刑事と並行して民事で訴えられた|どちらを先に進めるべきか
刑事裁判で証人尋問が行われることになったとき、誰が、どの順番で、何を尋ねるのかが気になります。自分が証言台に立つことになった方からも、法廷を傍聴するご家族からも、同じご質問をいただきます。
証人尋問の進み方は、その場の判断で決まっているわけではありません。刑事訴訟法と刑事訴訟規則に、尋問の順序と、それぞれの尋問で尋ねることができる事項の範囲が定められています。誰がどこまで聞けるのかが決まっているということは、聞かれる内容にも一定の枠があるということです。
この記事では、主尋問、反対尋問、再主尋問という順序と、それぞれの場面で何が行われるのかを、条文に沿って整理します。
この記事で扱うこと
- 刑事裁判の証人尋問について、尋問の順序と、それぞれの尋問で尋ねられる事項の範囲を扱います。
- 証人として出頭する人が負う義務と、証言を拒むことができる場面を扱います。
- 法廷で証人の負担を軽くするために用意されている仕組みを扱います。
- 公判全体の流れ、被告人質問、量刑の決まり方は扱いません。
進行は事件の内容や裁判所によって異なります。以下は一般的な説明であり、個別の事件の見通しを示すものではありません。
証人尋問が行われるのはどのような場面か
証拠調べ手続では、検察官が証拠の取調べを請求し、弁護人がこれに意見を述べます。捜査段階で作成された供述調書は、双方が証拠とすることに同意すれば取り調べられますが(刑事訴訟法326条1項)、同意しなかった場合、請求した側は請求を取り下げるか、供述した人を証人として尋問するよう請求することになります。証人尋問が入る一つ目の入口がこれです。
もう一つは、弁護側が請求する立証です。事実に争いのない事件で、家族や勤務先の方が情状に関する証人として証言する場面がこれにあたります。第1回公判期日の全体の流れは、別の記事で扱っています。
尋問の順序は条文で決まっている
条文の建前では、証人はまず裁判長または陪席の裁判官が尋問し、検察官と被告人または弁護人はその後に尋問するとされています(法304条1項、2項)。もっとも、裁判所は双方の意見を聴いて尋問の順序を変更することができるとされており(同条3項)、当事者が先に尋問する方式が実務では通例となっています。この方式は交互尋問と呼ばれ、その詳しい手順は昭和32年の規則改正で整えられました。
訴訟関係人がまず証人を尋問するときの順序は、次のとおりです(刑事訴訟規則199条の2第1項)。
| 尋問の種類 | 尋問する人 | 尋ねることができる事項 |
|---|---|---|
| 主尋問 | 証人の尋問を請求した側 | 立証すべき事項及びこれに関連する事項 |
| 反対尋問 | 相手方 | 主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項、供述の証明力を争うために必要な事項 |
| 再主尋問 | 証人の尋問を請求した側 | 反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項 |
| 補充尋問 | 裁判長・陪席の裁判官 | 範囲についての定めは置かれていない |
検察官が請求した証人であれば検察官が主尋問を、弁護人が請求した証人であれば弁護人が主尋問を担当します。どちら側が呼んだ証人かによって、誰が最初に質問するかが変わるという点が、順序を理解する出発点になります。
主尋問──立証すべき事項を尋ねる
主尋問は、立証すべき事項及びこれに関連する事項について行います(規則199条の3第1項)。証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋ねることができるとされています(同条2項)。
誘導尋問が原則として禁止される
主尋問では、誘導尋問をしてはならないとされています(規則199条の3第3項本文)。誘導尋問とは、尋ねる側が望む答えが質問の中に示されている尋ね方をいい、「はい」か「いいえ」で答えられる形になっていることが多いものです。
主尋問を行うのは証人を呼んだ側であり、両者の関係は友好的であることが多いため、示された内容にそのまま合わせた答えが出てしまうおそれがあります。禁止の理由はこの点にあるとされています。
例外として誘導尋問が許される場合
もっとも、次の場合には誘導尋問をすることができるとされています(規則199条の3第3項各号)。
- 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先立って明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
- 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき。
- 証人の記憶が明らかでない事項について、その記憶を喚起するため必要があるとき。
- 証人が主尋問者に対して敵意または反感を示すとき。
- 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。
- 証人が前の供述と相反するか、または実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。
- その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。
あわせて、誘導尋問をするにあたっては、書面を朗読するなど供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるよう注意しなければならないとされ(同条4項)、裁判長は相当でないと認めるときは制限することができるとされています(同条5項)。
反対尋問──主尋問に現れた事項を確かめる
