【不貞慰謝料】別居中に始まった関係はどう評価されるのか
別れを告げた元恋人が突然家に来て、「自殺する」「今から死ぬ」と口にする。そうした場面に直面すると、相手の身を案じる気持ちと、自分の身を守らなければという気持ちがぶつかり、どう動けばよいか分からなくなる方は少なくありません。この記事では、玄関先で相手と向き合うその日の対応から、法的な位置づけ、翌日以降にできることまでを順に整理します。
この記事は2026年10月時点の法令をもとにしています。いま差し迫った危険がある場合は、記事を読むより先に110番または119番に連絡してください。
玄関先で最初に優先すること
相手が家に来て自殺をほのめかしているとき、まず考えるべきは相手と自分の生命・身体の安全です。別れるかどうか、お金の清算をどうするかといった関係の問題は、安全が確保された後でも十分に間に合います。その場で結論を出そうとしないことが、結果として双方を守ることにつながります。
差し迫った様子があれば110番・119番を
刃物や薬を手にしている、すでにけがをしている、ベランダや階段など危険な場所に向かおうとしている、といった様子があれば、ためらわずに110番に通報してください。けがや体調の異変があるときは119番です。通報では、住所、相手の名前と自分との関係、相手が何を言いどのような様子か、刃物などを持っているかを伝えます。
「大ごとにしたくない」「警察を呼んだら相手を追い詰めてしまう」と感じる方もいます。しかし、命にかかわるかもしれない場面で一人で説得を続けることは、相手にとっても自分にとっても負担が大きすぎます。専門の人に入ってもらうことは、相手を見捨てることではありません。
ドアは開けず、家の中には入れない
差し迫った危険が見えない場合でも、ドアを開けて相手を部屋に入れることは避けたほうが安全です。インターホンやドア越しに話し、自分から外に出て一対一で向き合うこともできるだけ控えます。気持ちが高ぶっている相手と閉じた空間で長く話すと、言い争いや暴力に発展するおそれがあります。
一人暮らしの場合は、家族や友人に電話をつないだままにしてもらう、近くにいる人に来てもらうなど、第三者の目がある状態を作っておくと安心です。
かけてはいけない言葉、してはいけない約束
言い合いになると、「そんなに言うなら好きにすればいい」といった突き放す言葉が出てしまうことがあります。こうした言葉は相手を傷つけるだけでなく、内容や状況によっては、刑法202条の自殺関与(自殺教唆・自殺ほう助)が問題になる可能性も指摘されています。気持ちが追い詰められていても、相手の死を促すように受け取られる言葉は避けてください。
反対に、その場を収めるために「やり直す」「また会う」と約束してしまうことにも注意が必要です。その場しのぎの約束は、次も同じ言葉で同じ要求をされるきっかけになりやすく、関係を終えることがかえって難しくなります。かける言葉は、「あなたのことが心配だから、助けてくれる人を呼ぶ」「今日は話し合いはできない」といった、相手を否定せず、要求にも応じない内容にとどめるのが無難です。
「自殺する」という言葉の法的な扱い
相手の言葉に振り回され続けると、「これは脅しではないのか」「もし本当に何かあったら自分の責任になるのか」という不安が膨らみます。ここでは二つの疑問を分けて整理します。
脅迫罪にあたるのか
脅迫罪(刑法222条)は、相手本人やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えることを告げた場合に成立します。「自殺する」「死んでやる」という言葉は、害が向かう先が言われた側ではなく本人自身であるため、それだけでは一般に脅迫罪にはあたらないと考えられています。ただし、言葉の中身によって扱いは変わります。
| 相手の言葉や行動 | 考えられる法的な扱い |
|---|---|
| 「自殺する」「死んでやる」とだけ言う | それだけでは一般に脅迫罪にはあたりにくい |
| 「一緒に死ぬ」「道連れにする」と言う | こちらの生命への害を告げたものとして、脅迫罪が問題になりうる |
| こちらの家族に危害を加えると言う | 脅迫罪が問題になりうる。何かを無理にさせようとすれば強要罪も検討される |
| 刃物を見せながら玄関先に居座る | 言葉とは別に、刃物の携帯や不退去といった行為が問題になる場面がある |
相手の言葉に、こちらに向けた加害の予告が含まれている場合は、自傷の予告とは別の備えが必要です。詳しくは【男女トラブル】「別れたら殺す」と言われた|自傷の予告とは別の対応が必要になる理由で解説しています。
別れを告げた側が責任を問われるのか
別れを告げることは、交際関係の中で誰にでも起こりうる自由な選択です。一般に、別れ話を切り出したことだけを理由に、相手の行動について損害賠償責任を負うことはないと考えられています。
一方で、交際中に暴力や執拗な暴言があった場合や、婚約していて正当な理由なく一方的に破棄した場合などは、その行為自体について責任が問題になることがあります。また、先に触れたとおり、相手の死を促すような言動は別の問題を生みます。責任を問われることをおそれて関係を続けるのではなく、自分の言動を穏やかに保ったまま、関係を終える手順を踏むことが大切です。
家に来ること自体が問題になる場面
自殺をほのめかす言葉とは別に、別れた相手が繰り返し家に来ること、帰ってほしいと伝えても帰らないことは、それ自体が法的な問題になることがあります。
| 場面 | 関係しうる法律 |
|---|---|
| 許可なく敷地や部屋の中に入ってくる | 住居侵入罪(刑法130条前段) |
