執行猶予判決を受けた後の生活|何が制限されるのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

執行猶予付きの判決を受けると、刑務所に入ることなく、社会のなかで生活を続けることになります。ただ、判決を受けた直後は「これから何が制限されるのか」「今までどおりに動いてよいのか」がはっきりせず、身動きが取りにくくなる方が少なくありません。

 調べてみると、「普通に生活する分には制限はない」という説明と、「資格が取れない」「許可がいる」という説明の両方が出てきます。どちらも誤りではないのですが、並べて読むと、自分の場合にどちらが当てはまるのかが分からなくなります。

 分かりにくさの原因は、「制限」という一つの言葉が、出所の異なる四つのものをまとめてしまっている点にあります。この記事では、判決を受けた後の生活にかかる制限を出所ごとに分け、期間が来るまで動かせないのか、手続を踏めば動かせるのか、それともそもそも制限ではないのかを整理します。

この記事で扱う範囲


  • 判決を受けた後の生活にかかる制限を、出所ごとに四つに分けて整理します。
  • 保護観察が付いた場合に加わる義務と、付かなかった場合との違いを説明します。
  • 制限だと誤解されやすいものについても取り上げます。
  • 執行猶予が付く条件そのものや、取り消される場面の詳細は扱いません。


「制限」と呼ばれているものは四つに分かれる

 判決の後にかかってくる制限は、誰がそれを課しているかによって性質が変わります。法律が直接定めているものは、こちらの事情にかかわらず期間の経過で決まります。保護観察に伴う義務は、届出や許可という手続が用意されています。勤務先や取引の相手方が判断しているものは、そもそも法律上の制限ではありません。そして、制限だと思われているものの中には、実際には何の手続も要らないものが混じっています。

制限の出所主な内容性質
法律が直接定めているもの一部の資格や職業、旅券の発給期間の経過によって決まる
保護観察に伴う義務住居の届出、転居や長期の旅行手続を踏めば動かせる
相手方の判断によるもの勤務先の扱い、賃貸や与信の審査、渡航先の国の審査説明と資料で結果が変わり得る
実際には制限ではないもの結婚、引っ越し、選挙権手続は要らない


四つを混ぜると対応を誤りやすい

 この四つを区別しないまま「執行猶予中は制限がある」とだけ捉えると、動けるはずのことまで自分で止めてしまうことがあります。逆に、事前の許可が必要な場面を「どうせ形式的なものだろう」と考えて手続を飛ばしてしまうと、後で説明を求められることになります。

 まず確認したいのは、自分が気にしていることが四つのどれに当たるかです。当たる層が分かれば、待つべきなのか、手続を取るべきなのか、相手に説明すべきなのかも決まります。

法律が直接定めている制限

 第一の層は、法律の条文そのものが「この状態にある人はこの資格に就けない」と定めているものです。行政庁や相手方の判断が入る余地は小さく、条文の書き方と、自分が今どの段階にいるかで結論が決まります。

資格や職業に定められた欠格条項

 一定の資格や職業には、有罪判決を受けた人を対象から外す規定が置かれています。書き方は法律によって分かれており、大きくは、拘禁刑以上の刑に処せられた者と書くもの、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまでの者と書くもの、執行を終わり、または執行を受けることがなくなってから一定の年数を経過しない者と書くものがあります。

 書き方は違いますが、猶予の期間中は、いずれの書き方でも該当すると読まれます。執行猶予中は刑の執行が終わっておらず、執行を受けることがなくなった状態でもないためです。書き方の違いが結果を分けるのは、猶予の期間が満了した時点から先の話になります。

 自分の資格や志望する職業が対象かどうかは、その資格を定めた法律の欠格事由の条文を見れば確認できます。国家資格に限らず、業として許可を受ける事業や、一定の業務に従事するための登録にも同種の規定が置かれていることがあります。

