【ストーカートラブル】「警告を出すと相手が逆上するかも」と警察に言われたら?
本記事は、令和7年12月に施行された改正ストーカー規制法の内容を踏まえて記載しています。禁止命令の運用には地域や事案による違いがあるため、個別の事情については警察や弁護士にご確認ください。
ストーカー被害で警察に相談し、相手に禁止命令が出た後、相手の弁護士から示談の申入れが届くことがあります。謝罪や示談金の支払いと引き換えに「被害届を取り下げてほしい」「禁止命令の延長を求めないでほしい」といった条件が示されると、応じた場合に禁止命令がどうなるのか、自分の安全はどう守られるのかが気になる方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げると、示談が成立しても、禁止命令がそれだけで消えることはありません。示談は被害者と加害者のあいだの合意であり、禁止命令は都道府県公安委員会が出す行政上の処分なので、両者は別々の枠組みで動きます。ただし、示談にどのような条件を付けるかによって、禁止命令の延長や刑事手続の進み方に影響が出ることはあります。この記事では、示談と禁止命令の関係、示談書の条項で気をつけたい点、示談の後に相手が約束を破った場合の考え方を整理します。
示談と禁止命令は、決める人も効力の根拠も異なる
禁止命令は、つきまとい等をした相手が更に繰り返すおそれがあるときに、公安委員会が「これ以上繰り返してはならない」と命じる処分です(ストーカー規制法5条)。被害者の申出のほか、公安委員会の職権でも出されます。相手の言い分を聞く聴聞を経て出される通常の禁止命令と、緊急の場合に先に命令を出し、後から相手の意見を聴く緊急の禁止命令があります。申出の方法については【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で解説しています。
これに対して示談は、被害者と加害者(多くの場合は双方の代理人)が話し合い、謝罪、示談金の支払い、今後の接触禁止などを約束する民事上の合意です。両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 示談 | 禁止命令 |
|---|---|---|
| 性質 | 当事者どうしの合意(民事上の契約) | 公安委員会が出す行政処分 |
| 決める人 | 被害者と加害者(代理人を含む) | 都道府県公安委員会 |
| 効力の期間 | 示談書の定めによる | 命令の日から1年(延長あり) |
| 違反したとき | 違約金・損害賠償などの民事上の請求 | 禁止命令等違反罪として刑事罰の対象 |
| 終わらせ方 | 示談書の定めや合意の解除による | 当事者の合意だけでは終わらない |
このように、示談は当事者が自分たちの関係について取り決めるもので、公安委員会の処分を当事者どうしの約束で取り消すことはできません。示談書に「禁止命令は効力を失う」と書いたとしても、そのとおりの効果は生じないと考えられます。
禁止命令の有効期間と延長
禁止命令の有効期間は、命令を出した日から1年です。期間が終わる前に警察が被害者に状況を確認し、引き続き必要と認められれば、被害者の申出または職権により延長されます。延長の際にも、相手の言い分を聞く手続が設けられています。
示談の成立は、延長が必要かどうかを判断する際の事情の一つとして考慮される可能性があります。たとえば、相手が反省を示し、接触禁止の約束と違約金の定めを受け入れ、遠方に転居したといった事情は、「更に繰り返すおそれ」の判断に関わり得ます。他方で、示談が成立していても、相手の執着が続いているとみられる場合には、職権で延長されることもあります。示談をしたから延長されない、示談をしなければ必ず延長される、という単純な関係ではありません。
示談書に入れる条件で、とくに慎重に考えたいもの
加害者側からの示談の提案には、謝罪と示談金の支払いに加えて、次のような条件が含まれていることがあります。
- 被害届や告訴を取り下げること。
- 加害者を許し、刑事処罰を求めないという意思(宥恕)を示すこと。
- 禁止命令の延長を申し出ないこと、または禁止命令の取消しを求めること。
- 示談の後は、警察に新たな相談をしないこと。
前の2つは刑事事件の示談で一般的にみられる条件で、応じるかどうかは示談金の額や相手の反省の程度とあわせて判断することになります。注意が必要なのは、後の2つです。
「禁止命令の延長を求めない」という条項
禁止命令は被害者の安全を守るための処分であり、延長を申し出るかどうかは、期間が終わる時点での相手の様子を見て判断したい事柄です。示談の時点で「申し出ない」と約束してしまうと、その後に不安な出来事があっても、申出をためらう原因になりかねません。
また、こうした条項があっても、公安委員会が職権で延長することは妨げられません。加害者側にとっても確実な効果があるとはいえない条項であり、被害者側としては、入れない方向で交渉することを検討してよい内容です。
「警察に相談しない」という条項
示談の後に相手が再び接触してきた場合に警察へ相談することは、身を守るために必要な行動です。警察への相談そのものを制限する約束は被害者の安全を損なうおそれがあり、内容によっては、公序良俗に照らして効力が問題になることも考えられます。示談書には入れないほうがよい条項と考えておくのが無難です。
示談書に入れておきたい条件の全体像は、【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で整理しています。
示談が刑事手続に与える影響
