飼い犬が人をかんだ|飼い主が問われる過失傷害と条例
アルバイト先や勤務先のレジから現金を抜いてしまった。釣銭として渡すはずのお金を、そのまま自分のものにしてしまった。1回あたりは数百円から数千円で、これくらいなら事件にはならないだろうと考えていたところ、レジの精算が合わないと指摘され、店長や本部から説明を求められている。そうしたご相談は少なくありません。
結論から申し上げると、レジの現金や釣銭を自分のものにした行為は、金額が小さくても犯罪として成立し得ます。ただし、実際に刑事事件として立件されるかどうかは、1回あたりの金額だけで決まるわけではありません。レジという場面には、日々の精算記録や操作履歴が残るという特徴があり、そこから回数や期間が見えてくると、小さな行為が積み上がった全体として扱われることになります。
この記事では、レジの現金や釣銭に手をつけてしまった方に向けて、どの罪で問われるのか、被害額はどのように積み上げられるのか、そして金額の小ささが手続のどこで意味を持つのかを整理します。
レジの現金や釣銭は、どの罪で問われるのか
そのお金を誰が管理していたかによって、問われる罪名が変わります。まず、この場面で関係しやすい罪を並べます。
| 罪名 | 条文 | 法定刑 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 窃盗罪 | 刑法235条 | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 7年 |
| 業務上横領罪 | 刑法253条 | 10年以下の拘禁刑 | 7年 |
| 横領罪(単純横領) | 刑法252条1項 | 5年以下の拘禁刑 | 5年 |
| 詐欺罪 | 刑法246条 | 10年以下の拘禁刑 | 7年 |
拘禁刑は、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役と禁錮を一本化した刑罰です。公訴時効の年数は刑事訴訟法250条2項によります。
表を見ると、業務上横領罪と単純横領罪には罰金刑の定めがないことがわかります。この点は後ほど手続の話として取り上げます。
分かれ目は肩書ではなく、現金を任されていたかどうか
窃盗罪と横領罪は、そのお金を自分が占有していたかどうかで分かれます。他人が管理しているものを持ち去れば窃盗罪、自分が預かって管理しているものを自分のものにすれば横領罪、という整理です。
一般的には、店長や責任者として売上金の管理を任されていた方がレジの現金を自分のものにした場合は業務上横領罪、レジ操作を担当していただけの従業員が抜き取った場合は、その現金は店側が管理していると見て窃盗罪、とされることが多いところです。レジを扱っていても売上金の管理そのものを任されているとは限らず、この立場は占有補助者と呼ばれます。
もっとも、これは役職名だけで決まるものではありません。締め作業を任されていたか、金庫への入金や釣銭の準備をしていたか、売上金を保管したり銀行に預け入れたりしていたかといった、実際の任され方が見られます。取調べや社内の聞き取りで「どこまで任されていましたか」と尋ねられるのは、この点を確かめるためです。
「レジのお金」といっても、場面はいくつかに分かれる
同じレジのお金でも、どの段階のお金に手をつけたかによって、見立てが変わることがあります。
レジの中の現金を抜いた場合
釣銭用の準備金や、その日の売上として入っている現金を抜き取った場合です。被害者は店側になります。レジを締めたときに現金が合わないという形で表面化しやすく、差異が続けば防犯カメラや操作記録の確認に進むことになります。
受け取った代金をレジに通さなかった場合
客から受け取った代金をレジに登録せず、そのまま自分のものにした場合です。売上として記録されないため、レジ締めの差異には現れにくい一方で、商品の在庫と売上の突合や、取消・返品処理の記録から問題になることがあります。この場合も、受け取った代金は店に帰属する金銭として扱われるのが基本です。
釣銭を渡さなかった・多く受け取った分を返さなかった場合
客に渡すべき釣銭を渡さなかった場合や、客が多く支払ったことに気づきながら返さなかった場合です。この場面は、店との関係だけでなく、客との関係でも問題になり得ます。渡さずに残った現金を自分のものにしたと見れば店に対する窃盗罪や横領罪として、客に誤った金額を告げて差額を得たと見れば客に対する詐欺罪として、それぞれ整理される余地があります。
