【親子問題】厚労省「ひきこもり支援ハンドブック」が示した考え方
成人した子から「自分は虐待されて育った」「だから殴られても仕方ないだろう」と言われ、暴力をふるわれている。そうした悩みを抱える親御さんからのご相談は、決して珍しくありません。過去の子育てに思い当たる節があると、親の側も「自分が悪かったのだから」と受け止めてしまい、助けを求める機会を逃しがちです。この記事では、子の言い分と今起きている暴力をどう切り分けて考えるか、法律上の扱いと、親がとれる対応を整理します。
この記事は、18歳以上の成人した子が同居または近くに住む親に暴力をふるう場面を主に想定しています。個別の事情によって扱いは変わるため、具体的な判断は専門家にご相談ください。
「虐待されて育った」という言葉が出てくる場面
- 殴ったあとに「お前が昔やったことに比べればましだ」と言われる。
- 謝るよう求められ、謝ると今度はお金や言いなりになることを求められる。
- 「虐待の慰謝料を払え」と言われて、生活費やお小遣いを渡し続けている。
- 厳しくしつけた覚えはあるが、虐待とまで言われると何も言い返せない。
- 子の言う出来事に心当たりがなく、どう受け止めればよいか分からない。
こうした場面では、親の側に罪悪感があるほど、暴力を「受けて当然のもの」と考えてしまう傾向があります。しかし、過去の出来事への評価と、今ふるわれている暴力への対応は、分けて考えることができます。
過去の出来事があっても、今の暴力が許されるわけではない
親子の間でも暴行罪・傷害罪は成立する
成人した子が親を殴る、突き飛ばすといった行為は、相手が親であっても暴行罪(刑法208条)にあたり得ます。けがをさせれば傷害罪(刑法204条)の問題になります。窃盗などの財産に関する罪には親族間の特例がありますが、暴行や傷害にはこの特例は及びません。
詳しくは【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で解説しています。
過去の被害への「仕返し」は正当防衛にあたらない
正当防衛(刑法36条)は、いま差し迫っている不正な侵害から身を守るための行為を対象としています。何年も前の出来事を理由にした暴力は、差し迫った侵害に対する防衛とはいえず、正当防衛として扱われることは通常ありません。子が「自分は被害者だ」と考えていても、その考えによって今の暴力が適法になるわけではありません。
背景の事情は、別の場面で考慮されることがある
子が育った環境やそれによる苦しみは、刑事手続の中で処分や刑の重さを考える際の事情として扱われることがあります。ただ、それは「罪にあたるかどうか」とは別の段階の話です。背景事情があることと、暴力を受け続けなければならないことは結びつきません。
「過去の話」と「今の暴力」を分けて考える
| 項目 | 過去の出来事についての話 | 今起きている暴力 |
|---|---|---|
| 中心になること | 子の受け止めや苦しさ、事実関係 | 親や家族の身の安全 |
| 急ぐ必要 | 時間をかけて向き合う余地がある | その日のうちの対応が必要になることがある |
| 主な相談先 | カウンセラー、医療機関、公的な相談窓口 | 警察、弁護士 |
| 親の姿勢 | 否定も全面的な肯定もせず、受け止めにとどめる | 応じない、記録する、一人で抱えない |
子の言う出来事について、親が「そんな事実はない」と争うことに力を注ぐと、話し合いが激しい言い争いになり、暴力のきっかけを増やしてしまうおそれがあります。反対に、事実かどうか分からない出来事まで全面的に認めてしまうと、後の要求の根拠として使われることがあります。
現実的には、「あなたがつらい思いをしてきたことは受け止める。ただ、暴力は受け入れられない」というように、子の感じている苦しさと暴力とを切り分けて伝える方法が考えられます。
謝罪とお金・服従を結びつけない
「本当に悪いと思っているなら金を出せ」「謝ったのだから言うことを聞け」というように、謝罪と金銭や服従が結びつけられることがあります。暴力や脅しを背景にお金を要求する行為は、親子の間であっても恐喝罪(刑法249条)にあたる可能性があります。
また、謝罪をしても要求が終わらず、かえって金額や内容が大きくなっていくケースも少なくありません。謝ること自体を否定する必要はありませんが、謝罪とお金の受け渡しは別のものとして扱うことが大切です。
関連して、【親子問題】独立した子から「親のせいだ」と金銭を請求された|応じる前に分けて考えることや【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけもあわせてご覧ください。
子が過去のことを法的に問いたいと言う場合