反対尋問は、主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項と、証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行います(規則199条の4第1項)。特段の事情がない限り、主尋問が終わった後すぐに行うこととされています(同条2項)。証言の記憶が新しいうちに確かめるという趣旨です。
誘導尋問をすることができる
反対尋問では、必要があるときは誘導尋問をすることができます(規則199条の4第3項)。尋ねる側と証人が友好的な関係にはないため、示された内容に合わせた答えが出るおそれが小さいと考えられているからです。ここでも、裁判長は相当でないと認めるときは制限することができます(同条4項)。
新しい事項を持ち出すには許可がいる
反対尋問の機会に、自分の主張を支持する新たな事項について尋ねたい場合は、裁判長の許可を受ける必要があります(規則199条の5第1項)。許可を受けて行う尋問は、その事項についての主尋問とみなされ(同条2項)、誘導尋問の制限も主尋問と同じ扱いになります。
また、供述の証明力を争うための尋問は、観察、記憶、表現の正確性といった証言の信用性に関する事項と、利害関係、偏見、予断といった証人自身の信用性に関する事項について行うものとされ、みだりに証人の名誉を害する事項に及んではならないとされています(規則199条の6)。
証言が捜査段階の調書と食い違ったとき
法廷での証言が、検察官の面前で作成された調書と相反するか、実質的に異なる場合、その調書を証拠とすることが求められることがあります。この場合、調書の方を信用すべき特別の情況があるときに限って証拠にできるとされています(法321条1項2号後段)。
このほか、証言の証明力を争うために、その人が以前に述べた食い違う内容の書面が用いられることもあります(法328条)。判例は、この方法で用いることができるのは、その人自身の食い違う供述に限られるとしています。
再主尋問──反対尋問に現れた事項に限られる
再主尋問は、反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(規則199条の7第1項)。反対尋問で揺らいだ点や、言葉が足りないまま終わった点を確かめ直す場面です。
ここで見落とされやすいのは、再主尋問は主尋問のやり直しではないという点です。反対尋問で触れられなかった話題を新たに持ち出すことはできません。また、再主尋問には主尋問の例が準用されるため(同条2項)、誘導尋問は原則として禁止されます。
再主尋問の後にさらに尋ねたい事項があるときは、裁判長の許可を受けて尋問することになります(規則199条の2第2項)。相手方が再び尋ねる場面は再反対尋問と呼ばれますが、行われないことも少なくありません。
補充尋問と、被害者参加人による尋問
当事者の尋問が終わった後、裁判長や陪席の裁判官が尋ねることがあります。実務では補充尋問と呼ばれています。裁判長は、必要と認めるときは訴訟関係人の尋問を中止させ、自ら尋問することもできます(規則201条1項)。
被害者参加の許可を受けた方が証人を尋問する場合もあります。この尋問は、情状に関する事項について証人の供述の証明力を争うために必要な事項に限られ、犯罪事実に関するものは除かれています(法316条の36第1項)。申出は、検察官の尋問が終わった後、直ちに尋問事項を明らかにして検察官に対して行うこととされています(同条2項)。
質問の仕方に対する制限と異議
尋問の内容だけでなく、尋ね方にも決まりがあります。訴訟関係人は、できる限り個別的かつ具体的で簡潔な尋問によらなければならず、威嚇的または侮辱的な尋問はしてはならないとされています(規則199条の13)。重複する尋問、意見を求める尋問、議論にわたる尋問、証人が直接経験しなかった事実についての尋問も、正当な理由がない限り行うことができません。
裁判長は、重複する尋問や事件に関係のない事項にわたる尋問などを制限することができます(法295条1項)。相手方は、証拠調べに関する異議を申し立てて是正を求めることができ(法309条1項)、この申立ては、個々の行為ごとに簡潔に理由を示して直ちに行うこととされています(規則205条の2)。法廷で「異議あり」と述べられるのはこの場面です。
当日の進み方と、証人が負う義務
証人として呼ばれた方は、待合室などで待機し、名前が呼ばれてから法廷に入ります。証言台の前で氏名や生年月日などを尋ねられ(規則115条)、続いて宣誓を行います。
宣誓と偽証罪
宣誓は尋問の前に行い、証人は宣誓書を朗読して署名押印します。宣誓書には、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、何事も付け加えないことを誓う旨が記載されています(法154条、規則118条)。裁判長は、宣誓の前に偽証の罰を告げることとされています(規則120条)。
法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の拘禁刑に処するとされています(刑法169条)。判例は、ここでいう虚偽の陳述を自分の記憶に反する陳述と解しています。記憶のとおりに述べた結果、それが客観的な事実と食い違っていたとしても、この罪にはあたらないと考えられています。裁判が確定する前に自白したときは、刑を減軽または免除することができるとされています(刑法170条)。
出頭しない場合、証言を拒む場合
召喚を受けた証人が正当な理由なく出頭しないときは、10万円以下の過料に処せられ、出頭しないために生じた費用の賠償を命じられることがあります(法150条)。さらに、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の定めがあり(法151条)、勾引される場合もあります(法152条)。
