【不貞慰謝料】証拠が消える前にすること|保全の実務
別れ話を切り出したところ、「別れたら殺す」「別れるなら刺す」と言われた。それ以来、怖くて話を進められないまま時間が過ぎている――こうしたご相談があります。男女どちらの立場でも起こります。
似た場面に「別れたら死ぬ」と言われるケースがありますが、この二つは、対応の方向がまったく逆になります。自分を傷つけると告げる言葉と、こちらに危害を加えると告げる言葉とでは、法律上の扱いも、最初に動かすべきものも違うためです。
この記事では、危害の予告を受けた場合に絞って、その言葉がどう扱われるのか、別れるまでに何を整えるべきかを整理します。
身の危険が差し迫っていると感じる場合は、この記事を読み進める前に110番へご連絡ください。急を要しない段階でのご相談は、警察相談専用電話「#9110」で受け付けています。
この記事の要点
- 「殺す」という言葉は、条件が付いていても脅迫罪の枠に入り得ます。「別れたら」という前置きがあるからといって、対象から外れるわけではありません。
- 本気かどうかを当事者が見極める必要はありません。見極めなくても動ける形に切り替えるのが実務的です。
- 自傷を告げられた場合とは、順序が逆になります。相手を支援につなぐことより、こちらの安全を確保することが先に来ます。
- 別れを告げる前に、避難先・住まい・記録の3点を整えておくと、その後の選択肢が狭まりません。
「死ぬ」と「殺す」で、入口が変わる
同じ別れ話の場面でも、言われている内容によって最初に動かすものが変わります。
| 言われている内容 | 何が問題になるか | 最初の入口 |
|---|---|---|
| 「別れたら死ぬ」など自分自身への加害 | 原則として脅迫罪にはあたらない | 相手を支援につなぐ・安全の確保 |
| 「別れたら殺す」などこちらへの加害 | 脅迫罪の枠に入り得る | こちらの安全確保・記録・警察への相談 |
| 「別れるな」「金を払え」と要求が伴う | 強要罪・恐喝罪の枠に入り得る | 同上。要求の内容も記録する |
| すでに暴力や器物の破壊がある | 暴行罪・傷害罪・器物損壊罪 | 110番 |
自傷をほのめかされている場合の対応は、「別れたら死ぬ」と言われて別れられない|自傷をほのめかす相手への対応で扱っています。両方を言われているという場面も珍しくありません。その場合は、危害の予告があるほうを優先して考えてください。
「別れたら」という条件が付いていても
「今すぐ殺す」ではなく「別れたら殺す」という言い方だから、脅迫にはあたらないのではないか。こう考えて相談をためらう方がいます。
しかし、条件が付いているかどうかは、脅迫罪の成否を決める要素ではありません。脅迫罪は、相手方本人やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えると告げることで成立し得る犯罪です。条件付きの言い方であっても、告げられた側が怖いと感じる状況を作っている点は変わりません。
家族に向けられた言葉も対象になる
「お前の家族がどうなってもいいのか」「実家に行く」といった言い方は、こちらの親族に向けた害の告知として扱われる余地があります。自分に向けられた言葉だけを気にして、家族に関する発言を記録から落としてしまう方がいますが、こちらも残しておいてください。
それぞれの罪がどこで分かれるのか、被害届と告訴のどちらを選ぶのかについては、元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)で詳しく整理しています。
本気かどうかを見極めようとしない
ご相談で多いのが、「口だけだと思う」「あの人はそこまでしない」という説明です。長く一緒にいた相手だからこそ、そう考えたくなります。
しかし、当事者が危険性を正確に評価することは難しいと考えたほうが安全です。相手の言動を日常的に見てきた分、変化に慣れてしまっていることもあります。
見極めようとするより、見極めなくても動ける形に切り替えるほうが現実的です。記録を残し、専門機関に状況を伝え、物理的な距離を取る。この3つは、相手が本気であってもなくても、こちらの不利益にはなりません。
別れを告げる前に整えておく3点
準備のないまま切り出すと、その場の恐怖に流されて話が止まり、同じ状態が続きます。
1. 行き先を決めておく
同居している場合はもちろん、住所を知られている場合も、いったん離れられる場所を確保しておきます。実家、友人宅、あるいは自治体の相談窓口が案内する一時的な避難先です。具体的な手続については、交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続きをご覧ください。
2. 住まいと持ち物を確認する
