【親子問題】子が「起業する」と言って資金を求めてきたら、出すべき?
この記事は2026年10月時点の法令と制度をもとにしています。2026年7月10日に施行された犯罪収益移転防止法の改正(口座の譲渡に対する罰則の引上げ、送金犯罪の新設)と、2027年4月1日に施行が予定されている本人確認方法の見直しを反映しています。口座開設の具体的な取扱いは金融機関ごとに異なるため、実際の手続きは各金融機関でご確認ください。
ひきこもりの状態が長く続いている子について、「そういえば、この子は自分の銀行口座を持っていない」と気づく親御さんは少なくありません。働き始める、生活保護や年金を受け取る、家を出て一人で暮らすといった次の段階を考えたとき、本人名義の口座がないことが手続きの足かせになる場面があります。
一方で、成人した子の口座は、親が代わりに作ればよいというものではありません。この記事では、成人した子の口座開設で親ができることとできないこと、作る前に確かめておきたいこと、本人が外に出られない場合の進め方、口座ができた後の注意点を順に整理します。
本人名義の口座がないと困る場面
口座がなくても日々の暮らしはすぐには止まりませんが、子が自立に向けて動き出す段階では、次のような場面で本人名義の口座を求められることがあります。
- アルバイトや就職をしたときの給与の振込先。
- 生活保護、障害年金、各種の給付金などの受取先。
- 一人暮らしを始めたときの家賃や公共料金、携帯電話料金の引落し先。
- 行政からの給付をスムーズに受け取るための公金受取口座の登録。
生活保護の受け取り方法は、口座振込のほか窓口で受け取る扱いがとられることもあるため、口座がないことだけで申請をあきらめる必要はありません。ただ、生活の基盤を整えていく過程では、いずれ本人名義の口座が必要になると考えておくのが現実的です。
成人した子の口座は、本人が申し込むのが原則
子が未成年のうちは、親権者が法定代理人として子名義の口座を開設できます。赤ちゃんの頃に親が子名義の口座を作るのはこの仕組みによるものです。
しかし、成年年齢は2022年4月から18歳に引き下げられており、18歳以上の子について親は当然には代理権を持ちません。口座の開設は、口座名義人と金融機関との間の契約です。金融機関は犯罪収益移転防止法にもとづき、口座開設の際に氏名・住居・生年月日、取引を行う目的、職業を確認することが義務づけられており、名義人本人の意思を確かめることが手続きの中心になります。
親が代わりに手続きを進めることの限界
成人した本人の委任状を持参した家族による申込みを受け付けるかどうかは、金融機関によって扱いが分かれます。受け付ける場合でも、本人と来店者の双方の本人確認書類や続柄の分かる書類を求められるのが一般的で、本人の来店や本人への意思確認を求められることも多くあります。「親が窓口に行けば作れる」とは考えず、事前に金融機関へ問い合わせておくと無駄足を避けられます。
親名義の口座を子に使わせることの危うさ
口座を作るのが難しいからといって、親名義の口座やカードを子に渡して使わせる方法をとると、別の問題が生じるおそれがあります。多くの金融機関の規定は、名義人本人以外による利用を認めていません。また、通帳やキャッシュカードを他人に渡す行為は、事情によっては犯罪収益移転防止法の口座譲渡の罪にあたるおそれがあります。この罰則は2026年7月10日の改正で3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に引き上げられました。家族間であっても、名義と実際の使い手がずれた状態は避けておくのが無難です。
反対に、本人の知らないうちに親が本人になりすまして口座を申し込むことも、本人確認の趣旨に反するため行うべきではありません。
関連して、「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかでも、名義の貸し借りがどのように評価されるかを解説しています。
口座を作る前に確かめておきたいこと
新しく口座を作る前に、次の点を確認しておくと手続きが進めやすくなります。
- 子どもの頃に親が作った子名義の口座が残っていないか。残っていれば、新規開設ではなく名義人本人による住所や届出印の変更、カードの再発行で足りることがあります。
- 本人確認書類があるか。マイナンバーカードや運転免許証など、顔写真付きの書類があると手続きが進めやすくなります。
- 本人確認書類の住所と、実際に住んでいる場所が一致しているか。住民票を移していない場合は、先に住所を整える必要が出てくることがあります。
- 口座を何に使うのかを、本人が自分の言葉で説明できるか。無職であることだけで開設できないわけではありませんが、取引の目的は必ず確認されます。
- 過去に本人名義の口座が凍結されたことや、口座を人に渡した経緯がないか。こうした経緯があると、開設を見送られることがあります。
1点目について、相談サイトなどでは、親が子名義で作った口座の通帳を親が保管し続け、成人後に関係がこじれて本人が紛失届を出した、という相談も見られます。子名義の口座がある場合は、いつ、何のために作ったのかを本人と共有しておくことが、後の行き違いを防ぐことにつながります。
口座開設までの流れと、家族が手伝える範囲
手続きを段階に分けると、本人にしかできないことと家族が手伝えることを切り分けやすくなります。
| 段階 | 本人がすること | 家族が手伝えること |
|---|---|---|
| 本人確認書類の準備 | マイナンバーカードなどの申請と受取 | 申請書の取り寄せ、顔写真の撮影、役所への付き添い |
| 金融機関の選択 | 使い道に合う金融機関を決める | 近くの店舗やアプリで申し込める金融機関の情報を集める |
