他人になりすまして契約した|詐欺と私文書偽造の重なり
「のぞき」と呼ばれる行為に、そのままの名前の罪があるわけではありません。窓の外から室内を見た、敷地に立ち入った、カメラを向けた。どこまでのことをしたのかによって、刑法の罪として扱われるのか、軽犯罪法の枠にとどまるのかが分かれます。
もっとも、刑法の罪にならないことは、何も起きないことと同じではありません。軽犯罪法違反も刑罰を定めた法律の違反ですから、捜査を受け、検察官の処分を受け、場合によっては刑が言い渡されます。手続の進み方が刑法犯とは少し違うだけです。
この記事では、のぞきと立入りについて、どの規定が受け皿になるのかを整理したうえで、刑法犯として立件されない場合に手続がどのように動くのかを説明します。条例については東京都の規定を前提にします。
この記事で想定している場面
- 住宅の窓や隙間から室内をのぞいたと言われている。
- 浴場や更衣場、トイレをのぞいたと指摘された。
- のぞくために他人の敷地やマンションの共用部分に立ち入った。
- 警察官から事情を聞かせてほしいと連絡があった。
- 罪名がはっきり告げられないまま話が進んでいる。
「のぞき」を正面から定めているのは軽犯罪法1条23号
軽犯罪法1条23号は、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としています。窃視の罪と呼ばれる規定です。
1条各号に共通する刑は拘留又は科料です。拘留は1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置する刑(刑法16条)、科料は1000円以上1万円未満の金銭を納める刑(刑法17条)をいいます。刑法に置かれた罪ではないため、統計上も刑法犯ではなく特別法犯として分類されます。
23号が対象にしているのは「人」ではなく「場所」
この規定は、人の姿を見たことではなく、一定の場所の内部をのぞき見たことを処罰の対象としています。最高裁判所昭和57年3月16日判決も、23号の罪は同号が挙げる場所の内部をのぞき見る行為を処罰するものだと述べています。
条文が挙げる住居、浴場、更衣場、便所のほか、「人が通常衣服をつけないでいるような場所」として、病院の診察室や処置室、宿泊施設の客室、試着室などが挙げられます。場所を基準にする以上、そのときに人がいたかどうか、実際に衣服を着けていない人が見えたかどうかは、成立の前提ではありません。
反対に、街頭で他人の着衣の内側を見るような行為は、場所の内部をのぞいたとはいえず、この規定ではなく、後で述べる条例の側で問題になります。同じ「のぞき」という言葉でも、守られている対象が違うということです。
「ひそかに」「正当な理由がなくて」の意味
「ひそかに」とは、見られる側に気づかれないようにすることをいうと解されています。周囲の人に気づかれていたとしても、見られる側に知られないようにしていれば、この要件は満たされます。見られる側の承諾があるときは当たりません。
「正当な理由がなくて」は、住居侵入罪の「正当な理由がないのに」と同じく、違法にという意味です。何の働きかけもしていないのに自然に目に入った場合は、そもそも「のぞき見た」に当たりません。管理や点検のために立ち会って室内を確認したといった事情があるときも、この要件をめぐって説明が必要になります。
見たのか、撮ったのか、入ったのか
| 行為の内容 | 主に問題になる規定 | 定められている刑 |
|---|---|---|
| 窓や隙間から住居・浴場・更衣場・便所の中をのぞき見た | 軽犯罪法1条23号 | 拘留又は科料 |
| 下着や身体にカメラを向けた、設置した、撮影した | 性的姿態撮影等処罰法、東京都の迷惑防止条例5条1項2号 | 拘禁刑又は罰金 |
| のぞくために住居や建物、その敷地に立ち入った | 刑法130条前段(住居侵入・建造物侵入) | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 |
| 刑法130条の場所には当たらない立入禁止の場所に入った | 軽犯罪法1条32号、1号 | 拘留又は科料 |
同じ出来事として語られていても、行為がどの段階まで及んだかで、当てはまる規定と刑の枠が変わります。以下、順に見ていきます。
