【ストーカートラブル】相手の家族から被害届を取り下げるよう迫られている|応じる前に考えることと、働きかけを止める順序
本記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)を反映した内容です。個別の事案での扱いは、事情によって異なります。
別れた元恋人が、本人の住まいではなく実家の前に現れることがあります。本人が実家を出て暮らしている場合、元恋人は今の住まいを知らないまま、以前から知っている実家に足を運ぶことがあるためです。突然の来訪を受けた親やきょうだいは、交際の経緯を詳しく知らないまま対応を迫られることになります。
このとき家族がどう応じるかは、その後の本人の安全や、警察・弁護士による手続の進み方にも関わります。本記事では、元恋人が実家の前に現れた場面を想定し、その場での対応、本人の情報の守り方、記録の残し方、警察への相談の仕方、弁護士に依頼した場合にできることを順に整理します。
実家の家族も法律上の「相手方」になりうる
ストーカー規制法は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で行う一定の行為を「つきまとい等」と定めています(同法2条1項)。この行為の相手方には、本人だけでなく、その配偶者、直系または同居の親族、そのほか社会生活において密接な関係を有する者が含まれます。
実家の親は本人の直系の親族にあたるため、本人と同居していなくても対象に含まれます。きょうだいは直系の親族ではありませんが、同居していれば同居の親族にあたり、別居していても事情によっては密接な関係を有する者として扱われることがあります。
そのため、本人への好意や未練から実家の前で見張る、実家に押しかける、実家の周りをみだりにうろつくといった行為は、実家の家族に対する「つきまとい等」として扱われることがあります。本人が住んでいない場所だからといって、規制の対象から外れるわけではありません。
一方で、来訪の目的が荷物の返却や貸したお金の話など、好意や怨恨とは別のところにある場合は、ストーカー規制法ではなく、各都道府県の迷惑防止条例や、刑法の住居侵入罪・不退去罪などで検討することになります。目的は外から見えにくいため、家族の側で判断しようとせず、言動をそのまま記録しておくことが大切です。
現れたその場で家族がすること
玄関を開けずに、インターホン越しに応じる
元恋人が来たときは、玄関を開けずにインターホン越しに応じるのが基本です。顔を合わせて話し込むと、相手が話し合いの糸口をつかんだと受け取り、来訪が繰り返されるおそれがあります。伝える内容は「本人はここにはいません」「お引き取りください」程度にとどめ、本人の住所、勤務先、新しい連絡先、近況は伝えないようにします。
帰ってほしいと一度はっきり伝える
家族が帰るよう求めたにもかかわらず敷地内に居座る場合、不退去罪(刑法130条後段)にあたる可能性があります。門の内側や玄関先に無断で入ってくれば、住居侵入罪の問題にもなりえます。帰ってほしいという意思を曖昧にせず一度はっきり伝えておくと、後に警察が状況を判断する際の材料になります。
危険を感じたら110番通報する
大声を出す、ドアを叩く、物を壊す、本人や家族への危害をほのめかすといった様子があれば、ためらわず110番通報してください。家族への危害を告げる言動は、脅迫罪の対象になる場合があります。詳しくは家族・恋人への危害をほのめかされた|脅迫罪の保護範囲で解説しています。
その場で避けたい対応は次のとおりです。
- 説得しようとして外に出て、直接話し込むこと。
- 本人に電話をつないだり、その場に本人を呼んだりすること。
- 「もう新しい相手がいる」など、相手を刺激する言葉を返すこと。
- お金や品物を渡して帰ってもらおうとすること。
- 撮影しようとして相手に近づくこと。
本人の情報が家族から伝わらないようにする
実家への来訪には、本人の居場所を探る目的が含まれていることがあります。家族が悪気なく話した一言から、転居先や勤務先が分かってしまうことも考えられます。家族の間では、次の点をあらかじめ共有しておくと安心です。
- 本人の住所、勤務先、連絡先、行動予定を誰にも伝えないこと。
- 近所の人や親戚から本人のことを聞かれても、近況を話さないこと。
- 元恋人の知人や業者を名乗る問い合わせにも応じないこと。
- 本人宛ての郵便物を実家から転送するときは、送り状や差出人の扱いに注意すること。
- 家族のSNSに、本人が写った写真や行き先が分かる投稿をしないこと。
ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に相手方の住所などの情報を提供することを禁じています(同法6条)。2026年3月10日からは、警察が情報提供のおそれがある者に対し、提供しないよう求めることもできるようになりました。家族や知人を経由した情報の流れを止めることは、制度の上でも重視されています。
来訪の記録を残す
警察が警告などの措置を検討するときも、弁護士が相手方とやり取りするときも、来訪の回数や様子を示す記録が手がかりになります。一度きりで終わったように見えても、記録は残しておいてください。
| 記録する項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 日時 | 10月3日午後9時15分ごろから約20分 |
| 場所 | 実家の門の前、向かいの電柱付近 |
