【ストーカートラブル】緊急の禁止命令とは|聴聞を経ずに出る場面
別れ話のあとや、つきまといが落ち着いた段階で、相手に「今後一切連絡しない」「違反したら違約金を払う」といった誓約書を書いてもらうことがあります。ところが、しばらくしてまた連絡が来た、家の近くに現れた、というご相談は少なくありません。約束を破られたとき、書面に書かれた違約金を実際に請求できるのかどうかは、誓約書が作られた経緯と中身によって変わります。この記事では、請求の可否を分ける点と、請求する場合の進め方、あわせて考えておきたい安全確保について整理します。
本記事は2026年10月時点の法令(2025年6月施行の拘禁刑への改正、近年のストーカー規制法の改正を含みます)を前提に、一般的な考え方をまとめたものです。個別の事案での結論は、書面の文言や経緯によって異なります。
まず確かめたいのは、その誓約書が「誰との約束」か
「誓約書」と呼ばれる書面には、性質の違うものが混ざっています。違約金を請求できるかどうかを考える前に、手元の書面がどの種類にあたるのかを確かめておくことが出発点になります。
| 書面の種類 | 主な作成の場面 | 違約金請求の根拠になるか |
|---|---|---|
| 警察署で作成された誓約書 | 警察への相談後、相手が警察官に対して今後の行動を約束する | 金銭の取り決めを含まないことが多く、これだけを根拠に請求するのは難しい場合が多い |
| 当事者間で交わした誓約書 | 相手が被害を受けた側に宛てて差し入れる | 違約金の定めがあれば、請求の根拠になり得る |
| 弁護士を通じて結んだ合意書・示談書 | 代理人どうしの交渉の結果として作成される | 違約金・接触禁止の条項が具体的に定められていることが多い |
警察署で書かれる誓約書は、相手が警察に対して行動を改めると約束する意味合いが強く、被害を受けた方との間で金銭の支払いを約束するものではないのが一般的です。そのため、違反があった場合は違約金の問題というより、警告や禁止命令など警察の手続に進むかどうかの問題として考えることになります。
一方、相手があなた宛てに書いた誓約書や、弁護士を通じて結んだ合意書であれば、民事上の約束として効力を持ち得ます。以下では、主にこちらを前提に説明します。
違約金を請求できるかは、書面の中身で決まる
違約金の定めがある場合
誓約書に「違反した場合は金○万円を支払う」と書かれていれば、その金額は、法律上、損害賠償額をあらかじめ決めておいたもの(賠償額の予定)と推定されます(民法420条1項・3項)。この場合、実際にどれだけの損害が生じたかを細かく証明しなくても、違反の事実を示すことで、定められた金額の支払いを求めることができるのが原則です。
ただし、相手が「違反していない」と争った場合には、違反があったことを請求する側が示す必要があります。違約金の定めがあっても、記録がなければ請求は進めにくくなります。
違約金の定めがない場合
「今後連絡しない」とだけ書かれていて金額の定めがない場合でも、約束を破られたことや、つきまとい行為そのものによって精神的な苦痛を受けたとして、損害賠償(慰謝料)を求める余地はあります(民法415条・709条)。もっとも、この場合は損害の内容や程度を請求する側が説明する必要があり、認められる金額は、行為の内容・回数・期間などから個別に判断されます。
金額が高すぎると、全額は認められないことがある
違約金の額は当事者の合意で決めるのが原則ですが、違反の内容に比べて著しく高い金額が定められている場合、公序良俗(民法90条)に照らして、相当な範囲を超える部分は無効と判断されることがあります。「1回の連絡につき数百万円」といった定めは、そのまま認められるとは限りません。金額が大きいほど、相手が争ってくる可能性も高まる点は意識しておきたいところです。
書かせた経緯が問題になることもある
相手が「無理やり書かされた」と主張して、誓約書の効力そのものを争ってくることもあります。強く迫って書かせた事情があれば、強迫による意思表示として取り消しが主張される場合があります(民法96条)。書面を作った日時や場所、立ち会った人、相手が内容を確認したうえで署名したことなど、作成時の状況が後から問われることがあります。
「違反した」と言えるかどうかの見極め
違約金を求めるには、相手の行動が誓約書で禁じられた行為にあたる必要があります。誓約書の文言によっては、違反かどうかの判断が分かれることがあるため、次の点を文言に照らして確認します。
- 禁止されている行為の範囲(電話・メール・SNS・手紙・訪問・待ち伏せなど、どこまで含むか)。
- 第三者を通じた接触が含まれているか(共通の友人や家族を介した連絡など)。
- 禁止の対象があなた本人に限られるか、家族や勤務先も含むか。
- 違約金が「違反1回ごと」か、「違反があった場合に一度だけ」か。
- 禁止の期間に定めがあるか、期間が過ぎていないか。
- 例外として認められている連絡(荷物の返還や金銭の清算など)がないか。