カメラを向けた場合
肉眼で見た行為と、機器を用いた行為とでは扱いが分かれます。令和5年7月13日に施行された性的姿態撮影等処罰法は、ひそかに性的な姿態等を撮影する行為などを、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金で処罰しています。撮影に至らなくても、東京都の条例は撮影の目的で機器を差し向け、又は設置する行為を対象としています。撮影に関する要件は別の解説に譲りますが、手にスマートフォンを持っていたかどうかは、罪名を大きく左右する事情です。
東京都の条例が定めている範囲
東京都の迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)5条1項は、次の3つの行為を挙げています。
- 1号は、公共の場所又は公共の乗物で、衣服の上から又は直接に人の身体に触れること。
- 2号は、住居、便所、浴場、更衣室のほか、公共の場所や学校、事務所などにおける人の下着又は身体を、機器を用いて撮影し、又は撮影の目的で機器を差し向け、若しくは設置すること。
- 3号は、前の2つのほか、公共の場所又は公共の乗物で卑わいな言動をすること。
ここで確認しておきたいのは、東京都の条例には「のぞき見る」という言葉が置かれていないことです。2号は撮影に関する行為に絞られており、3号は場所が公共の場所と公共の乗物に限られています。県によっては、住居や浴場にいる人の姿態を「のぞき見る」行為を条文で正面から禁止しているところもあるため、他県向けの解説をそのまま当てはめると結論がずれます。都内で、住宅の窓の外から室内を肉眼でのぞいたという事案では、条例ではなく軽犯罪法1条23号が受け皿になる場面が多いといえます。
立入りを伴った場合
のぞくために他人の敷地や建物に立ち入れば、刑法130条前段の住居侵入罪・建造物侵入罪が問題になります。庭やアパートの敷地、マンションの共用部分に入った場合も、居住者や管理者の意思に反する立入りとして扱われることがあります。法定刑は3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金で、未遂も処罰されます。
刑法130条の対象になる場所ではない、あるいは看守されているとはいえないという場合には、軽犯罪法1条32号(入ることを禁じた場所に入った)や1号(人が住んでおらず看守もしていない建物などにひそんでいた)が残ります。いずれも拘留又は科料です。どこから「侵入」といえるのかという線引きは、別の解説で扱っています。
罪名が二つ並ぶと、処断の基準は重い方になる
最高裁判所昭和57年3月16日判決は、他人の住居の庭先に入って住居内をひそかにのぞき見た事案について、住居侵入罪と軽犯罪法1条23号の罪は牽連犯の関係に立つとしました。牽連犯は、重い方の刑によって処断されます。
つまり、軽犯罪法違反が含まれているからといって、事件全体が軽い枠に収まるわけではありません。立入りがあったかどうかは、刑の重さの枠組みそのものを変える事情です。
刑法犯として立件されない場合、手続はどう動くか
逮捕には条件がつく
拘留又は科料に当たる罪については、逮捕の要件が絞られています。現行犯逮捕ができるのは、犯人の住居や氏名が明らかでない場合、又は逃亡のおそれがある場合に限られます(刑事訴訟法217条)。逮捕状による逮捕も、住居が定まっていない場合か、正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限られます(同法199条1項ただし書)。
この裏返しとして、呼出しに応じないことが、逮捕の条件を満たす方向に働くことがあります。連絡を受けたまま置いておくよりも、日程を調整して出頭する方が、身柄の点では落ち着いた進み方になります。
捜査は任意の形で進むことが多い
在宅のまま、警察署に呼ばれて事情を聞かれる、現場の状況を確認される、スマートフォンの任意提出を求められるといった形で進みます。任意提出は応じる義務のあるものではありませんが、断れば令状による差押えが検討されます。その場で何をどう答え、何を渡すかは、後から訂正しにくい部分です。
検察官の処分と、言い渡される刑