どちらの見立てになるかで、被害者が誰かが変わります。被害者が変われば、謝罪や弁償を申し入れる相手も変わります。客が特定できない場合には、客に対する弁償という形をとれないこともあり、その場合は店との間でどう清算するかという話になります。
少額かどうかは、1回の金額だけでは決まらない
1回1000円程度なら事件にはならないだろうと考えて続けてしまった、というご相談は少なくありません。しかし、会社や捜査機関が見るのは、1回あたりの金額だけではありません。
見られるのは、回数、期間、そして合計額です。1回の額が小さくても、数か月から1年以上にわたって繰り返していれば、合計額は数十万円から数百万円に達することがあります。レジは日々精算され、操作の記録も残るため、後から期間をさかのぼって集計しやすい場面でもあります。
また、繰り返していたという事実そのものが、動機や計画性の評価に影響します。1回限りの出来心だった場合と、日常的に続けていた場合とでは、合計額が同じでも受け止められ方が異なります。「少額だから」という説明が通りにくくなるのは、この積み上げの構造があるためです。
被害額はどのように積み上げられるのか
レジの事件では、次のような資料が突き合わせられます。
- レジ締めのたびに記録される、過不足金の記録。
- 取引ごとの登録、取消、返品、値引きの操作履歴。
- シフト表や打刻記録と、レジを操作した担当者の記録。
- 店内の防犯カメラの映像。
- 仕入や在庫と、売上との突合。
- 本人の説明や、提出を求められた書面。
これらを組み合わせて、「この日のこの時間帯、この担当者のときだけ差異が出ている」という形で整理されていきます。1件ずつは小さくても、日数分が並べられれば、全体像が示されることになります。
なお、複数の従業員が同じレジを扱っている店舗では、誰の担当時間に差異が生じたのかを特定する作業が必要になります。ここが曖昧なまま話が進むと、後で述べる金額の食い違いにつながります。
会社が示す金額と、実際の金額が食い違うことがある
レジの事件で争いになりやすいのが、被害額です。会社側は、一定期間のレジの過不足金の合計や、原因を説明できない差異の総額をまとめて被害額として示してくることがあります。そこには、自分が関与していない差異や、釣銭の渡し間違い、レジ操作のミスによる差異が含まれていることがあります。
被害額は、弁償する金額に直結するだけでなく、刑事処分の重さを判断する材料にもなります。そのため、示された金額をそのまま受け入れてよいかどうかは、慎重に確認する必要があります。
一方で、身に覚えのある部分まで否定してしまうと、反省の姿勢が見えないと受け取られることがあります。自分が行ったこととそうでないことを分けて説明できるよう、時期、回数、おおよその金額を、自分の記憶に沿って時系列で書き出しておくことが役に立ちます。記憶が曖昧な部分は、曖昧なまま書いておいて構いません。
「後で戻すつもりだった」という説明は通るのか
給料が入ったら返すつもりだった、という説明はよく聞かれます。ただ、横領罪の成立には不法領得の意思が必要とされるところ、判例はこれを、委託の任務に背いて、その物について権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思と説明しています(最高裁昭和24年3月8日判決)。後で補填するつもりがあったというだけで、この意思が否定されるとは限りません。
金銭は、使ってしまえば同じものを返すことができません。自分のものとして持ち出し、生活費や支払いに充てた時点で、所有者でなければできない処分をしたと見られやすくなります。
もっとも、実際に一部を戻していた、返済のために動いていたといった事情は、処分を決める場面では意味を持ちます。犯罪が成立するかどうかという話と、どのような処分になるかという話は、分けて考えたほうが整理しやすいでしょう。
少額であることは、手続のどこで効いてくるのか
金額の小ささは、犯罪が成立するかどうかを左右するものではありません。ただ、手続の各段階では考慮されます。
警察の段階で処理される取扱い
被害が軽微で、被害が回復しており、被害者が処罰を求めていないといった事情がある事件については、検察官があらかじめ指定した基準に当たる場合に限り、警察が検察官に送致せずに処理する取扱いがあります(犯罪捜査規範198条)。ただし対象となる範囲は限られており、会社が被害届や告訴状を提出する方針であれば、この取扱いにはなりません。
起訴するかどうかの判断
