます。ただし、最終的には個別の事情によって判断されます。
訴状を海外に届けるには時間がかかる
日本の裁判所で訴えを起こしても、訴状が相手に正式に届かなければ裁判は始まりません。海外に住む相手への送達は、裁判所から相手国の当局や日本の大使館・領事館に依頼して行います(民事訴訟法108条)。外国の機関を経由するため、届くまでに数か月、国や方法によっては1年以上かかることがあるとされています。訴状などの翻訳文を用意する手間と費用もかかります。
相手国の協力が得られない場合や、依頼してから6か月を過ぎても届いたことの証明が戻ってこない場合などには、裁判所の掲示によって届いたものとみなす公示送達が認められることがあります(民事訴訟法110条1項3号・4号)。ただ、公示送達で判決を得ても、相手の国でその判決を使って回収できるかは別の問題として残ります。
少額訴訟や支払督促は使いにくい
国内の相手なら使いやすい少額訴訟や支払督促も、海外の相手には向きません。支払督促は日本国内で、公示送達によらずに届けられる相手にしか使えません(民事訴訟法382条ただし書)。少額訴訟も原則1回の期日で終えることを前提にした手続のため、通常の訴訟を前提に考えておくのが現実的です。
判決を得た後、どこから回収するか
判決を得ても相手が払わなければ、財産を差し押さえて回収することになります。見通しは、財産がどこにあるかで大きく変わります。
| 財産のある場所 | 回収の考え方 |
|---|---|
| 日本に残っている預金口座 | 日本の判決で差押えを申し立てることができます。帰国時に解約されていないことも少なくありません。 |
| 日本の元勤務先からの未払い給与・退職金 | 勤務先に対する債権として差押えの対象になり得ます。 |
| 相手国にある財産 | 相手国で日本の判決を認めてもらう手続が必要です。認められるかどうか、どのくらい時間がかかるかは国によって大きく異なります。 |
日本に財産が残っているなら、早めの手当てを
日本に預金などが残っていると分かっている場合、相手が解約や送金をしてしまう前に、裁判に先立って財産を仮に押さえておく仮差押えという手続を検討することがあります。担保金を積むことや、押さえる財産を特定することが必要になり、使える場面は限られます。
日本に財産が残っていない場合は相手国での手続が必要になり、現地の弁護士費用や翻訳費用を考えると、金額によっては費用のほうが大きくなることもあります。どこまでの手段を取るかは、金額と回収の見込みを比べて決めていきます。
相手が実在する「交際相手」だったのかを確かめる
次のような事情がある場合は、そもそも詐欺の被害にあっている可能性も考える必要があります。
- SNSやマッチングアプリで知り合い、一度も直接会ったことがない。
- 「帰国の費用」「空港で荷物が止められた」「送金が手続きで遅れている」などの理由で、送金を何度も求められた。
- 返済の話をすると、別の名目でさらにお金を求められる。
- 相手の本名や住所を確かめる手段がない。
このような場合は、貸したお金の請求として考えるより、詐欺の被害として警察に相談することを先に考えます。考え方は国際ロマンス詐欺で送金してしまった|被害回復の可能性と限界で詳しく説明しています。また、交際中に聞かされた事情が嘘だったと分かった場合の整理は、【男女トラブル】病気や不幸の話を信じてお金を渡していた|嘘だと分かった後も参考にしてください。
よくあるご質問
相手が海外にいる間は、時効は止まりますか
貸したお金の請求については、相手が海外にいるというだけで時効が止まることはありません。返済の期限を知った時から5年、期限から10年のいずれか早い時点で時効が完成するのが原則です(民法166条1項)。交際相手との金銭の時効については、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。
相手と連絡がまったく取れなくなりました。それでも請求できますか
権利は消えませんが、現在の住所が分からないと書面も裁判の書類も届けにくくなります。日本にいた頃の住所や勤務先など、手がかりを整理することが出発点です。連絡が取れない相手との清算の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法でも取り上げています。
相手の国の弁護士に頼まないといけませんか
日本の裁判所で訴えを起こし、日本に残っている財産から回収する場合は、日本の弁護士だけで進められることがあります。相手国で裁判を起こす場合や、相手国にある財産から回収する場合には、その国の弁護士の協力が必要になるのが一般的です。相手が海外にいる場合の手続の考え方は、【不貞慰謝料】相手が外国籍・海外在住の場合も参考になります。
まとめ
- 相手が海外に帰国しても、貸したお金を返してもらう権利そのものは残ります。
- 連絡が取れるうちに、金額と返済方法を確かめる形で約束を取り直すことが大切です。
- 内容証明は海外に送れないため、届いたことを後から示せる送り方を工夫します。
- 日本に財産が残っているかどうかが、回収の見込みを大きく左右します。
帰国した交際相手への請求は、手元の記録と日本に残る相手の手がかりをどれだけ早く整理できるかが結果を左右します。時効や日本に残る財産の有無は、時間が経つほど確かめにくくなります。当事務所では、交際関係の解消に伴う金銭の清算について、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内している形でご相談をお受けしています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


