【親子問題】子が親の成年後見人になりたがっている、止められる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は2026年11月1日時点の法令にもとづいて書いています。成年後見制度を見直す民法等の改正法が2026年6月に成立しましたが、まだ施行されていないため、本文では現在の制度を前提に説明し、改正で変わる点は後半でまとめて取り上げます。


「母さんの後見人には自分がなる」「後見人になるから通帳は自分が預かる」。子からこう告げられ、戸惑って相談に来られる親御さんがいます。お金の無心が続いていた子や、親の家や預金の扱いをめぐってきょうだいと対立している子が言い出した場合には、「後見人になれば親の財産を自由に使えると考えているのではないか」という心配も重なります。

 成年後見の申立ては、一定の範囲の親族であれば子も行うことができ、親がそれを事前に禁じる方法はありません。ただ、申立てがあれば必ず後見が始まるわけではなく、始まったとしても申し立てた子が後見人に選ばれるとは限りません。また、親に判断能力があるうちであれば、親自身が備えておける手段もあります。

 この記事では、子が親の成年後見人になりたがっているときに、親やほかの家族が知っておきたい仕組みと、今のうちに取れる手立てを整理します。

成年後見人は「親の財産を自由に使える立場」ではない

 成年後見制度は、認知症や障害などで判断能力が十分でない人について、家庭裁判所が選んだ後見人等が財産の管理や契約を担い、本人を守るための制度です。後見人が管理するのはあくまで本人のお金であり、使い道は本人の生活や療養、介護のためのものが中心になります。

 後見人には家庭裁判所への定期的な報告が求められ、財産の目録や収支の記録を出す必要があります。本人の財産を自分や自分の家族のために使えば、後見人を解任されるだけでなく、返還を求められたり、業務上横領として刑事責任を問われたりすることがあります。親族が後見人になった場合でも、この扱いは変わりません。

 また、本人が住んでいる家を売ったり貸したりするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。子が「後見人になれば預金を下ろせる」「家を売ってお金に換えられる」と考えているなら、制度の理解と食い違っています。子から家の売却を迫られている場合は、【親子問題】「家を売れ」と子に迫られている|所有者である親が確かめることと、無断売却への備えもあわせてご覧ください。年金や通帳の管理を求められている段階であれば、【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくことが参考になります。

子が申し立てること自体は止められるのか


子は親の同意なく申立てができる

 後見開始の審判を申し立てられるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです(民法7条)。子は一親等の親族にあたるため、親の同意がなくても申立てをすることができます。親が「申し立てないでほしい」と伝えても、法律上それを止める仕組みはありません。

 ただし、申立てがあっただけで後見が始まるわけではありません。後見が始まるのは、精神上の障害によって物事を判断する能力を欠くのが通常の状態になっている場合です。家庭裁判所は医師の診断書などをもとに、原則として鑑定も行って本人の状態を確かめます(家事事件手続法119条)。親に判断能力が保たれていれば、後見は開始されません。

本人である親も意見を述べられる

 後見開始の審判をする前には、原則として本人の陳述を聴くこととされています(家事事件手続法120条)。家庭裁判所の調査官との面談などの場で、親は自分の生活の状況や、子に財産の管理を任せたくない事情を伝えることができます。

 後見よりも支援の範囲が狭い「補助」は、本人以外の人が申し立てる場合には本人の同意が必要です(民法15条2項)。判断能力が少し落ちてきた段階では、親の同意なしに子が支援の枠組みを作ることはできない、という整理になります。

 後見開始の審判に納得できないときは、本人や親族が即時抗告をすることができます(家事事件手続法123条)。期間は原則として2週間と短いため、審判書を受け取ったら早めに対応を検討する必要があります。

申し立てた子が後見人に選ばれるとは限らない

 申立書には後見人の候補者を書く欄があり、子が自分を候補者として書くこともできます。しかし、誰を後見人にするかは家庭裁判所が決め、候補者がそのまま選ばれるとは限りません。家庭裁判所は、本人の心身の状態や生活・財産の状況、候補者と本人との利害関係の有無、本人の意見などを考えて選任します(民法843条4項)。

 親族の間で財産の管理をめぐる対立がある場合や、候補者が本人のお金を使っていた疑いがある場合、管理する財産が多い場合などには、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が後見人に選ばれたり、子を後見人にしたうえで専門職の後見監督人がつけられたりすることがあります。なお、誰を後見人に選ぶかという判断そのものには、不服を申し立てることができません。

 申立てをした後は、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることもできません(家事事件手続法121条)。「自分が後見人に選ばれないなら取り下げる」という理由での取下げは、認められにくいと各地の家庭裁判所が案内しています。子が申し立てたからといって、その後の手続きを子の思いどおりに進められるわけではありません。

後見人になれない人

 法律上、後見人になることができない人も定められています(民法847条)。

  • 未成年者。
  • 家庭裁判所で法定代理人、保佐人または補助人を解任された人。
  • 破産者で復権していない人。
  • 本人に対して訴訟をしている人や過去に訴訟をした人、およびその配偶者と直系血族。
  • 行方の知れない人。


 親子の間で、過去に貸したお金の返還などをめぐる訴訟があった場合には、この定めに当たる可能性があります。

家庭裁判所に伝えておきたい事情

 家庭裁判所は、申立てや候補者について、ほかの親族に意見を照会することがあります。照会がなくても、親族が家庭裁判所に書面で事情を伝えることはできます。子が後見人になることに不安がある場合は、人柄への評価よりも、確かめられる事実を整理して伝えることが大切です。

