会う約束をドタキャン・音信不通|渡した前払い金は取り戻せるのか
生成AIで作られた自分の画像が、SNSのメッセージやメールで直接送られてくる。そこに「ばらまかれたくなければ」という言葉が添えられている。実際にはなかった場面を写した画像であっても、受け取った側の動揺は小さなものではありません。
このとき多くの方が最初に考えるのは、「これは偽物なのだから、脅しとして扱ってもらえるのだろうか」という点です。偽物であることが、かえって被害を訴えにくくしているように感じられる場面もあります。
この記事では、生成AIで作られた画像を送りつけられ、何かを求められている段階で、その行為が法律上どのように受け止められうるのかを整理します。身の危険が差し迫っていると感じるときは、110番へ先にご連絡ください。
1.この記事で扱うこと・扱わないこと
- 画像を送りつけられ、金銭や行為を求められている段階での評価を扱います。
- 偽物であることが、その評価にどう影響するのかを扱います。
- まだ公開されていない、いまの段階で残しておきたい記録の形を扱います。
- すでに公開された画像の削除や、発信者情報の開示といった手続は扱いません。
- 画像に写っているのが本人といえるかという立証の問題は扱いません。
後の二つについては、それぞれ別の記事で扱っています。ここでは、送りつけと要求が続いている段階に絞ります。
2.起きていることを二つに分けて考える
送りつけられた場面では、性質の違う二つの問題が同時に起きています。一つは、その画像が作られ、相手の手元にあること自体の問題です。もう一つは、その画像を材料にして何かを告げられ、求められていることの問題です。
この二つは、判断で見られるものが違います。前者では、画像が誰を写したものといえるのか、どの法律の対象になるのかが問われます。生成された画像については、多くの規定が撮影された画像を出発点にしていることもあり、当てはめが簡単でない場面があります。
これに対して後者では、画像の出来ばえではなく、告げられた内容と、それに付いている要求が見られます。「偽物だから何もできないのではないか」という不安の多くは、前者の難しさが後者にも及ぶという感覚から生じています。実際には、後者は前者とは別の物差しで判断されます。
3.「偽物だから」という受け止め方を整理する
| よくある受け止め方 | 実際に問題になること |
|---|---|
| 偽物なのだから、脅しとしては成り立たない | 拡散という害は、偽物であっても現に起こせる |
| 拡散されても、偽物だと説明すれば済む | 説明の負担は、受け取った側に生じることが多い |
| 自分が写ったものではないから被害者ではない | 生活の平穏が害されたこと自体が問題になり得る |
| 画像を消してしまえば終わる | やり取りの記録が消えると、後から示せなくなる |
| 一度払えば終わる | 支払った事実が、次の要求の材料になることがある |
どの行も、「画像が本物かどうか」とは別のところで問題が立っていることを示しています。次章以降で、その理由を順に見ていきます。
4.偽物であっても、脅しとしての評価が変わりにくい理由
見られているのは、何を告げたか
人を脅迫したといえるかどうかは、生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告げたかどうかで判断されます。「この画像をばらまく」「勤務先に送る」「家族に見せる」といった言葉は、名誉に対する害を告げたものと受け止められる余地があります。画像が本物かどうかは、この判断の中心にはありません。
実現できる事柄かどうか
告げられた害は、一般の人を基準として畏怖させる程度のものであり、かつ、告げた側が直接または間接に左右できると受け取られるものである必要があるとされています。誰にも左右できない天災のような事柄を告げても、この点は満たされないと説明されています。
生成AIで作られた画像の場合、その画像を送信したり投稿したりする行為自体は、告げた側が現に行えることです。画像が偽物であることは、拡散という害を起こせないことを意味しません。手元にある以上いつでも実行できるという点では、むしろ実現できる事柄が告げられていると受け取られやすい場面といえます。
5.何を求められているかで、見え方が変わる
金銭を求められている場合
金銭の要求が伴う場合には、恐喝の問題として検討されることになります。実際に渡していなくても、未遂として扱われる余地があります。
また、要求されたからといって支払義務が生じるわけではありません。これは画像が本物であっても同じです。「偽物だから払わなくてよい」という理屈を立てる必要はなく、そもそも支払いの根拠が示されていない、という位置に立って考えれば足ります。
画像や行為を求められている場合
「本物の画像を送れ」「会いに来い」「関係を続けろ」といった、義務のないことを求める内容が付いている場合には、強要の問題として検討されます。性的な行為が求められているときは、より重い罪の成否も問題になります。
この類型では、偽の画像を材料にして本物の画像を得ようとする流れが見られることがあります。求めに応じて一つ渡すと、それが次の要求の材料になり、やり取りが長期化しやすくなります。この段階で応じないという判断は、後から取り消しにくい部分に関わります。
何も求められず、送りつけだけが続く場合
明確な要求が伴わないと、恐喝や強要の枠では捉えにくくなります。もっとも、送りつけ自体が問題にならないわけではありません。好意の感情やそれが満たされなかったことへの怨恨に基づいて反復されている場合には、ストーカー規制法の対象となる行為に当たり得ます。同法は、性的羞恥心を害する記録を送信する行為も対象行為に挙げています。