禁止命令とは別に、相手がストーカー行為罪や禁止命令等違反罪で捜査を受けている場合、示談は刑事手続にも関わります。ストーカー行為罪は平成28年の法改正で、告訴がなくても起訴できる犯罪(非親告罪)になりました。そのため、被害届や告訴を取り下げても、それだけで刑事手続が終わるとは限りません。示談の成立や宥恕の意思は、検察官が起訴するかどうかを決める際や、裁判で刑の重さを決める際に考慮される事情の一つという位置づけです。
刑事手続と禁止命令も、それぞれ別々に扱われます。相手が不起訴になっても禁止命令は有効期間中そのまま続きますし、反対に禁止命令の期間が終わっても、刑事手続が続くことがあります。被害届の取下げと禁止命令の関係については、【ストーカートラブル】一度出してもらった禁止命令を、取り下げることはできる?でも解説しています。
相手の家族などから取下げを強く求められている場合は、【ストーカートラブル】相手の家族から被害届を取り下げるよう迫られている|応じる前に考えることと、働きかけを止める順序もあわせてご覧ください。相手の処分の結果や釈放の時期を知りたい場合には、【ストーカートラブル】被害者等通知制度を使う|相手の処分や出所の時期を知るで紹介している制度を利用できます。
示談の後に相手が接触してきたら
示談が成立しても、相手が約束を守り続けるとは限りません。弁護士ドットコムに寄せられた相談の中にも、禁止命令が出た後に再びつきまといがあって相手が逮捕され、示談をしたものの、その後もつきまといが続いたという被害者の方からの相談がみられます。示談は区切りの一つではありますが、それだけで安全が確保されるわけではない点に注意が必要です。
禁止命令の有効期間中に相手が接触してきた場合は、示談の有無にかかわらず、禁止命令等違反罪の対象となり得ます。禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、ストーカー行為にあたらない程度の違反でも6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています(ストーカー規制法19条、20条)。
これと並行して、示談書の接触禁止条項に違反したことを理由に、違約金や損害賠償を請求することも考えられます。刑事と民事の両面での対応については、【ストーカートラブル】示談した後に相手が約束を破った|違約金と刑事手続の両面で詳しく解説しています。
示談後に接触があったときの初動
- 身の危険を感じる場合は、ためらわずに110番通報してください。
- 着信履歴、メッセージ、手紙、防犯カメラの映像などは消さずに保存してください。
- 禁止命令を担当した警察署に、示談の後に接触があったことを伝えてください。
- 示談書の写しを手元に用意し、どの条項に違反しているかを確認してください。
- 代理人の弁護士がいる場合は、弁護士にも連絡してください。
示談交渉は代理人を通して進める
禁止命令が出ている相手は、被害者に直接連絡して示談を持ちかけることができません。そのため示談の申入れは、通常、相手の弁護士から届きます。被害者の側は、相手方の弁護士とご自身でやり取りする方法のほか、ご自身も弁護士に依頼して窓口を一本化する方法があります。
示談金の受け渡しや示談書の取り交わしの際に、住所や新しい連絡先を相手に知られないようにすることも大切です。示談書の住所欄を代理人の事務所の所在地にする、示談金の振込先を代理人の口座にするなど、個人情報を相手に渡さない形で手続を進める方法があります。代理人に任せる意味については【ストーカートラブル】加害者と直接話し合うのは危険?代わりに誰が話せばいい?、謝罪や面会を求められた場合の対応については【ストーカートラブル】相手が弁護士を通じて「会って謝りたい」と言ってきた|面会を断っても謝罪や示談の道は残るで解説しています。
よくあるご質問
示談したことを警察に伝える必要はありますか
法律上の義務はありませんが、禁止命令を担当している警察署には伝えておくことをおすすめします。延長の判断の際や、示談の後に再び接触があったときに、経緯を把握してもらっているほうが対応が進めやすくなるためです。
示談金を受け取ったら、禁止命令の延長を申し出てはいけませんか
示談書に延長を申し出ないという条項がなければ、示談金を受け取ったことだけを理由に延長の申出が制限されることはないと考えられます。また、延長は被害者の申出がなくても職権で行われることがあります。すでに署名した示談書の条項の意味がはっきりしない場合は、弁護士にご相談ください。
禁止命令の期間が終わった後が不安です
期間の満了が近づいた時点で、警察から状況の確認が行われるのが一般的です。不安が残る場合は、その時点で延長を申し出ることができます。また、示談書の接触禁止条項は、禁止命令の期間とは関係なく、示談書の定めに従って効力が続きます。禁止命令の期間が終わった後の備えという意味でも、接触禁止の範囲や違約金の定めを丁寧に詰めておくことが大切です。
示談に応じる前に、条件の中身を確かめる
示談は、謝罪や金銭の支払いを受け、相手との関係に区切りをつけるための手段の一つです。一方で、禁止命令は被害者の安全を公的に守るための処分であり、示談に応じたからといって手放す必要はありません。示談の条件に禁止命令や警察への相談に関わる内容が含まれている場合は、応じる前に、その条項がご自身の安全にどう影響するかを確認しておくことをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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