事件が検察官に送られると、起訴するか不起訴にするかが判断されます。起訴猶予で終わることもあります。起訴される場合、科料であれば略式命令で処理できますが、拘留は略式命令では科すことができません。略式命令で科せるものを100万円以下の罰金又は科料と定めているためです(刑事訴訟法461条)。拘留を求めるには、公判を開く必要があります。
言い渡された科料を納められないときは、1日以上30日以下の期間、労役場に留置されます(刑法18条2項)。また、刑の全部の執行猶予を定めた刑法25条1項は拘禁刑と罰金を対象としており、拘留・科料には執行猶予の仕組みが用意されていません。他方で軽犯罪法2条は、情状により刑を免除することができるとも定めています。
教唆・幇助についての特則
拘留又は科料のみに当たる罪では、教唆した人や手助けをした人は、特別の規定がなければ処罰されません(刑法64条)。ただし軽犯罪法3条は、1条の罪を教唆し、又は幇助した者を正犯に準じて扱うと定めています。同行した人や場所を教えた人にまで話が及ぶことがあるという意味です。
記録に残るもの
科料も刑の言渡しですから、前科として記録に残ります。不起訴で終わった場合でも、捜査を受けた事実自体は捜査機関の記録に残ります。前科と前歴の扱いの違いは、別の解説で整理しています。
公訴時効
拘留又は科料に当たる罪の公訴時効は1年です(刑事訴訟法250条2項7号)。住居侵入罪は3年です(同項6号)。立入りや撮影があったかどうかで期間が変わりますし、民事の請求は別の期間で動きますから、時間の経過だけを頼りに考えるのは避けた方がよい部分です。
被害者がいる事件としての対応
のぞきは、その住居や浴場を使っていた人という、具体的な相手のいる事件です。謝罪と被害弁償が済んでいるかどうかは、検察官の判断でも、量刑の場面でも考慮されます。
一方で、本人が被害者を探して直接連絡を取ることは避けてください。相手の負担が増すだけでなく、証拠に働きかけたと受け取られ、身柄の点でも不利に働きます。弁護士が代理人として捜査機関を通じて連絡先の開示を求め、被害者の同意を得たうえで交渉するのが通常の順序です。
なお、刑事の処分とは別に、プライバシーの侵害を理由とする損害賠償を民事で求められることもあります。刑事が不起訴で終わっても、民事の請求が当然になくなるわけではありません。
勤務先や学校の対応は別に進む
社内の調査や学校の聞き取りは、刑事手続の結論を待たずに進むことがあります。刑事の場では意味のある説明が、社内の場では別の評価につながることもあります。どちらに、どこまで、どの順番で話すかを決めてから動く方が無難です。この点は別の解説で詳しく扱っています。
相談の前に整理しておくとよいこと
- いつ、どこで、どのような姿勢で、どれくらいの時間の出来事だったか。
- その場所が住居や浴場、更衣場、便所に当たるか、敷地や建物に立ち入ったか。
- スマートフォンやカメラを手にしていたか、向けたか、置いたか。
- 警察から渡された書面や、告げられた罪名の記載。
- 相手や関係者とやり取りをしたか、その内容が残っているか。
- 同じような指摘を受けたことが過去にあるか。
まとめ
- のぞきという名前の罪はなく、行為がどの段階まで及んだかで当てはまる規定が変わります。
- 軽犯罪法1条23号は、人ではなく一定の場所の内部をのぞき見る行為を対象としています。
- 刑は拘留又は科料で、条例違反や刑法の罪より軽い枠に置かれています。
- 東京都の条例には「のぞき見る」という文言がなく、撮影に関する行為と、公共の場所での言動が対象です。
- のぞくために立ち入れば住居侵入罪・建造物侵入罪が問題になり、牽連犯として重い方の刑で処断されます。
- 拘留・科料に当たる罪では、現行犯逮捕も逮捕状による逮捕も要件が絞られています。
- 科料は略式命令で処理できますが、拘留を言い渡すには公判を開く必要があります。
- 科料も前科として記録に残り、民事の損害賠償は刑事の結論とは別に問題になります。
のぞきや立入りのご相談は、行為がどの段階まで及んだのかを一つずつ確認するところから始まります。当事務所では刑事事件のご相談を24時間受け付けており、初回のご相談は無料です。警察から連絡があった段階でも、まだ何も言われていない段階でも、事実関係を整理したうえで、考えられる進み方をお伝えします。