| 相手の様子 | 車で来て、門の前に立っていた |
| 言動 | 「本人に会わせてほしい」と3回繰り返した |
| 家族の対応 | インターホンで帰るよう伝え、110番通報した |
| 残っている資料 | インターホンの録画、防犯カメラの映像 |
インターホンの録画や防犯カメラの映像は、日時とともに残るため有力な資料になります。上書きされる前に、別の媒体へ保存しておくことが大切です。設置や保存の注意点は【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点をご覧ください。
警察への相談は誰が、どこにするか
実家の家族も自ら相談できる
実家の家族が「つきまとい等」を受けた場合、家族自身が警察に相談し、警告を求める申出をすることも考えられます(同法4条)。実家での出来事は、実家を管轄する警察署に相談するのが一般的です。本人が自分の住む地域の警察にすでに相談している場合は、その旨を伝えておくと、警察署どうしで情報を共有しやすくなります。家族が本人に代わって相談するときの注意点は、【ストーカートラブル】家族がストーカー被害に遭っている|家族が代わりに相談するときでも取り上げています。
申出がなくても警告が出る場合がある
2025年12月30日に施行された改正により、警察は被害者からの申出を受けていなくても、職権で警告を出せるようになりました。相手の反発をおそれて申出をためらう場合でも、まずは相談して状況を伝えておくことに意味があります。警告を求めるかどうかや、その時期については、相談の際に警察と話し合うことができます。
警告の後も続くときは禁止命令へ
警告の後も実家への来訪が続く場合は、公安委員会による禁止命令を求めることが考えられます。禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は、刑事罰の対象になります。手続の流れは【ストーカートラブル】警告が出たのに接触が続いている|禁止命令への切り替えで解説しています。
本人と家族で役割を分ける
元恋人が実家に現れると、家族は本人を守ろうとして、相手と直接話をつけたくなることがあります。しかし、家族が交渉の窓口になると、相手が家族を通じて本人とつながろうとする状態が続きやすくなります。役割の分け方の一例は次のとおりです。
| 担い手 | 主な役割 |
|---|---|
| 本人 | 警察・弁護士への相談、関係を終える意思の表明 |
| 実家の家族 | 来訪時の対応、記録、110番通報、情報を外に出さないこと |
| 弁護士 | 相手方との連絡窓口、書面による通知、合意書の作成、法的手続 |
家族が相手方と直接やり取りを重ねるより、窓口を本人側の代理人に一本化した方が、家族の負担も小さくなります。家族や友人など第三者を巻き込む行為への対応は、別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応で整理しています。
弁護士に依頼した場合にできること
弁護士が本人の代理人となった場合、相手方に対し、本人だけでなく実家の家族への連絡や来訪もやめるよう書面で求めることができます。今後の連絡は代理人を通すよう伝えることで、相手方が実家に足を運ぶ理由を減らしていきます。
相手方が話し合いに応じる場合は、本人と家族への接触禁止、実家への来訪禁止、違反した場合の違約金などを定めた合意書を作成することも考えられます。来訪が続き危険が高い場合には、警察の手続と並行して、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てる方法もあります。二つの手続の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
弁護士が警察と連絡を取りながら対応を進めることもできます。代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
一度来ただけでも、警察に相談してよいですか
相談して差し支えありません。一度の来訪でも、そのときの言動や前後の経緯によっては、警察が注意や警告を検討することがあります。相談した記録が残っていれば、その後に来訪が繰り返されたときの手がかりにもなります。
「本人と話をさせてほしい」と頼まれたら、取り次ぐべきですか
取り次がない方が無難です。家族が取り次ぐと、実家に来れば本人とつながれるという受け止め方を招くおそれがあります。本人の意向を確かめたうえで、「本人は連絡を望んでいません」と伝えるにとどめるのがよいでしょう。
本人と実家が離れた地域にある場合でも相談できますか
相談できます。本人が暮らす地域と実家のある地域で警察署が分かれていても、それぞれで相談の記録を残しておくことには意味があります。弁護士への相談も、電話などを使えば、実家の家族が加わる形で進めることができます。
元恋人が実家に現れたとき、家族に求められるのは、相手と向き合って説得することではなく、安全を確保し、本人の情報を守り、記録を残して、警察や弁護士につなぐことです。本人と家族があらかじめ役割を分けておくことで、来訪が繰り返されたときにも落ち着いて対応しやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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