【刑事事件・ストーカー事件】禁止命令を受けた事実は、就職や資格に影響する?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けた方から、「この先の就職や転職に響くのではないか」「持っている資格や、これから取りたい資格に影響はあるのか」というご相談をいただくことがあります。禁止命令は警察の手続のなかでも重い部類に入るため、前科がついたのと同じように考えて不安を抱える方も少なくありません。
 結論から申し上げると、禁止命令は刑罰ではないため、それだけで前科になるわけではなく、多くの仕事や資格に直接の制限がかかるものでもありません。ただし、一部の許可には禁止命令そのものが欠格事由として定められているほか、命令に違反した場合には刑事事件に移り、就職や資格への影響が大きくなるおそれがあります。この記事では、禁止命令の性質を確認したうえで、就職と資格のそれぞれについて影響が出る場面と出にくい場面を整理します。

この記事は、2025年12月に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)と、拘禁刑への刑罰の一本化を反映した内容で、2026年10月時点の法令に基づいています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な判断は弁護士にご相談ください。


禁止命令はどのような処分か

 禁止命令は、つきまとい等を繰り返すおそれがあると認められた人に対し、都道府県公安委員会が、つきまとい等をしないことなどを命じる処分です。警察署長などが出す「警告」が行政指導にとどまるのに対し、禁止命令は法的な義務を課す行政処分であり、原則として事前に聴聞の手続が行われます。
 有効期間は1年で、公安委員会が継続の必要があると判断したときは、さらに1年ずつ延長されることがあります。命令に違反すると刑罰の対象となる点が、警告との大きな違いです。

区分出す機関法的な性質違反したとき
警告警察本部長・警察署長行政指導警告違反そのものに罰則はない
禁止命令都道府県公安委員会行政処分刑罰の対象となる
刑事処分検察官・裁判所刑罰を科すかどうかの判断有罪が確定すれば前科となる


 警告から禁止命令に進む流れや違反時の刑罰については、禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新でも解説しています。

禁止命令は前科・前歴になるのか

 前科とは、刑事裁判で有罪判決を受け、それが確定した経歴をいいます。禁止命令は公安委員会による行政処分であり、裁判所が刑罰を言い渡すものではないため、禁止命令を受けただけで前科がつくことはありません。
 前歴は、被疑者として捜査の対象になった経歴を指す言葉として使われます。禁止命令の手続そのものは犯罪の捜査ではないため、禁止命令だけで前歴になるとは一般に考えられていません。もっとも、同じ一連の出来事のなかで、ストーカー行為として逮捕されたり、取調べを受けたりしていれば、その捜査の経歴は禁止命令とは別に前歴として残ります。
 また、前科や前歴にあたらないとしても、警告や禁止命令を出した経緯、聴聞の記録などは警察に保管されます。この記録は外部に公開されるものではありませんが、後に同じ相手とのトラブルが起きたときには判断の材料となることがあります。前科と前歴の違いや記録が残る場所については、前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面をご覧ください。

就職・転職への影響


履歴書の賞罰欄に書く必要はあるか

 履歴書の賞罰欄にいう「罰」は、確定した有罪判決、つまり前科を指すと考えるのが一般的です。禁止命令は刑罰ではないため、賞罰欄に記載すべき事項には通常あたりません。
 一方で、応募先から具体的な質問を受けた場合の答え方は、別に考えておく必要があります。事実と異なる回答をすると、後に経歴の詐称として問題にされるおそれがあるため、聞かれたときにどこまでをどう説明するかは、事前に整理しておくと落ち着いて対応できます。

勤務先や応募先に知られる経路

 警察や公安委員会が、禁止命令を受けた人の勤務先や応募先に、その事実を知らせる制度はありません。2025年の法改正では、被害を受けた側の勤務先や学校が援助の努力義務を負う主体に加えられましたが、これは被害者を支える仕組みであり、命令を受けた側の勤務先に通知するものではありません。
 ただし、相手が同じ職場や取引先にいる場合、命令の内容によっては相手の勤務先付近に近づくことが禁じられ、仕事の進め方そのものに影響が出ることがあります。また、共通の知人やインターネット上の書き込みを通じて事情が伝わる可能性は否定できません。身辺調査で分かる範囲については、身辺調査で前科前歴はどこまで分かるのかで詳しく扱っています。