鍵の名義、合鍵の所在、重要書類の場所を先に把握します。同居していた場合、どちらが出るのか、荷物をいつ運ぶのかを事前に決めておくと、後から会う口実を作られずに済みます。
3. 記録を残す
これまでの発言を、日時が分かる形で保存します。メッセージのスクリーンショット、通話の着信履歴、口頭で言われた内容のメモ。「怖いから消したい」と感じても、自分から削除しないことが大切です。
記録の残し方の実務は、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方で解説しています。
切り出す場面をどう作るか
自傷を告げられている場合は、相手の動揺に配慮した伝え方が中心になります。危害を告げられている場合は、考え方が変わります。
対面で伝えることが前提ではありません。相手が感情的になったときに、その場から離れられない状況を作らないほうがよい場面です。メッセージで伝える、第三者に同席してもらう、あるいは弁護士を窓口にして本人同士のやり取りを切り離すという方法もあります。
理由を細かく説明する必要もありません。議論になれば、その場で結論が出ないまま次の機会が設定されるだけです。関係を解消することについて、相手を納得させる義務はこちらにありません。
言われた後にできること
すでに危害を告げられている段階では、次の順序で考えます。
- 記録を整理する。いつ、どこで、どのような言葉だったかを時系列にまとめる。
- 警察に相談する。緊急性が高い場合は110番、そうでない場合は#9110。ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令が検討されることもある。
- 連絡経路を絞る。着信拒否は状況によって逆効果になることがあるため、遮断のしかたは相談したうえで決める。
- 接近を止める手続を検討する。同居していた場合には保護命令、そうでない場合には民事保全という枠組みがある。
この段階での対応のしかたが、かえって状況を長引かせることもあります。避けるべき行動については、ストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するためにで整理しています。
別れた後に言われた場合
別れ話の場面ではなく、関係が終わった後に危害を告げられることもあります。連絡を拒んだ、復縁を断った、新しい交際相手ができたといったことがきっかけになる場面です。
この場合、脅迫として扱われ得る点は変わりませんが、繰り返しの連絡や待ち伏せを伴っていれば、ストーカー規制法の枠組みでも対応が検討されます。警告や禁止命令という手続があり、刑事の手続とは別に動かせます。
どちらの枠で進めるかは、頻度・期間・こちらへの接近の有無によって変わります。相談の際は、時系列でまとめた経過をお持ちください。
職場や家族に伝えておくか
「大ごとにしたくない」という理由で、周囲に何も言わないまま過ごされている方が多くいます。
ただし、相手が職場や実家を知っている場合は、伝えておくほうが安全に働きます。相手が訪ねてきたときに、その場にいる人が状況を知らないと、こちらの居場所や勤務時間を伝えてしまうことがあるためです。
伝える範囲は、事情の詳細ではなく「この人物から連絡があっても取り次がないでほしい」という一点で足ります。目的は共有ではなく、経路をふさぐことです。
よくあるご質問
Q. その場の勢いで言っただけだと本人が説明しています。
言った側の説明がどうであれ、告げられた事実そのものは残ります。今後同じことが起きた場合に、経過として意味を持つことがありますので、記録は残しておいてください。
Q. 警察に相談すると、相手を刺激することになりませんか。
相談したことが直ちに相手へ伝わるわけではありません。どのような対応を取るかは、状況を説明したうえで決められます。相談した記録が残ること自体にも意味があります。
Q. 「死ぬ」と「殺す」の両方を言われています。
危害の予告があるほうを優先してください。相手の安全については専門機関や家族に受け渡し、こちらの安全確保を先に進める形になります。
まとめ
- 「別れたら殺す」という言葉は、条件付きであっても脅迫罪の枠に入り得る。
- 家族に向けられた発言も対象になり得るため、記録から落とさない。
- 本気かどうかを当事者が見極める必要はなく、見極めなくても動ける形に切り替える。
- 別れを告げる前に、行き先・住まい・記録の3点を整えておく。
- 対面で伝えることが前提ではない。窓口を第三者に移す方法もある。
- 言われた後は、記録の整理・警察への相談・連絡経路の整理・接近を止める手続の順で考える。
当事務所では、交際関係の解消に伴うトラブルについて、男女いずれの立場からのご相談もお受けしています。「まだ何もされていないから」と待つ理由はありません。経過を整理したうえで、取りうる選択肢をお示しします。


