【親子問題】子が措置入院になった|退院後の受け入れをどうするか
本記事は、2026年11月1日時点の民法、戸籍法、不動産登記法、国民年金法・厚生年金保険法の関係規則などをもとに解説しています。2024年4月に始まった相続登記の申請義務化を反映しています。個別の事情によって取るべき対応は変わりますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
「自分が先に亡くなったら、部屋から出てこない息子が役所の手続や葬儀をできるとは思えない」。ご相談の場では、高齢の親御さんからこのような声をよくお聞きします。きょうだいの立場からも、「親が亡くなったとき、実家にいる弟の代わりに自分がどこまで動けばいいのか分からない」というご相談が寄せられます。
親が亡くなった後の手続については、行政や金融機関の案内も整っており、「相続人が順番に進めればよい」という説明自体は誤りではありません。ただ、相続人の一人がひきこもりの状態にあり、人と会うことや書類のやり取りが難しい場合には、その「順番に進める」ことが止まってしまう場面があります。誰が届け出るのか、子が協力できないときにほかの人がどこまで代われるのか、という点はあまり説明されていません。
この記事では、親の死後に生じる手続を整理し、ひきこもりの子が担えない場合に誰が代わりに動けるのか、親が元気なうちに何を決めておけるのかを解説します。親亡き後の子の生活設計そのものについては、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで詳しく解説しています。
親が亡くなった直後に必要になる手続
親が亡くなると、まず役所への届出や葬儀の手配があり、その後に年金・保険・相続の手続が続きます。期限が決まっているものも多く、誰かが把握して動かなければ進みません。
死亡届は「同居の親族」が最初の届出義務者になる
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に提出することとされています(戸籍法86条)。届け出る義務を負う人には順位があり、第一に同居の親族、第二にその他の同居者、第三に家主や地主などとされています(同法87条1項)。つまり、親と同居しているひきこもりの子は、法律上は最初に届出義務を負う立場にあります。
もっとも、同居していない親族も届出をすることができます(同条2項)。実務では、届出人の欄に親族が署名し、提出そのものは葬儀社が代行することが多いため、同居の子が動けなくても、別居のきょうだいや親族が届出人になれば死亡届と火葬の手続は進められます。頼れる親族がいない場合には、親が生前に後見人や任意後見受任者を決めていれば、その人も届出をすることができます。
年金・健康保険・世帯主の変更
年金を受け取っていた親が亡くなると、受給を止める届出が必要です。日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は原則として届出を省略できますが、そうでない場合は、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に届け出ることとされています。届出が遅れて年金が振り込まれ続けると、後で返還を求められることがあります。
また、亡くなった親が受け取るはずだった年金のうち未払いの分は、生計を同じくしていた子などが「未支給年金」として請求できます(国民年金法19条)。一方、遺族年金は、子が対象になるのは原則として18歳到達年度の末日までか、20歳未満で一定の障害がある場合に限られます。成人したひきこもりの子は、遺族年金の対象にならないことが多い点に注意が必要です。親の年金が止まった後の暮らしについては、【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計で解説しています。
このほか、亡くなった親が世帯主だった場合は、14日以内に世帯主の変更届を出します。ただし、残る世帯員が子一人だけであれば、その子が当然に世帯主となるため届出は不要です。後期高齢者医療制度や国民健康保険の資格喪失の届出、介護保険証の返却なども必要になります。
期限のある相続の手続
相続に関する手続には、次のような期限があります。
| 手続 | 期限の目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った時から3か月以内 | 民法915条1項 |
| 準確定申告(亡くなった親の所得税) | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 所得税法125条 |
| 相続税の申告(必要な場合) | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 | 相続税法27条 |
| 相続登記(不動産がある場合) | 取得を知った日から3年以内 | 不動産登記法76条の2 |
相続登記は、正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料の対象となりえます。遺産分割の話し合いがまとまらない場合でも、相続人であることを申し出る「相続人申告登記」で義務を果たすことができます。