「与えないことがある」と書かれている資格もある

 欠格条項のなかには、該当すれば当然に対象から外れるのではなく、行政庁が免許を与えないことがある、という書き方をしているものがあります。医師をはじめとする一部の資格がこの型です。

 この型では、該当したというだけで結論が決まるわけではなく、事案の内容や本人の状況が考慮されます。もっとも、判断が行政庁に委ねられている以上、結果は事前には確定しません。該当し得る資格を持っている、あるいはこれから取得しようとしている場合は、所管する行政庁の手続や、その資格に固有の審査の仕組みを早めに確認しておくことになります。

旅券の発給

 旅券法には、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまでの者について、一般旅券の発給や渡航先の追加をしないことができるという規定があります。執行猶予中はこの状態に当たると理解されています。

 注意したいのは、この規定が「しない」ではなく「しないことができる」と書かれていることです。海外への渡航そのものが禁じられるわけではなく、発給されないことも、渡航先や期間を限って発給されることもあります。申請書には刑罰などに関する事項を記載する欄があり、事実と異なる記載をすれば、それ自体が別の問題になります。すでに旅券をお持ちの場合と、新たに申請する場合とでも扱いは変わりますので、渡航の予定があるなら早めに窓口で確認しておくほうが安全です。

保護観察が付いた場合に加わる義務

 第二の層は、判決で保護観察が付いた場合にだけ加わるものです。逆にいえば、保護観察が付いていなければ、行政庁に生活状況を報告したり、行動について許可を得たりする義務は生じません。執行猶予中は特に制限がないと説明されることがあるのは、多くの場合この層が存在しないためです。

付いているかどうかは判決の主文で分かる

 保護観察が付くかどうかは、判決の主文に書かれます。刑の執行を猶予する旨に続けて、その期間中被告人を保護観察に付する、という趣旨の文言があれば、保護観察付きの執行猶予です。裁判所の裁量で付されることもあれば、猶予中の再犯について改めて猶予が言い渡される場面のように、付されることが決まっている場合もあります。

 保護観察の期間は、猶予の期間と同じです。判決が確定した後、保護観察所に出頭し、担当となる保護司が決まって、そこから面接が始まります。

全員に共通して定められること


  • 再び罪を犯すことがないよう、健全な生活態度を保つこと。
  • 呼出しや訪問を受けたときは、面接を受けること。
  • 就労や通学の状況、収入や支出、家庭環境、交友関係などを尋ねられたときは、申告し、または資料を示すこと。
  • 速やかに住居を定めて届け出て、届け出た住居に住むこと。
  • 転居または7日以上の旅行をするときは、あらかじめ許可を受けること。


 これらに加えて、その人の事情に応じた事項が個別に定められることがあります。特定の場所への出入りや過度の飲酒を控えること、就労や通学を続けること、専門的な処遇を受けること、7日未満の旅行や離職をあらかじめ申告することなどが、その例として挙げられます。何が定められたかは書面で交付されますので、手元の書面を基準に判断してください。

転居と長期の旅行だけは事前の許可がいる

 生活のなかで実際に手続が必要になるのは、この二つです。届出で足りるものと、あらかじめ許可を受けるべきものが混在しているため、引っ越しや長期の出張を考えている場合は、日程を決める前に担当者へ相談しておくと後の調整が楽になります

 海外への渡航は、旅券の発給という第一の層の問題と、この許可という第二の層の問題が同時にかかってきます。片方だけを確認して準備を進めると、直前になって足りない手続が見つかることがあります。

途中で仮に解除されることがある

 あまり知られていませんが、保護観察は、猶予の期間が終わるまで続くとは限りません。刑法には、保護観察を行政官庁の処分によって仮に解除することができるという規定があり、更生保護法は、この処分を、保護観察所の長の申出により地方更生保護委員会が決定で行うものと定めています。

