身辺調査で前科前歴はどこまで分かるのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「身辺調査をされることになったが、過去の事件のことは分かってしまうのか」。結婚を控えた方や、転職の選考が進んでいる方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

 結論から申し上げると、前科や前歴の記録そのものを、私人が公的機関に照会して取り寄せる手続は用意されていません。他方で、報道やインターネット上に残った情報、周囲の人の記憶といった経路から、過去の事件が伝わることはあります。つまり「記録が外に出るか」と「事実が伝わるか」は、別の話として考える必要があります。

 この記事では、身辺調査と呼ばれているものが何を指しているのかを整理したうえで、前科・前歴がどの経路でどこまで伝わり得るのか、そして調べる側にはどのような法律上の枠がかかっているのかを、条文に沿って確認していきます。

「身辺調査」と呼ばれているものは一つではない

 身辺調査という言葉は法律用語ではなく、性質の異なるものが同じ名前で呼ばれています。まず、この整理から始めます。

  • 私的な調査。結婚や交際の前に相手のことを知りたい、採用選考で応募者の説明を確かめたいといった場面で、依頼者自身または依頼を受けた事業者が行うものです。
  • 探偵業者への依頼。探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)の届出をした事業者が行う調査で、後述のとおり法律上の枠がかかっています。
  • 法令に基づく確認。犯罪歴の確認手続が法律で定められている場面で、対象も期間も使い道も条文で限定されています。


 この三つは、前科・前歴との関係で性質が異なります。三つ目だけが法律上の根拠を持って犯罪歴を確認できる仕組みであり、一つ目と二つ目は、記録そのものにたどり着く手段を持っていません。以下、その理由を記録の側から見ていきます。

前科・前歴の記録を外部から取り寄せる手続はない


検察庁が管理している犯歴

 有罪の裁判が確定した記録は、法務省の訓令である犯歴事務規程に基づいて検察庁が管理しています。この規程の13条1項は、検察官または検察事務官が、刑事事件について、他の検察庁の犯歴担当事務官に対して特定の者の有罪確定の有無を照会する場合の方法を定めたものです。

 ここで押さえておきたいのは、この規定は「第三者の照会を禁止している」というより、そもそも第三者が請求できる手続を置いていないという点です。窓口があって断られるのではなく、窓口自体が制度として存在しません。同じ規程の14条が定める身上調査照会も、検察官等が市区町村長に身分関係を照会する場合の書式を定めた内部手続です。

市区町村の犯罪人名簿

 罰金以上の刑に処する裁判が確定すると、検察庁から本籍地の市区町村長へ通知がされ、市区町村では犯罪人名簿が作られます。用途は選挙権・被選挙権の確認と、法令に基づく資格調査への回答に限られており、一般の閲覧に供されるものではありません。

 なお犯歴事務規程3条3項は、この通知の対象から道路交通法違反等に係る一定の裁判などを除いており、罰金の前科があっても犯罪人名簿には載らない類型があります。

前歴はそもそも一覧になっていない

 前歴、すなわち捜査の対象になったという経歴は、有罪の裁判が確定した記録ではありませんから、検察庁の犯歴にも犯罪人名簿にも記載されません。捜査機関の内部記録として残りますが、これも第三者が請求できる仕組みは置かれていません。

 あわせて確認しておくと、前科は戸籍にも住民票にも記載されません。官報に掲載されるのは破産手続開始の決定など別の事項であり、前科が公告されることはありません。したがって、これらの書類を取り寄せて過去の事件を確かめる、という調べ方は成り立ちません。

それでも伝わるのは「公になった情報」

 記録に手が届かないのであれば、身辺調査で何が分かるのか。実際に用いられているのは、いったん公になった情報と、人が覚えている情報です。経路ごとに性質と限界を整理すると、次のようになります。

情報の出どころ伝わり方と限界
逮捕・起訴時の報道実名で報じられれば広く伝わる。報じられるかどうかは事件ごとに異なり、報道がなければこの経路は生じない。
報道記事の転載・書き込み元記事が削除された後も、転載先や掲示板に残ることがある。氏名で検索して初めて出てくる形が多い。
裁判の公開と確定記録傍聴は誰でもできるが、氏名から過去の事件を検索する仕組みはない。記録の閲覧にも後述の制限がある。
周囲の人の記憶と伝聞過去の勤務先、同級生、以前の居住地の近隣などから断片が出ることがある。正確さは担保されない。
本人が話した内容面接での回答、誓約書や同意書への記載、本人や家族が過去に語った内容。実務上、これが出発点になることが多い。