子が本当に過去の出来事で被害を受けたと考えているのであれば、損害賠償の請求(民法709条)や、家庭裁判所での調停など、法律に沿った手段で主張する道があります。時効の問題があるため、請求が認められるかどうかは事情によって大きく異なりますが、少なくとも「言い分があるなら暴力ではなく手続で」という整理は成り立ちます。
親の側から、代理人を通じて「主張があるなら正式な形で聞く」と伝えることで、暴力や直接の要求から話し合いの場を移すきっかけになることもあります。
なお、子が警察や行政に「親から虐待された」と訴えた場合の流れについては、【親子問題】子が「親に虐待された」と警察や行政に訴えた|窓口ごとの扱いと親が整理しておきたいことで整理しています。
親がその場・その後にしておきたいこと
- 身の危険を感じるときは、ためらわずにその場を離れ、必要に応じて110番通報をすること。
- 暴力の日時・場所・内容、そのときの子の発言を、できるだけ具体的にメモしておくこと。
- けがをした場合は受診し、子から受けたけがであることを医師に伝えて診断書を取っておくこと。
- 要求された金額や渡したお金の記録を残しておくこと。
- 子との話し合いに一人で応じ続けず、早めに第三者に相談すること。
子の発言の中に「虐待された」という主張が含まれていても、それを記録から外す必要はありません。何を理由に暴力がふるわれているかが分かることで、後の相談や手続の際に状況を正確に伝えやすくなります。
安全確保と記録の具体的な方法は、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で解説しています。
子の言い分を聞く役割を誰が担うか
子が過去の出来事について語りたい気持ちを持っている場合、その話を聞くこと自体には意味があります。ただ、暴力を受けている親がその聞き手を一人で担い続けると、聞くたびに衝突が起き、親が疲れ切ってしまうことが少なくありません。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との窓口に立ち、暴力や金銭の要求から親御さんを守る役割を担います。一方で、子の言い分や生活上の悩みには、連携する自立支援カウンセラーが耳を傾け、住まいや仕事探しなど生活の立て直しを支えます。役割を分けることで、子の話を聞く場を確保しながら、親御さんの安全も守るという形を目指しています。
この考え方については、【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で詳しくご紹介しています。
また、親御さん自身が過去の子育てを振り返り、心の整理をしたいと感じる場合もあるでしょう。その場合は、親御さんご自身がカウンセリングなどを利用することも一つの方法です。親が先に休むための手配については、【親子問題】子の問題で親自身が限界|親が先に休むための手配もご参照ください。
よくあるご質問
過去に手をあげたことがある親でも、子の暴力を警察に相談してよいですか
相談することはできます。過去の出来事があったとしても、今ふるわれている暴力への対応を求めることが妨げられるわけではありません。気になる経緯がある場合は、隠さずに伝えたうえで、今の状況を中心に相談する方が話が進みやすいでしょう。
子に謝れば、暴力は収まりますか
謝罪によって一時的に落ち着くことはあっても、それだけで暴力が止まるとは限りません。謝罪が新たな要求の材料になる場合もあるため、謝罪と暴力への対応は分けて考えることをおすすめします。
子の言う「虐待」に心当たりがない場合はどうすればよいですか
記憶の食い違いは、親子の間ではよく起こり得ることです。その場で正しさを争うよりも、まずは暴力から身を守ることを優先してください。事実関係の整理は、第三者を交えて落ち着いた場で行う方が現実的です。
まとめ
- 過去の出来事があっても、成人した子の暴力は暴行罪・傷害罪にあたり得ます。
- 過去の被害への仕返しとしての暴力は、正当防衛として扱われないのが通常です。
- 子の受け止めとしての苦しさと、今の暴力とは分けて考えることができます。
- 謝罪とお金や服従を結びつけず、要求や暴力の記録を残しておくことが大切です。
- 子の言い分を聞く役割と親を守る役割を分け、第三者に任せる方法もあります。
「自分が悪かったのだから」と暴力を受け止め続けることは、親御さんにとっても、子にとっても、状況を良い方向に進めることにはつながりにくいものです。過去の出来事に向き合うことと、今の安全を守ることは両立させることができます。どちらから手をつければよいか迷っている段階でも、まずはご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