 仮に解除されている間は、遵守事項に関する規定の適用が一部読み替えられ、遵守事項に違反したことを理由とする猶予の取消しとの関係では、保護観察に付されていなかったものとみなされます。もっとも、これは本人が申請して得るものではなく、行状についての調査を踏まえて行われる行政の措置です。再び保護観察を実施する必要があると認められれば、仮解除が取り消されることもあります。

 自分から手続を起こせるものではありませんが、生活が安定していけば負担が軽くなる余地が制度上用意されていることは、見通しを持つうえで知っておいて損はありません。

守れなかったときに何が起きるか

 遵守事項を守らず、その情状が重いと判断された場合には、執行猶予が取り消されることがあります。取り消されれば、猶予されていた刑を受けることになります。

 一方で、一度連絡が行き違ったというだけで直ちに重い措置に進むわけではありません。実務では、面接に来られない事情があるなら事前に伝える、住居を変える必要が生じたら早めに相談する、といった対応が重ねられていきます。避けたいのは、連絡が取れない状態を続けてしまうことです。

相手方の判断による制限

 第三の層は、法律ではなく、勤務先や取引の相手方が自分の判断で決めているものです。ここは条文を調べても答えが出ません。代わりに、伝え方と手元の資料によって結果が変わり得る領域です。

勤務先の扱い

 有罪判決を受けたことを自分から会社に申告する法的な義務は、原則としてありません。ただし、就業規則に届出の定めが置かれていることがあり、その場合は社内の約束事として扱われます。

 また、採用の場面で賞罰について尋ねられたときに事実と異なる回答をすると、後に発覚した際、その回答自体が問題とされることがあります。今の勤務先を続ける場合と、これから応募する場合とでは、考えるべきことが違います。

賃貸・ローン・保険の審査

 賃貸住宅の入居審査や、ローン、クレジットの審査で参照される信用情報は、支払いの履歴などを扱うもので、有罪判決の有無を集める仕組みにはなっていません。判決を受けたことが戸籍や住民票に記載されることもありません。

 したがって、これらの審査で当然に不利になるわけではありません。ただし、申込書に告知を求める欄が設けられている契約もありますので、書面の記載事項は個別に確認してください。

渡航先の国の入国審査

 日本の旅券が発給されたとしても、入国を認めるかどうかを決めるのは渡航先の国です。国によっては、申請の段階で犯罪歴の申告を求め、その内容によって審査に時間がかかったり、入国が認められなかったりします。この判断に日本の法律は及びません。渡航先ごとに、その国の在外公館や公式の案内で確認することになります。

制限だと誤解されやすいもの

 第四の層は、制限のように語られながら、実際には手続も許可も必要でないものです。保護観察が付いていない場合を前提とすると、次のようなものが挙げられます。

  • 結婚や離婚の届出に、判決が影響することはありません。
  • 引っ越しや国内の旅行に、許可や事前の届出は必要ありません。
  • 警察や役所に、定期的に近況を報告する義務はありません。
  • 判決を受けたことが戸籍や住民票に記載されることはありません。
  • 転職や退職そのものが禁じられることはありません。
  • 選挙権や被選挙権を失うわけではありません。


選挙権は失われない

 公職選挙法には、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を受けることがなくなるまでの者は選挙権を有しないという規定があります。ただし、この規定には、選挙に関する犯罪以外の犯罪による刑の執行猶予中の者を除く、という括弧書きが置かれています。つまり、一般の事件で執行猶予中であることを理由に、選挙権や被選挙権が失われることはありません。

 選挙に関する犯罪については別に定めがあり、扱いが異なります。この点は例外として押さえておいてください。

運転免許の処分は別の系統で進む

 有罪判決を受けたこと自体を理由に運転免許が取り消される仕組みにはなっていません。免許の停止や取消しは、違反や事故に応じた行政上の処分として、刑事の手続とは別に進みます。

 そのため、同じ出来事について、刑事の判決と行政の処分がそれぞれ別に届くことがあります。刑事の手続が終わったからといって行政の処分が終わったとは限らず、逆もまた同じです。通知が届いたら、どちらの系統のものかを確かめてください。