たとえば、こちらから先に連絡をしていて、それへの返信として相手から連絡が来た場合、それが違反にあたるのかは争いになりやすい場面です。また、SNSで投稿を閲覧された、反応を付けられたといった行為が、誓約書で禁じた「連絡」に含まれるかどうかも、文言次第で評価が変わります。
違反の事実を記録に残す
請求するにしても、警察に相談するにしても、違反の記録が土台になります。相手への返信や反論はせず、届いたものをそのまま残すことを優先してください。
- メッセージやSNSの画面を、日時と送信者が分かる形で保存します。
- 着信履歴は、日時と回数が分かるように画面ごと記録します。
- 手紙や贈り物は、封筒や包装も含めて手を加えずに保管します。
- 自宅や職場の近くに現れた場合は、日時・場所・状況をメモにし、防犯カメラの映像があれば保存期間内に確保します。
- 警察に相談した場合は、相談した日時と担当部署を控えておきます。
記録は一度にまとめて作ろうとせず、そのつど残していく方が、後から日時や内容を説明しやすくなります。誓約書の原本も、紛失しないよう写しとは分けて保管しておくと安心です。
違約金を請求する進め方
違約金の請求は、相手と再び接点を持つことでもあります。ご自身で直接連絡すると、それをきっかけに相手とのやり取りが再開してしまうおそれがあるため、進め方には注意が必要です。一般的には、次のような順序で進めます。
- 誓約書の文言と違反の記録を照らし合わせ、請求の根拠と金額を整理する。
- 代理人から相手に書面(内容証明郵便など)で違反の事実を指摘し、支払いと今後の接触の停止を求める。
- 相手から応答があれば、支払方法や追加の約束(違反した場合の取り決めの見直しなど)を交渉する。
- 支払いに応じない場合は、支払督促、少額訴訟(60万円以下の請求)、通常の訴訟などの裁判手続を検討する。
- 判決などを得ても支払われない場合は、強制執行(給料や預金の差押えなど)を検討する。
誓約書を公正証書にしている場合でも、違約金は「違反があったとき」に発生するものなので、違反の事実をどう示すかが問題になり、すぐに差押えへ進めるとは限りません。手続の選び方は、請求額、相手の住所が分かっているか、相手が違反を認めているかなどによって変わります。
また、請求の言い方にも配慮が必要です。正当な権利に基づく請求であっても、「払わなければ職場に知らせる」などと伝えると、別の問題を生じさせるおそれがあります。請求は書面で、事実と根拠に絞って行うのが基本です。
違約金の請求と並行して考えたい安全確保
違約金を受け取れたとしても、それだけで相手の接触が止まるとは限りません。誓約書を破ること自体は犯罪ではありませんが、相手の行動がストーカー規制法の「つきまとい等」にあたる場合には、警察による警告や、公安委員会による禁止命令の対象になり得ます。禁止命令に違反した場合には、刑事罰が科されることがあります。
身の危険を感じる場面では、金銭の請求よりも先に警察への相談を優先してください。民事の手段としては、裁判所に接近禁止を求める仮処分を申し立てる方法もあります。違約金の請求、警察の手続、仮処分は、どれか一つを選ぶものではなく、状況に応じて組み合わせて考えるものです。
よくあるご質問
相手からの連絡に一度返信してしまいました。違約金は請求できなくなりますか
返信したことで直ちに請求できなくなるわけではありません。ただ、相手から「やり取りを了承していた」と主張される材料にはなり得ます。返信の内容や経緯を含めて記録を残し、以後は返信せずに対応を検討するのがよいでしょう。
違約金を払ってもらったら、警察に相談できなくなりますか
違約金を受け取ったこと自体で、警察に相談できなくなるわけではありません。ただし、支払いと引き換えに「被害届を出さない」「告訴しない」といった合意をした場合は、その合意の内容が関係してきます。合意をする前に、何を約束するのかを確認しておくことが大切です。
相手の今の住所が分かりません。請求はできますか
書面での請求や裁判手続を進めるには、原則として相手の住所が必要です。弁護士が受任している場合には、弁護士会照会など法律で認められた手段で調査できることもあります。ご自身で相手の住まいを探して近づくことは、思わぬトラブルにつながるおそれがあるため控えてください。
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当事務所にご相談いただく場合
誓約書を破られたときは、違約金を請求できるかという金銭の問題と、これ以上の接触をどう止めるかという安全の問題を、分けて整理することが大切です。当事務所では、誓約書の文言と違反の記録を確認したうえで、相手への請求を代理人として行うほか、警察への相談や禁止命令、仮処分との組み合わせも含めて方針をご一緒に検討します。相手と直接やり取りせずに進めたい方も、ご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


