繰り返してしまう|痴漢・盗撮の再犯と治療の位置づけ

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

一度は事件になり、もう同じことはしないと決めたはずなのに、また繰り返してしまった。そう打ち明けるかたちで始まるご相談は、少なくありません。

こうした場面では、「再犯だから前より重くなる」「治療を受ければ軽くなる」という二つの説明が同時に語られがちです。どちらも、そのままの形では正確とはいえません。刑事手続のうえで「再犯」と呼ばれているものは一つではなく、治療が働く場所も、刑の重さを直接動かすところにはないからです。

このコラムでは、法律上「再犯」と呼ばれるものの中身、公的な再犯防止のプログラムがどこにあるのか、通院や治療が刑事手続のなかでどう受け止められるのかを整理します。処分の見通しをお約束するものではありません。

このコラムが想定している場面


次のような状況を念頭に置いています。

・以前に痴漢や盗撮で罰金を納めたことがあり、また同じことをして呼び出しを受けた
・前回は不起訴で終わったが、そのあと再び同種の行為をしてしまった
・執行猶予の期間中に、同じ行為を繰り返した
・自分でもやめたいと思っているのに止められず、家族から受診をすすめられている
・弁護士から再犯防止の取り組みを示すよう言われたが、何をすればよいのか分からない

行為の相手方が男性であっても女性であっても、確かめる筋道は変わりません。

「再犯」という言葉が指しているもの


同じ「再犯」という言葉が、場面ごとに違うものを指しています。ご相談の場で話がかみ合わなくなるのは、たいていここが原因です。

呼び方どこで使われる言葉か指している中身
再犯(累犯)刑法56条・57条拘禁刑の執行を終えた日などから5年以内に更に罪を犯し、その罪について有期拘禁刑に処するとき
常習として違反した者迷惑防止条例の罰則規定同種の行為を反復する性向が認められる場合に、条例が別に定めた重い刑の枠が用いられる
再犯者・再犯者率犯罪統計や白書検挙された人のうち、前にも検挙されたことがある人と、その割合
2年以内再入率再犯防止に関する白書など刑事施設を出た人のうち、翌年の年末までに再び入所した人の割合
前科や前歴があること処分や量刑を決める際の判断材料要件に当たるかどうかとは別に、事情の一つとして考慮される


ご本人が気にしておられる「繰り返してしまった」という事実は、多くの場合いちばん下の欄にあたります。上の二つに当たるかどうかは、別に確かめる必要があります。

刑法上の「再犯」に当たる場合は限られている


刑法56条は、拘禁刑に処せられた人が、その執行を終えた日または執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯し、その罪について有期拘禁刑に処するときを「再犯」と定めています。この場合、57条により、刑の枠の上限がその罪について定められた拘禁刑の長期の2倍以下となります。3度目以降も同じ扱いです(59条)。加重される場合でも、30年を超えることはできません(14条2項)。

注意しておきたいのは、要件がかなり限定されている点です。5年は刑の執行が終わった日の翌日から数えるとされ(最高裁判所昭和57年3月11日判決)、執行猶予が付いた判決を受けて猶予期間中に罪を犯した場合は、この意味での再犯には当たらないとされています(最高裁判所昭和24年12月24日判決)。

痴漢や盗撮の事件は罰金や不起訴、執行猶予付きの判決で終わることが多く、罰金の前科は条文にいう「拘禁刑に処せられた者」には当たりません。「前科があるから刑が2倍になる」という説明が当てはまる場面は、それほど広くありません。

条例の「常習として」は、前科の有無とは別の話


混同されやすいのが、迷惑防止条例の加重規定です。東京都の条例では、公共の場所や公共の乗物で衣服の上からまたは直接に人の身体に触れる行為が禁じられ、違反した場合の刑の枠が定められたうえで(8条1項2号)、常習としてこれらの違反行為をした者について別に重い枠が置かれています(8条8項)。

「常習として」は、前科があることそのものを指す言葉ではありません。同種の行為を反復する性向が認められるかという評価であり、前科がなくても、行為の回数や期間、保存されていた記録などから認定されることがあります。逆に、前科があっても常習性の認定には至らないこともあります。

なお、二〇二三年七月に性的姿態等撮影罪が施行され、盗撮のうち撮影行為そのものは同罪で扱われるようになりました。同罪には、常習であることを理由とする加重の規定は置かれていません。行為の時期によって参照される条文が変わります。