ひきこもりの子が手続を担えない場合、誰が代わりに動くのか
親の死後の手続は、大きく分けると「葬儀や届出などの事務」と「遺産をどう分けるかという相続の手続」の二つがあります。前者は親族や第三者が代わりに担いやすく、後者は子本人の意思が関わる部分が残ります。
きょうだいや親族が担う場合と、その負担
別居しているきょうだいがいる場合、死亡届、葬儀の手配、年金や保険の届出といった事務は、きょうだいが中心となって進めることが少なくありません。こうした事務は、相続人全員の同意がなくても進められるものが多くあります。
ただし、きょうだいも仕事や家庭を抱えており、遠方に住んでいることもあります。親の死後、実家に残った子との連絡や生活の見守りまで一人で担うことになると、負担は大きくなります。きょうだいの立場で親子の問題に向き合う場合の考え方は、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときでも解説しています。
遺言で遺言執行者を決めておく
親が遺言を作り、遺言執行者を指定しておくと、遺言執行者が預貯金の解約や不動産の名義変更などを進めることができます(民法1012条1項)。遺言で財産の受け取り方が決まっていれば、相続人全員で遺産分割の話し合いをする必要がなくなり、ひきこもりの子が話し合いや書類への押印に応じられなくても、遺言の内容に沿って手続を進められるという利点があります。
遺言執行者には、きょうだいなどの親族のほか、弁護士などの専門家を指定することもできます。なお、遺言で葬儀の方法などの希望を書いても、それ自体には法的な拘束力がありません。また、子には遺留分(民法1042条)があるため、子の取り分を大きく減らす内容にすると、後で遺留分の請求が問題になることもあります。
死後事務委任契約で第三者に任せる
葬儀、納骨、病院や施設の費用の精算、住まいの片付け、公共料金や携帯電話の解約など、相続とは別の「死後の事務」は、生前に契約を結んで第三者に任せることができます。これを死後事務委任契約といい、委任者の死亡によって契約が終わらないことを合意しておけば有効とされています(最高裁平成4年9月22日判決)。
子が手続を担えず、頼れる親族もいない場合には、遺言(遺言執行者の指定)と死後事務委任契約を組み合わせて準備しておく方法がよく検討されます。受任者には弁護士や司法書士などの専門家のほか、社会福祉協議会などが同様の支援を行っている地域もあります。
子が相続人として関わる場面は残る
遺言がない場合、ひきこもりの子も法定相続人として遺産分割の話し合いに加わる必要があります。ここで手続が止まりやすくなります。
遺産分割の話し合いに子が応じないとき
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。子が話し合いを拒んだり、書類に署名押印しなかったりすると、預貯金の解約や不動産の名義変更が進まなくなります。この場合、ほかの相続人は家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることができ、調停がまとまらなければ審判で分け方が決まります。
当面の生活費や葬儀費用が必要なときは、遺産分割の前でも、相続人が単独で一定額の預貯金の払戻しを受けられる制度があります(民法909条の2)。上限は、口座ごとに「相続開始時の残高の3分の1×その相続人の法定相続分」で、一つの金融機関につき150万円までです。
判断能力に不安があるとき
ひきこもりの状態にあるからといって、それだけで判断能力が不十分とされるわけではありません。一方で、精神疾患や知的障害などにより判断能力が十分でない場合は、成年後見制度を利用し、家庭裁判所が選んだ後見人などが子に代わって遺産分割に参加することになります(民法7条など)。申立ては四親等内の親族のほか、身寄りがない場合などには市町村長が行うこともあります。
後見人は、子の財産を子のために管理する立場にあるため、遺産分割でも子の法定相続分を確保する方向で関わるのが通常です。また、いったん後見が始まると、原則として子の判断能力が回復するまで続く点も考えておく必要があります。
連絡が取れない・所在が分からないとき
親の死後に子が家を出て連絡が取れなくなった場合や、もともと別居していて所在が分からない場合には、まず戸籍の附票などで住所を調べます。それでも所在が分からないときは、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、その管理人が家庭裁判所の許可を得て遺産分割に参加する方法があります(民法25条、28条)。
親の死後の子の暮らしにつながる手続
手続を終えることと並んで考えておきたいのが、手続の後に子がどう暮らしていくかです。届出や相続が終わっても、子の生活が止まってしまっては意味がありません。
住まいと公共料金の名義