制度上の重さと、実際に伝わる量は一致しない

 ここに一つのねじれがあります。制度上重く扱われている記録ほど外に出ず、前科にならない段階の情報のほうが広く伝わっている、という逆転です。

 逮捕は有罪の確定ではありませんから、その後に不起訴となれば前科はつきません。しかし逮捕の時点で報道されていれば、その記事は残ります。反対に、報道されなかった罰金の前科は、検察庁と市区町村に記録がありながら、外部に伝わる経路をほとんど持ちません。「前科があるかどうか」ではなく「自分について何が公になっているか」で考えたほうが、実態に近い見取り図が得られます。

裁判の記録は誰でも見られるのか

 刑事訴訟法53条1項は、何人も被告事件の終結後に訴訟記録を閲覧することができると定めています。確定後の記録は第一審の裁判所に対応する検察庁の保管検察官が保管し、刑事確定訴訟記録法4条1項により、請求があったときは閲覧させなければならないとされています。制度の建前としては、たしかに開かれています。

 もっとも同条2項は、訴訟関係人や閲覧について正当な理由があると認められる者からの請求である場合を除き、次の場合には閲覧させないものとしています。

  • 弁論の公開を禁止した事件の記録であるとき。
  • 被告事件が終結した後3年を経過したとき(終局裁判の裁判書を除きます)。
  • 閲覧させることが公の秩序または善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
  • 閲覧させることが犯人の改善および更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
  • 閲覧させることが関係人の名誉または生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。


 第三者が過去の事件を調べる目的で閲覧を求める場面では、2番目の3年という区切りと、4番目・5番目の事由が実際に働きます。判決書は3年経過後も対象から外れませんが、それ以外の記録は原則として閲覧させない扱いになります。

 加えて実務上の壁があります。どの裁判所でいつの事件だったのかが分からなければ、記録にたどり着けません。氏名を手がかりに刑事事件を横断検索できる仕組みは用意されていないため、事件の存在をすでに知っている場合の確認には使えても、事件があったかどうかを一から探す用途には向きません。

調べる側にかかっている枠


探偵業法が定めていること

 探偵業法にいう探偵業務とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在または行動についての情報を収集する目的で、面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その結果を依頼者に報告する業務をいいます。営業には営業所ごとに都道府県公安委員会への届出が必要で、欠格事由、名義貸しの禁止、秘密の保持、従業者名簿と標識の備付けなどが定められています。

 ここで注意したいのは、この定義が所在と行動を中心に組み立てられていることです。過去の経歴を資料から洗い出す作業は、定義に真正面から当てはまるとは限りません。届出をしている事業者だから経歴調査も当然に適法に行える、という関係にはならない、ということです。

 同法6条も、他の法令で禁止または制限されている行為ができることになるものではないと明記しています。届出は、他の法律の制約を外す免許ではありません。

依頼する側にも義務がある

 見落とされがちですが、探偵業法7条は、探偵業者が契約を締結しようとするときに、依頼者から、調査の結果を犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いない旨を示す書面の交付を受けなければならないと定めています。義務を負うのは業者ですが、書面を出すのは依頼者です。

 さらに同法9条は、調査結果が違法な行為に用いられることを知ったときは当該探偵業務を行ってはならないとし、業者以外への委託も禁じています。公安委員会の指示や営業停止命令等を受けた業者は都道府県警察等のウェブサイトで一定期間公表されており、依頼を検討する側の手がかりになります。

個人情報保護法と、採用の場面

 犯罪の経歴は、個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたります(2条3項)。同法20条2項により、原則として本人の同意を得ないで取得してはならないとされ、27条により本人の同意のない第三者提供も原則として禁じられています。前の勤務先に問い合わせても回答が得られないことが多いのは、この制約があるためです。