| 帰ってほしいと伝えても玄関先や室内に居座る | 不退去罪(刑法130条後段) |
| 復縁を求めて家に押しかける、家の付近をうろつくことを繰り返す | ストーカー規制法の「つきまとい等」「ストーカー行為」 |
| 同居していた相手から暴力を受けていた | DV防止法の保護命令の対象になりうる |
ストーカー規制法は、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みの感情から、住居に押しかけるなどの行為をすることを「つきまとい等」として規制しています。復縁を求めて「会ってくれないなら死ぬ」と家に来る行為は、この類型に重なることがあります。警察に相談すると、行為の内容に応じて警告や禁止命令といった手続が検討されます。押しかけへの法的な対応は職場・自宅に押しかけられた|住居侵入・不退去・業務妨害の使い方、ストーカー規制法の流れは元交際相手のつきまとい・待ち伏せ|ストーカー規制法でできる対応もあわせてご覧ください。
警察を呼ぶことへのためらいについて
「警察を呼んだら相手が逮捕されて、かえって恨まれるのではないか」という心配から、通報をためらう方は少なくありません。ただ、自殺をほのめかして家に来た相手に対して、警察がまず考えるのは本人の安全の確保です。
警察官職務執行法には、自分の生命や身体に危害を及ぼすおそれのある人などを警察官が保護する規定があります(3条)。また、精神的な不調が背景にあり、自分を傷つけるおそれがあると判断された場合には、保健所を通じて医療につなぐ手続(精神保健福祉法23条に基づく警察官の通報)がとられることもあります。どの対応になるかは、その場の状況を見て警察が判断します。
相手を心配しているからこそ、医療や支援につながる道を開くことに意味があります。後から相手に責められることがあっても、命を守るための判断だったことに変わりはありません。
その日のうちに残しておきたい記録
相手が帰った後、あるいは警察が対応した後は、落ち着いたところで記録を残しておきます。同じことが繰り返されたときに警察へ相談する場面や、弁護士が相手方とやり取りする場面で土台になります。
- 来訪した日時と、玄関先にいた時間。
- 相手が口にした言葉(できるだけそのままの表現)。
- インターホンや防犯カメラの映像、通話や会話の録音。
- 来訪の前後に届いたLINEやメッセージのスクリーンショット。
- 110番・119番に連絡した時刻と、対応した警察署の名前。
- その場に立ち会った人や、電話をつないでいた相手の名前。
警察に相談した際は、相談を受けた警察署と担当者の名前も控えておくと、次に相談するときに経緯を説明しやすくなります。
繰り返し家に来られるとき、関係を終えるためにできること
一度で終わらず、「会ってくれないなら死ぬ」と繰り返し家に来たり、連絡が続いたりする場合は、本人同士で話し合うほど状況がこじれやすくなります。命の問題と、関係をどう終えるかという問題を切り分け、前者は警察や医療に、後者は代理人に委ねるという整理が役に立ちます。
弁護士が代理人として入ると、相手との連絡窓口を弁護士に一本化し、今後の直接の連絡や来訪をやめるよう求めることができます。相手の状態によっては、通知を送る時期や方法を、相手の家族の協力も得ながら慎重に決めます。話し合いがまとまれば、接触しないことを約束する合意書を取り交わすこともあります。それでも来訪が続く場合は、警察への申出や、裁判所に接近禁止の仮処分を求める手続を検討します。
別れ話そのものを本人と会わずに進めたい方は、【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるも参考にしてください。
よくあるご質問
警察を呼んだら、相手は逮捕されるのですか
自殺をほのめかしたことだけを理由に逮捕されるわけではありません。警察は、まず相手の安全を確保し、必要に応じて家族への引き渡しや医療機関への受診につなげます。ただし、無断で部屋に入った、暴力をふるった、退去を求めても居座ったといった行為があれば、事件として扱われる場合もあります。
相手の家族に知らせてもよいのですか
命にかかわるおそれがある場面で、相手の家族に連絡して迎えや見守りを頼むことは、一般に理解される対応です。家族が相手の様子を把握することで、医療や支援につながりやすくなる面もあります。緊急の場面でなければ、交際中の出来事を詳しく話すのではなく、家に来た日時や口にした言葉など、事実に絞って伝えるのが無難です。
万一のことを考えると、関係を終える決心がつきません
そう感じるのは自然なことです。ただ、関係を続けるかどうかは本来あなた自身が決めてよいことであり、相手の命を守る役割を一人で担い続ける必要はありません。相手には医療機関や公的な相談窓口を勧め、あなた自身も信頼できる人や相談先に頼ってください。厚生労働省の「まもろうよ こころ」では、電話やSNSで相談できる窓口が紹介されています。気持ちが追い詰められているときは、法的な手続より先に、ご自身の心身を休めることを優先してください。
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元恋人が「自殺する」と言って家に来たとき、その場の安全の確保と、その後の関係の終え方は分けて考えることができます。命の安全は警察や医療に、関係の整理は代理人に委ねることで、相手を突き放すことなく、ご自身の生活を落ち着かせる道筋を描けます。一人で抱え込まず、早めに相談先を確保しておくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