要件に当たらない場合でも、繰り返しは見られている


法律上の加重規定が働く場面は限られていますが、繰り返しが軽く扱われるという意味ではありません。同じ行為を短い間隔で繰り返している、前の事件で示された指摘に沿った変化が見られない、保存されていた記録から日常的に続けていたことがうかがえる。こうした事情は、刑の枠を条文で動かすものではなくても、起訴するかどうか、どの程度の刑を求めるか、社会のなかで立ち直ることが期待できるかという判断のなかで正面から取り上げられます。条文上の加重に当たるかという問いと、繰り返しが処分にどう響くかという問いは、別々に立てておいたほうが見通しが立ちます。

「再犯率が高い」と言われることについて


痴漢や盗撮について、再犯率が高いという説明を目にすることがあります。この点は、公的な資料では慎重に書かれています。

法務省が地方公共団体向けに公表している性犯罪の再犯防止に関するガイドラインは、性犯罪の2年以内再入率が出所した人全体と比べてむしろ低く、「再犯率が高いとまでは言えない」としています。同時に、被害に遭っても届け出ない人が多い点への注意も併記され、再犯率の高低にかかわらず取り組むべき課題だとされています。数字の高低を根拠にご自身の状況を見積もる必要はありません。確かめるべきなのは、ご自身の場合に何が引き金になっているのかという具体のほうです。

「性依存症」という呼び名と、診断の枠組み


「性依存症」という呼び方は広く使われていますが、これは通称にあたり、国際的な疾病分類にその名称のまま置かれているわけではありません。

世界保健機関の国際疾病分類(第11版)では、性的な衝動や行動を自分で制御できない状態は「強迫的性行動症」として衝動制御症群のなかに置かれています。他方、痴漢や盗撮に対応する窃触症や窃視症は、別の「パラフィリア症群」に分類されています。強迫的性行動症の診断にあたってはパラフィリア症群に当たる場合を除いて考えることとされており、二つは重なり合う概念ではありません。

また、診断名がつくことと刑事責任能力の問題とは別に扱われます。責任能力は、精神の障害があるかどうかだけでなく、その障害が行為との間でどう働いたのかを見て判断されるものです。実務では、診断は責任を減らす材料というより、なぜ繰り返されたのかを説明し、これから何をするのかを組み立てる出発点として扱われることが多いといえます。

公的なプログラムはどこに用意されているか


再犯防止の取り組みというと通院やカウンセリングを思い浮かべる方が多いのですが、国の制度としても用意されています。ただし、誰でも受けられるものではありません。

場面用意されている指導・プログラム受けられる条件
刑事施設に収容された場合性犯罪再犯防止指導刑が確定した人を対象とする選別と調査を経て対象者が決まる。受講に足りる刑期が確保できないなどの場合は対象から外れる
保護観察が付いた場合性犯罪再犯防止プログラム保護観察付きの執行猶予や仮釈放などの立場にあること。中核部分は、特別遵守事項として定められた場合に受講が義務づけられる
罰金・起訴猶予・保護観察の付かない執行猶予公的なプログラムの対象とはならない本人の申出や相談に応じて必要な措置がとられる余地はあるが、継続的な指導の枠組みは用意されていない


いずれも認知の偏りや自己統制の課題を扱い、課題の程度に応じて受講する範囲が変わります。なお、二〇二五年六月に自由刑が拘禁刑に一本化され、拘禁刑に処せられた人には改善更生を図るため必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができると定められました(刑法12条3項)。

多くの事件は、その枠組みの外側で終わる


罰金や起訴猶予、保護観察の付かない執行猶予で終わった場合、公的なプログラムは届きません。痴漢や盗撮の事件の多くは、この経路をたどります。

「事件にはなったが、その後は誰からも何も言われないまま日常に戻った」という状態は、繰り返しという観点からは支えのない状態でもあります。前回の事件のあとに何も変わらないまま同じことをしてしまった、というご相談が多いのは、この構造と無関係ではありません。

先ほどのガイドラインでも、刑事司法の手続を離れた人への支援は地方公共団体が担うことが期待される一方、性犯罪については専門的な知識や技術を十分に備えているとはいえないのが実情だと書かれています。地方公共団体への調査でも、性犯罪をした人の再犯防止に特化した取り組みを行っている団体はごく一部にとどまっていました。続ける仕組みは、当面はご本人とご家族、関わる専門職の側で組み立てるほかないというのが現状です。

相談の入口をどこに求めるか


いきなり精神科を受診しようとしても、対応している医療機関が限られていたり、事情を伝えにくかったりすることがあります。入口としては、次のような窓口が考えられます。

・都道府県や指定都市に置かれている精神保健福祉センター
・お住まいの地域の保健所
・性に関する問題行動を扱っている医療機関やカウンセリング機関
・同じ課題を抱える人が集まる自助グループ

精神保健福祉センターの依存症相談は飲酒や薬物などが中心ですが、性に関する問題行動の相談が寄せられることもあり、保護観察所と連携して教材を用意している例も報告されています。近くに専門の医療機関がないという理由で断念するのではなく、まず公的な窓口に現状を伝えるという入り方があります。同性の担当者に対応してもらいたい、家族に知られたくないといった希望は、最初に伝えて差し支えありません。