検察官は、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の状況を考慮して、起訴しないことができるとされています(刑事訴訟法248条)。被害額の大きさ、弁償の有無、被害者の処罰感情は、ここで見られる事情です。同じ罪名でも、この段階で結論が分かれることは珍しくありません。
罰金で終わる道があるかどうか
窃盗罪には罰金刑の定めがあるため、簡易裁判所の略式手続によって罰金で終わる場合があります(刑事訴訟法461条)。一方、業務上横領罪と単純横領罪には罰金刑の定めがありません。そのため、起訴されれば公開の法廷での裁判になります。金額が小さくても、罪名によっては罰金で済ませる選択肢が制度上ないという点は、見落とされやすいところです。
会社の調査は、刑事手続とは別に進む
レジの事件では、警察が動くより先に、社内の聞き取りが始まることが多くあります。事情を尋ねられ、自宅待機を指示され、退職届や返済の誓約書に署名を求められることもあります。
これらは労働契約や民事上の問題であり、刑事手続とは別の流れです。ただし、署名した書面は、後に金額や事実関係を裏づける資料として扱われることがあります。その場に急かされる雰囲気があったとしても、書かれている金額と期間が自分の認識と合っているかを確かめてから対応することをおすすめします。
また、懲戒処分と刑事処分は別々に判断されるため、どちらか一方が終われば他方も終わる、というものではありません。会社との話がまとまっていても、被害届が出されれば捜査は進みます。
弁償と示談は、どの順番で進めるのか
被害の回復は、事件化を避けたい場面でも、処分を軽くしたい場面でも中心になります。順序としては、次のように考えると整理しやすいでしょう。
- 自分が行った範囲を時系列で書き出し、おおよその金額の見当をつける。
- 会社が示す金額の根拠となる資料を確認し、認められる部分とそうでない部分を分ける。
- 支払える金額と時期を検討する。一括が難しい場合は分割の可否もあわせて考える。
- 謝罪と弁償を申し入れ、合意できた内容を書面に残す。
- 受領の事実、清算の範囲、被害届や告訴の取扱いを書面上どう定めるかを確認する。
金額の見立てが固まらないうちに支払ってしまうと、後から追加の請求を受けたときに整理がつきにくくなります。一方で、支払いを先送りしているうちに会社が刑事手続に進むこともあり、どの時期に動くかは状況によって変わります。
被害者が店ではなく客である可能性がある場面では、誰に弁償するのかを整理してから動く必要があります。この点は、先に述べた場面の切り分けと結びついています。
いま整理しておくとよいこと
相談や交渉を進めやすくするために、次のことを手元でまとめておくとよいでしょう。
- 勤務先での自分の立場と、レジや売上金についてどこまで任されていたか。
- 自分が行ったことの時期、回数、おおよその金額。
- 会社から示された金額と、その根拠として説明された資料。
- 署名を求められた書面の内容と、すでに署名したものの写し。
- 会社からの連絡の日時と、やり取りの内容。
- 返済に充てられる資金の見込みと、家族に説明できる範囲。
まとめ
- レジの現金や釣銭を自分のものにした行為は、金額が小さくても犯罪として成立し得ます。
- 問われる罪名は、その現金の管理を任されていたかどうかによって、窃盗罪と業務上横領罪などに分かれます。
- 分かれ目は役職名ではなく、締め作業や金庫への入金など、実際の任され方です。
- 釣銭に関する場面では、店ではなく客が被害者と整理される余地があり、弁償の相手が変わることがあります。
- 少額かどうかは、1回の金額ではなく、回数、期間、合計額で見られます。
- レジ締めの過不足記録、操作履歴、シフト表、防犯カメラなどが突き合わされ、被害額が積み上げられます。
- 会社が示す金額に、自分が関与していない差異が含まれていることがあります。
- 金額の小ささは、警察段階での処理、起訴するかどうかの判断、量刑の場面で考慮されます。
- 業務上横領罪と単純横領罪には罰金刑の定めがなく、起訴されれば公開の法廷での裁判になります。
- 社内の調査と刑事手続は別に進むため、署名を求められた書面は内容を確かめてから対応することが大切です。
レジの現金・釣銭のことでお困りの方へ
レジの精算が合わないと指摘された段階では、まだ被害額も罪名も固まっていないことがほとんどです。この時期に、自分が行ったことを整理し、会社が示す金額の根拠を確認したうえで対応できるかどうかは、その後の流れに影響します。
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