取調べに弁護人は立ち会えるのか
本記事は、2025年(令和7年)のストーカー規制法改正と、2026年5月に警察庁が示した同法の解釈・運用に関する通達の内容を踏まえて作成しています。刑罰は、2025年6月以降の「拘禁刑」の表記で記載しています。
ストーカー規制法に基づく警告を受けた後、「通勤経路の途中に相手の家がある」「最寄り駅が同じで、毎日その近くを通らざるを得ない」という悩みを抱える方は少なくありません。通るだけで違反になるのではないかと、不安を感じている方もいるでしょう。
先にお伝えすると、通勤のために相手の家の近くを通過すること自体が、直ちにストーカー規制法の「つきまとい等」にあたるわけではありません。ただし、通り方や時間帯、警告に至るまでの経緯によっては、相手や警察から「見張り」や「うろつき」と受け止められるおそれがあります。
この記事では、警告の意味と規制される行為の中身を確認したうえで、通勤で近くを通る場合に気をつけておきたい点と、警察から連絡が来たときの対応について解説します。
警告で禁じられているのは「同じ行為を繰り返すこと」
警察署長などが出す警告は、ストーカー規制法4条に基づき、「更に反復して当該行為をしてはならない」旨を伝えるものです。警察庁の通達では、ここでいう「当該行為」は、実際に問題となった行為の類型に限らず、法が定める「つきまとい等」と「位置情報無承諾取得等」の全ての類型を含むものとして扱う運用が示されています。たとえば、警告のきっかけが連続したメッセージの送信であったとしても、警告後に相手の自宅付近で見張りをすれば、警告に反する行為と評価されることがあります。
なお、2025年の法改正により、警告は被害者からの申出がなくても、警察の職権で出せるようになりました。相手が自分で申し出たかどうかにかかわらず、警察が状況を把握している前提で行動する必要があります。
警告そのものには罰則はありません。ただ、警告後に同様の行為が続けば、公安委員会による禁止命令や、ストーカー行為罪での検挙に進むことがあります。主な段階と扱いを整理すると、次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 違反したときの扱い |
|---|---|---|
| 警告 | 同じ行為を繰り返さないよう警察署長等が伝える行政上の措置 | 警告違反そのものに罰則はないが、禁止命令や検挙のきっかけになり得る |
| 禁止命令等 | 公安委員会が反復を禁じる命令。有効期間は1年で、延長されることもある | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| ストーカー行為罪 | つきまとい等を反復して行った場合に成立する犯罪 | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金) |
通勤で近くを通ることは、法律上どう評価されるか
ストーカー規制法2条1項1号は、住居、勤務先、学校など(「住居等」)の付近での「見張り」と、住居等の付近を「みだりにうろつく」行為を規制しています。通勤で相手の家の近くを通る場合に問題となり得るのは、主にこの2つです。
「見張り」と「うろつき」の意味
警察庁の通達では、それぞれ次のように説明されています。
- 見張り=一定時間継続的に動静を見守ること。
- うろつく=あてもなく移動する、うろうろすること。
- みだりに=「正当な理由なく」よりやや広く、社会的相当性がない態様によること。
- 付近=見張りやうろつきが、相手の身体の安全や住居等の平穏が害される不安を覚えさせるものである範囲。
駅へ向かう途中に相手の家の前の道を一定の速度で通り過ぎるだけであれば、「一定時間継続的に動静を見守る」とも「あてもなく移動する」とも言いにくく、通勤という目的もはっきりしています。この意味で、通過するだけの行為が、それだけで見張りやうろつきにあたる可能性は高くないと考えられます。
行為の「目的」も問われる
つきまとい等にあたるには、外から見た行為に加えて、相手への恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を「充足する目的」で行われたことが必要です。以前から使っている道を、出勤のために通る場合には、こうした目的があると見られる事情は通常乏しいでしょう。