公務員・教員などの場合

 国家公務員法や地方公務員法が定める欠格事由は、拘禁刑以上の刑に処せられたことなどであり、禁止命令を受けたことは含まれていません。教員免許の欠格事由も同様に刑罰を基準としています。弁護士ドットコムにも、数年前に受けた禁止命令が公務員試験に影響するかを尋ねる相談が寄せられていますが、禁止命令だけを理由に受験資格が失われる仕組みにはなっていません。
 ただし、すでに公務員として働いている方の場合、刑事処分に至らない行為であっても、信用を損なう行為として懲戒が検討される可能性があります。民間企業でも、就業規則の定め方によっては同様の検討がされることがあります。なお、子どもと関わる仕事で導入される日本版DBSで確認の対象となるのは特定の性犯罪の前科であり、禁止命令は対象に含まれていません。制度の概要は【風俗トラブル】日本版DBSは示談交渉にどう影響するのか|子どもと関わる仕事の方が押さえたい分かれ目で解説しています。

資格・許可への影響

 医師、看護師、宅地建物取引士、士業などの多くの国家資格は、欠格事由を「一定の刑に処せられたこと」として定めています。そのため、禁止命令を受けただけで、これらの資格を取れなくなったり、失ったりすることは通常ありません。
 例外として注意したいのが、銃砲刀剣類の所持許可です。銃砲刀剣類所持等取締法は、ストーカー行為をして警告や禁止命令を受けた日から3年を経過していない人を、所持許可を受けられない人として定めています。狩猟や射撃競技に関わる方は、禁止命令がそのまま許可に影響することになります。すでに許可を受けている方も、許可の取消しが検討される場合があるため、所轄の警察署に確認しておくことが大切です。

場面禁止命令だけの場合禁止命令に違反して有罪となった場合
履歴書の賞罰欄通常は記載事項にあたらない記載が必要となる
公務員・教員の欠格事由該当しない刑の内容によって該当する
多くの国家資格通常は影響しない資格ごとの欠格事由を確認する必要がある
銃砲刀剣類の所持許可命令を受けた日から3年間は許可を受けられない上記に加え、刑の内容によっては別の欠格事由にも該当しうる


 資格ごとの欠格事由の読み方は資格・免許はどうなるのか|医師・看護師・教員・宅建・運転免許の欠格事由の読み方、刑の執行猶予との関係は執行猶予期間が満了したら資格制限は消えるのかで整理しています。

影響が大きくなるのは、命令に違反したとき

 禁止命令を受けた後に命令に違反すると、刑事事件として扱われます。命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、ストーカー行為に至らない違反でも6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。
 起訴されて有罪となれば、罰金であっても前科となり、資格の欠格事由に該当したり、履歴書への記載が必要になったりする場面が出てきます。就職や資格への影響を抑えるうえで最も大切なのは、有効期間中はもちろん、期間が終わった後も相手への接触を控え、新たな問題を生じさせないことです。謝罪や命令の取り下げを相手に直接頼む連絡も、つきまとい等にあたるおそれがあるため避けてください。刑事事件に進んだ場合の分かれ目は、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合でも説明しています。

禁止命令を受けた後に整えておきたいこと


  • 命令書を保管し、禁止されている行為の範囲と有効期間を確認しておきます。
  • 相手への連絡は、謝罪や取り下げのお願いを含めて控えます。
  • 延長の手続で聴聞の通知が届いたときは、述べたい事情と裏付けとなる資料をまとめておきます。
  • 応募先や勤務先から尋ねられた場合に備えて、説明の範囲と言い方を整理しておきます。
  • 資格や許可の申請を予定している場合は、その資格の欠格事由を事前に確認します。


 延長の際の聴聞で何を述べるかについては、【ストーカートラブル】禁止命令の前の聴聞に呼ばれた|聴聞で述べることも参考になります。

よくあるご質問


禁止命令の期間が終われば、記録は消えますか

 有効期間が終われば命令の効力はなくなりますが、警察が保管している記録が直ちに削除されるわけではありません。ただし、その記録が勤務先などの第三者に提供されることはなく、期間が終わった後の就職活動で問題になる場面は限られます。

禁止命令に納得できない場合はどうすればよいですか

 禁止命令は行政処分であるため、行政不服審査法に基づく審査請求や、取消しを求める訴訟の対象になると考えられます。審査請求は処分があったことを知った日の翌日から3か月以内、取消訴訟は原則として6か月以内という期間の制限があるため、検討する場合は早めにご相談ください。

警告だけの場合も、就職に影響しますか

 警告は行政指導であり、禁止命令と同じく前科にはあたりません。ただし、銃砲刀剣類の所持許可については、ストーカー行為をして警告を受けた場合も欠格事由に含まれています。警告を受けた場合の見通しは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで解説しています。

今後の仕事や資格について迷ったときは

 禁止命令を受けたことは、それだけで就職や資格の道を閉ざすものではありませんが、命令の内容、相手との関係、目指している仕事や資格によって、気をつけるべき点は変わります。命令を守りながら仕事を続けるための工夫や、延長の聴聞への備え、応募先への説明の仕方などは、早い段階で整理しておくほど落ち着いて判断できます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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