 最高裁判所昭和56年4月14日判決も、前科等は人の名誉・信用に直接かかわり、みだりに公開されない法律上の保護に値する利益があるとしています。採用選考については、厚生労働省が事業主に対し、就職差別につながるおそれのある事項として身元調査を行わないよう求めています。なお履歴書の賞罰欄に何を書くべきかは、調べられ方ではなく聞かれ方の問題ですので、別の記事で扱います。

法令に基づいて犯罪歴が確認される場面

 これまで述べてきた私的な調査とは別に、法律が犯罪歴の確認手続を定めている場面があります。代表的なものが次の二つです。

  • こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認。2026年12月25日の施行が予定されており、確認できるのは特定の性犯罪の前科に限られ、前歴や不起訴は対象になりません。
  • 重要経済安保情報保護活用法に基づく適性評価。2025年5月16日に施行され、調査事項の一つに犯罪および懲戒の経歴に関する事項が含まれています。同種の仕組みは特定秘密保護法にも置かれています。


 これらに共通しているのは、本人の同意を前提とし、対象・期間・使い道が法律で限定されている点です。適性評価では、対象者が苦情を申し出ることができ、申し出たことを理由に不利益な取扱いを受けないことも定められています。私的な身辺調査との違いを表にすると、次のようになります。

項目私的な身辺調査法令に基づく確認
根拠依頼と契約法律の条文
本人の同意求められないことがある前提とされている
情報源公になった情報と聞き取り法定の手続による確認
範囲限定されていない対象・期間が条文で限定


公務員や警察官の採用について語られていること

 親族の前科まで調べられる、といった説明を目にすることがありますが、採用選考でどのような調査が行われているかについて、公表された基準があるわけではありません。したがって、こうした話については、あるともないとも断定的に述べることは避けるべきだと考えます。確かなのは、私人が犯歴の記録そのものを取り寄せる手続は置かれていない、という制度の側の事実です。

調べられる側として、できること

 不安を抱えたまま推測を重ねるより、確かめられるところから手をつけるほうが現実的です。

  1. 自分の氏名で検索し、何が出てくるかを実際に確認します。出てこないのであれば、その経路からは伝わりません。
  2. 出てきた場合は、報道機関の元記事なのか、転載や書き込みなのかを分けて把握します。相手も手続も別になります。
  3. 署名を求められた同意書や調査への承諾書の文面を読み、何に同意することになるのかを確かめます。
  4. 事業者が自分の情報を持っている場合は、個人情報保護法33条に基づく開示請求という手段があります。
  5. 過去の事件を持ち出して金銭や関係の継続を求められた場合は、調査の問題ではなく脅迫や恐喝の問題として扱う必要があります。


 検索結果や記事の削除を求められるかどうかは、それ自体が独立した判断枠組みを持つ問題です。判断の材料は別の記事にまとめています。

誤解されやすい点


  • 戸籍謄本や住民票を取り寄せても前科は分かりません。官報にも掲載されません。
  • 刑の言渡しの効力が消滅しても、過去の報道記事が自動的に消えるわけではありません。記録の問題と情報の問題は別です。
  • 不起訴になっても、逮捕時に報道されていれば記事は残ります。前科がないことと、何も出てこないことは同じではありません。
  • 「前科も調べられます」という説明は、公的機関に照会できるという意味ではありません。公になった情報の照合を指しているのが通常です。
  • 家族の犯歴が、本人の手続に伴って自動的に照会される仕組みは置かれていません。


まとめ

 身辺調査で前科・前歴がどこまで分かるのかという問いは、二つに分けると見通しがよくなります。記録に手が届くかという問いに対しては、私人が請求できる手続は用意されていない、というのが制度の答えです。もう一つ、事実が伝わるかという問いに対しては、報道やインターネット上に残った情報、周囲の記憶という経路が現に存在する、というのが実態の答えです。

 そして、その二つは重なりません。制度上重い記録ほど外には出ず、前科にならない段階の情報のほうが広く残っている、という逆転が起きています。ご自身の状況を見立てるときは、前科の有無ではなく、自分について何が公になっているかを起点に考えていただくのがよいと思います。

 捜査を受けている段階であれば、どの処分で終わるかによって、その後に残るものが変わります。判断に迷う点があれば、早い段階で弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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