「通院しています」だけでは伝わらないこと


刑事手続のなかで再犯防止の取り組みを示す場面では、通院を始めたという事実そのものよりも、何をどう組み立てたのかが問われます。

法務省の資料では、刑事施設や保護観察所のプログラムを受けた人が「再発防止計画」という書面を作ることとされ、その構成が公表されています。手元で整理する際の型として参考になります。

・再びしないという目標だけでなく、どのような自分になりたいのか
・そのために日々どのような取り組みをするのか
・日常から行為に至るまでの流れを段階に分け、それぞれの段階でどう抜け出すのか
・実行の直前で踏みとどまるための手立て
・困ったときに連絡できる人や機関の名前と連絡先

あわせて、認知や性的な関心、問題への対処、対人関係、新しい生活という四つの領域について、できたことを定期的に振り返る用紙も用意されています。こうした型に沿って書き出しておくと、弁護人が説明する際にも、抽象的な反省の言葉ではなく具体の取り組みとして伝えられます。

治療は刑事手続のどこに効くのか


治療や通院が刑の重さを直接引き下げる仕組みは用意されていません。何をしたのか、被害を受けた方にどのような影響が及んだのかという、行為そのものの評価が動くわけではないからです。働くのは、社会のなかで立ち直ることが期待できるか、同じことが繰り返されるおそれをどう見るかという、その先の判断のほうです。次の点が効いてきます。

・始めたことよりも、続いていること
・診断や通院の状況が、書面の形で確かめられること
・本人の言葉と、実際の生活の変化がずれていないこと
・捜査の段階も判決までの期間も限られており、間に合う範囲でできることを選ぶ必要があること
・家族など、周囲の関わり方が具体的に決まっていること

被害を受けた方への対応は、これとは別に検討すべき事柄です。示談や被害弁償の進め方については、別のコラムでご説明しています。

単純化しないほうがよい受け止め方


繰り返しの説明として広まっているものの、そのまま受け取らないほうがよい言い方をいくつか挙げておきます。

・「この一つを直せばやめられる」という説明。先のガイドラインも、聞き取りで挙がった生活上の項目を行為の直接の原因であるかのように扱わないよう注意を促しています
・「完治」という言葉。専門家の説明でも、欲求そのものがなくなることではなく、行動に移さない状態を保つことを目標に置く言い方が多いといえます
・「病気だから仕方がない」という受け止め。診断は責任を打ち消すものではなく、被害を受けた方がいるという前提が消えるわけでもありません
・「治療を受けているから軽くしてほしい」という伝え方。取り組みの中身を示すことと、それを理由に扱いを求めることは、分けて整理したほうが伝わります

ご相談の前に整理しておくと役立つこと


・前回の事件がいつ、どのような形で終わったのか(罰金、不起訴、執行猶予など)
・そのときに受け取った書面が手元に残っているか
・今回の行為の日時と場所、警察からどのような連絡があったか
・受診歴やカウンセリングの利用歴があるか
・同居しているご家族が事情を知っているか、協力を頼めるか

弁護士に確認できること


・前回の処分の内容からみて、条文上の加重や常習性の評価が問題になり得るか
・今回の行為が、どの法令のどの条文で扱われる見込みか
・通院や相談を、どの時点までに、どのような形で始めておくのがよいか
・診断書や通院状況を、どのような書面にまとめて提出するのか
・ご家族に協力を求める範囲と、伝え方

まとめ


・「再犯」という言葉は、刑法上の加重、条例の常習加重、統計上の分類、量刑の判断材料という別々の意味で使われている
・刑法56条・57条の再犯に当たるのは限られた場合であり、罰金の前科や執行猶予期間中の行為はこれに当たらない
・条例の「常習として」は前科の有無とは別の評価であり、性的姿態等撮影罪には常習を理由とする加重の規定がない
・条文上の加重に当たらなくても、繰り返しは処分の判断のなかで正面から取り上げられる
・「性依存症」は通称であり、国際的な分類では強迫的性行動症とパラフィリア症群が別に置かれている
・公的なプログラムは刑事施設に収容された場合と保護観察が付いた場合に用意されており、多くの事件はその外側に置かれる
・示すべきは通院の事実ではなく、何をどう組み立てたのかという中身である

繰り返してしまったという事実は、口にするのが難しいことだと思います。ただ、その事実を前提に置かないと、これから何をするかという話が始まりません。どこまでを刑事手続のなかで扱い、どこからを生活の側で組み立てるのか。整理のしかたは事案によって変わりますので、状況をお聞かせいただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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