もっとも、目的は内心の問題であるため、外から見える行動によって推し量られます。同じ道を通るにしても、相手の家の前で足を止める、窓や玄関の方を見続けるといった行動があれば、通勤とは別の目的があるのではないかと疑われやすくなります。
警告を受けた後は、評価が厳しくなりやすい
警察庁の通達は、相手に「不安を覚えさせるような方法」かどうかを判断する際、行為者と相手の人的関係、行為の具体的な態様、同種の行為の回数や頻度に加えて、警告や禁止命令等との先後関係なども総合的に考慮するとしています。警告を受ける前であれば気に留められなかった行動でも、警告後には、相手に不安を与えるものと受け止められやすくなるということです。
相手の側も、警告後は周囲に注意を払っていることが多く、家の近くで姿を見かけただけで警察に相談することは十分に考えられます。
問題になりやすい通り方・なりにくい通り方
同じ「通勤で近くを通る」でも、具体的な行動によって受け止められ方は変わります。目安を整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 問題になりにくい例 | 問題になりやすい例 |
|---|---|---|
| 経路 | 以前から使っている経路をそのまま通る | 警告後に、わざわざ相手の家の前を通る経路に変える |
| 通り方 | 立ち止まらず、一定の速度で通過する | 家の前で立ち止まる、速度を落とす、何度も振り返る |
| 時間帯 | 始業・終業の時刻に合わせた通常の時間に通る | 相手の出勤や帰宅の時間に合わせて、通る時間をずらす |
| 回数 | 出勤と帰宅の往復程度 | 用事がないのに、休日や夜間にも付近を通る |
| 周辺での行動 | 駅や勤務先へそのまま向かう | 近くの店舗や公園で時間をつぶす、家の様子を撮影する |
特に注意したいのは、相手の行動時間に合わせることと、付近にとどまることです。これらは「見張り」や「待ち伏せ」と評価されるおそれがあり、通勤という説明が受け入れられにくくなります。
また、2021年の法改正以降は、住居や勤務先だけでなく、相手が実際にいる場所の付近での見張りなども規制の対象とされています。駅のホームや通勤の途中で相手を見かけた場合に、近づいたり、後をついて行ったりしないことも大切です。
通勤経路について、警告を受けた方が考えておきたいこと
無理のない範囲で別の経路を検討する
多少遠回りになっても、相手の家の前を通らない経路を選べるのであれば、それが誤解を避けやすい方法です。数分の違いで済むのであれば、経路を変えることを検討するとよいでしょう。一本隣の道を使うだけでも、相手が姿を見かける機会は減らせます。
避けられない場合は「通過するだけ」を意識する
最寄り駅が同じ、ほかに道がないなど、どうしても近くを通る必要がある場合は、次の点を意識しておくことが考えられます。
- 立ち止まらず、家の方を見ずに通過すること。
- 通る時間帯を相手の生活時間に合わせないこと。
- 付近の店舗や公園で時間を過ごさないこと。
- 相手や相手の家族を見かけても、声をかけたり近づいたりしないこと。
- 通勤以外の目的で付近に立ち寄らないこと。
通勤のためだと説明できる材料を残しておく
相手が警察に「家の近くで見かけた」と相談した場合に備えて、通勤で通っていることを客観的に示せる資料を手元に残しておくことも考えられます。たとえば、交通系ICカードの利用履歴や定期券の区間、勤務先の始業・終業時刻が分かる資料、以前からその経路を使っていたことが分かる記録などです。
引っ越しや勤務先の変更は慎重に判断する
相手の家がすぐ近くにある場合、引っ越しを考える方もいます。転居するかどうかは生活全体に関わる判断であり、警告を受けたからといって法律上の義務になるわけではありません。住まいが近い場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手の家の近くに住んでいる|引っ越すべきかの判断でも解説しています。
仕事の関係で、通勤経路だけでなく業務の上でも相手との接点が残る場合については、【ストーカートラブル】仕事上、相手と接点が残る|取引先・同じ業界の場合もあわせてご覧ください。
警察から連絡が来たときの対応