親名義の持ち家に子が住み続ける場合、相続によって家が誰のものになるかで、その後の住まいの安定が変わります。賃貸住宅の場合、借りる権利は相続されますが、家賃を払い続けられるかが問題になります。公営住宅の場合は、親の死後に子が住み続けるには、自治体の承認などの手続が必要になることがあります。電気・ガス・水道や携帯電話の契約が親名義のままになっている家庭も多く、名義変更や解約の手続が子の生活に直結します。
公的な支援につなぐ
親の死後に子の収入がない場合、生活保護をはじめとする公的な支援を検討することになります。ただし、相続で預貯金や不動産を得た場合は、まずそれを生活に充てることが求められます。生活保護の考え方については、【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で解説しています。
また、日々の金銭管理に不安がある場合は、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業などで、預貯金の出し入れや支払いの手伝いを受けられることがあります。詳しくは【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いをご覧ください。
親が元気なうちに整えておきたいこと
親の死後に誰が手続をするかは、親が亡くなってからでは選べないことが多くあります。手続を担う人と、その人に引き継ぐ情報を、親が元気なうちに決めておくことが、子とほかの家族の負担を軽くします。たとえば、次のような準備が考えられます。
- 死亡届や葬儀を担う親族、または死後事務を任せる受任者を決めておく。
- 遺言を作り、遺言執行者を指定しておく(自筆証書遺言を法務局で保管する制度を使えば、家庭裁判所での検認が不要になります)。
- 預貯金の口座、保険、年金、不動産、借入れなどの一覧と、連絡先の一覧を作っておく。
- 光熱費や携帯電話など、子の生活に関わる契約の名義と支払い方法を整理しておく。
- 子の生活を見守る支援者や相談先と、親が元気なうちからつながっておく。
親の死後に子が社会から孤立しないための備えについては、【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるかでも解説しています。
よくあるご質問
ひきこもりの子に代わって、きょうだいが手続をすべて進めることはできますか?
死亡届、葬儀の手配、年金や保険の届出などの事務は、きょうだいが中心となって進めることができます。一方、遺産分割協議や相続放棄は、相続人である子本人の意思で行う必要があり、きょうだいが勝手に決めることはできません。子が手続そのものに出向けない場合でも、内容に同意したうえで書類に署名押印する、委任状を書くといった形で関わってもらうことになります。
死後事務委任契約を結べば、子の生活の面倒まで見てもらえますか?
死後事務委任契約で任せられるのは、葬儀や費用の精算、解約などの親の死後の事務です。子の日々の生活を支えることまでは含まれないのが通常です。子の生活支援については、行政や社会福祉協議会の窓口、自立支援の専門家など、別の仕組みと組み合わせて考える必要があります。
遺言で、子に渡す財産を誰かに管理してもらうことはできますか?
遺言だけで、子に渡した財産を長く第三者に管理させることは難しい面があります。子にまとまった財産を一度に渡すことに不安がある場合は、信託の仕組みを使って少しずつ渡す方法や、生命保険の受け取り方を工夫する方法などが検討されます。家庭の事情によって向き不向きがありますので、早めに専門家と相談しておくことをおすすめします。
まとめ
- 死亡届は7日以内に提出し、届出義務者は同居の親族が第一順位ですが、別居の親族も届出ができます(戸籍法86条、87条)。
- 年金の受給停止や世帯主の変更など、短い期限の届出があり、成人した子は遺族年金の対象にならないことが多くあります。
- 相続放棄は3か月以内、相続登記は3年以内など、相続の手続にも期限があります(民法915条1項、不動産登記法76条の2)。
- 遺言で遺言執行者を指定しておくと、子が話し合いに応じられなくても手続を進めやすくなります(民法1012条1項)。
- 葬儀や解約などの事務は、死後事務委任契約で第三者に任せることができます。
- 子が遺産分割に応じない場合は調停、判断能力が十分でない場合は成年後見、所在が分からない場合は不在者財産管理人という手続があります(民法7条、25条)。
- 手続を担う人と引き継ぐ情報は、親が元気なうちに決めておくことが大切です。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内暴力など、成人した子をめぐる親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人となり、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら、全国のご家庭に対応しています。
「自分が亡くなった後、子は手続や生活をどうしていくのか」と心配されている親御さんも、親の死後の対応を担うことになりそうなごきょうだいも、まずはご事情をお聞かせください。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。