| 申込み | 窓口またはアプリで本人が申し込む | 窓口への付き添い、必要書類のチェック |
| カードの受取 | 本人限定受取郵便などでカードを受け取る | 受取日の調整 |
| 開設後の管理 | 暗証番号や通帳を自分で管理する | 管理方法を本人と話し合う |
窓口か、スマートフォンのアプリか
人と対面することに強い負担を感じる子にとっては、スマートフォンのアプリで申し込める金融機関が選択肢になります。ただし、2027年4月1日に施行が予定されている本人確認方法の見直しでは、非対面の申込みについて、本人確認書類を撮影して送る方法の多くが廃止され、マイナンバーカードのICチップを読み取る方法などが中心になります。窓口でも、ICチップ付きの書類を使う場合はチップの読み取りが求められるようになります。今後の手続きを考えると、まずマイナンバーカードを用意しておくことが近道になる場面が増えると考えられます。
マイナンバーカードがない場合
マイナンバーカードの交付は、原則として本人が市区町村の窓口で受け取ります。病気や障害などのやむを得ない理由で本人が窓口に行くことが難しい場合には、一定の書類をそろえて代理人が受け取る仕組みもあります。どの書類が必要かは自治体ごとに案内が異なるため、事前に住まいの市区町村へ確認しておくとよいでしょう。
子が外に出られない、手続きを拒むとき
口座を作る手順そのものより難しいのは、本人がその気にならない、あるいは外に出られないという点かもしれません。この場合、次のような考え方で進めることが考えられます。
- 家族が整えられる準備を先に済ませ、本人が出る場面をできるだけ少なくします。
- 「口座を作りなさい」と迫るのではなく、給与の受取や一人暮らしなど、本人が望む次の段階と結びつけて話します。
- 本人が強く拒んでいる段階で、無理に窓口へ連れ出すことは避けます。
- ひきこもり地域支援センターや生活困窮者自立相談支援機関など、第三者の支援者に付き添いを相談します。
本人の意思に反して連れ出すことの問題については、【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで詳しく解説しています。
また、本人の判断能力に不安がある場合には、家庭裁判所が選ぶ成年後見人などが本人に代わって財産を管理する成年後見制度や、社会福祉協議会による日常生活自立支援事業を検討する余地もあります。こうした仕組みの違いは【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いで整理しています。
口座ができた後に親が気をつけたいこと
口座ができたことで終わりではありません。開設後の管理の仕方によっては、親子の間で新たな行き違いが生じることもあります。
通帳やカードを親が預かる場合
本人が金銭管理に慣れていないため、しばらく親が通帳やカードを預かるという判断もありえます。その場合は、本人の了解を得たうえで、いつまで、どのような範囲で預かるのかを話し合い、出し入れの記録を残しておくことをおすすめします。預かったまま親が自由に使える状態にしておくと、後に「勝手に使われた」という争いになるおそれがあります。
口座の売買や送金の勧誘に注意する
SNSでは、「口座を貸すだけで報酬」「指定の口座へ送金するだけ」といった募集が見られます。2026年7月10日の改正では、報酬を得て被害金を別の口座へ移す、いわゆる送金バイトに対して、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の罰則が新設されました。収入のない状態が続く子ほど、こうした勧誘に応じてしまう危険があります。口座を作るタイミングで、口座を人に渡したり使わせたりしてはいけないことを、家族で確認しておくとよいでしょう。詳しくは【親子問題】子が闇バイトに関わっていると分かった|親の立場でできること・してはいけないこともあわせてご覧ください。
家計を分けていく
本人名義の口座ができると、親の家計と子の生活費を少しずつ切り分けていく土台ができます。光熱費や携帯電話料金の名義をどう整理するかについては、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかで順序を解説しています。
弁護士に相談できること
口座の開設自体は本人と金融機関との手続きであり、弁護士が代わりに口座を作るわけではありません。ただ、口座がないという問題の背景には、親子の会話が途絶えている、本人が自立に向けて動き出せない、金銭の要求が続いているといった事情が重なっていることが少なくありません。
当事務所では、親御さんの代理人として子との間に入り、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、住まい探しや仕事探し、生活保護の申請、日々の金銭管理などを含めた生活の基盤づくりを支える取り組みを行っています。口座の開設も、その過程で本人と一緒に進めていく手続きの一つです。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
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銀行口座は、子が自分の収入や給付を自分で管理していくための入り口です。親が代わりに作ることはできなくても、書類をそろえ、本人が動ける場面を整えることは家族にもできます。子との話し合いが難しい、何から手をつければよいか分からないという段階でも、状況を整理するところからご相談いただけます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