  • 親の預金が引き出された日付と金額。
  • 親名義の通帳、キャッシュカード、実印などを子が持っている状況。
  • 金銭の要求や暴力があった時期と内容、警察や行政に相談した記録。
  • 子とほかのきょうだいとの間で、親の財産の扱いをめぐって対立がある事情。
  • 親自身がこれまでに示してきた、財産の管理についての希望。


 すでに預金が引き出されている場合の考え方は、【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道で解説しています。きょうだいの一人が親の財産を使っている場面については、【親子問題】親が高齢で、きょうだいの一人が親の財産を使っているも参考になります。

判断能力があるうちに親ができる備え

 子の申立てを止めることはできなくても、親が判断能力のあるうちに、将来誰に何を任せるかを自分で決めておくことはできます。

任意後見契約を結んでおく

 任意後見契約は、将来判断能力が落ちたときに財産の管理などを任せる相手と範囲を、本人が前もって決めておく契約です。公正証書で作る必要があり、契約の内容は登記されます。判断能力が落ちた後、家庭裁判所が任意後見監督人を選ぶことで効力が生じます。

 任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所が法定後見を始められるのは、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限られます(任意後見契約に関する法律10条1項)。親が信頼できる人を任意後見人として決めておけば、子が後から法定後見を申し立てても、原則として親が選んだ枠組みが尊重されることになります。任せる相手には、信頼できる別の家族のほか、弁護士などの専門職を選ぶこともできます。

任意後見が始まるまでの間をどうするか

 任意後見は判断能力が落ちてから効力が生じるため、それまでの間に体が不自由になったときの支払いや手続きが空白になることがあります。判断能力があるうちから財産の管理を任せる委任契約を、任意後見契約と組み合わせて結んでおく方法もあります。ただし、任意後見が始まるまでは家庭裁判所の監督がないため、任せる相手の選び方や、報告の取り決めは慎重に考える必要があります。

 財産を最終的に誰に残すかは、後見とは別に遺言で定めることになります。財産の管理と承継を分けて考え、それぞれに必要な備えを整えておくと、子の要求に振り回されにくくなります。

通帳や実印の管理を見直す

 子が通帳や実印、権利証を持ち出せる状態であれば、保管場所を変える、取引のある金融機関に手続きを相談するなど、身近なところから管理を固めておくことも大切です。すでに持ち出されているときの手順は、【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応で整理しています。

子が後見人に選ばれた後に不安があるとき

 子が後見人に選ばれた後も、家庭裁判所の監督は続きます。後見人が本人の財産を不適切に扱っている疑いがあるときは、ほかの親族が家庭裁判所に事情を伝えることができます。

 後見人に不正な行為や、任務に適しない事由がある場合には、本人の親族などが家庭裁判所に解任を求めることができ、家庭裁判所が職権で解任することもあります(民法846条)。家庭裁判所は、必要があると認めるときに後見監督人を選ぶこともできます(民法849条)。日常的に使わない預金を信託銀行などに預け、払出しに家庭裁判所の指示を必要とする後見制度支援信託や支援預金が活用されることもあります。

2026年の改正で変わる点

 2026年6月17日に成立した民法等の改正法では、成年後見制度が大きく見直されます。公表されている解説によれば、主に次のような点が変わります。

  • 後見・保佐・補助の3つの類型が補助に一本化され、預金の払戻しや不動産の処分など、必要な行為を選んで支援する形になります。
  • 必要がなくなったときは家庭裁判所が審判を取り消せるようになり、一度始めると原則として終わらないという扱いが見直されます。
  • 親族でなくても、本人が公正証書で指定した人が申立てをできるようになります。
  • 本人の利益のため特に必要があるときにも、補助人を交代させられるようになります。


 成年後見制度の見直しの部分は、公布から2年6か月以内に施行される予定で、現時点ではまだ現在の制度が適用されています。施行前に始まった後見には原則として従来の制度が適用されるなど、移行の扱いにも細かな定めがあります。改正後は、本人がどのような支援を必要としているかがより重視される方向にあり、親が自分の意向をあらかじめ形にしておく意味は、改正の前後を通じて変わらないと考えられます。

後見の話の背景に、金銭の要求や対立があるとき

 子が後見人になりたがる背景には、親へのお金の要求が続いていたり、きょうだいとの間で親の財産の扱いが争いになっていたりする事情があることも少なくありません。その場合、後見の手続きだけを見ても問題は落ち着かず、子からの要求にどう向き合うか、親の財産をどう守るかを、あわせて考える必要があります。要求を断ることの位置づけについては、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。

 子と直接やり取りを続けるのが難しいときは、弁護士が親の代理人として窓口になり、子との連絡や家庭裁判所への対応を引き受けることもできます。窓口を代える意味については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご覧ください。

 子が「後見人になる」と言い出したとき、申立てそのものを止めることはできませんが、後見が始まるかどうか、誰が後見人になるかは家庭裁判所が判断し、親自身も意見を伝えることができます。判断能力があるうちに任意後見などで自分の意向を形にしておけば、子の申立てに左右されにくい備えになります。不安を感じた段階で、今の財産の状況と家族の関係を一度整理してみることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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