一方で、自分が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある証言は拒むことができます(法146条)。配偶者や一定の範囲の親族について同じおそれがある場合も同様です(法147条)。医師や弁護士などが業務上知り得た他人の秘密に関する事項についても、拒むことができる場合があります(法149条)。
正当な理由がないのに宣誓や証言を拒んだときは、10万円以下の過料(法160条)のほか、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の定めがあります(法161条)。答えたくない事柄があるとき、黙り込んだり事実と違うことを述べたりするのではなく、拒む理由があるかどうかを事前に弁護人と確認しておくことが大切になります。
証人の負担を軽くするための仕組み
法廷で証言する負担に配慮する仕組みも用意されています。裁判所は、証人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、適当と認める人を証人に付き添わせることができます(法157条の4)。
被告人の面前で供述すると圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる場合には、被告人との間についたてなどを置く措置がとられることがあります(法157条の5)。別の部屋にいる証人を、映像と音声のやりとりで尋問する方法もあります(法157条の6)。これらの措置について、最高裁判所は憲法に違反しないと判断しています。
このほか、特定の傍聴人の面前では十分に供述できないと思われるときは、その傍聴人を退廷させることができ(規則202条)、被告人の面前では圧迫を受けて十分な供述ができないと認められるときは、弁護人が出頭している場合に限り、被告人を退廷させることができます(法304条の2)。この場合、供述が終わった後に被告人を入廷させ、証言の要旨を告げて、その証人を尋問する機会を与えなければならないとされています。
尋問の前に行われる準備
証人尋問を請求した検察官または弁護人は、証人その他の関係者に事実を確かめるなどの方法によって、適切な尋問ができるように準備しなければならないとされています(規則191条の3)。実務で証人テストと呼ばれる事前の打合せは、この準備にあたります。答えを教わる場ではなく、何を聞かれるのか、どの範囲まで記憶があるのかを整理しておく場と考えておくとよいでしょう。
なお、証人尋問を請求するときは、尋問に要する見込みの時間を申し出ることとされています(規則188条の3第1項)。一方、尋問事項を記載した書面は、交互尋問で行う場合には原則として提出しないこととされており(規則106条1項ただし書)、質問の一覧が事前に相手方に渡るわけではありません。
記憶が明らかでない事項について、書面や物を示して記憶を呼び起こす方法もあります。もっとも、そこで示すことができる書面からは、供述を録取した書面が除かれています(規則199条の11第1項)。調書を見せて思い出させるという方法はとれないという点は、準備の段階で押さえておきたいところです。
民事裁判の尋問との違い
民事裁判でも、主尋問、反対尋問、再主尋問という順序は同じです(民事訴訟法202条1項、民事訴訟規則113条1項)。ただし、細かな決まりには違いがあります。
- 民事では、証人尋問の申出と同時に尋問事項書を提出することとされています(民事訴訟規則107条1項)。
- 民事では、誘導質問は正当な理由がある場合を除いて行わないものとされ、反対尋問についても一律に許すという書き方はされていません(民事訴訟規則115条2項)。
- 民事では、証言に先立って陳述書が提出されることが多く、尋問はその内容を前提に進むことがあります。
- 宣誓した当事者本人が虚偽の陳述をしたときは、10万円以下の過料の対象とされています(民事訴訟法209条1項)。証人の場合は刑法の偽証罪の問題になります。
誤解されやすい点
- 反対尋問で聞かれるのは、主尋問に現れた事項とその関連事項が中心です。何でも自由に聞けるわけではありません。
- 再主尋問は、反対尋問に現れた事項に限られます。言い足りなかったことを新たに述べる場ではありません。
- 誘導尋問は、主尋問では原則として禁止され、反対尋問では認められています。禁止されているかどうかは場面によって変わります。
- 記憶があいまいなときに「分かりません」と答えることは、証言を拒むこととは異なります。
- 補充尋問は付け足しのように見えますが、裁判所が関心を持っている点が表れることがあります。
まとめ
- 刑事裁判の証人尋問は、主尋問、反対尋問、再主尋問、補充尋問の順で進みます。
- 条文上は裁判官が先に尋問することになっていますが、実務では当事者が先に尋問する交互尋問が通例です。
- 主尋問は立証すべき事項とこれに関連する事項について行い、誘導尋問は原則として禁止されます。
- 反対尋問は主尋問に現れた事項などについて行い、誘導尋問をすることができます。新たな事項を持ち出すには裁判長の許可が必要です。
- 再主尋問は反対尋問に現れた事項に限られ、主尋問と同じ制限を受けます。
- 尋ね方にも決まりがあり、行き過ぎた尋問には異議を申し立てることができます。
- 宣誓した証人が記憶に反する陳述をすると偽証罪の問題になります。答えにくい事柄は、事前に弁護人と整理しておくことになります。
- 付添い、ついたて、別室からの尋問など、証人の負担に配慮する仕組みが設けられています。
証人尋問は、聞かれる範囲があらかじめ枠づけられている手続です。どの立場で法廷に出るのか、何が争点になっているのかによって、準備しておくことも変わってきます。期日の連絡を受けた段階で、尋問の見通しを確認しておくと、当日に落ち着いて臨みやすくなります。
当事務所では、刑事事件についてのご相談をお受けしています。ご本人からのご相談のほか、ご家族からのご相談にも対応しています。