こうした目的が認めにくい場合でも、繰り返しの送りつけが民事上の責任として問題になる余地は残ります。
6.1対1で送られている場合、名誉毀損の枠は働きにくい
「公然と」という要件
名誉毀損や侮辱として刑事上問われるのは、公然と、つまり不特定または多数の人が知り得る状態で行われた場合が前提とされています。自分だけに送られている段階では、通常この要件を満たしません。
このことは、被害が軽いという意味ではありません。評価の軸が、名誉毀損ではなく脅迫・強要・恐喝の側に移るという意味です。同じ画像でも、送りつけられた段階と、実際に公開された段階とでは、当てはまる枠組みが入れ替わります。
民事の物差しと、届け出の入口
民事では、公然性が要件とされるとは限りません。社会通念上許される限度を超える行為として、慰謝料の対象になり得ます。
また、名誉毀損については告訴が起訴の条件とされていますが、脅迫・強要・恐喝はそうではありません。拡散されるまで警察に相談できない、ということではないという点は、この段階で知っておいてよい部分です。
7.いまの段階と、公開された後とで、使える手は違う
| 送りつけられている段階 | 公開された後の段階 |
|---|---|
| 削除を申し出る対象となる投稿がない | プラットフォームへの削除の申出ができる |
| 1対1のやり取りは発信者情報の開示になじみにくい | 開示の手続が選択肢に入る |
| 刑事の届け出が、相手にたどり着く主な道筋になる | 刑事と民事の双方を動かしやすくなる |
| 拡散されうる範囲を、先に狭めておける | 範囲が広がった後の対応になる |
削除の申出も発信者情報の開示も、公開された投稿があって初めて動く仕組みです。1対1のメッセージは、不特定の人が受信することを目的とした通信には当たらないため、開示の制度にはなじみにくいとされています。
その分、いまの段階には、公開後にはできないことがあります。SNSのフォロワー一覧や友人関係を非公開にする、プロフィールから勤務先や学校が分かる情報を外すといった対応は、この時期にしか先回りできない部分です。
8.記録の残し方と、避けたい対応
やり取りを続ける前に、記録を残しておくことをおすすめします。
- 送られてきた画像そのものを、消さずに元のデータのまま保存しておきます。
- 要求の内容と期限が写っている部分を含めて、やり取りを記録します。
- 相手のアカウント名、ID、表示名が変わった経過を控えておきます。
- 指定された送金先(口座、暗号資産のアドレス、電子マネーやギフト券の指示)を控えます。
- 画像に生成に使われたサービスの表示や透かしがあれば、その部分も残します。
- いつ何を受け取ったのかを、記憶の範囲で時系列のメモにしておきます。
一方で、次の対応は避けたほうがよい場面が多くなります。
- 確認のために、送られてきた画像を家族や友人に転送すること。広げる側に回る形になりかねません。
- 記録を残す前に、アカウントやトーク履歴を消してしまうこと。
- 自分で相手の身元を調べようとすること。
- 「今回だけ」と考えて支払いに応じること。
9.よくあるご質問
偽物だと分かる画像でも、警察に相談してよいのでしょうか
相談して差し支えありません。問題になっているのは画像の真偽ではなく、それを材料にして何を告げられ、何を求められているかです。緊急のときは110番、相談すべきか迷うときは警察相談専用電話(#9110)という窓口があります。
相手が誰か分からないのですが、届け出る意味はありますか
相手が特定できていない状態でも、被害の届け出をすること自体は可能とされています。指定された送金先や利用されたサービスの記録が、その後の手がかりになることもあります。記録が残っているかどうかで、選べる手が変わってきます。
すでに一度支払ってしまいました
支払ってしまったこと自体を責められる筋合いはありません。この段階でできるのは、それ以上支払わないこと、送金の日時・金額・送金先と指示のやり取りを残すこと、そして早めに相談することです。回収の見込みは事案によって差が大きく、一律の見通しをお伝えすることはできません。
10.まとめ
- 送りつけの場面では、画像そのものの問題と、告げられた内容の問題が別々に立っています。
- 脅しとしての評価で見られるのは、画像の出来ばえではなく、何を告げ、何を求めたかです。
- 拡散という害は偽物であっても起こせるため、「偽物だから脅しにならない」とはいえません。
- 金銭の要求、義務のないことの要求、要求を伴わない送りつけで、検討される枠組みが変わります。
- 1対1の段階では名誉毀損の枠は働きにくく、脅迫・強要・恐喝の側で考えることになります。
- 削除の申出や発信者情報の開示は公開された投稿を前提とするため、いまの段階では刑事の届け出が主な道筋になります。
- 記録を残してから遮断する、支払いに応じない、転送しないという三点が、後から取り消しにくい部分です。
生成AIで作られた画像をめぐる法律の整備は、2026年8月の時点でも進行中の段階にあります。それでも、送りつけと要求が続いている場面については、既存の枠組みの中で検討できることが残されています。
当事務所では、男女トラブルや不当要求への対応、刑事事件をお受けしています。何を残し、どこに届け出て、どこから先は応じないのか。その順序を一緒に整理することができますので、一人で抱え込む前にご相談ください。