見えにくいのは「次の選択肢が狭まる」という制限

 ここまでの四つとは別に、日常の行動を直接縛るわけではないものの、影響が大きい制限があります。猶予の期間中に新たな事件が起きたとき、選べる結論の幅が狭くなるという点です。

 猶予の期間中に罪を犯した場合、改めて執行猶予が付されるためには、言い渡される刑が一定の範囲に収まっていることと、情状に特に酌むべきものがあることが求められます。初めて執行猶予を受ける場合と比べて、条件が厳しく設定されています。

 なお、2025年6月1日に施行された改正により、この場面の要件は一部緩和されました。改めて猶予を付すことができる刑の上限が引き上げられ、最初の判決に保護観察が付いていた場合でも、改めて執行猶予を付す余地が生まれています。もっとも、緩和されたのは要件の一部であり、猶予の期間中の事件が重く見られやすいこと自体は変わりません。

猶予の期間が終わると何が変わるのか

 取り消されることなく猶予の期間を経過すると、刑の言渡しは効力を失います。これにより、資格の欠格条項のように「刑に処せられた者」であることを前提とする制限は、将来に向けて外れていきます。旅券の発給に関する規定も、同じように前提を欠くことになります。

 一方で、すでに失った地位や、いったん効力を失った免許が、期間の満了によって自動的に戻るわけではありません。改めて登録や授与の手続を取る必要がある場合があります。また、満了したことを知らせる通知や証明書が交付されるわけでもありませんので、判決の確定した時期から自分で数えておく必要があります。満了の時点で何が動き、何が動かないのかは、資格ごとの条文の書き方によって変わります。

判決を受けた後に確かめておきたいこと


  1. 判決の主文を読み、猶予の期間と、保護観察が付いているかどうかを確認する。
  2. 判決が確定した日を把握し、猶予の期間が満了する時期を控えておく。
  3. 自分の資格や職業に欠格条項があるか、あるとすればどの書き方かを確認する。
  4. 保護観察が付いている場合は、交付された書面で、個別に定められた事項を確認する。
  5. 渡航や引っ越しの予定があれば、必要な手続を日程を決める前に洗い出す。


 いずれも、判決の直後にまとめて確認しておけば済むことばかりです。時間が経つほど、判決書の保管場所や確定の時期が曖昧になり、後から調べ直す手間が増えます。

まとめ


  • 執行猶予判決の後にかかる制限は、法律が直接定めるもの、保護観察に伴う義務、相手方の判断によるもの、実際には制限ではないもの、の四つに分かれます。
  • 資格や職業の欠格条項は、条文の書き方にかかわらず、猶予の期間中は該当すると読まれます。書き方の違いが効いてくるのは満了の時点です。
  • 保護観察が付いていなければ、報告や許可の義務は生じません。付いている場合は、転居と7日以上の旅行に事前の許可が要ります。
  • 保護観察は、行状に応じて期間の途中で仮に解除される仕組みが用意されています。
  • 勤務先や賃貸、渡航先の審査は法律上の制限ではなく、伝え方と資料で結果が変わり得る領域です。
  • 選挙権や運転免許、戸籍の記載など、制限だと誤解されやすいものもあります。


 執行猶予付きの判決を受けた後の生活は、四つの層を分けて見ていけば、どこを待ち、どこで手続を取り、どこで説明を尽くすかが整理できます。全体をひとまとめに「制限がある」と捉えている間は不安が大きくなりますが、層ごとに切り分ければ、自分で確認できる部分がかなりあることも見えてきます。

 もっとも、自分の資格がどの書き方の欠格条項に当たるのか、手元の書面にどこまでの義務が書かれているのかは、判断に迷うところです。判決の内容や資格の種類によって結論が変わりますので、判断がつかない点があれば、判決書と交付された書面を手元に用意したうえで、弁護士に確認しておくと安心です。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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