相手が家の近くで見かけたことを警察に伝えると、警察から事情を聞きたいと連絡が来ることがあります。このとき、慌てて相手に直接連絡して事情を説明しようとするのは避けてください。警告後の連絡は、それ自体が新たなつきまとい等と受け止められるおそれがあります。
警察に対しては、通勤経路であること、立ち止まったり相手の様子をうかがったりしていないことを、落ち着いて具体的に伝えることが大切です。先に挙げたICカードの利用履歴などがあれば、説明の裏付けになります。任意の事情聴取に応じる際の準備は、【ストーカートラブル】任意で事情を聞きたいと言われた|応じる場合の準備で整理しています。
警告後の行動を理由に禁止命令が検討される場合には、原則として事前に聴聞の手続がとられます。聴聞では自分の言い分を述べる機会があるため、通勤で通っているだけであることを、資料とともに説明することになります。聴聞での対応については、【ストーカートラブル】禁止命令の前の聴聞に呼ばれた|聴聞で述べることをご参照ください。
問題が起きる前に弁護士へ相談しておく意味
通勤経路が相手の家の近くにあることが最初から分かっている場合、何も起きていない段階で弁護士に相談し、経路の選び方や記録の残し方を確認しておくことも一つの方法です。事情によっては、弁護士を通じて警察に通勤経路の事情をあらかじめ伝えておくことを検討する場合もあります。ただし、伝え方によっては相手の不安を強めることもあるため、誰に何をどこまで伝えるかは、個別の事情を踏まえて判断する必要があります。
警告や検挙がその後の処分にどうつながるかについては、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合で解説しています。
よくあるご質問
警察から「自宅には近づかないように」と言われた場合も、通勤で通ってはいけませんか
警告の際の警察官の説明は、事案によって異なります。「近づかないように」と伝えられている場合は、警察がそうした行動に特に注意を向けていると考えられるため、通過するだけであっても慎重さが求められます。通勤経路がどうしても重なる場合は、早い段階で弁護士に相談し、警察への説明の仕方も含めて確認しておくと安心です。
車や自転車で通る場合も同じ考え方ですか
基本的な考え方は同じです。ただ、車は徐行や停車をすると目立ちやすく、相手の家の周りを繰り返し走ることが「うろつき」にあたるかが問題になる場面もあります。車での通過に関する考え方は、【ストーカートラブル】相手の車が家の周りを走っている|うろつきとして扱えるかも参考になります。
一度通っただけで逮捕されることはありますか
通勤で一度近くを通過しただけで、直ちに逮捕に至ることは通常考えにくいところです。ストーカー行為罪は、つきまとい等を「反復して」行うことが要件とされています。もっとも、警告に至るまでの行為の内容や、警告後のほかの行動とあわせて評価されることもあるため、一回だから問題ないと言い切れるわけではありません。つきまとい等とストーカー行為の違いは、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで詳しく説明しています。
相手が転居して、通勤経路の近くに住むようになった場合はどうですか
相手の転居によって、結果的に通勤経路の近くに相手の家がある状態になった場合も、通勤で通過すること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、相手の新しい住所を知った経緯が問われることがあります。2025年の法改正では、警告を受けた人などがストーカー行為等をするおそれがあると知りながら、相手の住所や通勤経路などの情報を提供することを禁じる規定も設けられました。相手の転居先を調べたり、共通の知人から聞き出したりすることは、新たな問題につながるおそれがあるため避けてください。
通勤経路に迷ったら、早めにご相談ください
警告を受けた後の生活では、普段どおりの行動であっても、相手からどう見えるかを意識する必要があります。通勤で相手の家の近くを通ること自体は直ちに違反になるわけではありませんが、通り方や時間帯によっては誤解を招くおそれがあります。経路の選び方や警察への説明に迷う場合は、問題が起きる前の段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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